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『任侠街』の変なヤクザ達

【  2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳  大自然の魔境 エリア2 任侠街 】


 私達は扉を見つけ、『世界樹の鍵』で扉を開きました。そして、その扉の先には――。


 何故か、ものすごく近代的な街並みが広がっていました。


「何だ?ここは、大自然の魔境じゃなかったのか?」


 高い『ビル』が立ち並び、『自動車』が行き交う街並みを歩きながら、信秀殿がそう呟きました。


 正直、このような建物は私達の世界にはありませんでした。信孝様から、未来にはそうなるのだと聞いてはいましたが、想像の範疇外と言えますね。


「確かに、これは妙ですね。大自然どころか、私達の時代には見たこともない建築物ばかりが立ち並んでいます。どういう意図で、ここに飛ばされたのでしょうか」


 そう言っていると、突然 天から炎が地上を覆いました。


 私と信秀殿はとっさに手を繋ぎ、『友情の握力』を発動させます。炎が緑色に変わり、緑色になった炎が大地に触れると、そこから大木が生えてきました。


 考えようによっては危ない技ですね。上手くコントロールできるようになりたいです。


「貴方たち!邪魔しないでください!!そいつは、この街の平和を乱す、極悪人なんです!!」


 そう叫んだのは、空に浮かんだ龍でした。


 そして、炎が狙っていた辺りには確かに、黒服に身を包んだ怪しげな人物たちが、固まっています。


 状況が理解できず、私は龍に向かって話しかけました。


「ちょっと待ってください!貴方がたは何者なのですか!!それに、この人がどんな悪事をしたんですか!?」


 そう言った私の言葉に、黒服の親玉らしい人物が尋ねてきました。


「何……?この街で俺達、カバネ一家を知らねえとは、アンタ達こそ何もんだい?」


 そう言う黒服に対して、信秀殿がからかうように言いました。


「何だ?アンタ等有名人なのか?見たところ、裏社会のドンって感じだが」


「まあ、そんなとこだ。この『任侠街:スジ』で俺のことを知らねえ奴はいねえさ。俺のおかげで街が保ってるんだからな」


 この人のお陰でこの街が保っている?どういう意味でしょうか。というか、この街はどういう街なのでしょう。


 任侠街ということは、ヤクザが支配する街ということでしょうか?そして、街の名前が『スジ』。私がもっとも愛する言葉です。


 ここの方達も『筋』を重んじていると言うことでしょうか?


 そんなことを考えていると、また空中の龍が喚き始めました。


「お前は、それをいいことに、好き放題やってるじゃねえですか!!力があるからって、何でも思い通りにするのは筋が通らねえですよ!!」


 なるほど、要するにこの黒服が、自分の権力を利用して何か不正をしたのを、あの龍が咎めているというわけですか。


 それにしたって、不正というのが何なのかが問題です。筋が通っているかどうかは、そこで決まるわけですから。


「もう一度、聞きます!この方が何をなさって揉めているのですか!?」


「そんなこと、説明するまでもねえでしょう!!」


 私は、『そいつは悪人だから』『悪いものは悪い』とわめき続ける龍をなんとか宥めて事情を聞きだしました。


 それによると――


「『裏ルート』ですか?」


「ああ、それが俺の『スキル』さ。どこへでも『道』を繋ぐことができる。この街の物資は俺が他所(よそ)から輸入することで保ってるんだぜ」


 時間をかけて、龍から聞き出した内容より、黒服の説明の方が簡潔で分かりやすかったですね。


 しかしこの街の物資が黒服の『スキル』で保っているのだとすると、確かに黒服の持つ権力は多大なものでしょう。


 そして、龍の話によると黒服は今回分の『仕入れ』をしないと言っていると。


 もちろん以前に仕入れた余りはあるのでしょうが、次回の『仕入れ』までになくなりそうだとのことでした。


 『仕入れ』をするために黒服の出す条件は、この『任侠街』のもう一つの顔役である、龍一家の降伏、黒服ことアリ・カバネの『カバネ一家』に服従しろということですね。


 確かにアリが筋を違えたことを言っている気がします。けれど、何か事情がありそうにも見えますね。


「これまで『仕入れ』をしてきたのに、今回に限って『臣従』を条件にしたのには、何か理由があるんですか?」


「そりゃあ、もちろん最初から街を支配するつもりで『仕入れ』をやってたのさ。龍一家さえ臣従すりゃ、俺がこの街の王だからな」


 全く悪びれない態度で、そう言った黒服に対して、また龍がわめきます。


「そんなこと、許してたまるもんですか!この街はこの街に住む皆のものです!アタシらが勝手に支配していいもんじゃねえですよ!」


 やはり筋は、あの龍……龍一家の親分『龍鳳華ロン・ファンファ』にあるように感じます。でしたら、龍の方に味方してアリを懲らしめるべきか……私がそう思ったとき、信秀殿が横から口を出してきました。


「いや、待て感じるぞ。この音は……。そうか、おい正利、俺はしばらく、このカバネ一家に世話になろうと思うんだが、どうだ?」


 信秀殿の意外な提案に、私は慌てて答えた。


「えっ、ちょ、ちょっと待ってください。なんでそんなことになるんですか?」


「第一、世話になるったって、俺の許可がいるだろう。俺はアンタ達を置く気なんかねえぜ」


 それは当たり前ですね。アリの許可なしにカバネ一家に世話になんてなれないでしょう。


「いいのかい?俺はあんたの秘密を知っちまったんだ。そいつが、面白えと思ってな。味方するかどうかは、アンタの事情次第だが、しばらく、そうだなお宅の用心棒にしてもらえねえか」


「この俺の用心棒とはぬかしやがるぜ。だが、お前は本当に俺の秘密を知ってるようだな。そいつをバラされちゃ困る。どっちにしろ一度、うちの組まで来てくれ、そこで話し合うとしよう」


「ちょ、ちょっと待ってください。そんなこと急に決めるなんて……」


 私がそこまで言ったところで、信秀殿が特殊な波長の音波を飛ばしてきました。これは握力同士で通じ合う『握力通信音波』ですね。


 それによれば、自分が上手くまとめて見せるから任せろ……と。


 信秀殿がアリのどんな秘密を握っているか知りませんけれど、本当に上手くいくのでしょうか?


 もしもの時は、やはり『友情の握力』で乗り切るしかないですね。


 こうして、私はしぶしぶ信秀殿の作戦に乗ることになりました。


 そして、私と信秀殿は、今も空でわめき続ける龍鳳華を置いて、カバネ一家の拠点へ向かうことになったのです。


【  2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳  任侠街 屍亭(かばねてい) 】


 私と信秀殿は、アリとその子分に連れられて、カバネ一家の拠点、カバネ亭に着きました。


 ここはアリが経営している宿屋だそうで、アリも子分たちもここに住んでいるようです。


 そこで、私は信秀殿とアリに、アリの秘密と詳しい事情を聞くことになりました。


 この問題に介入し、仲立ちもしくはどちらかを勝たせることで問題に決着を着けるためです。


 ですから、この後で龍一家の事情もきちんと聞き出さなければなりません。


 全てを詳らかにしなければ、どちらの筋が通っているか正確に判断できませんからね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「女性……ですか!?」


「ああ、そうだ。この黒服は『厳つい親父』に見えるように迷彩魔法がかかってるんだ。声も低くできる。だが、俺は本当は女だ」


 なるほど、これが信秀殿が突き止めた秘密ですか。音に敏感な信秀殿だから、アリが動くことによる微妙な空気の変化などから、視覚への迷彩を見破ったわけですね。


「それを素直に話していいのかよ?」


「どうも、街の問題を解決するには、おたくらの力が必要らしいからな」


 街の問題……とは、アリが『仕入れ』を渋っていることでしょうか?


 しかし、それはアリが普通に物資を仕入れてくれば解決することなのでは?


 それともカバネ一家と龍一家の二頭体制に問題があるということでしょうか?


 私が色んな状況を想像していると、信秀殿があっさりとその答えを言いました。……デリカシーを置き去りにして。


「俺が教えよう。アリは月経が重いと、『裏ルート』を使えないんだ」


「お、お前!何、普通に言ってやがんだ!恥ずかしいだろうが!!」


 月経が重いと、『裏ルート』を使えない?すると、アリは権力を得るために『仕入れ』を渋っているのではなく、そもそも行きたくてもいけないのですね。


「しかし、だとすれば能力が使えないのはせいぜい一週間くらいではないのですか?」


「俺はわりと真祖に近いヴァンパイアでな。寿命が人間の10倍はある。その分、月経周期も人間より長いんだ」


「ってことは……」


 10週間ほど、能力の使えない期間があるわけですか。


「しかも、今は10日目を越えたところだ。人間の女の『二日目』と同じで、11~20日目は特に生理痛が重いんだ。それも10日も続きやがるからな」


 そう言っていると、突然 宿の扉が開いて13~15歳ほどに見える、角と尻尾のある少女が飛び込んできた。


『話は聞かせてもらいましたですよ!!何ですか、アリ!!水臭いじゃないですか!アタシ達は永遠のライバルでしょう!困った時は相談して欲しいですよ!!』


「いや、ライバルを頼るのはおかしいだろう」


 アリが普通に反応したせいで、少女が誰なのか聞きそびれてしまいました。


 でも、この声や喋り方は聞き覚えがありますね。


「貴女は、もしかしてさっきの龍ですか?」


『当たり前じゃねえですか!あ、人間に化けてるから分からねえってやつですかね?アタシらは魔力を感じて動いてるから、あんまりそう言うの気にしねえんですが』


 気にしないにもほどがあるだろう。と思うが、よくよく『握力探知』によって探ってみれば確かに本性が龍であることが分かります。


「アタシ等は、200年前からの幼馴染なんすよ。今は敵対勢力の親玉になっちまったけど、親友でもあるんです!!」


「お前なあ、親玉にゃ立場ってもんがあるだろ。いつまでも親友なんて言ってられるかよ」


 だが、『握力探知』によれば、アリは親友と呼ばれて喜んでいるようですね。素直になれないタイプなのでしょうか。


「しかし、だとすると街の物資を仕入れる方法はないのか?」


 少し慌ただしくなったところで、信秀殿が話を本題に戻しました。確かに、今から10週間、能力が使えず しかも備蓄も足りないとなると……。


「そこはアタシに妙案があるんですよ」


「妙案、ですか?」


 失礼ですが、この子があまり頭が回るようには見えませんね。一体、どんな妙案があるというのでしょう。


豚崙山(とんろんさん)叉焼王(チャーシュー・ワン)を倒して、肉にするんですよ!そいつを食べてれば10週間くらい持つでしょう』


 自信満々に話す龍鳳華ですが、アリは呆れた顔で突っ込みました。


「お前なあ、そのことについちゃ、前に話し合ったろうが。俺とお前の能力じゃ、叉焼王は倒せねえ。第一、今俺は力が使えねえ上に、腹が痛すぎて戦うどころじゃねえんだぞ」


 しかし、それに対して龍鳳華は『ふふん』と鼻を鳴らして『そこですよ!』と言った。


『確かに、私とアリじゃ無理でしょう。でも、このお二人ならどうです?アリも見たでしょう?アタシの炎を一瞬で大木に変えたんですよ?アタシがお二人と力を合わせりゃあ、叉焼王くらい倒せそうじゃねえですか?』


「確かにお二人から感じる力は異常だが……いくつか問題があるな」


1.叉焼王を倒せる保証がない

2.戦いで龍鳳華に死なれると、龍一家が暴動を起こす可能性がある

3.倒したとして、街にはお礼になるようなものがない


 アリの説明を聞きながら、私は考えていました。恐らく龍鳳華の言っている『叉焼王』がこのエリア2『任侠街』のボスなのでしょう。


 つまり、私と信秀殿が『友情の握力』以上の何かに目覚めることで突破できる、このエリアのクリア条件ということですよね。


 つまりお礼があろうとなかろうと、私達は協力するしかないわけです。何より、ここまで関わっておきながら困っている人を見捨てるのは、信義に反します。


 私の筋を曲げないためには、叉焼王に挑むしかないでしょう。


「私達には、叉焼王を倒さなければならない事情があるようです。この話、お受けしてもいいかと思います」


「俺も問題はないが、嬢ちゃんが着いてくるのは足手まといじゃないか?」


 信秀殿の言う通り、龍鳳華が着いてくると色々問題があるかも知れません。


 というのも、私達が求めている『友情の握力以上』の何かは恐らく二人の愛によって生まれる物です。


 つまり、他人に見られていると不都合があるというか、恥ずかしいです。


 だから彼女の実力云々の前に、私としてはできれば信秀殿と二人で行きたいのですが……。


『大丈夫ですよぉ!アタシは龍ですからね!お二人の力になることは合っても邪魔したりするわけねえじゃないですか!』


 やはり不安ですが、どうも連れていくしかないみたいですね。


「さっきも言ったが、お前に死なれちゃ困るんだよ。龍一家に暴れられたら、こっちも被害が大きい」


 そう言っているアリの顔は本気で龍鳳華を心配しているように見えます。やはり二人は仲が良いのですね。


『街の危機なんですよ!アタシがこの手で問題を解決しねえでどうするんです!!』


「やれやれ、こうなっちまうと手がつけられねえんだよな」


「仕方ありませんね。では、やはり鳳華さんも連れて行きましょう。というか、龍に戻って豚崙山とやらまで乗せて行って頂けますか?」


 私の言葉に、龍鳳華は飛び上がって喜びました。そして『ついに決着の時ですね』というのと同時に龍の姿に戻りました。


「あっ……馬鹿!!」


 今いる建物は当然、龍より小さいですから、壁や天井が吹き飛ばされて、私達も外に飛ばされました。


「元に戻るときは外でやれっていつも言ってんだろうが!!」


「あー、ごめんなさいです。気分が乗っちゃうとどうも、すぐに戻りたくなっちゃうんですよね」


「全く……今回も弁償代の請求を送っとくからな」


 龍鳳華が来るたびに、この宿は破壊されているんでしょうか。少しアリさんの苦労がしのばれますね。


 ともかく、こうして私達は龍鳳華の背に乗って、豚崙山の『叉焼王』の元へ向かいました。


『待ってるですよ!叉焼王!!』


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