守護者・そらの心を開け!~思い出と究極の恋愛傾向~
【 年 永久の空白 真空白域】
『―――排除―――』
『守護者・そら』がそう呟くと、俺の周囲にいた『光』達が瞬く間に空白に戻った!
まずい!これじゃあ、オイラも空白に包まれて消えちまう!!
オイラはとっさに自分の髪を引きちぎり、周囲に飛ばした!そして分身を盾にして、どうにか部屋の外に逃げ出した。
危ねえ!とりあえず体はどこも消えて無さそうだが、やつは『光』を『空白』に戻せるのか。ヤバいな不用意に近づけねえじゃねえか。
でも、そうか。やつの技はあの『真空白域』にしか通じないみたいだな。部屋の外には、普通に『光』がウヨウヨしてる。
でも多分あの部屋にThe・ENDに続く空白ロードだかがあるはずだよな。そこに行けばオイラは超パワーアップする。
そうすれば、『強くしてくれる』と『愛する人のため命をかける』を満たしたツバサにオイラは惚れる。
つまり、どっちみちあの部屋に入り、『守護者・そら』ってのをどうにかしないといけないわけだ。
そのために、はやはり『そら』について知らなければいけねえ。だが、部屋に入ったら消されるかもってんじゃ、精神統一で心を通じさせるのは無理だよなあ。
ってことは、つまりまず部屋に入る方法が必要ってことだ。しかし、空白を光に変えても戻されちまう。
だったら、やることは一つだ。
これまで『空白』と意思疎通して来たおかげで空白のDNAの解析は済んでいる。
オイラは龍宮の柱『如意棒』だからな。対象のDNAの構造さえわかれば、それに従って自分の細胞を変質させることができる。
つまり、空白になること自体はできる。
だがそれをやってしまうと、空白に覆われた魂の『恋愛傾向』が影響を受ける。
つまり魂まで変質してしまい、オイラがオイラで無くなってしまう可能性が高えんだ。
だから、空白に近い存在になりつつ自我は保てねえといけねえ。
そのために必要なのは空息だ。
まず肉体を空白にする。そして、精神にも空白が侵食してくる。このとき、オイラ自身の『恋愛傾向』を全開にすることで、侵食して来た『空白』を光に変える。
『空白』を吸って、『光』に変えて、周囲に吐き出す。これが空息だ。
これができれば、『そら』に近づくこと自体は問題ない。
問題は、光を空白に戻すだけじゃオイラを倒せないとわかったとき、『そら』がどんな手に出てくるかだな。
具体的には『恋愛傾向』を直接『空白』に変える技があるんじゃねえかってことだ。
そんなのがあったらお手上げだが、これまでの経験からして相手の恋愛傾向を変えるためには精神同調とかサイコダイブと呼ばれてるやつが必要なはずだ。
向こうがこっちの『恋愛傾向』を変えようとすれば、それはむき出しの精神で通じ合うことになる。
つまりこっちもやつの精神に触れることができる!!
そうすれば、こっちが変えられるんじゃなく、向こうを変えてしまうチャンスが生まれるってわけだ。
あいつが『空白』の塊なら、物理攻撃で倒すのは恐らく無理だ。
ってことは、結局理解し合い、愛し合うことでしか突破できないってことになる。
そして、恐らく『そら』の精神に触れることで、ツバサと愛し合うための決定的なヒントが得られるはずだ。
言うなれば……そう、『新たな恋愛傾向』いや、空白をも愛し空白に愛されるんだから、『無を有にする恋愛傾向』とでも言うべきか?
まあ呼び方は良い。とりあえず、空息をやってみよう。
まず、オイラのDNAを空白達のモノに置き換える。これは簡単だ。如意棒としての能力は生まれつきのもんだからな。
心が空白に近づく。このままだと乗っ取られそうだ。
乙姫のことを思う。折れた柱として助けられたことから、ゆっくり一つずつ思い出していく。
オイラの魂が、強烈な光を放った!!
よし、空白による浸食が消えて、意識がはっきりしてきた。
そして、オイラの周囲の空白が『光』に変わっていく。
いいぞ、これでオイラは自我を保ちながら、完全な空白になった。
次はいよいよ、真空白域に戻り『そら』に接近する……!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
オイラは空白になったまま、部屋の中央・守護者そらへと近づこうとした。
その瞬間……!!
『―――排除―――』
さっきと同じ言葉とともに、『そら』の周囲に不可視の何かが飛ばされる。
だが、今度は俺自身が空白だからな。消滅しようがない。
『―――対象の存在を確認―――』
『―――対象が消滅していません―――』
やはり『そら』はオイラが空白になっていても、異物であること自体は認識しているみたいだ。
新たな攻撃を仕掛けてくるのか?
『―――対象の魂を確認―――』
『―――空白処理を実行―――』
『―――『0・愛』―――』
その言葉を聞いた瞬間、オイラの視界が暗転し、意識が持っていかれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
オイラは、また何もない空間にいた。これは『そら』の記憶の中なのか?
つまりやつは、自分の恋愛経験を見せることで、こっちの恋愛傾向を変えるつもりなのだろうか?
【守護者・そらの記憶】
真空白域は最初から真空白域だった。
そらは、次元が生まれてからずっと、そこに自分しかいないことを、当たり前に思い寂しさも感じず過ごしていた。
しかし、そこにいる空白たちの中に意志を持つものが現れ始めた。
そらははじめての意思疎通を喜び、楽しんだ。そうして幾億年の、月日が流れると、今度は空白の中に『空白』ではない、恋愛傾向を持つものが現れ始めた。
そらは彼らが光り輝くので『光』と名付けた。しかし彼らの語る恋については理解できなかった。
また多くの時が流れ、『光』の中から人の姿をした生き物が生まれ始めた。
世界はついに、これを、異物と判断した。
そらは彼らを殺すのが嫌だったが世界の摂理に従って消滅させ、ただの空白に戻した。
そんなことがしばらく続いた後、多くの光が集合し一本の竹となった。
その竹の中から一人の女性が生まれた。
世界にとって、完全な異物である、その人物をそらはなんとかして排除しようとしたが、そらのあらゆる技は、『その存在』には通じなかった。
世界の摂理を超えた存在であるそれを、そらは存在Xと、名付けた。
そらは、どうやっても消滅しない存在Xを倒すことを諦めた。
一方で、そらにとって『X』は、初めての自分と同じような姿の存在だった。
空白や光は存在も意思もおぼろげだったが、Xにはそらと同等の知性があった。
そらにとって、そんな存在と過ごすのは生まれて初めてだったため、Xのあらゆる言動に興味を持ち、できるだけ一緒に過ごそうとした。
そうして、長い時を共に過ごしていく中で、二人はどんどん仲良くなっていった。
Xは、そらにとって初めての友達になった。
Xがそらに語る話はとても興味深かった。真空白域で生まれたはずの彼女は非常に多くの物語を知っていた。
異世界ファンタジーを多く含む、その物語をXは『小説家になろう』と呼んでいた。
Xはある日、自分がこのまま真空白域にいては、次元が『永遠の空白』化するのが早くなると言い残し、そらの元を去りどこへともなく消えた。
そらは激しい悲しみを抱えたまま、また永遠に独りぼっちの生活に戻った……。
【守護者・そらの記憶 終わり】
何だ?この記憶は……?
オイラの恋愛傾向を変えようってんじゃないのか?
まるで、誰にも言えなかった話を誰かに聞いて欲しかったみたいな……。
いや、そりゃあそうか。Xがいなくなってから、誰一人ここに来なかったんなら、誰かと話したいと思うのは当然だ。
つまり、そらの中で俺の恋愛傾向を変えようという意思より、Xとの体験を聞いて欲しいという意思が上回ってしまったせいで、オイラにこんな映像を見せたんだな。
しかし、だとしたらこれはチャンスだ。
そらは話を聞いてもらうことに飢えている。そして、Xとの話を聞く限り、自分の知らない情報を得ることにも飢えている。
特にワクワクするような話を聞くのに興味があるみたいだ。
だったら、オイラが話を聞き、オイラの経験を話すことで恋愛傾向が変えられるかも知れねえ!
よし、作戦は決まった。そして今、俺とそらは精神同調状態にあるんだから、そらがやったのと同じように、こっちの過去を流し込むこともできるはずだ。
だが一つ問題がある。乙姫との恋ネタはもうネタ切れだ。今の話からすると、そらは空白と意思疎通をしてるみたいだからな。
つまりすでにオイラの恋愛話を聞いたうえで、恋愛傾向が変わってないってことだ。
じゃあ、何を話せばいい?
オイラは考える。取経の旅の話はインパクトがありそうだ。後は天界で暴れた話とかだな。
だが、オイラは違和感を覚えた。
オイラの直感?魂が訴える。
【まだ聞くことがある】
【そら自身も忘れてることがある】
【オイラの『恋愛傾向』は空白から有を産み出す】
【産み出せ!!そらの本当の恋愛傾向を!!】
何だ、この言葉は何のメッセージだ?誰が、いやオイラ自身の魂が訴えかけてきてるのか。
だが、無から……いや恋愛傾向『空白』から本当の恋愛傾向を産み出すんだったか。
そんなことどうやったらできるんだ。それに、それ自身が忘れてることって?
いや!ともかく、やってみるしかない!!
精神同調を深めるんだ。もっとそらの意識の深いところに入る!!こっちも取り込まれちまうかも知れねえが、リスクなくして突破はねえ!!
「燃やしきれ!俺の能力を!!無から有を!『空白』から真の『恋愛傾向』を産み出せ!!」
オイラは座禅と共に、手で『印』を組んで、意識を集中する。オイラの肉体がそらの意識に溶け込むように念じる。深く……深く入り込む。
オイラは自分のDNAを、ここまで解析してきた そらのDNAに近づけていく。そうすることで、そらの精神と同調が深まる。同じそらになれば、心は一つだ!!
深く深く、そらの意識と同調していくと、オイラの頭の中に一つのシーンが流れてきた。
【そらの記憶 Xとの別れシーン】
「ねえ、そら。貴方と離れたくないよ。ずっと一緒にいたい」
「でもそうすれば、この次元だけじゃなく、あらゆる世界が崩壊しちゃうの」
「それを防いで、貴方とずっと親友でい続けるには」
「貴方の『存在』を書き換える必要がある」
「世界が定めた『守護者』から解き放って、普通の女の子になってもらう必要があるの」
「そして、それができるのは『世界』を越えた存在である『極神霊』だけなんだ」
「だから、少しだけ待ってて」
「私は必ず集めるわ。極神霊になるため、五つの難題を……そして」
「必ずそらを迎えに来るから」
「絶対に、貴方を犠牲になんてさせない」
【そらの記憶 Xとの別れシーン 終わり】
な、なんだ?この記憶は、Xが難題を探している?そらを守護者から解き放つために?
だ、だがこれじゃあまるで……。
Xは……Xは!!ハルナ姫が、命をかけてまでツバサを守ろうとした理由、俺たちにとっての究極の脅威!
なよ竹カンパニーの『輝夜』なんじゃねえのか……?
オイラが悩み始めるのとは無関係に、そらの中に優しい心が溢れ始めた。
『―――X―――』
『―――会いたい――――』
そらの中に、再びXとの思い出が溢れる!同調している、オイラの心も優しい気持ちに包まれた。
だが、オイラの想いは複雑だ。そらがどうしても会いたい親友は、オイラとツバサにとって宿敵だ。
『龍の頸の玉』の能力で、ツバサと神合癒着して、意識と肉体を乗っ取ろうとしてるんだからな。
もし、そらの心を開けたとして、一緒に『輝夜』を探そうなんて気持ちになるだろうか?
そんなことをすれば、ツバサを守るために命を賭けた、ハルナ姫の想いを踏みにじることになるんじゃねえか?
オイラは心を研ぎ澄まし、溢れてくるそらとXの思い出を感じ取った。
これは、純粋で美しいもんだ。とても裏があるようには思えない。二人は間違いなく心を許し合った親友だ。
だが、……Xが輝夜だとすると、友情のために人の命を奪おうとしてる。
けど『犠牲にさせない』って言葉も気になる。輝夜が極神霊になれなきゃ、そらが死ぬってことか?
だとしても、そらを生かすために、ツバサや他の『求婚者の生まれ変わり』の命を奪うってんなら、オイラとは相いれねえ。
そう考えている間に、そらから感じられる『優しい光』が強くなる。何だ?これは何なんだ?そらの恋愛傾向が変わったにしても、このエネルギーはTTRAWよりも強いぞ!?
―――――システムメッセージ―――――
世界に『八極愛』誕生を確認しました。
―――――システムメッセージ―――――
確認された『八極愛』は『マニア』です。
【マニア】
一人の相手に対し、究極的にのめりこむ恋愛傾向。相手のすべてを知り、相手のすべてを手に入れることを望み続ける。相手に対する『知識』が増えるほどエネルギーを増す。
八極愛の一つ。八極愛とは、人一人の愛情で全次元のエネルギーを凌駕する恋愛傾向のこと。
その情報がオイラの脳に流れ込んできた。『八極愛』?つまり、そらは『アガペー』に匹敵する究極のエネルギーを手に入れたってことか?
それはいいが、『マニア』はたった一人にすべての愛情を注ぎ込むことで、パワーアップする恋愛傾向らしいぞ。
その対象が『輝夜』なんだったら、オイラと恋愛する余地はねえわけだ。
こいつは、手詰まったかも知れねえな。
そう考えていると、そらがオイラの方を振り向いた。
「孫悟空よ、貴方に協力を要請します」
オイラが様々な状況に混乱する中、そらはオイラに協力を持ちかけてきた……!!