八種類の『愛』を極めろ!
昨日:1月12日で、この作品は3周年を迎えました。これからもよろしくお願いします。
【 2005年 松平信孝 14歳 ツバサ・プレリア 14歳 織田信秀 14歳 本願寺証如 14歳 島津義弘 14歳 ラブ・キング・キャッスル・恋帝の間】
転移によって、周囲の景色が暗転する。そして、転移先で俺達の目の前に現れたのは……。
女王の部屋と同じくらい巨大な部屋だ。だが、いくつか妙な特徴がある。
中央の王座を囲むように、8つの巨大な銅像が建っている。それぞれ台座に、
・エロスの像
・アガペーの像
・フィリアの象
・ルダスの像
・プラグマの像
・フィラウティアの像
・ストルゲの像
・マニアの像
と彫ってあるな。この八つはいわゆる『愛の種類』ってやつだろ。そして、俺達が持つアガペーを含む『上位恋愛傾向』ってやつの名前だ。
アガペーの像だけ、淡い光を放っているみたいだが、何か意味があるのか?
そして、中央の王座には、当然王様……というか、恋帝が座っている。
大きさはクイーンと同じく10mほどだ。衣装は普通に王様っぽいが、赤やピンクが目立つな。
そして一番の特徴は、王冠の中央に書かれた『愛』の文字だ。
やっぱりここの連中は妙なやつが多いな。
「恋人達よ!よくぞ我がアトラクションを突破した!お主達こそ、愛の申し子じゃ!!」
王様が何か話し始めた。そういえば、『クイーンズ・マウンテン』はラブキング・キャッスルのアトラクションの一つだったな。
俺達は現実世界で太上老君に洗脳されたツバサ達を救うため、『宇宙意識』にサイコダイブした結果、ラブキング・キャッスルに挑むことになったわけだけど。
アトラクション突破に夢中で、結局 突破したら具体的にどういう特典があるのか、クイーンから聞いてないぞ。
「このラブキング・キャッスルには、恋人を得ること、そして夢現界の力をもって夢を叶えることを望む者が招かれる。そして、お主達はアトラクションを突破する中で、恋人を作り、夢を叶える力を手に入れたはずじゃ!」
夢を叶える力……?
「そうかっ!オイラは輝夜に匹敵する力を、『闇』は『お菓子の城』を確かに手に入れたぞ!」
悟空達は叶えたかった夢を叶えられたようだ。けど、俺達はどうなんだ?
俺達の目的は現実世界で洗脳されたツバサ・信秀・証如・島津義弘の洗脳を解くことだ。
パーフェクト・ハーモニーパワーを手に入れたことで、それが可能になったんだろうか?
しかし、確か最初ここに来たとき、俺が四人共と恋人同士にならないと洗脳は解けないと言われた気がする。
あるいは、『正利と信秀』、『藤田と証如』が恋するのでもいいんじゃないか……という話だったはずだ。
「確かにパーフェクト・ハーモニーパワーは手に入れたけど、それで洗脳が解けるのか?」
「ふむ、お主達の場合はちょっと事情が特殊じゃな。少なくとも今の力で『ツバサ』の洗脳は解けるであろうが、他の三人についてはそれぞれが『上位恋愛傾向』になる必要があるのじゃ」
「それぞれが上位恋愛傾向に?」
つまり俺とツバサが『アガペー』になったように、正利達の恋愛傾向がエロスやルダス、あるいはストルゲになる必要があるってことか?
「その通り、お主達と同じように『上位恋愛傾向』の『パーフェクト・ハーモニーパワー』を身に着けることができれば、それぞれの洗脳は解けるはずじゃ」
「だが、待ってくれ。正利や藤田はきっと何とかしてくれるだろう。俺はやつらを心から信頼してるからな。だが島津義弘と組んでる桜井かんなってのは何者なんだ?そいつ次第で、洗脳が解けるか決まるわけだろ?」
島津義弘の洗脳が解けようと解けまいと俺の心情的には問題ないが、全員の洗脳が解けないと現実世界で進行してる『皇・大和』の自爆が止められない。
『皇・大和』を操縦しているツバサ達 四人の意思が揃わないと自爆してしまう可能性があるんだ。
そうなれば、俺やツバサ達が死ぬだけでなく、全次元が滅びてしまうだろう。
「いやいや、お主が知らぬだけで桜井かんなは間違いなく、お主……いや本物の望月たかしの関係者じゃよ。信頼しても大丈夫じゃ」
「望月たかしの関係者!?」
俺の頭に埋められている記憶チップには、俺が前世だと思っていた望月たかしの記憶が完全に入っているはずだ。
けど、俺はそれを立証できないからな。俺が知らない望月たかしの『知り合い』がいてもおかしくはないが……。
「それは今の俺が知ってるやつなのか?」
「もちろんじゃ。織田信孝となった、そなたが知っている人間の『転生体』じゃな」
俺が知ってる人間の転生体……?
俺は桜井かんなの正体について考えるが、これと言った案が思い浮かばない。
ともかく、ツバサ以外の3人の洗脳を解くには、本人たちに頑張ってもらうしかないってことか……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳 ラブ・キング・キャッスル 広間 】
[正利 視点]
さて、決められた相手とあとらくしょん?を突破して、恋人同士になれとのことですが……。
私は隣にいる、筋肉質で粗暴な男を見る。
信秀殿とは、同じ信孝様の家臣でありながら余り接点がありません。理由は私が美濃で信孝様の家臣になった後すぐ、信秀殿に尾張を任せ、私と信孝様は陸奥の『遺伝子研究所』へと向かってしまったからです。
ですが、彼は私と同様に強さを信条としているようですし、比較的 気が合いそうではありますかね。
「なあ、正利。これからどうするんだ?本当に俺達が恋人同士にならねえといけねえのか?」
「ええ、そうですね。あの王の言う通りならば、それができれば何かが変わるようです」
「我々は、貴方がたの洗脳を解くために、サイコダイブしてここに来た。そこで恋人同士になれと言われたのですから、それが問題の突破口になるはずです」
あの王が何なのか、『恋愛シミュレーション空間』とは何なのか、疑問は尽きませんが、今 信孝様と全次元を守るために、私ができることは間違いなく信秀殿との恋愛であるはずです。
「男と恋愛ってのはゾっとしねえが、それにしたってとりあえずどうすりゃいいんだ?」
「あの王はアトラクションを突破しろと言っていましたね」
我々は『ソウル』を3つ持っていて、失敗するごとに減るとも言っていました。すべて失うと『ラブ・ヘル』に送られるんでしたか。
「アトラクションには、どうやって挑戦すりゃいいんだ?」
「ほら、そこに看板がありますよ」
アトラクション・大自然の魔境 難易度:アガペー
アトラクション・風見鶏の迷宮 難易度:ラブリー
アトラクション・スカイジャンプ 難易度:アガペー
アトラクション・天使の懐 難易度:アガペー
アトラクション・天啓の神殿 難易度:アガペー
アトラクション・宇宙観覧車 難易度:ノーマル
アトラクション・天地ジェットコースター:ノーマル
「なんだ、こりゃあ?どう見ても、恋愛できそうな場所に見えないぞ。どっちかって言うと、修行場みたいな名前じゃないか」
「そうですね。これは……つまり修行のような大変な思いをして、愛し合えと言うことでしょうか」
それにしたって、名前だけでは どれが突破しやすいか予想しようがないですね。
ならば、そうか恋人同士になるのが目標なのですから、信秀殿が過ごしやすい所に行くのが良いかも知れません。
信秀殿の能力特性にあった場所なら、少しでも突破しやすいかも知れませんしね。
「お、こっちを見て見ろよ。難易度の説明があるぜ」
【アガペー】
命の危険がある極限状態におかれることで、愛が極端に深まりやすい。挑戦中に死亡しても復活できるが、途中で辞退できないため、三度死ぬまでに恋人同士になれなければソウルを全て失う。
【ラブリー】
四肢の欠損や、五感の一部を消失するリスクがある。アトラクションが終われば『ソウル』を一つ消費して元の状態に戻すことができる。
アガペーほどではないが、極限状態におかれるので、愛が深まりやすい。
【ノーマル】
普通のデートスポットである。失敗してもソウルを失わないが、これと言った仕掛けもない。そのため、他のアトラクションと比べて愛が深まりにくい。
「なるほど、難易度が高いものはソウルを失いやすいが、恋人同士になり易い。低いものはソウルを失わないが、恋人同士になり難いのですね」
アガペーやラブリーに挑戦してソウルや五感・四肢を失うリスクは大きいですが、だからと言って、ノーマルに挑戦して恋人同士になれないと時間の無駄になってしまうわけですか。
「だったら、難易度アガペーのアトラクションで行くしかねえだろ。俺達は今の友好度が低いんだから、最も恋人同士になり易いやつで行くべきだ」
確かに、信秀殿の言うことには一理ありますね。でも問題はソウルを失うリスクです。話を聞く限り『ラブ・ヘル』に落とされたら二度と戻ってこられないでしょうからね。
「それに、出てくる奴が手ごわい方が、面白れえじゃないか。もちろんおっ死んじまうかも知れねえが、それでも俺は強いやつを見たい!」
どうやら、信秀殿の覚悟は決まっているようですね。今、彼に死なれると困るのですが……。『皇・大和』の自爆を止められなくなると、全次元が滅んでしまいますから。
「なるほど、わかりました。では『アガペー』のアトラクションは四つありますから、信秀殿が気に入ったものを直感で選んでください。私はそれに合わせましょう」
「俺が決めるのか?なるほど、自分の命を張るアトラクションは自分で決めろってんだな。面白れえ!!」
そう言って、信秀殿はアトラクションの名前が書かれた掲示板を何度も読み直した。
「ふーむ。どれも名前だけじゃ、ちょっと想像が付かねえけど……。そうだな俺に合いそうなのだったら『大自然の魔境』か」
そう言えば、信秀殿は動物と話す能力があるのでしたね。それに馬に育てられたというから、自然が好きなのでしょう。
「なるほど、それはいいですね。きっと信孝殿の動物と話す、いえ『音』の技能が役に立つことでしょう」
『自然』というからには、野営させられるのでしょうし、野生動物の接近や水を探すのにも『音』の能力は役立ちそうです。
本願寺との戦いでは『強化』や『弱化』の音声を使ったと言いますし、こと戦うことだけ考えれば、最適な場所を選んだと言えるでしょう。
戦闘を腕力に頼りがちな私とも相性が良いですしね。
ただ、それらが恋愛とどう結びついてくるかは……行ってみないとわかりませんね。
「よし!私も覚悟を決めましたよ。私達が愛を育む場所、私達の命を賭ける場所は『大自然の魔境』に決定します」
「おう!じゃあさっそく向かおうぜ」
信秀殿の言葉に従って、私達は看板の示す方向に向かって行きます。
そして行き着いた先で扉を開くと、突然 周囲の景色が入れ替わり、どこかへ転移しました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳 大自然の魔境 エリア1 ギガ・ストレスフル・ジャングル 】
転移させられた先で、私達の目の前に広がっていたのは、一面の森でした。
いや、森と言ってもそこら中にツタが張り巡らされ、それぞれに怪しい形の花が咲いています。木らしきものは一本もありません。
それでもツタの背丈が10mにも及んでいるので、周囲は薄暗く視界も悪いですね。
それより何より……。
「なんだぁ!この臭いは!音は!!それに、暑いしめちゃくちゃジメジメしてやがる」
そうなのです。さっきから感じる糞尿を煮詰めたような臭いと、聞いているだけで心が強い不安にさいなまれるおどろおどろしい音。
そして湿度が高く、気温も高い。何もしなくても体力が奪われていきますね。
「まずいですね。いつまでもこんなところにいると、参ってしまいそうです。一刻も早く、ここを突破しなければならないでしょう」
「しかし、どこに向かえばいいのか全然わからないぞ?」
確かに四方八方どこを見てもツタと葉と花しか見えませんね。どっちへ行ったらいいのか、見当がつきません。
『まずは五感害花を見つけよ。さすれば道は開けよう』
悩んでいると、私達の頭にそんな声が響きました。『五感害花』を探せ?ですって?
しかし、そうは言われても私達は五感害花が何なのかわかりません。
そう思っていると……。
「おい、その辺りの虫や小動物に聞いた感じでは、五感害花は森の北の端にいるらしいぜ」
その言葉に驚きました。動物と話せるとは聞いていましたが、まさか虫とも話すことができるとは。
正直、この場所は植物ばかりで、信秀殿の能力が活かせないのではないかと思っていただけに、これは幸運でしたね。
「なるほど、それは良い情報ですね。ところで、北がどちらかわかりますか?」
周囲には太陽はもちろん、切り株なども見当たりません。けれど、虫に聞いて北に行けと言われたなら、北の方向もわかるのではないでしょうか。
「うーん、大まかにはこっちだな。途中、虫に聞きながら行けばいいんじゃないか?」
「それも、良い考えですね。では、さっそく参りましょう」
そう言って、私達は信秀殿の示す方向に向かい始めました。
ですが、私達はこの環境がもたらす精神への影響を、また完全には理解していなかったのです。