自分の『闇』と愛し合う!~悟空は『可愛さ』にぶちのめされた~
【 年 The・END 終わりと始まりの泉】
オイラの前に光線が飛んでくる!!恋愛なんて言ってられねえ!避けなくては!!
だが、光線の速度が速い!!まともな方法じゃ避けられないぞ!!
仕方ねえ!奥の手だ。『TTRAW』での記憶が戻ったから使えるはず!!
オイラは肉体をTTRAWに変えて、自爆する!!!
そして、その爆風で魂を光線の射程外に吹き飛ばした!!
そのおかげで光線は避けられたが、オイラは魂だけのまま放り出された!
「くう、どうにか避けたが肉体を全部持ってかれちまった。それどころか、魂も欠けてるかもだ。何てことしやがる」
「よっし、これで仙丹ができたぜ。魂は逃したけど、こいつを食べれば大分パワーアップするはずだ」
『闇』はそんなことを言って、仙丹を口にした。すると、彼女の中の『ダークマター』がどんどん増幅されていく。
そうだ、さっきから感じてる『-エネルギー』だ。あれが数倍に跳ね上がった!
ただでさえ八卦炉の破壊力に対応できてないのに、こっちが弱体化して相手がパワーアップしたんじゃ、話にならねえぞ!
というか何より、魂だけじゃ動けない。オイラの術を使って肉体を生成するには周囲の物質を改造しなきゃいけねえんだ。
The・END全体を覆っている『ダークマター』は、まだDNA構造がわからないし、そもそもオイラのエネルギーを受け付けねえみたいだ。
「さあ、次はアンタ自身だ。魂も食っちまえば、アタシが本体になれる。そしたら、これまで潜在意識に埋もれてできなかったこと、なんでもやってやるんだ」
オイラは、『闇』が言ったその言葉に光明を見出した。『やりたいこと』!そいつが分かれば、『闇』の趣味嗜好に少し近づけるはずだ!
「待て!お前のやりたいことって何なんだ!?教えてくれ!オイラが力になれるかも知れねえだろ!」
「何をバカなこと言ってんだい。アタシはこの戦いの間だけアンタの中から呼び出されてんだぜ?アンタを仙丹にして食わない限り、アンタの中に戻るしかねえんだ」
なるほど、それもそうだな。こいつにとっては夢を叶えるとかよりも、まず生きられる体制を作ることの方が重要なわけだ。
しかしだとすると、こいつを実体化させる方法が必要だな。それにオイラの中から『ダークマター』がずっと抜けたままでも、オイラは生きていけるんだろうか?
泉の方を見ると、『アエン・トビエン』はもういないみたいだ。聞く訳にもいかないか。
そうだな、考えてみよう。闇はオイラから呼び出された存在で、元々オイラの一部だ。
一つの生き物に魂が一つしかないんだとすると、『闇』が単体で生きられないのは、恐らくオイラと魂を共有してるからなんじゃないか?
だから、オイラを吸収すれば単体で生きられるけど、それだとオイラが死んじまう。
てことはつまり、『闇』の方にも魂があればいいんだ!
ええと……だから、何とかして『闇』の中にもう一つの魂を作り出せばいい!そうすれば、二人とも生きられる状態になるはずだ。
そのためには、やっぱり愛し合うしかねえ。愛し合い、オイラが『∞無量大数乗』の力に目覚めれば、魂くらい作り出せるだろう。
オイラは考えをまとめ、『闇』に伝える!二人とも助かる方法があるなら、絶対それをやるべきだ!
「いや、方法はあるぞ。そもそもオイラ達がそれぞれ生きられないのは魂を共有してるからだ。つまり、アンタの中にもう一つ魂があれば、二人とも生きられるんだ」
それを聞いて、『闇』は呆気にとられ攻撃の手が止まった。
「た、魂を作り出す……?本気か?ホントにそんなことができるってのか?一体どうやって?」
よし!話に食いついてきた!!話し合うことさえできれば、可能性はあるんだ!
そう、言葉を交わし続け、恋愛関係を目指すしかない。それさえできれば、オイラは『∞無量大数乗』の力を手に入れ、『闇』の魂を生み出すこともできる。
「方法は一つだ!!オイラとアンタが愛し合えば、オイラは『∞無量大数乗』の力を手に入れることができる。その力を使って、アンタの中に魂を産み出すんだ!」
「愛……愛の力で?愛って一体、何なんだよ。ただ愛し合うだけで、魂を生み出すほどのエネルギーが出るなんて……」
「オイラもアンタもオイラ同士なんだ。嘘を言ってるかどうかくらいわかるんだろ?」
『闇』はオイラの顔を見つめる。顔を覗き込み、オイラの意思を探ってくる。
オイラは本気だ。愛し合えば、とんでもないパワーが出ることを、乙姫が、ハルナ姫が、ツバサが教えてくれた。
だから少なくともオイラは、愛し合うことが『闇』を生かす唯一の方法だと信じてる!
「そうか、どうやらアンタは本気らしいな。そうか、そうなのか。アンタを殺さず生きられる方法があるのか……」
『闇』は微笑みを浮かべて黙りこくった。涙がうっすら見える気もする。
もしかして本当はオイラのことを殺したくなかったのか?
「だから……生きられたら!オイラと分離出来たら『何をしたいのか』教えてくれ!!それが、オイラと愛し合う第一歩のはずだ!」
「あ、愛し合う……恋……」
『闇』はそう呟くと、そのまま黙り込んでしまった。
「ど、どうした?オイラと恋をするんだろ?アンタが生き残るために、必要なことなんだ」
「いや……だって、恋なんかしたことねぇもん」
『闇』は顔を赤くして俯いた。恋をしたことが無い?どういうことだ?
『闇』はオイラの記憶を受け継いでるんじゃないのか?オイラの記憶には、乙姫やハルナ姫、そしてツバサと恋をした記録がしっかりある。
それなのに、『闇』は恋をしたことが無い?
「アンタは、オイラの記憶を受け継いでるんじゃないのか?」
「いや、だってさ。アンタを通して見てただけだぜ?自分のことだなんて思えねえだろ」
考えてみたらそうか。じゃあ、『闇』からしたらオイラの体験はドラマやアニメを見ているような感覚だったんだな。
じゃあ、何もかも一からってわけか。いや、『闇』の方は一からでも、オイラにはサイコダイブを使わない恋愛も経験してるんだ。
全くのゼロからじゃないんだ。
で、そうなると話は戻る。俺たちが愛し合うため、お互いを知るための第一歩として、『闇』の夢、生き残れたらしたいことを聞いて、協力する必要がある。
「よし、じゃあここから始めよう!!初恋でもなんでも相手してやるぜ!!」
「簡単に言うけどよ、アタシは何すりゃいいんだよ?」
顔を上げて、とぼけた顔で聞いてきた『闇』に対し、オイラはさっきの質問を繰り返した。
「さっきも言った通りだ。アンタの夢を教えてくれ。魂を手に入れ、俺から分離出来たら何をしたいんだ?」
「アタシの夢か。ちょっと突拍子もないことだと思うけど、それでもいいのか?」
突拍子もないことか。だが、オイラはここまで常識では考えられないことしか体験してねえからな。
正直、ちょっとやそっととんでもないことでも、どうにか対応できそうな気がする。
「ああ、問題ない。アンタの夢が何であれ、協力するぜ」
「アタシの夢は、お菓子の城を作ることだ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そう言われて、当然 オイラは呆気にとられた。というか意味が理解できなかった。
お菓子の城?なんだそれは?
いや、違う。オイラが目指すべきは、『闇』と愛し合うことだ。
だから理解したい。愛おしく思いたい。
『知りたい』!
どうして、『闇』がお菓子の城を望むのか!そこにオイラ達の『馴れ初め』最初の仲良くなるきっかけがあるはずだ!!
だから俺は尋ねた。『闇』の想いを知るために。
「どうしてお菓子の家が作りたいんだ?」
「そりゃあ、アンタが可愛いものを見せてくれねえからだ!」
オイラが可愛いものを見せないせいだと?
そうか、こいつはずっとオイラの中にいたんだから、オイラを通してしか、外の世界を見られなかった訳か。
「アタシは可愛いものが見たいのに、アンタはいつも強いものやカッコいいものばっかりみやがる。だから、アタシはどんどん可愛いものに憧れるようになったんだ!」
なるほど、オイラと真逆の好みなのに、オイラを通してしか外の世界が見れないせいで、好きなのに知ることができないもの、特に可愛いものに強く惹かれていったってことか。
「だから、アタシは視界の端に可愛いものが映る度、もっと見たい、触りたい、抱きしめたいって気持ちを抑えきれなくなった」
「それで、考えたんだ。もし、アタシが自分で動けるようになったら、『可愛さ』を象徴するような何かを作ろうってさ」
「可愛さを象徴する何か?」
ここまで来てやっと話が繋がって来た。可愛さを求め続けた『闇』は可愛さの象徴になるものを作りたいと願ったんだ。
「じゃあ、それが『お菓子の城』ってことか」
「そうだ!今、せっかく動けるようになったんだから、どうしても作りてえんだ。『お菓子の城』を!!」
『闇』が可愛さにとてつもなくこだわっていて、可愛さの象徴を作りたいのはわかった。
けど、何で『お菓子の城』なんだ?可愛い服とかぬいぐるみじゃダメなんだろうか。
多分、ここは『闇』の想いを知る上で、かなり重要なものという気がする。オイラの直感ってやつだ。
つまり、『お菓子』は彼女を理解する上で欠かせない要素ってことだ。
『闇』を愛すため『お菓子』にかける想いを知りたい!!
「よし、わかった。もちろんオイラも協力する。だが、一つだけ聞かせてくれ。どうして他の可愛いものじゃなく『お菓子の城』なんだ?」
「そいつを聞いてくれるのか?そうか、わかった。話そう。アタシの夢『お菓子の城』のことを!」
俺の質問に対して、『闇』は異常に喜んだ。『お菓子』への想いを、誰かに話したくてしょうがなかったらしい。
『闇』は興奮した様子で、息を切らせながら『お菓子』への想いを語り始めた。
「『可愛いものの象徴』を何にするかって考えたとき、もちろん服やぬいぐるみも候補には入れたんだ。けど、アタシは、そういうのとお菓子の間に決定的な違いがあることに気づいた」
「お菓子は『食べた人が笑顔になる』。それで『笑顔の人間はめちゃくちゃ可愛い』ってことだ。服やぬいぐるみは本人だけ可愛くするけど、お菓子は皆を可愛くするんだ!!」
オイラは言葉に詰まった。お菓子が皆を可愛くする。そんな発想は考えたこともなかったからだ。
だが、こいつは『ダークマター』なんだろ?いくらオイラと真逆の性格とはいえ、思いつくのか。
そんな『可愛い』発想を!!
オイラのハートに何かの変化が起きた気がする。
『闇』の発想、夢が余りにも可愛すぎてオイラは心を撃たれた。これは恋か?恋だったら、オイラは『∞無量大数乗』の力に一歩近づいたのかも知れない。
だが、とにかくオイラは『闇』の夢『お菓子の城』をどうしても手伝いたい気分になってきていた。
パワーアップという利益のためでなく、無性に『闇』のためになりたい。
「よし!いいぞ!!作ろう!!!『お菓子の城』を!!お前の夢を!!話を聞いて、オイラも皆を笑顔にしたくなってきた!!」
「そうか!アンタも共感してくれるのか!!そうだよな。いくら逆の性格とはいえ、同じアタシなんだ。わかるよな、全てが可愛くなったら、すっごく素敵だってことが!」
確かにそれはすごい。全次元が、TTRAWの全てが可愛くなれば、そう考えると心が凄くワクワクする。
誰かが可愛くなることに心が震える。
しかし、そこまで考えてオイラは問題に気づいた。
このThe・ENDで『お菓子の城』を作ろうと思ったら、大きな問題がある。
材料がない。加工する道具もない。というか、このThe・ENDには基本的に何もない。
いや、オイラ達の回りを、多分『ダークマター』が漂っているんだとは思うが、オイラじゃ確認できないんだよな。
それに、オイラの能力じゃダークマターのDNAを改変して、別の物質にすることもできないらしい。
そして、『∞無量大数乗』の力を手に入れずに、このThe・ENDから出ることもできないんだよな。そうすると、手詰まりだ。
お菓子の材料や加工道具をどうやって手に入れるのか?
俺がそう考えていると、『何か』がオイラに話しかけてきた。
「お菓子……の……城……俺たちも……手伝う……」
オイラは、その声がする方に強く意識を向けた。