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『変化する』恋愛傾向

【 2006年 望月たかし 17歳  藤田浩正 32歳 ヨンリオショップ】

 

 信孝の告白を受けて藤田は、喜び・感動、動揺、混乱と色々な感情が大渋滞を起こして、なんとも言えない表情になってる。


 口元はだらしなく歪んでいて、目からは涙が溢れ、全身から汗が流れ、体はぷるぷると震えている。いつもの冷静な感じからは想像できないね。


 藤田は、狼狽したままどうにか口を開いた。


「そ、そうか話はわかった」


 そう言ったきり、藤田は顔を俯けたまま黙り込んでしまった。


 それを見た信孝は、ゆっくりと藤田が言葉を発するのを待ってる。


 答えを待ってる、というよりは藤田の混乱が収まるのを待ってるんだね。


 しばらくすると、藤田は信孝の方を見つめ、やっと話し始めた。


「わ、私はなんという幸せ者だ。お前にここまで言ってもらえるとは。こうして、お前と愛しあえるとは!」


「私は、この感謝をどうやって表したらいい!どうすればお前を喜ばせられるんだ!?」


 そう言う藤田に対して、信孝は頭を撫でながら優しく答えた。


「お前はそんなこと考えなくていいんだ。俺はお前がいるだけで、すごく幸せなんだからな」


 藤田は一瞬、固まった後 顔を真っ赤にして背けてしまう。


 それを見た信孝は愛おしそうに藤田を見つめて、その場に跪いた。


 そして、藤田の手を取り手の甲にキスをした。


「これからもよろしく。僕のお姫様」


 藤田はプルプルと震えながら、自分の手を見つめる。そしてやっとのことで言葉を発した。


「俺は男だ。姫ではない」


「男が姫だっていいじゃない」


 藤田はその言葉が意外だったのか、また俯いて黙り込んでしまう。


 でもしばらくすると、また信孝の方に向き直った。


「……ありがとう。これからもよろしくな」


 その言葉とともに、周りの風景が一転した。


「これで、『嘘』はお終い」


「いよいよ解答の時間」


「「松平信孝の『恋愛傾向』は何?」」


 そう言われて、僕は考え始めた。


 この『藤田』との恋愛は、多分『嘘』が多い。信孝の性格を少しでも知ってれば、あんなホストみたいな台詞を言うわけないのはわかる。


 僕だってエリア1をクリアする程度には信孝と仲良くなったんだからね。


 でもだとすると、メメとミミはどうしてこんな見え見えの嘘を見せたのかな?何か意味があるはずだよね。きっと、この『嘘』にも信孝の恋愛傾向を読み解くヒントが!


 そうだなあ。この『Q’sマウンテン』や神界で、実際に見た情報から考えて、信孝の『恋愛傾向』は例え『強さ』や『共闘』じゃなかったとしても、自分が強くあり、相手にも強さを求める恋愛傾向なのは間違いないよね。


 そこで、僕はこの世界に飛ぶ前に信孝が言った言葉を思い出した。


『藤田に恋をしたのは『強がりなのに、甘えるのが大好き』な性格が気に入ったから!!』


 これは現実世界で信孝が言った台詞なんだから、間違いなく真実のはず。


 つまり、藤田の恋愛傾向が『甘える』や『依存』なのは、本当ってことだよね。


 でも、それって『相手にも強さを求める』恋愛傾向と決定的に相性が悪いんじゃないかな?


 だって、信孝の恋愛傾向が『共闘』に近いものなら、は『自分が強くなりたくて』、相手にも強くなって欲しいはずだ。


 だけど、『依存』は『自分はできるだけ弱いまま』で、相手には全て任せられるくらい強くなって欲しいんだ。


 『依存』の人は『共闘』が自分を強くしようとしてくることに反発するはずだよ。


 でも、実際に現実世界で信孝と藤田はラブラブなんだよね。一体どうして……?


 正利は『共闘』と高め合うことができるような恋愛傾向なんだよね。一方で藤田は、弱いまま相手に頼りたい『依存』。


 この二人と同時にラブラブになれるって、どんな恋愛傾向!?


 そこで僕は一つの可能性に気づいた。もしかして複数の恋愛傾向がある人もいるんじゃないかな?


「ねえ、メメ、ミミ。信孝の恋愛傾向は一つなんだよね?複数あるわけじゃないんだよね?」


 もしかしたら出題者側のメメとミミには答えられないかも知れないけど、聞いてみる価値はありそうだ。


「答えは」


「一つ」


「信孝の恋愛傾向は」


「一つに定義できるよ」


「そっか」


 それを聞いた僕は『ふむ』と呟いて、また考え始めた。


 信孝の恋愛傾向は一つ。でも正利と藤田じゃ恋愛傾向がかけ離れてるのに、二人と同時に恋してる。


 まるで『人が変わった』みたいに……。


 変わった?恋愛傾向が突然変わることなんてあるかな?


 恋愛傾向って、子供の頃から人生を通した経験によって培われるものでしょ?


 もし変える必要があったとしても、そう簡単に変えられるもんじゃないはずだよ。少なくとも多大な時間がかかるはず。


 でも今の話を見た限り、信孝と藤田は出会って数時間ほどで恋に落ちてるよね?


 たったの数時間で、恋愛傾向を変える方法があるんだとしたら、それってもう『洗脳に近い』んじゃないかな?


 洗脳か。確か信孝はアンドロイドとして、本物の信孝に作られたって言ってたっけ。だとしたら脳に『恋愛傾向』を変えるためのチップが入ってる可能性が……!


 や、待て待て。今はそれが『何なのか』を考えなくちゃ。


 『答えは一つ』つまり、相手に応じてポンポン変わっちゃう恋愛傾向があるとしても、それは一つの名前で呼べるものだってことだよね。


 それは八方美人?それとも、人たらし?


 いやでも思い出してみよう。信孝は僕や正利や藤田の他にも、インフィニティのインを始めとして……。


 神界だと太陽神のラーとか、盗賊たち。あとスライム達とか…。


 相手の種族なんて関係なく、誰でも彼でも相手の恋愛傾向に合わせることで相手に愛されている。


 そうだ。ピンチになると、相手の過去のエピソードを聞いて、その人を愛することで常に覚醒してきた。


 つまり桁違いの相手に恋愛傾向を合わせてきた。八方美人や人たらしなんてもんじゃないよね。


 だったら何か、と言われるとピンと来ない。


 『変わる』恋愛傾向だとはわかっても、もし知らない言葉だったりしたら思いつけないよ。


「ね、ねえ。メメ、ミミ、信孝の恋愛傾向は……えっと、僕の知ってる言葉かな?」


「それは」


「内緒」


「ああ、そうだよね。言えないよね」


 さすがにこれは教えてくれないらしい。


「でも一つ」


「ヒント」


「「この言葉は『挑戦者』なら誰でも知ってる言葉」」


「挑戦者なら誰でも知ってる?」


 何でそんなことまで教えてくれるんだろう。


 いや、それよりも『挑戦者なら誰でも知ってる』って方だ。


 この『Q’sマウンテン』に来る人は様々だと思う。『強く恋人を欲している人』が来るんだとしても、性格や性別・肩書は様々のはず。


 だから、挑戦者が『誰でも知ってる』言葉なんて、そう沢山はないよね。


 僕は考える『相手に合わせて変わる』『挑戦者が誰でも知ってる』言葉を想像する。


 僕達は『恋愛シミュレーション空間』に飛ばされて、王様の説明を聞いて、組み合わせを決められた後、自分達で選んで『Q’sマウンテン』に来た。


 皆が共通で知ってる言葉って言うと王様の説明か、その後……。


 そこまで考えて、僕の脳に電撃が走った!!


 アトラクション・スカイジャンプ 難易度:アガペー

 アトラクション・天使の懐 難易度:アガペー

 アトラクション・天啓の神殿 難易度:アガペー


 そうだ!難易度!!アトラクションの難易度に『アガペー』があった!!アガペーなら、確かに『相手に合わせて変わる』恋愛傾向の名前として相応しい。


 あらゆる人間を愛する『神の愛』だもんね。


 アトラクションの最初に答えが書いてあるなんて、きっと偶然じゃないはずだ!


「決まったよ!僕の答えは」


「『アガペー』だ!!」


「お姉さんの選んだ アガペーは」


「正解」


「ホント!?」


「そもそも、このQ’sマウンテンは参加者の恋愛傾向を」


「普通の恋愛傾向より上位の『アガペー』に高めることが目的」


「「最初からアガペーの参加者が来るのは想定外」」


 どうやら、信孝はすでに合格条件を満たしてるのにアトラクションに参加しちゃったみたいだ。


 このエリア2で僕だけで問題を解かなくちゃいけなかった理由もそこにあるのかも知れない。


「じゃあ、クイーンを倒すには僕もアガペーにならなくちゃいけないんだね」


「そう」


「クイーンは強い」


「アガペーが二人そろって」


「初めて勝てる」


「「だから、頑張って」」


 僕は、メメミミの励ましに感動した。二人はクイーンの部下だろうに、少しでも僕を応援してくれるなんて!


「うん、頑張るよ。信孝を見習って、僕もアガペーになる!」


「それじゃあ」


「戻るよ」


 二人がそういうと周りの景色が変わり始め、最初いたエリア2のボス部屋に戻った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

【 2050年 信孝22歳 ツバサ 4048歳  ラブ・キング・キャッスル Q’sマウンテン エリア2 目々耳々の虚実宮めめみみのきょじつきゅう 】


 戻ると、目の前に信孝がいて、興奮した様子で話しかけてきた。


「おお!!ツバサ!無事だったか!」


「う、うん。なんとかね」


 僕は思わず目を背けた。


 何故なら、気づいてしまったからだ。僕の恋愛傾向と『アガペー』はものすごく相性がいいことに。


 だって僕の恋愛傾向は、『あらゆるトラップを仕掛け』て『それでも突破される』ことを喜ぶものだ。


 そして『アガペー』は、あらゆる男女を恋に落とし、信孝自身も恋に落ちる。


 だから、僕がどんなに努力しようと、信孝の彼氏や彼女はどんどん増えていく。


 僕は、僕の恋愛傾向は、『死ぬ気で努力した結果、望まない結果になることを喜ぶ』。


 そういう恋愛傾向だから。


 もちろん、僕だって好きな人に彼氏や彼女ができるのは嫌だ。


 怒りと憎悪で心が病んで、相手が狂って死ぬまでトラップにかけ続けたくなる。


 けど、本当は心の底では僕は


 『突破されたい』んだぁ。


 努力して、考えて相手を完璧にトラップにハメたと思った時に、突破されたい。


 勝利の笑みを見せて蔑んでほしい。


 そのためには、『アガペー』は最高だ。


 だって信孝の恋愛傾向が、相手にとって最高のものになるなら、信孝に惚れる人が増えるのを僕は絶対に止められない。


 そう、僕が命懸けで最善の努力をしても僕の心は叩きのめされる。


 最高じゃないか!それは!


 だから、僕の信孝に対する恋心は考えられる中で最高まで高まってしまった。そんな相手の顔は恥ずかしくて直視できない。


 そんな僕の悩みも知らず、信孝は普通に話しかけてくる。


「それで、どうだった?俺の過去を知り、問題に答えられたのか?」


「あ、ああ。それは上手くいったよ。メメとミミも合格だって言ってくれたから」


 赤くなって俯く僕を見て、信孝は心配そうに見つめてきた。


「お、おいホントに大丈夫なのか?中で何か酷い目にあったんじゃ?」


 そう言って、信孝は僕の動きを観察する。


 そして突然、目を見開いた。


「そうか!『分かる』ぞ!!俺の過去を知り『理解した』ことが行動に反映されているんだ」


 信孝の過去を理解したことが、行動に反映されてる?それは、好きすぎて顔が見られないのが見破られてるってことかな?


「つまり、ツバサが俺の過去を知ったことで、お互いの『愛』が一瞬にして爆発的に膨れ上がったんだよ。それが余りに突然だったせいで、ツバサの体がついていってないんだ」


 そう言って、信孝は僕の肩を抱き、顔を覗き込んで優しく言った。


「でも、だったら大丈夫だ。落ち着いて、俺の目を見つめてくれ」


 そう言われても、体は熱くなって胸はドキドキして、とても目を見られない。


「ツバサはもう俺のことならなんでも知ってるんだから、今更照れることもないはずだろ?俺たちは一歩進んだ。少し落ち着けば大丈夫のはずだ」


 確かに過去を見たことで信孝のことなら、何でもわかるようになった。恐れることは何もないだろうけど、照れ臭いのは確かだ。


 それでも、相手のことが解っているのは大きい。


 僕はどうにか信孝の顔を見つめた。深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。


「うん。もう大丈夫だよ。ありがとう」


 信孝と見つめ合っていると、照れたり興奮するよりも心が落ち着いてきた。なるほど、全てを分かりあってるから、恐れることも緊張することも照れることも必要ないんだね。


「それなら良かった」


 信孝がそう言うのと同時に、メメとミミが僕の袖を引っ張り、話しかけてきた。


「じゃあ」


「試練はお終い」


「私たちは」


「消える」


 消えると聞いて、僕はビックリした。少なくともエリア1のボスは消滅してしまった。メメとミミもあんな風に消えちゃうのかな。


「え?消える?消えるって、まさか死んじゃうの?」


「違う」


「死なない」


「次の挑戦者が現れるまで、休眠するだけ」


 それを聞いて安心した。メメとミミみたいに可愛い子達が消えて無くなったら、とても悲しい。それにわずかとはいえ僕にとっては、一緒に旅して来た仲間だ。


「良かった!一緒に旅した子たちが死んだら悲しいもんね!」


「ありがとう」


「お姉さん」


「この先も頑張って!」


 そう言うと二人の姿が消えていき、二人のいた場所に鍵が一つ残された。


 エリア2に入ったときの鍵と比べると、ひと回り大きい。それに中央にQの刻印が入っている。


 これが、クイーンズ・ルームに入る鍵らしい。


「ついに来たな」


「うん、来たね。クイーンだ」


 僕と信孝は、ボス部屋の奥にある大きな扉を見つめる。


「大丈夫なはずだ。俺たち二人の愛は、ここエリア2でも、高まった。必ずクイーンも倒せるさ」


 信孝の言う通りだ。『お互いを知り』僕たちの愛は高まった。相手がクイーンだろうと、絶対に負けない!


「うん、そうだね。必ず、僕も成長して信孝と一緒にクイーンを倒すよ!」


 そうだ。クイーンを倒すため、僕も成長しないといけない。信孝と同じ上位恋愛傾向『アガペー』に。


 でも、どうやったらなれるのかな?


 そう考えながら、僕達は女王の部屋(クイーンズ・ルーム)への扉を開いた。

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