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仏の御鉢の石~強制的に転生させる道具~

【  2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳  エリア2 任侠街 豚崙山(とんろんさん)


 私達は『特殊友情共鳴×4』で、エネルギー体を宇宙で花火として爆発させた後、再び叉焼王の元に向かっています。


 我々四人の友情が、確かなものになっていること、そして叉焼王の腕にも『友紋章』があるであろうことを考えると、我々四人で叉焼王の手を握ることさえできれば、叉焼王を正気に戻すことが可能だと考えたからです。


 近づくほどお椀に吸収される可能性は上がるでしょうが、今の私達ならば、危険を避けながら接近できるはずです。


 そう考えていると、私達は叉焼王のすぐ側までやってきました。皆で手を繋ぎ『特殊友情共鳴×4』を発動させているので吸い込まれることはありませんが、大型の台風のようにエネルギーが、叉焼王を中心に渦を巻いています。


「よし、じゃあ行くぞ。エネルギーをスピードに特化させてやつに近づく」


『それで、隙を突いてお椀を持ってる方の手を握るんですね!』


「そうすりゃあ、やつが正気になるか、お椀が壊れるかするだろう」


 『特殊友情共鳴×4』のエネルギーは全次元すらも上回ります。あのお椀は全次元ほどの力は無いようですから、エネルギーを吸収しようとしても受け止めきれずに自壊するでしょう。


「わかりました!やりましょう!!」


『「「「特殊友情共鳴×4 スピードモード!!!」」」』


 私達は渡り鳥のように、V字型に手を繋ぎます。すると私達の後ろに光の帯が伸びて、飛んだあとの場所に、ホウキ雲のような、緑の線が残ります。


 私達は光速をはるかに超える速度で、叉焼王に接近しました。やつは目や感知能力はそれほどでもないようで、私達の接近に気が付きません。


「今です!!」


 私が叫ぶのと同時に、私達は一斉に叉焼王の手を握りました。


 私達四人の『友紋章』が緑色に輝きます。叉焼王は暴れて、お椀の力を強くします。ですが、我々がこれだけ近くにいる以上、周囲のものを吸収させはしません。


 私達は、私達と叉焼王の周囲に、お椀の力を無効化するバリアを張りました。これで任侠街も、周囲の植物も吸い込まれることはありません。


 そうしてしばらく暴れていると、ついに叉焼王の『友紋章』が輝き始めました。


「アリ……!鳳華……!そ、そうか私は……!!」


 叉焼王がそう言った瞬間、お椀がひと際強く緑色に光ったかと思うと、そのまま崩れ去りました。


「わ、私は……」


『ようやく、元に戻ったですか!全く、迷惑かけすぎですよ!』


 鳳華さんの責任も少しあるとは思いますが、ここは黙っておいた方がいいでしょう。


「ふぁ、鳳華!!済まなかった!私は君の想いにも気づかず、君を置いて取経の度に行ってしまった。どうか許して欲しい」


『ふえ!?何ですかいきなり!!今更、謝ったってしょうがないでしょう!!』


 怒涛の勢いで謝る叉焼王に対し、鳳華さんはそっけない態度だ。


「まあ、そう言うな。いきなり観音菩薩に連れていかれたんじゃ、挨拶する暇もなかったんだろ」


 アリは、過去に確執が無かったことに加え、基本的に、今回の暴走を許す方針のようですね。

 とはいえ、あのお椀の破壊力はすさまじかったですから、どこで手に入れたのか、など事情はきちんと聴くべきだと思います。


『えー?そりゃ、そうですけど~。まぁ、いいですよ。仕方ない。アタシもう他に好きな人ができましたから、アンタのことどうでもいいです』


 身も蓋もない話ですね。まあ、あと腐れなく決着が着いて、いいとは思いますけど。


「ゆ、許してくれるなら、それでいいよ。ありがとう」


『だから、どうでもいいです。それより、アンタどっからあんな、とんでもない道具を持ってきたんですか?お釈迦様だか、観音菩薩からもらったんですか?』


 そうですね。それは聞いておかないといけません。でも、お釈迦さまや観音菩薩、あるいは三蔵法師があんな危険なものを与えるとは思えませんし、誰か悪意をもったものが叉焼王に接触したはずです。


 恐らく、叉焼王、三蔵からもらった名前は猪八戒なんでしょうが、彼は悟空の仲間ということで目を着けられているのでしょう。


 そう考えると、三蔵自身や沙悟浄、玉龍にもその『誰か』が接触しているのかも知れませんね。


「あのお椀は、鳳華に謝れなくて絶望しているとき、和装の変な女からもらったのです。お釈迦様が使っていた『仏の御鉢の石』の端末で、魂を捧げたら何でも願いが叶うと言われまして」


「「仏の御鉢の石?」」


 それは、竹取物語に出てくる、かぐや姫が貴公子達に出した『難題』の一つですね。まさか実在するとは思いませんでしたが。


 しかし、端末とはどういうことでしょう?別に本体があって、叉焼王のお椀はそれにエネルギーを送るための子機に過ぎなかったということなんでしょうか。


 ただの端末であの威力だとすると、本体を敵に回したくはないですね。


 けれど、『エリア3』で端末が出てきた以上、恐らくエリア3は本体なのでしょう。十分警戒しなければなりません。


 そのためにも『仏の御鉢の石』についてできる限りの情報を、叉焼王から得ておかなければいけませんね。


「貴方の使っていた『端末』にはどんな効果があるんですか?」


「ええ、それは、さきほど見せた通り、エネルギーを吸ったり入れたりです。そして魂を捧げると願いが叶うそうです。私は怖くて使えませんでしたが……」


 なるほど、大まかには私達が見た通りだと言うことですね。


「本体がどのような力を持っているか、わかりませんか?」


「本体の力ですか。本体はお釈迦様が一切衆生の救済を願って、自らの魂を込めることで作られたものだといいます。ですが、それを輝夜に悪用されたのです」


 お釈迦様が魂を込めた?お釈迦様は悟空に殺されたと聞いていましたが、その情報が誤りなのか、あるいは亡くなる直前に込めたのでしょうか?


 それよりも、一切衆生の救済を願った道具が、何故悪用されるようなことになるのでしょう?


「悪用とは?輝夜は御鉢の石を何に使っているのです?」


「お釈迦様は人々の救済を願い、その魂と引き換えに、御鉢に死者を無条件に極楽浄土へ導く機能をつけました。輝夜は御鉢のプログラムを改変し、生きている人間をTTRAWに強制的に転生させる装置にしたのです」


『「「「生きている人間を、強制的に転生させる装置!?」」」』


 まずいですね。私達がこれから行くエリア3に、そんなとんでもないものを持った敵がいる可能性がある……ということですか。


 しかも、鳳華さんとアリはこの『任侠街』の人です。得体の知れないエリア3に連れ出すわけにいきません。


 そう思っていると、アリが私の方を睨んで言いました。


「おい、正利。お前、まさか俺達がお前らを見捨てるなんて、思ってるわけじゃねえよな?」


『ここまで巻き込んどいて、そんなこと言い出したら、さすがに怒るですよ』


 二人は真剣な顔で私と信秀殿を見つめてきます。そうですね。あの花火を打ち上げた瞬間から、もう運命は決まっていたわけですね。


 信秀殿は私を見つめながら言いました。


「こうなっちまったらしょうがないだろう。二人を連れて行こう。あ、いや、叉焼王も着いてきてくれるのか?」


「お二人がいなければ、私は正気を取り戻せませんでした。是非、私も連れて行ってください」


 これはありがたいですね。アリや鳳華だけでなく、叉焼王が着いて来てくれるのなら、『特殊友情共鳴×5とくしゅゆうじょうきょうめいペンタブルが常に使えるわけです。


 全次元の数十倍はありそうなこの力なら、生物を強制的に転生させるという『仏の御鉢の石』とも戦いようがあるかも知れません。


「アリ、鳳華さん、叉焼王!これからも、よろしくお願いいたします。私達の目的に付き合わせることになって申し訳ありませんが、頼りにしていますよ」


「気にすんじゃねえよ。友達を助けるのは、当たり前なんだぜ」


『そうですよ!二人のお陰で任侠街は救われたんですからね』


 そうでした。あのまま叉焼王が暴走し続けていれば、任侠街は『御鉢・端末』に飲まれていました。


 四人で任侠街を救ったわけですが、アリと鳳華さんだけでは不可能だったわけですから、確かに私達が任侠街を救ったと、言えるかも知れません。


「私もです。貴方のお陰で正気に戻れ、そればかりか鳳華に謝れたのですから、貴方に協力しない理由はありません」


「皆さん、本当にありがとうございます。では、向かいましょう!エリア3に!!このアトラクション最後の難関に!!」


 私がそう叫んだ瞬間、さきほど崩れ去った『御鉢・端末』が集まり、豚の意匠が入った『鍵』になりました。


 これがエリア3への扉を開く『鍵』のようですね。


 そして、空間が割れ、私達の目の前に『扉』が現れました。


 任侠街を救えば、あるいは叉焼王を救えば、自動的に鍵と扉が現れる仕組みになっていたようですね。


 私達5人は扉を開き、ついに最後のエリアへと向かったのでした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【  2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳  エリア3 魔浄土(まじょうど)


 新しいエリアに入ると、そこには大きな池があって、周囲には蓮の花に似た、しかしおどろおどろしい瘴気を放つ、濃い紫の花が咲き誇っていました。


 地面が露出している部分は無く、エリア全てが池の上のようです。私達もその不気味な花の上に乗っています。


 私達が気味悪がっていると、叉焼王が驚愕した表情で言いました。


「ここは……まさか極楽浄土なのですか。一体何があってこんなことに」


「このような不気味なところが、極楽浄土だと言うのですか?」


 極楽浄土と言えば、楽を極めるという文字の如く、あらゆる幸福と美しい情景が並ぶ場所だと聞き及んでいます。


 しかし、この場所はむしろ邪悪な瘴気に満ち溢れ、醜悪な情景が立ち並んでいます。ここが本当に極楽浄土だというのなら、何が原因でこうなってしまったのでしょう。


「多分、『仏の御鉢の石』の影響なんだろうな。正利と信秀の予想じゃ、ここにそいつを持ったボスがいるんだろ?」


 なるほど、人々を強制的に転生させるという『仏の御鉢の石』のせいでこうなったと……。しかし、本当に何をどうしたらこんなことになるのでしょう?


『お前たちか、私の浄土を荒らすのは』


 そう言って現れたのは、大仏を黒く塗りつぶし全身の肌をただれさせたような見た目の大男です。背中からは黒い後光が走り、全身を強い瘴気が覆っています。


「このお方は……」


 叉焼王が驚愕と恐怖で固まってしまいました。体がワナワナと震えています。


「お釈迦様、ご本人だ!一体、どうしてこんなことに」


『魔転生だ』


『「「「魔転生!?」」」』


 つ、つまり『仏の御鉢の石』の強制的に転生させる機能によって、お釈迦様がこのような醜悪な魔物に転生させられたということですか!?


 それも、お釈迦様の聖なる力がそのまま瘴気に変換されているせいで、今の我々をもはるかに凌ぐエネルギーを感じます。


 私はげんなりとした顔をして言いました。


「これは相当厄介ですね……」


 ですが、そんな私の手を握り、四人は言いました。


「厄介なんて、最初から分かってただろう。こいつを越えて、元の世界に戻るぞ!!」


「相手がお釈迦様とはな。だが、相手にとって不足はねえや」


『何か、とんでもない話になってるですけど、アリとアンタ達のためなら頑張りますよ!』


「私も、微力ながらお手伝いさせていただきます」


 皆、やる気ですね。お釈迦様が相手でも一歩も引く気はないようです。臆病そうな叉焼王も、勇気を見せています。


 私が怯えているわけにはいきません!!


「分かりました!私も覚悟を決めましょう!目の前の敵を、お釈迦様を……助けましょう!元に戻すんです!!」


「そ、そうか!そうです!!お釈迦様を元に戻さないと……!あの神々しいお姿を再び取り戻さなければなりません!!」


 叉焼王は随分、気合いが入っているようです。猪八戒だった頃に、お釈迦様にお会いした事があるのでしょうか?


『我に従え、ヌシらも魂を捧げ我と一つになるのだ』


「そうはさせません!私達の力で貴方を仏に戻します!!」


『面白い、来るが良い。迷える衆生共よ』


 こうしてアトラクション『大自然の魔境』最後の戦いが始まりました。


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