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いざ、運命の日へ!~ハルナ姫が死んだ日~

【 2050年 信孝22歳 ツバサ 4048歳  ラブ・キング・キャッスル Q’s(くいーんず)マウンテン Q’sルーム 】


[信孝視点]


 ついに、俺とツバサはQ’sルームに足を踏み入れた。


 そこには、東京ドームほどありそうな巨大な部屋が広がっていた。


 部屋の中にはちょっと見ただけでも、高価だとわかる調度品がそこかしこに並んでいる。


 そして、『扉』のすぐ側から赤い絨毯がひかれている。この絨毯がクイーンのところまで続いているのだろうか。


「ついにここまでいらっしゃいましたわね。全く、忌々しいことですわ」


 遠くから、クイーンの不機嫌そうな声が聞こえた。そういえば、最初からカップル嫌いだって言ってたな。


「やっぱり赤絨毯の先から、声が聞こえるみたいだ」


「他にヒントもないし、行ってみるしかないみたいだね」


 俺たちは、シャンデリアの光を受け、通り道に飾られた絵画や彫刻を横目に見ながら、赤じゅうたんの上を進んで行った。


 そして、しばらく歩き続けると、大きな椅子があり、そこにクイーンが座っていた。


 女王はこれまた豪華なドレスで、大きな椅子の上に佇んでいる。


 その身長は10mほどはあるか。とんでもなくでかい。とはいえ、この部屋は天井がどこにあるかわからないほど高いので、動くのには支障無さそうだ。


 女王は俺たちを見下ろし、一度ため息をついた。


「よくここまでいらっしゃいましたね。爆発しろバカップル」


 クイーンはまぶしい笑顔でとんでもないことを言ってきた。よっぽどカップルが嫌いらしいな。加えて、俺たちがここまでたどり着いたことで、より怒りが増しているようだ。


 呆れる俺たちを一瞥しながら、『何でわたくしがこんなやつらの面倒を』とかぶつくさ言っている。


「だいいち!わたくしはクイーンですのよ!!王様の『正室』!トップの妃ですの!!もうちょっと扱いが良くてもいいでしょう!?」


 クイーンはよくわからないことをわめきはじめた。これも試練なのか?それとも、ただ俺たちにあたっているだけだろうか。


「はあ、やはりわたくしが醜いからですわね」


 醜い?クイーンの顔はこれまで俺が見てきた女性の中でもトップクラスに美人に見えるけどな。美醜の概念が違うんだろうか。


「まあ、それは貴方がたに話しても仕方ありませんわ。それで、最終試練を受けに来たということでよろしいのですわよね?」


「あ!そうだよ!!アガペー!!どうやったら、信孝と同じ『アガペー』になれるんですか!!」


 ツバサは興奮気味に質問した。


 ツバサが『メメとミミ』に聞いたことによると、最終試練は上位恋愛傾向『アガペー』に目覚め、クイーンを倒すことらしい。


 だとすると、その方法をクイーン自身に聞くのはどうなんだろう。


「そうですわね。ツバサさんがアガペーに目覚め、貴方がた二人がわたくしを倒す方法は一つですわ」


「え?教えてくれるのか?」


 まさか自分を倒す方法を教えてくれるとは思わなかった。それも試練の条件の一つなのか?もしかすると、倒すと言っても殺すわけじゃないのかもしれない。


「ええ。教えます。そうしないと始まりませんから」


「ツバサさんが、アガペーに目覚める方法は『最も憎い相手を愛すること』ですわ。信孝さんはすでに『最も憎い』藤田さんを愛していらっしゃいますから、必要ありません」


 『最も憎い相手を愛すること』か。それは確か五次元人になる条件として、俺がやったやつだな。


 あのとき俺はもう『アガペー』とやらに目覚めてたってことか。それを今度はツバサがやるわけだ。


「僕の、『最も嫌いな相手』ってやっぱり……」


「ええ、貴方の最愛の妻、ハルナ姫を犯して殺した『孫悟空』です。ハルナ姫が殺された運命の日に飛び、そこで悟空を愛していただきますわ」


 なるほど。大体話はわかったが、一つ違和感がある。ツバサの話じゃ『メメとミミ』は最後の試練では『クイーンを倒す』と言ってたらしい。


 この条件だと、ツバサが過去に飛んで悟空を愛すればいいわけだから、クイーンを倒す必要がないみたいに聞こえる。


「『最終試練』ではあんたを倒すって話だったと思うんだが、違うのか?」


「話は最後まで聞いてくださいまし。確かに最後の試練は『最も憎い相手を愛すること』ですが、わたくしはその『邪魔』をするのですわ」


 邪魔か。つまりクイーンにやられるまえに悟空を愛さなきゃダメってことだな。


「今から、わたくし達三人で宇宙意識に存在する『その日』の記憶に入ります。そこでわたくしは、記憶の中の悟空を殺します」


「そうすると、宇宙意識すなわち『全次元』の記憶から悟空は綺麗さっぱり無くなりますわ。ハルナ姫が亡くなられた理由も、誰も思い出せなくなるでしょう」


「!!!」


 俺とツバサは驚愕した!


 記憶の中の悟空を殺されたら、全次元の悟空に関する記憶が無くなる!?


 つまり、ツバサはハルナ姫を殺されたことも、復讐のために最強の力を求めて努力していたことも、忘れてしまうのか。


 俺も忘れてしまうんじゃあ、慰めるのだって難しい。


 クイーンの話からすると、ハルナ姫が『誰かに殺された』ことや、そいつを殺すために『努力した』のは覚えていられるのかも知れないが、対象が誰か思い出させなくなるのは辛い。


 それにもう一つヤバいことがある。記憶を消されるってことは、この挑戦は多分一度しかできない。


 ソウルを一つ失った後で、もう一度挑戦しようにも『最も憎いやつ』の記憶が無くなってるんじゃ『アガペー』に目覚めようがないからな。


「つまり俺たちは、ツバサに悟空を愛させるだけでなく、そうなるまで記憶内の悟空を守らないといけないわけか」


「そう言うことですわね。よって決着は1.『悟空が死ぬ』2.『わたくしが死ぬ』3.『ツバサさんがアガペーに目覚める』のどれかになりますわ」


「ツバサか俺が死んだ場合はどうなる?」


 これまでの感じだと記憶の世界とは言え、痛みもあれば怪我もするみたいだからな。記憶の中で死んだら、そのまま死なのかどうかは重要だ。


「もちろん、そのまま終わりですわ。死人と恋をすることはできませんもの」


 やはり記憶世界での死は現実での死と同じらしい。


 つまりクイーンに殺されないようにしつつ、悟空を守ってツバサが悟空に恋をするのをサポートしなきゃいけないわけだな。


 大変だが、やるしかない。全次元とTTRAW、そして正利、藤田、そしてツバサの運命もかかってるんだからな!!


「もう一つ、聞いていい?」


「なんなりと。答えられることなら、答えさせていただきますわ」


 ツバサは、少し怯えた表情でクイーンに尋ねた。


「記憶の中でハルナが殺されたら、どうなるの?」


「どうなるの?とは、宇宙意識からハルナ姫に関する記憶が消えるかどうか?と言うことでよろしいですかしら?」


「うん、そういうことだね」


 そうか、悟空についての記憶が消えるなら、ハルナ姫についての記憶が消えてもおかしくないかも知れない。


 ツバサにとってハルナ姫は、人生の全てだからな。今は俺がいるとは言え、ハルナ姫に関する記憶が消えたりしたら抜け殻になりかねない。


「もちろんハルナ姫に関する記憶も消えますわ」


「それに、加えて言えば、あなた方が殺された場合も、現実世界の方々が、あなた方に関する記憶を失いますわ。」


「なるほどね」


 ツバサは苦痛に耐えた表情で俯く。


 忘れるのも辛いが、忘れられるのも辛いな。


 俺たちが死ねば、正利や藤田も俺に関する記憶を無くなるわけだ。


 ああ。より、死ぬわけにいかなくなったな。


「まあ、どんなに条件が厳しかろうがやるしかないんだ。さっさと始めようぜ」


「そ、そうだね!やるしかない。アガペーに目覚めるんだ!太上老君の洗脳から目覚め、全次元を救わないと!!」


 俺たちの準備は整った。後は、記憶の世界に送ってもらうだけだ。


「あなた方の『挑戦の意思』を確認しました。それでは、あの日の記憶を呼び出します……」


クイーンがそう言うと、体に妙な浮遊感がかかった。


そして目眩が起こったみたいに周囲がグラグラし始めた。


くるくるくるくるくる回って……


そして、突然目の焦点があった!


【???年 ツバサとハルナ姫の宮殿】


「ここは!僕とハルナが暮らしていた……!!」


ツバサは驚きと喜びが入り混じった表情で周囲を見回した。


ここが天界で二人が暮らしてた宮殿なんだな。そして、今ここでハルナ姫が犯され殺される。


あるいはその事件が起こった直後なのか?


 そう考えていると、目の前に倒れたハルナ姫と、それを抱きかかえる悟空がいることに気づいた。どうやら、事件は起こった後らしい。


 それを見たツバサが錯乱して、ハルナ姫の元にかけよろうとする。


「ハ!ハルナ!!ハルナァ!!!」


 そんなツバサを見て、悟空が叫んだ!


「待て!近寄るな!!お前が近づいたんじゃ、こいつの思いが無駄になる!!」


 そう言われて、ツバサは激昂し悟空に掴みかかった。


「何がハルナの思いだ!!君がハルナの何をわかってるっていうんだよ!!」


 俺は暴走するツバサを止めようとする。何せここは記憶の世界で、悟空を攻めてもしょうがない上に、今からツバサは悟空を愛さなきゃいけないんだ。


 仲間割れしてる場合じゃないだろう。


「お、おい。ツバサ、とりあえず話を聞いてみようぜ。悟空にも事情がありそうだ」


 俺がそう言うと、ツバサは今度は俺に向かって叫んできた。


「女の子を犯して殺すのに、どんな理由があるって言うの!!」


 そりゃあそうだ。どんな理由があろうとも許されることじゃない。……のだが、それは大前提であって、とにかく悟空の話を聞いてみないと愛するきっかけが掴めない。


 いや、これは俺が『アガペー』だから、そう思うのか。相手が誰だろうと愛する姿勢を見せるってのは簡単なことじゃないんだ。


「貴方がた、そんな余裕を見せていてよいのですか?」


 クイーン!一緒に来てたのか。ってそりゃ、そうか。そもそも、こいつが俺たちをここに連れてきたんだ。


 俺がそう考えていると、クイーンは両手を天に掲げた。


「これから、わたくしは貴方がたのソウルを『コピー』します」


 そう言うと、クイーンの胸の辺りに何かが光るとともに、手のひらの上に炎のようなものが出てきた。


「わたくしにはソウルが3つあります。わたくしそのものであるメインのソウル以外に、あらゆる魂をコピーできる偽装のソウル()ソウルがあるのです」


 クイーンの手に乗った二つの『偽ソウル』が光り輝く。そして、それは俺とツバサの顔を映し出した。


「これでコピーは完了です。そして……」


『偽ソウル『ツバサ』命令です!悟空を愛しないさい!!』


 クイーンの言葉に応じて、ツバサの顔になった偽ソウルが輝き始める。


「これで二つのソウルは恋愛傾向が『アガペー』になりました。すなわち……」


 クイーンが二つの偽ソウルを体内に取り込んだ!!


 クイーンの体が強烈に白く輝いた!


「そう、これがパーフェクト・ハーモニーパワーですわ。貴方がたは、悟空を愛しこの力を身につけなければ、わたくしとは戦えませんわよ」


 パーフェクト・ハーモニーパワー!?この『Q’sマウンテン』で学んできたハーモニーパワーの最終形態か。


 そして、ツバサが『アガペー』に目覚めないと、使えないパワーでもある。


「ツ、ツバサ。まずいぞ、このままじゃ。何とか、少しでも悟空と会話を……」


「わかってるよ!でも無理なんだ。悟空だけならともかく、今ここにハルナの遺体があるのに冷静になんてなれない!」


 そう言っている間にも、女王の周囲に様々なトラップが展開された。ツバサのソウルをコピーしたから、トラップ技なのか。


「アガペーになる前の信孝さんの恋愛傾向は『共闘』でした。そしてツバサさんの恋愛傾向は相手が自分の罠を突破するまで守り続ける『専守防衛』!この二つから生み出された必殺技は……!!」


【高め合う究極罠アルティメット・トラップ

 究極の罠二つが、お互いを罠にかけより強力になっていく最強の罠。

 それらの罠は周囲のあらゆる者を餌食にする。


「ツ、ツバサ!とりあえず、クイーンの攻撃に対応しないといけない!力を合わせよう」


「う、うん。わかった。悟空をまもるのはシャクだけど、やられちゃったら皆、終わりだもんね」


 今の俺たちが出せる、最高のツープラトンを出すしかない。


 思え!ツバサのことを!!今のツバサ、過去のツバサを思い出して、俺の愛をツバサに乗せて……!!


 俺のエネルギーがツバサに流れ込む、ツバサのエネルギーが俺に流れ込む。


 それらが一つになると、俺たちの口に一つの言葉が生まれた。


【孤独な究極罠アルティメット・トラップ

 最高にして究極の罠。最高であるが故にこれ以上強くはならない。

 周囲のあらゆる者を餌食にする。


 俺たちの回りにトラップが展開される!だが、これは……!


「まずい!向こうの下位互換じゃ勝てない!!」


 俺がそう叫んだ瞬間、俺たちが生み出したトラップが次々とクイーンのトラップに取り込まれ、破壊されていく。


 さらに、クイーンのトラップが俺たちに向かって襲ってきた。


 宝箱型のトラップモンスターが俺の肩口に噛みつく!まずい、このまま肩を食い破られたら、下手すりゃ出血多量で死ぬぞ。


 考えろ、どうすればいい。どうすればクイーンを倒せる……いや、違う。俺は『アガペー』だ。考えるべきは、クイーンを愛する方法……!


 そう考えていると、俺の頭の中に一つの言葉が浮かんだ。


『やはりわたくしが醜いからですわね』


 今のクイーンは、俺とツバサが中途半端にまじりあったような姿になっている。つまり偽ソウルでコピーする人物を変えると、姿が変わるんだ。


 つまり俺たちが今まで見ていた、ものすごい美人のクイーンは、あくまで美人のソウルをコピーしたせいでそうなっていただけ。


 本当のクイーンの姿は醜いってことか!


 だったら、それに関するトラウマをサイコダイブで……


「シャラアアアッッップ!!!!」


 クイーンが叫んだせいで、俺は思考を中断させられた。


「あなた如きがわたくしのことを理解しようだなんて」


「絶対に許しませんわ!!」


 クイーンがそう言うと、ネバネバしたスライムのようなトラップが俺の体を覆う。


「な、なんだこれ?」


「それに覆われている限り、あなたは他人の精神に干渉できませんわ。わたくしはもちろん、ツバサさんや悟空にもですわよ」


 そ、それはまずい。相手の心を理解して、愛するのは俺の戦闘スタイルだ。


 それをまるきり封じられたら、戦いようがないじゃないか!!


 俺はこの『Q’sマウンテン』の戦いの中で、最大のピンチを迎えていた。

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