嘘を見抜け!~信孝と正利の恋~
【 1536年 信孝22歳 ツバサ 4048歳 美濃国 川島 川並衆 集落 】
気がつくと、僕は周囲が葦で覆われた、小規模な集落にいた。
ここが信孝の過去なのかな?
「そう」
「ここはお兄さんが夫と最初に出会った場所」
「「川島」」
やっぱりそうなんだ。ってことは、これから信孝と正利が仲良くなっていったシーンをダイジェストで見て、僕はそこから信孝の夢や生き様っていうのを導き出せばいいんだね。
僕がそう考えると、場面が変わった。少し広い部屋の奥に正利が座ってる。
で、ゴツい男の人に連れられて信孝が部屋に入って来た。
「ようこそ、我らの村へ。信孝殿。さっそくですが、そちらの要求を聞かせていただけますか?」
そう言って、信孝と正利は自己紹介をした。
正利は、この辺りの川が川並衆の縄張りで彼らの水運を邪魔する人たちを倒してるみたいな話をした。
で、、信孝はすごい作戦で1日で城を建てるっていいだした。
でも、正利は先祖から、この辺の領主の仲間だから協力できないみたい。
それが正利の生き様、矜持なんだね。
そっか。ここに来る前に信孝が言ってた筋ってやつだ。その考え方に信孝が惚れたんだったら、ここからの会話に信孝の夢や生き様のヒントがあるんじゃないかな?
そう思っていると、正利が部下の男たちに信孝を襲わせた。信孝は、超人的な動きで百人ほどの男たちをぶちのめした。
信孝は筋肉の制御を開放できるんだっけ?それにしたって魔法も使わずに百人の相手を倒すのはすごい。
それに、このときこの程度の強さだったのに、今は全次元よりも強いなんて、信じがたいよね。
いくつか会話をかわした後、信孝と正利は立ち上がって向き合った。百人を倒した信孝の腕を認めて、正利が対戦したいっていいだしたみたいだ。
すごい……!
正利は魔法も神術も使えないはずなのに、拳に人間一人のエネルギーではあり得ないくらい高濃度のエネルギーが溜まってる。
あれは、この宇宙のエネルギーじゃない。どっか、他の宇宙からエネルギーを取り出してるんだ。
一方で信孝は、自然体で立っている。あれは、前に言ってた『脳の高度計算機能を開放する』ってやつだね。
つまり、どんな攻撃が来ようと、その軌道を読んでカウンターに持ち込めるんだ。
僕が二人の挙動に見入っていると、メメとミミが突然話し始めた。
「じゃあ」
「ここで『嘘』が入るよ」
「「どんな嘘か見極めて」」
「ええっ!結構、いいところなのにここで嘘!?」
でも、嘘の出る場所は教えてくれるんだ。だったら対処のしようがあるかもだね。
「目 目 目」
「耳 耳 耳」
メメとミミがそう唱えたと同時に、正利が信孝に殴り掛かった!
そして二人が接触した瞬間……!!正利を更生する原子がバラバラになり始めた!!
あれが、信孝の技なの!?僕みたいに遺伝子のことを知ってるならともかく、脳の高度計算機能ってやつで瞬時に計算して攻撃するなんて……すごい!
その攻撃を受けた正利は『全ての原子が発光を始めて』『空中に巨大な手が』現れた。
【超握力】
液体でも気体でもこの世に存在するあらゆるものを握りつぶし、魔力に変えることができる
その手が、『信孝の体を握りつぶし』『信孝の体が魔力に変わっていく』
これ、信孝ホントに平気なんだよね?
そう思っていると、残った信孝の破片が強く発光した!!周囲の魔力を、どんどん肉体に変換してる。これは、『脳の高度計算機能』ってやつが無意識に身体を保護しようとしてるんだね。
体を再生した信孝は、その場にそのまま倒れた。正利は、今起きたことが理解できなくて、しばらくぼーっとしてた。
そして『これは私がやったのか』と呟いた後、『この方を死なせてはなりません』と言って自分の持ってるエネルギーを信孝に供給した。
そして、数時間後 信孝は何とか回復した。
信孝は自分を殺せたのに助けてくれた正利に対して『慈しむ』心を感じて、信頼するようになった。
正利の方は、普段の自分より強いのはもちろん、パワーアップした自分の攻撃を受けても生きている信孝の強さに『男気』を感じて惚れ込んだ。
つまり、このシーンでは信孝は正利の優しさに惚れたってこと?
でも、信孝は『筋を通す』ってやり方に惚れたって言ってたよね。だとすると、それが今のシーンの『嘘』ってこと?
でも、だとしたら今の戦いのどこが嘘だったのか、どういう流れで『筋』に惚れることになったのか、今の時点じゃ全然わかんないよ。
「それじゃあ」
「次のシーン」
「目 目 目」
「耳 耳 耳」
二人の言葉で、また景色が変わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【陸奥国 伊達郡 桑折空港・発着場】
僕達は近代的な見た目の空港にいた。信孝がジェット機みたいなのから降りてきたところを、ガーゴイルが取り囲んだ。
このガーゴイルは、当時の僕が現地人を遺伝子改造して作り出した空港守備隊だね。
ガーゴイルたちは、明らかに仲間ではない信孝たちに対して『他の宇宙のエネルギー』を弾にして放った!信孝は弾の核となる部分を、刀で斬って爆発させていく!
弾の核を見切れるのもすごいけど、自分や仲間を爆風に巻き込まないように、調整してるのがすごいね。川並衆での話が本当なら、正利はともかく信孝はまだ魔法や神術が使えないはずなのに。
信孝だけじゃさばききれず、正利がパンチで弾を爆発させていく。やっぱり『他の宇宙のエネルギー』を拳に込めてるみたい。
でも、僕はちょっと違和感を覚えた。
さっきの『超握力』を使えば、こんなやつら倒せそうじゃない?
そう思っていると、信孝が動きを加速させてガーゴイル達を気絶させていく。正利もパンチでガーゴイルを吹っ飛ばす。
慌てて、上司に報告しようとするガーゴイル達だけど……。
『報告は必要ない』
そう言って現れたのは、二足歩行だけど、頭部は鷲で全身が羽毛に覆われている鳥人間だ。
そして何より全身から炎が噴き出し、黄金色に輝いている。あれは確か、空港守備隊長のガルーダだね。
ガルーダは、ガーゴイルたちを叱りつけると、炎を燃え上がらせてガーゴイルたちを焼き殺した。
うーん、まあ陸奥に『遺伝子未改造の人間』を入れたら厳罰だって僕が命令してたからね。
そして、信孝は何を思ったのか、ガルーダに仲間になるように言った。勝てる確信があったってことかな?
正利が『超握力』を使えば勝てるだろうけど、この時点の信孝じゃちょっと厳しいと思う。
だって、ガルーダの必殺技は……。
僕がそう思った瞬間、またメメとミミが話し始めた。
「ここで『嘘』が入るよ」
「「どんな嘘か見極めて」」
ここで?ってことはガルーダの『小太陽』を二人がかわした方法が『嘘』になってるんだね。
「「それは内緒」」
そう言ってから二人は、いつもの呪文を唱え始めた。
「目 目 目」
「耳 耳 耳」
二人がそう言うと同時に、ガルーダが手を天にかかげ『小太陽』と呟いた。
すると、ガルーダの頭上に、直径百メートルほどもある巨大な炎の球が現れ、周囲の建物が燃え上がり溶け始めた。
危険を感じた信孝は超スピードで、『小太陽』から離れようとするけど、ガルーダは『逃がすか』と言って、小太陽から超高熱の火炎弾を飛ばした!
そこで、正利が信孝を庇おうとして、火炎弾と信孝の間に入った。
【護り手】
正利の周囲に大きな『手』を出して、あらゆる攻撃から正利と仲間を守る。
正利は『超握力』の応用で、自分たちの回りに巨大な『手』を出してガードした。
信孝は正利に寄り添い、心配している。正利は『大丈夫ですよ』といい、自分の手で信孝の頭を撫でた。
それと同時に、信孝の周囲に『小さな穴』が現れた。信孝はその『穴』から『他宇宙のエネルギー』を取り出して、ナノ単位の小さなエネルギー弾を作ったみたい。
信孝は『俺も正利の愛に答えるんだ』と言って、その極小エネルギー弾を周囲のあらゆるものにひっつけた。
そして、その極小エネルギー弾があらゆる物質の『原子の振動』を阻害することで、急速に周囲の温度が下がっていった。
周囲は凍り付き、ガルーダも凍り付いた。勝負は決まったね。
正利は『手』を消して『我らの愛の前には、このような者共は相手になりませんでしたね』と言った。
それに対して信孝は『お前が愛を与えてくれたおかげで、やつらを倒す力を手に入れることができた。ありがとう』と返した。
このシーンでも、正利の『慈しむ』心が信孝の真実の愛を目覚めさせ、他宇宙のエネルギーを使う技術を覚醒させたんだね。
ここまでの話を見てると、信孝の恋愛傾向は正利の愛情をひたすら受けて、それによってパワーアップしていくって感じかな?
つまり、相手への依存性が高いけど、愛されることで相手のために力を発揮する……いうなら『献身』みたいな感じに見える。
でも、これって多分メメとミミの誘導だよね。『嘘』に誘導されて、そう感じてる可能性が高いんだと思う。
じゃあ、ホントは何があったんだろう。『嘘』を挟むって宣言されたシーンはバトルシーンばっかりだ。
つまり勝った方法とかがホントとは違うってことだよね。
二人の愛情が深まったことには変わりないんだろうけど、僕が見せられてるような理由じゃないってことだ。
「次は」
「いよいよ」
「「プロポーズ!」」
楽しそうに言う二人に釣られて、僕もわくわくしてきた。やっぱり人の恋愛を見るのは楽しい。
けど、そこまで言って二人の顔が青くなる。
「……」
「……」
「「重大なバグが発覚した」」
「え、どうしたの?」
僕は完全にわけがわからず、二人に聞き返した。後から思えば、よく考えたらわかったことなのに。
「お姉さん」
「二人のプロポーズの現場に」
「「居合わせたよね?」」
「あ!」
そういえばそうだ。僕はあの時、伊達稙宗と名乗って『ブラックホール』に神界を滅ぼさせようとしていた。
神界が滅びれば、『神力球』が残るからね。僕はそれを吸収して悟空に匹敵する強さを手に入れようとしてたんだ。
「これは前例のない事態」
「待ってて、クイーンに聞いてくる」
そう言うと、突然二人の耳と目が光り始めた。
そして何かぶつぶつ言ってる。能力でクイーンと通信してるのかな?
「「話はついた」」
「この『試練』の目的は、お互いを理解すること」
「初めから理解しているのはズルじゃない」
「「よって」」
「これまでと同じように嘘を見せる」
「クイーンの許可はとった」
「これまでの嘘を見抜くヒントになるから」
「よーく見ててね」
ホント!?それだったら、この試練を読み解く足掛かりになるよ!クイーンありがとう!!
二人がそう言うと、景色が変わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【神界 地球 北極 邪神の神殿】
「愛の獄炎だ!!」
新たな記憶についた瞬間、信孝がそう叫んだ。うん、このセリフには確かに聞き覚えがある。
周囲の人間が呆気に取られてる。信孝の前には、この時間の僕が男装した『伊達稙宗』がいて、やはり信孝の言葉に反応できずにいた。
そう。信孝の愛の獄炎は信孝が『正利にプロポーズ』をして、それで中継を見ている
『神界の人々がときめいた分』だけ温度が上がる炎なんだよね。
だから、今から信孝は正利にプロポーズする。そのシーンが信孝の恋愛傾向を見るための最大のヒントってことだ。
そして、僕の知ってる記憶と、ここでメメとミミに見せられる記憶の違いがこの試練を読み解くヒントになる。
そう言っている間に、僕の見覚えのあるシーンがどんどん進んで行く。『愛の獄炎』の説明をした信孝と、神界中の人々を煽る司会の『カメ子』。
フォルティアとティティスが『神界では、男同士でも子供ができる』と伝える。
信孝は、これまでの戦いを回想してついにプロポーズの言葉を決めた!!
そして、予想はしてたけど、ここでメメとミミが話しかけてきた。
「ここで『嘘』が入るよ」
「「どんな嘘か見極めて」」
「うん!ちゃんと見極めるよ!それができれば、きっと信孝の『夢や生き様』がわかるから!!」
「目 目 目」
「耳 耳 耳」
そして信孝の中でプロポーズの言葉が決まったようで、身を乗り出して言葉を紡ぎ始めた。
「正利、俺は……」