互いを分かりあう~ツバサの恋と俺の恋~
【 2050年 信孝22歳 ツバサ 4048歳 ラブ・キング・キャッスル Q’sマウンテン エリア2 盲聾の森 】
「僕、はハルナと……人生を歩んで、きた。僕を……知る、には、ハルナとのこと……を話さなきゃ、いけない」
そう言って、ツバサが語り始めたのは、ハルナ姫との出会いだ。二人はお城の庭で偶然出会った。ツバサは魔法師団長の娘だったから、父親が王宮に連れてきていたんだ。
ツバサは生来のいたずら好きだ。王宮に来た嬉しさで、王宮内にいくつもトラップを作った。それにハルナ姫がひっかかったわけだ。
まんまとひっかかったハルナ姫を見て、ツバサは大笑いした。それに対して、ハルナ姫は『何がおかしいのや』と叫んで、自分の発明品でツバサを攻撃し、ツバサもボロボロになった。
それで、罠と発明品の応酬となり、大喧嘩したけどお互い限界まで戦いあった後は、手を繋いで二人で大笑いし、大の仲良しになった。
それからは、いつも二人一緒だった。ハルナ姫の発明品の実験に『人をトラップに賭ける』のが丁度いいと言うことで利害が一致したのと、何よりウマがあったんだ。
そこからしばらくして、例のネクロマンサーに襲われて、ハルナ姫が奇跡的に撃退した話。
そして、ツバサは混沌幻獣・夢幻リヴァイアサンを倒した功績で、新しい魔法師団長に任命される。
これをきっかけに二人の結婚に王様の許可が下りた。ツバサは、二人が初めて出会ったお城の庭にハルナ姫を呼び出した。
ハルナ姫は、ツバサが庭に仕掛けた数々のトラップを、最新の発明品で潜り抜け、ついにツバサの元へ辿り着く。
『どうなのや?ハルナの発明品の方が上なのや』と喜ぶハルナ姫と、トラップを突破されたのに嬉しそうなツバサ。二人の思いが通じ合う。
「あらゆるトラップを尽くしても僕が君を守る」
「あらゆる発明品を使って、ツバサの敵はハルナが倒す」
二人がお互いにプロポーズをして、二人は結婚した。
そして『天界』で結婚後の幸せな生活。その中でハルナ姫が犯され、殺されて悟空を殺すため、強さを求め続けた日々……。
そこまで聞いて俺は、二人の愛が壮大過ぎて感動すると共に、この状況を抜け出す一つのヒントに気づいた。
そうだ。ツバサは、『守りの姿勢』で相手をおびき出し『トラップに嵌める』という戦闘スタイルだ。逆にハルナ姫は、『発明品を武器』に『攻めの姿勢』で相手を倒しに行くスタイルだ。
ツバサは『守る』そして、得意技は『トラップ』この二つがわかっただけでも、ツバサの動きをおおよそ予測できる。
だがそれより重要なのは、ツバサの愛の傾向だ。このエリア2の目標は、お互いを分かりあうことで『ハーモニーパワーを高める』ことらしいからな。
ツバサの愛を理解することこそ、今やるべきことのはずだ。
つまり、ハルナ姫との付き合い方、プロポーズの言葉からして、大切な人を守りたいという気持ちを強く持っているのはわかる。これはこれまでもある程度わかっていたことだ。
だが、これに加えてトラップだ。ハルナ姫と付き合う中で、いつもまずトラップにかける。突破してきて初めて、デートなりプロポーズなりに話が進む、この部分だ。
つまりツバサは、相手をトラップやいたずらにかけて、精神的優位に立ってから恋愛関係を進めたいという方針を無意識に持っているということだ。
そして、プロポーズのときにはそれが全く通じなかったにも関わらず、結婚している。つまり……。
ツバサはトラップで精神的優位に立ちたいが、本当はそれを突破して欲しいということだ!!
そこまで考えたところで、俺の耳がツバサの動きを捕らえた。周囲の動きがゆっくりに感じられる。これは死にかけて、脳の高度計算機能が働いたときの反応だ。
死にかけたとき、脳の機能が全開になる。普通の人は生き残る策を探すため、過去の自分を見る。
だが、俺は生き残る策を見つけるだけではなく、五感の一つを一時的に超強化することができるんだ。
もちろん脳に無理をさせているんだから、一時的にしか無理だが、今聴覚を超強化すれば、目が見えなくてもツバサの動きを完全に掴むことができる!
俺は聴覚を超強化する!
聴力を限界まで引き出して、ツバサの出す音を聞く。心音や筋肉や関節が動くときの音、足音、空気との摩擦も!
ツバサの恋愛傾向、戦闘スタイル、そして聴覚を通して得られる今の情報!それらを総動員して、脳内にツバサの今の状態をマッピングする!!
よし!見えた!!目が見えなくても聞くだけで、『見ているのと同じくらい』ツバサの状態がわかるぞ!!
そして、ツバサが五感で感じたすべてを、ツバサが見ているのと同じくらい共有できる。
つまり、ツバサのこれまでを完全に理解しただけでなく、ツバサの『今』をリアルタイムで理解し続けることができるんだ!!
だから、ツバサのあらゆる動きがわかる!ツバサの動きを完璧にトレースできるぞ!!
「これだ!!これが、相手を知ると言うことだ!」
俺はそう言って、ツバサの動きを真似た。完璧にツバサと同じ動きをする。
ツバサと同じ感覚を味わっているせいで、俺がツバサを真似ているのか、ツバサが俺を真似ているのかわからないほど、全く同じ動きになってきた。
ツバサと同じ動きをすればするほど、ハーモニーパワーが高まってくる!!
ツバサも同じように感じているのがわかる!
そして、ツバサの動きに変化が起きた。攻撃の構えだ!!そうか行くんだな。俺も行くぞ!!
全く同じ動きで、ハーモニーパワーを最大まで高める!!
俺たちは、大地を蹴り空中高く飛び上がった!!
そして、全く同じ動きで空中で回し蹴りを放った。
それによって、俺とツバサの足がぶつかる!お互いの足を蹴りあった形だ。
その衝撃により、二人の中にあるハーモニーパワーが超共鳴により、大爆発を起こした!!
爆発はエリア2全体にまで広がっていく、巻き込まれた蜂や蛇たちはチリになっていった。
「か、勝った!!勝ったぞ!!ハーモニーパワーも進化した!!」
「う、ん。や……った!!」
俺はそう言ってツバサと手を取り合って喜んだ!!
その瞬間、足元に巨大な穴が開いて、俺たちは地下に落下した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2050年 信孝22歳 ツバサ 4048歳 ラブ・キング・キャッスル Q’sマウンテン エリア2 地下線路 】
俺たちは突然の落とし穴に落ちて落下した。そして、トロッコのような乗り物の上に落ちた。
俺は目が見えないままだが、ツバサの視覚を共有しているので、周囲の状況がわかる。
そう考えていると、突然トロッコが動き出した。燃料もエンジンもなく、どういう原理で動いているのかはわからないがともかくトロッコは線路の上を進んで行く。
「どこに向かってるんだろう。エリアボスの部屋に通じてるんだろうか」
このトロッコがエリア2の仕様で、ボス部屋まで連れて行ってくるというならまあいい。
けど、もしトラップだった場合、マグマに落とすとかして殺されるかも知れない。
「多、分……大丈夫。不、条理な試練……は、ない」
そうか確かにこれまでの試練にしても、二人が仲良くなりハーモニーパワーを進化させれば、どうにか乗り切れる試練だった。
つまり、一発で死ぬような、つまり仲良くなるもクソもないような試練はないはずってことだ。
あくまで、仲良くなれれば助かる。なれなければ『四肢か五感を失う』試練だけってことだな。
そう考えていると、トロッコは一つの部屋に辿り着く。ここがエリア2のボス部屋だろうか?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2050年 信孝22歳 ツバサ 4048歳 ラブ・キング・キャッスル Q’sマウンテン エリア2 目々耳々の虚実宮 】
その部屋には髪をおかっぱに切りそろえた、和装の少女が二人いた。
「私は『百目童女』メメ、何でも見える」
「私は『千耳童女』ミミ、何でも聞こえる」
「「二人で、最強」」
その二人を見て、俺たちは呆気にとられる。この娘たちがエリアボス?.
いや、見た目で判断しちゃダメだな。二人の言うことが本当なら、何でも見えて何でも聞こえるんだ。
しかも、このエリアのボスってことは、恐らく『お互いを理解する』のを妨害する何かをしてくるはずだ。
「それじゃあ、お兄さんたち」
「それじゃあ、お姉さんたち」
「「始めるよ」」
そう言って、メメとミミは手を繋いで不思議なダンスを踊り始めた。
「ららら」
「ららら」
二人は軽快なステップで、くるくる回っている。そして、突然立ち止まり天を指さした。
「目 目 目」
「耳 耳 耳」
二人がそう呟くと、天井に無数の目が現れ、壁に無数の耳が現れた。
「何でも見るの!」
「何でも聞くの!」
二人の言葉と共に、ボス部屋のあらゆる『光』が無数の目に吸い込まれていった。それと同時にあらゆる『音』が無数の耳に吸い込まれていった。
周りは全くの無音となった。加えて、ツバサの視界は真っ暗だ。
「お兄さんのこと、よくわかった」
「お姉さんのこと、よくわかった」
「「それじゃあ、『試練』の本番」」
二人の声が聞こえる。ってことは音が戻ったのか。何だったんだ今のは?
「試練の本番?ここでは何をやらされるんだ?」
「「ここでは」」
「お姉さんに、お兄さんの過去を見てもらう」
「お兄さんはもう、お姉さんの過去を見たみたいだから」
「信孝、の過去……?」
なるほど、俺はさっきツバサの『夢や生き様』を聞かせてもらったが、ここではツバサに俺の『夢や生き様』を見せることで、『お互いを理解する』ってことか。
「「でもね」」
「大事なところは、メメが『嘘』を見せる」
「大事なところは、ミミが『嘘』を聞かせる」
「お姉さんは嘘を見破って」
「お兄さんの『夢や生き様』を当ててね」
「もし失敗したら」
「目と耳が見えないまま『Q’sマウンテン』から出てってもらう」
なるほど。嘘が混ざるってのはヤバいな。俺はツバサのことを知ったつもりだが、ツバサが俺について知ってることはそれほど多くない。
嘘を見破るのは簡単じゃないだろう。
それに何より……。
「じゃあ、俺はここの突破に関して、何にも協力できないのか?」
「「そう」」
あっさり肯定されてしまった。まずい、せめて始まる前に何かアドバイスができないか?
「それじゃあ」
「はじめるよ」
まずい!始まってしまう!!ええと、そうだ恋愛傾向!ツバサの『夢や生き様』にハルナ姫が関わっていたように、俺の生き様にも正利や藤田との恋愛が関わってるはずだ!
「つ、ツバサ!!正利に恋したのは『強さ』と『筋を通す』こと!!藤田に恋をしたのは『強がりなのに、甘えるのが大好き』な性格が気に入ったから!!そこに俺の『夢や生き様』のヒントがあるはずだ!!」
俺とツバサは感覚を共有している!耳は聞こえなくとも、俺の言葉は届いたはずだ。
「目 目 目」
「耳 耳 耳」
メメとミミが抱きしめ合うと、また天井と壁に無数の目と耳が出てきた。
そして、それらの目からツバサに向けて、強い光線が、耳からは耐えがたい不協和音が放たれた!!
「それじゃあ」
「出発」
二人がそう言うと、ツバサとメメとミミ、三人の姿が消えた。
どうにか頑張ってくれ、ツバサ!!