叉焼王とお釈迦様の友情!!~お釈迦様を救え~
【 2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳 エリア3 魔浄土】
『我が名は邪悪をの統べる者、カオス・仏陀。我はあらゆる邪悪な魂を取り込み、迷える衆生と一つになる!そうすれば、もう俗世に迷うものはいなくなる』
カオス・仏陀はそう言って懐から石のお椀を出してきました。あれが、『仏の御鉢の石』の本体ですね。
『魔転生』
カオス・仏陀がそう呟くとお椀から瘴気があふれ出して、空中に黒い炎に覆われた輪のようなものを作り出しました。
『これが『魔輪廻の輪』だ。これに吸い込まれれば、そなたらは転生して魔物となる』
まずいです!!五人で手を繋いではいますが、『魔輪廻の輪』から感じられるエネルギーは、明確に私達を上回っています!このままでは転生させられてしまう!!
『魔物となれば、『あのお方』の言いなりよ。この我とて例外ではない』
あのお方とは、輝夜のことでしょうか?輝夜はカオス・仏陀を始めとする魔物を使役することで、何かの目的を叶えようとしている?
それよりも今は!魔転生を防がなくては!!
「お前たち!!お互いのことを強く思え!!絆で乗り切るんだ!!」
アリが叫んだのに反応して、私は皆の手を強く握り、エリア2での思い出に浸ります。鳳華さんに因縁をつけられ、アリに事情を聞いて、叉焼王と戦い、三人の過去を見て、エネルギー体を花火として打ち上げて、叉焼王と和解した。
そして、エリア1、2での信秀殿との思い出も……!!
私達を覆う緑の光が強くなり、魔輪廻の輪の引き寄せる力に、どうにか抗えるようになりました。
「いいですよ!皆さん!!やはり私達の友情は、邪悪な魔物なんかには負けないのです」
私は自分と皆を鼓舞するために叫びました。しかし、その瞬間……!
『やはり、その程度か』
そうカオス・仏陀が言うと、御鉢の石の力がさらに高まり、輪は激しく回転を始めました。
そして、我々の魂が体から引き離され、抵抗する間もなく、魔輪廻の輪に吸い込まれていったのです!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳 魂道】
私達は何もない真っ暗な空間に浮遊していました。
ここはどこでしょう。『超握力』の手を空中に出して周囲を探りますが、全く何もありません。目も見えないし、耳も聞こえない。握力だけが周囲の状況を探るヒントです。
遠くに強い光を感じる気がします。目が見えなくとも魂が『それ』に吸い寄せられていくような感覚です。
私が『それ』に導かれていきそうになったとき、何かが私の『超握力』で出した手を握りました。
手から『意思』が伝わってきます。『それ』にひかれて言ってはならないと。それも、その『意思』は一つではありません。4つの『意思』が私の『超握力』を握り、私を押し留めています。
その力に励まされ、私は意識がはっきりしてきました。
――そうだ、私は魔輪廻の輪に飲まれて……。
どうやら転生はしていないようですが、状況は悪そうですね。目も耳も聞こえないと言うことは私は『魂』の状態と言うことですか?
転生があるなら、魂があってもおかしくありませんが、だとすると『超握力』を握っている4つの何かは、信秀殿とアリと鳳華さんと叉焼王ですね。
皆、手なんてないでしょうに、それぞれの方法で握ってくれているようです。
4人の意思が伝わってきます。そうか、さっきの光は輪廻の光、あの方向に行くと転生してしまうのですね。
我々は『魔浄土』に戻らなくてはなりません。私達が輝夜の言うなりになってしまえば、全次元は、彼女の目的のために滅ぼされてしまいます。
それに、お釈迦様をあのままにしておくわけにもいきませんしね。
ですが、どうすれば魔浄土に戻れるでしょうか。これはまた一つ友情のランクを上げないといけないようですね。
そう、魂同士ですら通じ合える、究極の友情を……!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それからしばらくの間、私達はなんとか手と手で意思疎通を続けましたが、魔浄土に戻る方法は簡単には思いつきませんでした。
しかし、そうしていると私達の魂に、何者かが語り掛けてきたのです。
遥かな時空から、誰よりも聞き覚えのある声が、語り掛けてきたのです。
「正利よ……聞こえるか?聞こえているはずだ。私は2050年のお前だ。我らは信孝様の暴走を防げなかった。」
「だからこそ、我らはお前に託す。お前に、我らが行きついた未来を見せる」
「我らの、すなわち私と信秀殿とアリと鳳華と叉焼王と……、そしてシッタールダの!友情を見せる!!」
「お前たちは、この友情を目指し、さらに超えろ!!そこに……信孝さまを……救うみ……ちが……」
声が途切れ途切れになっていきます。そして、次の瞬間、私の目の前に何者かと戦っている、私達5人……いえ、6人の姿が映し出されました。
今ここにいる5人の魂と、もう一人は大仏のような姿の人物です。あれは浄化された仏陀でしょうか?
そして戦っている相手は……信孝様!?どうして、私達が信孝様と……!?
未来の私達は手を繋ぎ、今の私達に想像のつかない技を使っています。五人の魂が繋がり、一つの生き物として動いているのがわかります。
五人の体を球状の緑の光が覆っており、神々しい光を放っています。その光を見るだけで心が浄化されるような、強い癒しの光です。
未来の我々を覆う『球』から、何度となくレーザーが信孝様に飛んでいきます。あれは浄化の光なのでしょう。ですが、信孝様は全てのレーザーを片手で跳ね返しました。
『正利よ……。この程度では世界は救えん。さらばだ』
未来の信孝様はそう言うと、全身から黒い光を放ちました。そして、それが目の前を覆って……。
気が付けば、私の意識は元の『魂道』に戻っていました。今のは一体……?
わかるのは
1.今の映像は2050年の私から送られた
2.2050年には信孝様が何らかの理由で魔物化している
3.未来の私達は信孝様に敗れた
4.未来の私達の友情は今よりはるかに進化していた。
この4つでしょうね。未来があるということは、今ここのピンチは切り抜けられると言うことなのかも知れませんが……。
「変えなくてはいけません」
私は『超握力』を使った手話で、皆に自分の意思を伝えました。
そうです。魔物となった信孝様を救えず、我々が敗れる未来など、あってはいけません。
そのために、こんなところでくすぶっているわけにはいかない。あの、映像で見た力を今すぐ身に着けて、そしてそれを越えなければ、未来で信孝様を救えなくなってしまいます。
私が強い決意を抱いていると、4つの手からも強い意志が伝わってきました。
【救う、信孝を救うんだ!】
【ダチがあんな風になって、自分がやられて悲しくないはずねえ。絶対に正利をあんな目にはあわせねえ!!】
【なんですか、これ。こんなのってねえでしょう。せっかく友達になったのに。正利のため、あんなやつ倒してやるです!】
【なんてことだ。あれじゃあ、私と同じじゃないか。あの方を、正利殿の恋人を救わなくてはいけない!!】
4人の意思が伝わってきます。私達5人の意思が一つの目標に向けて集約されます。『信孝様を救う』私達の心が統一されたとき、魂が共鳴を始めました。
『「「「「特殊魂共鳴×5!!」」」」』
私達は魂を共鳴させ、より大きな力を作り出します。
―――――システムメッセージ―――――
蜂須賀正利が上位恋愛傾向『フィリア』に目覚めました。
織田信秀が上位恋愛傾向『フィリア』に目覚めました。
龍鳳華が上位恋愛傾向『フィリア』に目覚めました。
アリ・カバネが上位恋愛傾向『フィリア』に目覚めました。
叉焼王が上位恋愛傾向『フィリア』に目覚めました。
そんな言葉が私の頭に浮かびました。上位恋愛傾向?なんですか、それは?
しかし、ともかく信孝様を救う未来に向けて、私達は新たな力を手に入れたということですね!
さあ!魔浄土に戻りましょう!!カオス・仏陀を浄化して、5人目の仲間にしなくてはいけません!!
そう考えたとき、空間に『穴』ができました。これは、まさかアリの『裏ルート』でしょうか?
しかし、確かアリは今『裏ルート』が使えないはずでは……。
あ、良く考えてみれば、今アリは魂で、肉体がないのですから生理痛なんてありません。
つまり今だけは使えるってことですか『裏ルート』が!!
こうして、私達はアリの開いた『裏ルート』を通って、魔浄土のカオス・仏陀の下に戻りました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳 エリア3 魔浄土】
『魔輪廻から、戻って来た……だと?まさか、そんな生き物がいるはずがない。それがいるとすれば輝夜様に匹敵する……』
カオス・仏陀はわかりやすく狼狽しています。彼も当然、悟りを得ているはずなのですが、魔物になったときに感情を取り戻したのでしょうか?
「カオス・仏陀!!私達は友情の力で進化しました!今こそ、貴方を元のお釈迦様に戻します!!」
私がそう叫ぶと、それに呼応するように叉焼王が叫びました。
「お釈迦様!いや、わが友シッタールダよ!!例え貴方が忘れようとも、私は貴方と育んだ、ひと時の友情を決して忘れてはいません!」
叉焼王とお釈迦様の間に友情!?叉焼王は猪八戒として取経の旅を終えてから、ずっと豚崙山にいたと思っていたのですが、そういうわけではないのでしょうか?
【叉焼王と仏陀の思い出】
「あの時、鳳華に謝れないことに悩みに悩んだ私は、お釈迦様なら悩みを晴らしてくれると考え、極楽浄土へ赴きました」
「お釈迦様は、私の悩みを共に悩んでくれ、私の悩みを晴らすために下界に降りて、短い間ですが、私と旅をすることになりました」
「そして、私達は旅の中でお釈迦様すら敵わない強敵に出会いました。今思えば、あれは輝夜とやらの刺客だったのでしょう」
「お釈迦様が傷つく中、私は動物ならば腹を満たせば攻撃を止めるだろうと思い、自分の肉を削って魔物に差し出しました」
「魔物は満足したのか、そのまま去っていき、私の行動に感動したお釈迦様は私に『叉焼王』の名をくださいました」
「そして私が取経の旅により、悟りを得ていたことから、『私が仏ならそなたも仏』と言い、対等な親友となることを認めたのです」
「それからも、私とお釈迦様は旅を続け、友として苦楽を共にしました。その生活の中で、ある日私は『無理をして謝る必要はないんだ』と気づきました。鳳華にこれだけ避けられているのだから、これ以上は単に迷惑になる。だったら謝らないことを受け入れるのも心の修行なのだろうと考えるようになりました」
「憑き物が落ちた私は、豚崙山に戻ろうとしたのですが……。そこで輝夜が接触してきました。そして……どう丸め込まれたのか全く思い出せないのですが、いつの間にか『御鉢・端末』を渡されて、あのように暴走していたのです」
叉焼王は、そこまで言って一旦、言葉を区切りました。
そして、私達の手をさらに強く握りしめて、語調を強めて話を続けました。
「ですが、私は正利殿達との友情によって、暴走から救われました!それと同じように、今度は私が、シッタールダを救う番です!!」
「皆さん!!『特殊魂共鳴×5』の力を全開にして、カオス・仏陀に私との思い出をぶちこみましょう!!そうすれば、友情の力でカオス・仏陀は浄化されるはずです!!」
私達の魂は、叉焼王の言葉に同調します。叉焼王と仏陀の思い出を聞いたからには、何としても仏陀を浄化し、二人の友情を取り戻させないといけません。
そして仏陀を含めた6人の『特殊魂共鳴×6』を生み出すのです。未来で信孝様を救うために!!
「了解しました!!皆、やりましょう!私達の新しい友、仏陀を救うのです!!」
私の言葉を合図に、『特殊魂共鳴×5』により、私達の魂が共鳴していきます。
それにより、私達の中にも叉焼王と仏陀が魔物と戦い、叉焼王が自らの肉を差し出したシーンが流れてきます。
私達は二人の友情に心を撃たれ、どんどん共鳴は強くなっていきます。
やがて私達を中心に、周囲を覆う緑色の輪っかが現れました。
その輪っかは激しく回転をして、魔浄土の邪悪なエネルギーを浄化していきます。
『な、何だ、その力は……そ、それにこの記憶は……!!』
輪には、触れたものに友情を思い出させる力があるようで、魔浄土のあらゆる瘴気・生物・そして魔輪廻の輪も浄化されていきます。
『そ、そうか。私は……忘れていた。だ、だが魔物に転生した身では、輝夜様に逆らえぬ』
そう言うと、カオス・仏陀は『仏の御鉢の石』に黒い穀物の種と、黒い汁を注ぎ、それを飲み干しました。
『ダーク・乳がゆ……これで我の命と引き換えにそなた達を魔転生させる……!!』
それはまずいです!!ダーク乳がゆの力が我々を上回るなら、魔転生させられてしまう。
我々が魔物となり、輝夜の手先となれば仏陀を止める者がいなくなります。そして未来に信孝様を止める者もいなくなる……!!
「もう良いのです。シッタールダ」
「貴方は友のために身を捧げることを尊く思ったのでしょう。貴方も輪廻の輪の中で、兎になったとき、同じことをしたと言うではないですか!」
仏陀は兎に生まれたとき、僧に自分を食べさせるため、焚火に飛び込んだという話があります。
「ならば、無理やり支配しようとする輝夜のために命を捧げてはいけません!戻ってきてください。また共に旅をしましょう。今度は新しい仲間達も加えて……!!」
『う、うおああああ……』
叉焼王の言葉と共に、それまで真っ黒だったカオス・仏陀の体が段々と元の色に戻っていきます。
そして、あの未来で見た6人目の友人と、全く同じ姿になりました。
―――――システムメッセージ―――――
ゴータマ・シッタールダが上位恋愛傾向『フィリア』に目覚めました。
―――――システムメッセージ―――――
ゴータマ・シッタールダが『カオス・仏陀』から『フィリア・仏陀』に進化しました。
『私は……元に戻ったのか?いや進化したのか。魔物から聖獣へ……!!』
『友情の聖獣、フィリア・仏陀。それが私の新たな姿だ!!』
その仏陀の言葉と共に、魔浄土……私達の力で浄化された極楽浄土全体に『パンパカパーンというファンファーレが鳴り響きました。
『アトラクション『大自然の魔境』に挑戦せしもの『蜂須賀正利』・『織田信秀』よ。我はそなた達が友情に目覚め『大自然の魔境』を突破したこと、確かに認めた』
『故に、最初の約定通り、そなた達をラブキング・キャッスルの統括者、恋帝のいる『恋帝の間に送るものとする』
『ただし、今回は事情により叉焼王達はもちろん、私も同行することとする』
フィリア・仏陀がそう言うと、私達の周囲の景色が一変しました。