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友情の進化!~叉焼王と鳳華の仲~

【  2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳  エリア2 任侠街 豚崙山】


 鳳華さんの背に乗って、地上を見下ろせば任侠街はわずかに数km四方ほどの街で、その周囲には『ギガ・スレトレフル・ジャングル』と同じように、謎の植物が生い茂る森林が広がっていました。


 やはり、ここは『大自然の魔境』ではあるのですね。では、何故『任侠街』だけが、あのような大都会になったのでしょう?


 この『アトラクション』を作った者の意思が、介入しているように感じますね。


『いよいよ、豚崙山が見えてきましたですよ!!ほら、あの豚の顔みたいな形をした山です!』


 鳳華さんが指示する方向を見れば、確かに峰に豚の顔が彫られた巨大な山が見えます。


 そして、私達が近づくと山全体がグラグラと揺れ始めました。


『ふぁーん……ふぁーん……』


 奇妙な鳴き声が聞こえたかと思うと、山の土や岩がすべて吹き飛び、中から二足歩行の豚のような魔物が出てきました。


 山の大きさは富士を遥か上回り7000m級はあるのですが、あの豚の魔物『叉焼王』もそのくらいの大きさがありそうです。


『ふぁーん……ふぁ……ふぁーん……ふぁ』


 なんだか本当に妙な鳴き声ですね。豚らしくないのは良いとして、何かの言語のようにも聞こえます。


『積年の恨みを晴らしてやるですよ!』


 私はその言葉に反応しました。これまでの話からすると、鳳華さんは単に食料として叉焼王を倒そうと考えているように聞こえていたからです。


「ちょっと待ってください。積年の恨み?貴女は、叉焼王と何か関係があるのですか?」


『もちろんですよ!あいつには何度もひどい目に合わされてるです!!いつの日かとっちめてやろうと、ずっと思ってましたですよ!』


 なるほど、つまり鳳華さんはこれまで何度か叉焼王と戦っている。そして負けたのに、殺されなかったということですか。


 本当にひどい目にあっているなら、叉焼王を倒すことに『筋』があるのでしょうけど、鳳華さんは最初会ったとき、幼馴染で今も仲の良いアリを悪人だと決めつけていましたからね。


 今度も言葉のまま信じるのは危険なように感じます。


 信秀殿もそう思ったのか、鳳華さんに質問をしました。


「ひどい目って、どんな目に合わされたんだ?」


『純潔を奪われたんですよ!!』


「純潔を!?」


 なるほど、確かに望まない相手に純潔を奪われたなら、恨んでいるのも理解できますね。


「ちょっと待て、正利。多分俺達の考えてるようなことじゃないぞ。お前もわかってるだろ?こいつは、物事を大げさに言う癖があるんだ」


 言われてみればそうですね。アリのことを『この街の平和を乱す極悪人』なんて言っていましたが、実際のアリは街の物資を何とかしようと悩んでいました。


 確かに、鳳華さんは悪気なく物事を大げさに言ってしまう性格なのでしょう。


「ですから!やつは、乙女のハートを弄んだんですよ!倒す理由としては十分でしょう!」


「いいから、何があったのか具体的に教えてくれ。もちろん、本当に言いたくないようなことをされたなら、言わなくてもいいけどな」


 信秀殿、今回はちゃんとデリカシーに配慮しているようですね。


『やつは、街の女性にセクハラするために、女性に化けて街に降りてきたんです』


「ふむふむ」


 それ自体は完全に悪事ですね。


『それで、その化けた姿があまりにも美しかったもので』


「ふむ……ん?」


 何だか雲行きが怪しくなってきました。


『奴の口説き文句に乗せられて、恋に落ちてしまったんですよ!!』


「うーん……?」


 叉焼王の化けた姿が美しすぎて、恋に落ちた……?


「それで、どうして恨むようなことになったんですか?」


『決まってんでしょう!あいつ、アタシの気持ちにも気づかないまま、取経の旅だかに行っちまいやがったんですよ!!アタシの思いを弄んで!!』


 話を聞いた私と信秀殿は少し呆れた顔をしました。


「恨んでる理由ってのは、それだけなのか?」


『それだけって言い方はねえでしょう!!乙女の純真な気持ちを弄んだんですよ!!』


 うーん、鳳華さんに全く同情の余地がないわけではないのですが……。


 聞いている限り、叉焼王に悪気があったようには感じませんし、それだけで悪人と決めつけるのは無理がありますね。


『それに、取経の旅が終わった後、何度もアタシを襲撃しに来たんですよ!!』


「ほう?」


 だとすれば、確かに悪意を感じます。けれど、違和感がありますね。


 向こうから襲撃してきておいて、殺さず犯さず盗まずに帰っているように聞こえます。


「その襲撃とやらで、大怪我や死にかけたことはあるんですか?」


『いや、それはねえですよ。襲撃に対してアタシが反撃するんですけど、いつの間にか気絶させられて家に戻されてるんです』


 やはり違和感が強いですね。襲撃しに来たのに、反撃されたらできるだけ傷つけないで家に帰すというのは、わけがわかりません。


 やはり、ただ訪ねてきただけなのでは……。


 そう思っていると、叉焼王がお椀のようなものを空に掲げました。


 あれは……?


 その瞬間、周囲の山やそれを覆う植物達がみるみるうちに、お椀に吸い込まれていきます


 それを見ていた信秀殿も焦った様子で言いました。


「な、何だあれ!まずいぞ、あんなのを放っておいたら、エリアごと飲まれちまうぞ」


『あれ、一体何ですか!あいつ、あんなの一体どこで手に入れたんですか!?』


 鳳華さんもお椀について知らない!?


 つまり、以前 叉焼王が鳳華さんのところを訪れたときには、あのお椀は無かった。


 そこからここまでの間に何かがあって、あのとんでもない破壊力の『お椀』を手に入れた……?


 随分、きな臭い話になってきましたね。


 叉焼王と鳳華さんの対立を利用しようとして?あるいは叉焼王をエリア2のボスに仕立て上げるためでしょうか?


 どちらにせよ、私と信秀殿が何らかの『新たな力』で倒さないといけない敵は、叉焼王ではなく、あのお椀のようですね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 叉焼王の『お椀』の力で、鳳華さんに乗っている私達も引っ張られ始めました。


 恐らく鳳華さんの炎では吸収されてしまうでしょう。そして、恐らくは今のままの『友情の握力』では通じないのでしょうね。


 では、何をどうすれば『友情の握力』が進化するのか?


 ギュゥン!!


 お椀が黒い光を放ち、引っ張る力が強くなりました。私達も、どんどん叉焼王に近づいて行きます。どうにかしないと!


「の、信秀殿!」


 私は慌てて信孝殿の手を握りました。二人の間に緑色の炎が現れます。


 少し引き付けられる力が弱まって気がしますが、それでもどんどん叉焼王へと引き寄せられます。


「なあ、正利。俺にこの状況を突破できる案があるんだが、それに賭けてみる気はあるか?」


「案ですか?え、ええ。そのようなものがあるならば、是非 賭けてみたいですね」


 私は少し焦りつつ答えました。信秀殿の案がどんなものか分かりませんし、成功する確率が低そうな言い方ですが、このまま吸われてしまうよりはマシでしょう。


「よし、決まった!嬢ちゃん、このまま全速力で叉焼王に突っ込んでくれ!」


『ちょ、本気ですか!?見たでしょう、土やら山やらお椀に吸収されてたじゃないですか!嫌ですよ、あんなことになるの!!』


「いや、突っ込んだらそこで、俺と正利をやつに向かって放り投げてくれ。嬢ちゃんは逃げてもいい」


 なるほど、詳しい意図はわかりませんが、ともかく信秀殿と私を叉焼王に投げ入れると。


 死を覚悟することで力を目覚めさせようと言うことでしょうか?それとも、何か他に意図があるのでしょうか?


「二人で叉焼王に向かって、それでどうするのかお聞きしてもよろしいですか?」


「ああ、俺達の『友情の握力』を全開にして『握力探知』をするんだ。それによってやつの思惑、どうしてお椀を手に入れ暴れ出したのかを探る。あれは多分メンタルの問題だろうからな」


 なるほど、私達の能力で叉焼王の事情を知り、どうにかケアすることで暴走を止めようという訳ですね。


 探知で事情を探ることはできるでしょうが、事情がどんなものかわからない以上、対処可能かどうかがわかりません。


 叉焼王の心をケアしようとしている内に、お椀の能力で吸収されてしまうかも知れませんしね。


 しかし他に方法はありません。そして心のケアは我々、信孝様の仲間達にとっては得意分野です。きっと何とかなるでしょう。


「了解しました。信秀殿の案に賭けましょう。鳳華さん、信秀殿の言った通りできるだけやつに接近して私達を放り投げてください」


「あんた達、ヤバいですね。まあ、アタシが死ななくて済むなら、それでいいですけど」


 そう言って、鳳華殿は叉焼王に向かって全力で突進し始めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 鳳華殿によって、叉焼王へと投げ込まれた私達は、手を繋ぎ『超握力』で叉焼王を包み込む大きさの手を出しました。


 緑色の手が生まれ、叉焼王を包み込もうとしたとき、叉焼王からもまた巨大な赤い手が現れ、私達の手を払いのけました。


 まさか、拒否されるとは思っていなかったので、私と信秀殿は一瞬、思考と行動が止まってしまいました。


 その隙を突いて、手ははるか遠くまで伸びていき、逃げていた鳳華さんの体を掴みました!!


「……ふぁん……ふぁ……」


 鳳華さんを掴んだとき、叉焼王があげた呻き声のようなものを聞いて、信秀殿が叫びました。


「そ、そうか!妙な鳴き声だと思っていたが、鳳華の名前を呼んでいたのか!!」


 そういえば、確かに叉焼王の鳴き声は『ファンファ』と聞き取ることができます。もっとも聴力に優れた信秀殿でなければ、すぐには気づかなかったでしょうけれど。


 赤い手で鳳華さんを掴んだ叉焼王は、さらに押し出すように言葉を発しました。


「ふぁん……ふぁ……ごめ……ん……」


『へ?ごめんって……』


 つまり、叉焼王はただ謝るためだけに、鳳華さんの元を訪れ、反撃にあい鳳華さんを鎮静化させて帰っていたということですか!!


 おおよそ予想通りですが、思った以上に叉焼王はお人好しなのかもしれません。


「正利!今、あいつの意識は鳳華に集中している!!今のうちに、あの鳳華を掴んでいる手を握るんだ!!」


「なるほど!それで私達の『友情の握力』でやつが、暴れ出した原因を探知するのですね!」


「いや!俺には聞こえるんだ。探るべきは、はるか過去!鳳華と叉焼王が出会ったときのことだ!そこに俺達がパワーアップするための何かがある!」


 叉焼王と鳳華さんの過去に、私達がパワーアップする秘密がある?


 つまり二人が仲良くなった。あるいは対立した理由が分かれば、それと同じようにすることで、私達の友情が『進化』するということですか。


「分かりました!今回も、貴方の『音』を信じます!」


 そう言って、私と信秀殿は手を繋ぎ、エリア1で『ギガ・ストレスフル・ジャングル』全体に手を広げた時の要領で、空中に緑色の手を出して鳳華さんの方に伸ばしました。


 そして鳳華さんを掴んでいる手を、さらに上から掴みました。


 そうすると、私達と叉焼王、そして同時に触れた鳳華さんの『握力波長』が重なり合い、二人の過去が私達の脳に流れ込んできました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【叉焼王と鳳華の過去】


『ぼ、ぼきゅと一緒に夜明けのコーフィーを飲まないかい』


 最初に任侠街で鳳華に出会ったとき、叉焼王はそう言った。


 当然、あまりにも古臭い上に、初対面の相手に言う言葉ではなかったため、鳳華はフリーズしてしまった。


 しかし隣にいたアリが悪乗りして『飲むならコーヒーより、酒の方がいいだろう』と言ったため、叉焼王のおごりでアリのいきつけのバーに行くことになった。


 『裏ルート』を使って、ギャング神の支配する『極道宇宙』のバーに来た。


 アリと鳳華は楽しく飲んでいたが、叉焼王は緊張し過ぎて呂律が回っておらず、『ひゃい!』とか『しょ、しょうでしゅね』と言っていた。


 アリは『顔はいい癖に変な姐さんだぜ』と笑っていて、鳳華は『奥手なイケメン女子もいいじゃないですか!』と喜んでいた。


 そこから数年の付き合いで、三人はどうにか打ち解け、叉焼王はホントは男であることをばらせないまま、アリと鳳華の親友になっていった。


 そんなある日、三人がいつものバーで飲んでいると、ヤクザ風の男達にからまれた。彼らこそ、その『極道宇宙』を支配するギャング神だ。


 彼らが言うには、他の宇宙のヤクザにでかい顔をされたのでは、神としての面目が経たないという。


 三人は謝って帰ろうとしたが、ギャング神は『落とし前をつけてもらう』と言ってきた。


 『落とし前』として、アリの小指をもらうというギャング神に対し、叉焼王はそれまでの大人しい態度を一変させ、ぶちぎれてギャング神に向かって行き、簡単に吹き飛ばされた。


 三人にとって、因縁をふっかけて小指をとろうというのは、『筋』に反することだった。


 そして、筋を違えたものが勝つはずがないという、強い信念を持っていた。


 三人は、何とかギャング神に対抗しようと、お互いに手を強く握りあった。


 その時、三人の体が緑色に輝いた。『友情の握力』の炎よりもかなり強い光だ。


 その光は輪の形になり、三人とギャング神を包んだ。『友達の輪』だ。


 輪の光に魅せられたギャング神は、三人と和解し戦うのを止めた。


 恐怖を乗り越え、強敵に打ち勝ったことで三人の絆は強まった。


 しかし、その後しばらくして叉焼王が突然、観音菩薩に呼び出され『取経の旅』に向かうことになる。


 彼は最後、二人と別れるとき自分の正体を明かした。アリは『そんなの最初から分かってたぜ』と言ったが鳳華は愕然としていた。


 それから叉焼王は『猪八戒』と名乗り、悟空や三蔵達と経典を求める旅に出ることになる。


【叉焼王と鳳華の過去 終わり】


「あの輪は……」


「あの輪は……」


「「なんて美しい、友情の光……!!」」


 あの光を私達で作ることができれば、きっと叉焼王を、そして鳳華さんもあの日の友情を取り戻すことができるでしょう。


 私達の友情も『進化』し次の段階に向かえるはずです。


「正利!あれが、あの光こそが俺達が求めるもの!!」


「『特殊友情共鳴』だ!!」


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