コンビネーションだ!ツープラトンだ!二人で力を合わせよう!!
【 2050年 信孝22歳 ツバサ 4048歳 ラブ・キング・キャッスル Q’sマウンテン 第一エリア 】
「よし、普通に走るくらいならこんなもんだな」
俺たちは、あれから三時間ほどの特訓で、走り回ることができるようになった。
とはいえ、魔法や神術による強化が無くなっているから、身体能力の低下はデカい。しかも元々神界人のツバサと比べて、日本人の松平信孝でしかない俺の身体能力はかなり低い。
つまり、二人で動こうと思ったとき、どうしても動きの遅い俺に合わせざるを得ないってことだ。足が繋がれてるからな。
「うん、これだけ動けるなら、次は実践を想定した動きを練習した方がいいかも知れないね」
ツバサがそう言った瞬間、『エリア1』全体にクイーンの声が響き渡った。
「貴方たち、いつまでモタモタしているのですか!破壊者のところまで行かないと、互いを疑い憎しみ合って破綻する姿が見られないじゃないですか!!」
何だか激昂しているクイーンだが、そんなことは知ったことじゃない。こっちは魔法も神術も封じられているんだから、安全策をとるのは当たり前だ。
「こうなったら、仕方ありません。ペナルティです。お邪魔虫よ!信孝さんたちを攻撃しなさい!!」
【お邪魔虫】
クイーンによって邪印を刻まれ眷属化した魔虫。眷属化によって、通常の魔虫より進化している。体内の火袋という器官から火球を産み出し、口から吐く。
クイーンがそう言うと、空気中に黒い穴が生まれ、そこから数千匹のムカデのような姿をした虫が現れた。
それらが、次々と火球を吐いてくる。
「くっ。なんとか避けるぞ!!」
俺の言葉に合わせ、俺たちはこれまで培ったコンビネーションでどうにか火球をかわそうとする。
「んっ。でも結構早いね。このままじゃ!」
火球は音速を超えるんじゃないかというスピードで、俺たちに襲い掛かる。それが一度に数千個だから、溜まったもんじゃない。
すぐに避けきれなくなり、俺とツバサの体にそれぞれ数発の火球が当たった!
「くうっ!!」
ツバサの悲痛な叫びが聞こえた。見ると、腕に大きな火傷ができている。
普段の俺たちなら、このくらいの傷は一瞬で治せるだろうけど、今は魔法も神術も特殊なスキルも使えない。
かと言って塗り薬なんかあるはずないし、包帯になるようなもので覆うくらいしか応急措置できないぞ。
だが、俺の心配をよそに翼は俺の方を見て、興奮した様子で叫んだ。
「そうだ!これなんだ!君が燃えないということだ!!」
俺が燃えないこと?
言われてみれば、同じように火球に当たったはずなのに、俺の体には傷一つないようだ。
俺が困惑していると、ツバサが真剣な表情になって言った。
「ねえ、信孝 ここから君の全てを、僕に任せてくれないか?」
そう言われて俺はドキッとした。さすがにプロポーズってわけじゃないだろうけどね。そんな風にも取れる言葉だ
美人で性格もイケメンなツバサに『全て任せて』なんて言われたら、ドキドキするのは当然だろう。
油断すると、無条件に全てを委ねてしまいそうな雰囲気がある。
すると、ツバサは俺の肩に手を置き、真剣な眼差しで俺を見つめて言った
「ねえ、信孝 、君の力が必要なんだ。君にしかできないことだよ」
俺は少し気圧されながらも、どうにか平静を保って答えた。
「足枷で繋がれている以上、俺とツバサは一蓮托生だ。俺にできることがあるなら、力を貸すに決まってるだろ」
「ふふふ。そうだね。うん、今こそ二人で力を合わせる時だ」
どうも、ツバサにはこの場を切り抜けるアイディアがあるみたいだ。
だが、何をどうしようって言うんだろう。俺が火球で燃えないことが鍵みたいだが……。
「で、具体的にはどうするんだ?俺を盾にして、やつらに突っ込もうってのか?」
「それも必要だけど、それだけじゃないんだ。重要なのは二人で放つ必殺技さ。君の言い方でいうなら『ツープラトン』だね」
「つ、ツープラトン!?」
この足を繋がれた状態で、俺とツバサが協力して放てる技があるっていうのか?それも、魔法や神術を封じられた状態で!?
「この技、君は酷いと思うかも知れないけど、これが今僕たちが出来る、最高のコンビネーションなんだ」
俺たちの、最高のコンビネーション……!!確かにそんな技があるなら、やるしかないだろう。
そもそもこのアトラクションにはツバサと恋人同士になるために来たんだしな。二人の絆が深まるようなことは、積極的にやっていくべきだ。
「分かった。ツバサの案に乗ろう。聞かせてくれ、俺たちの最強ツープラトンがどんな技か!」
「うん、じゃあ説明するね。話は簡単なんだ。君を盾ではなく攻防一体の武器にするってことさ」
ツバサの案はこうだ。ツバサが蹴り技で、足枷で繋がった俺を振り回し、『火球にぶつける』
俺は『世界樹』でできているため、魔術や神術の守りがなくても硬いし燃えない。
そうやって火球を処理しながら、突撃して今度は俺の体を『お邪魔虫』自身にぶつける。俺の体はとにかく固いから、相手の方が吹き飛ぶってわけだ。
確かに、危険な策だし人間を武器にするなんてある意味、非道だとも言えるだろう。
だが、その話を聞いて、俺は感動していた。
だって、この追い詰められた状況で、ツバサの出した案は間違いなく最適解だ。
まるで図ったように、ピースがはまった!まさに、これが俺たちのコンビネーション、最高のツープラトンだ!
こんな案を土壇場で出せるなんて……。
俺の中のツバサに対する感情が少しだけ変化したのを感じた。
「よし!その案ならバッチリだ!喜んでやらせてもらうぜ!!」
俺が快く受け入れたので、ツバサは少しビックリしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ツバサは作戦通り、足技を駆使して火球に俺をぶつける。
隙を見て、お邪魔虫たちに突撃し、虫に俺をぶち当てる!!
そうやって、あらかたのお邪魔虫を駆除したところ、再びクイーンの声が響き渡った。
「もう!忌々しい方達ですわね!こうなったら、タダのお邪魔虫ではなく、『超強化種』を送り込んでやりますわ!!」
【邪・魔クイーン】
お邪魔虫をクイーンの王印によって強化したもの。王印を押された者の9割は消滅するが、残った一割は進化する。
国を焼き尽くすといわれる『滅国業火』を纏う
クイーンがそう叫ぶと、俺たちの前に炎に燃え盛る、巨大なムカデが現れた。
とっさに、ツバサと俺は大ムカデに向かって走った!そして、ツバサが足を振り回して俺を大ムカデにぶつけようとした!
大ムカデが業火に包まれていようと、俺の体なら燃えないはず。だったら、他のムカデと同じように俺たちのツープラトンで叩き潰せばいい!
だが、俺の体と大ムカデの体が接触する直前、突然周りの速度が遅くなったような感じがした。
そして頭の中にイメージが浮かんでくる。このまま俺の体が大ムカデにぶつかったら……俺の体は焼き尽くされる!それだけじゃない、業火はツバサにも燃え移り俺たちは二人で灰になる!!
つまり、やつが体に纏う業火は世界樹ですら燃やし尽くすんだ!
どうするか、と思った瞬間、頭にツバサの映像が流れ始める。
これはさっきまでの戦いか?ツバサの勇姿を映し出している。
絶体絶命の危機に最良の案を導き出したツバサ。
美しい動きで、次々と敵を倒していくツバサ。
俺たちは最高のツープラトンで、現在出し得るお互いの力を最大限引き出した。そして、戦い続ける中で俺は少しずつ、ツバサと精神的なつながりを感じて……?
何故だ?どうしてこんな映像が流れる。これが、俺とツバサが生き残る鍵なのか?
そう考えて、ふと思い当たる。
そうか!気づいたぞ!そうか、そうだったのか!!
俺はもう……ツバサに恋をしていたんだ!
それを、気づかせるために俺の脳はツバサの勇姿を見せ、二人の繋がりを自覚させたんだな。
俺がそう考えた瞬間、足枷を通して俺とツバサの間に不思議なエネルギーが行き交う。
愛のエネルギーで攻撃することは封じられているはずだ。だとすれば、これが……ハーモニーパワーか!!
俺の体とツバサの足をハーモニーパワーが覆った!それにより、大ムカデの業火は書き消えた!
さらにツバサの蹴りは加速し、俺の体は硬さを増した!!
これが俺たちのハーモニー技『世界樹蹴り』だ!!
俺の体が大ムカデにぶつかると、大ムカデの体が灰となって崩れ始めた。
「や、やった!やったよ!!すごい炎を纏ってて、強敵だと思ったけどなんとか倒せた!」
「あ、ああ。実際あの炎に飲まれてたらまずかったんだろうけど、土壇場でハーモニーパワーは増大したのが良かったみたいだな」
実際には俺が恋愛感情を自覚したことで、ハーモニーパワーが強化されたのが原因なんだろうけど、それは言わないでもいいだろう。
「そうだね。あれが本当のハーモニーパワーってことか。これまでのちょっと光るだけとはわけが違う。ちゃんと攻撃や防御に使えるエネルギーだ」
「ああ、この力があればエリアボスとも戦えるんじゃないか?」
エリアボスはあらゆる攻撃が通らないが、ハーモニーパワーなら倒せるという話だ。ハーモニーパワーを身に着けた以上、一刻も早く倒しに行きたい。
ツバサは少し悩む表情を見せたが、息をのみ頷いた。
「ああ、そうだね。行こう!僕と君の絆をエリアボスに見せてやろう!」
そう言って、俺たちは二人三脚スタイルのまま、ボス部屋を探しエリア1を探索し始めた。
その俺たちの耳に、聞き取れるか聞き取れないかくらいのか細い声で、クイーンの言葉が響いた。
「この土壇場でハーモニーパワーを身に着けるとは、中々やりますね。けれど、そんな一方通行のハーモニーパワーでは、エリアボスは倒せませんわよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2050年 信孝22歳 ツバサ 4048歳 ラブ・キング・キャッスル Q’sマウンテン 曇りの砦 】
「着いた!ここが、ボス部屋か!!」
ボス部屋は、とにかくだだっ広い空間だった。外から見た時と比べて明らかに中の方が大きい。
俺たちの魔法や神術は封じられているが、クイーンの魔法的な何かによって中の空間が広げられているということだろうか?
だとしたら、クイーンと戦うときは魔法や神術に警戒しないといけないな。
そして、部屋の中央にいる、あいつがエリアボスなんだろう。
そこには椅子と机があった。その椅子に、ほとんど装飾のない真っ黒なローブを着て、黒いフードを被った小柄な男が座っていた。
異様な雰囲気を放ってはいるが、あんまりボスっぽくない気がする。
でも、そういえば破壊者……つまりエリアボスは、『互いを疑い、憎しみ合わせて破綻させる』とか言ってたっけ。
つまり、このボスは攻撃や防御と言った戦闘能力よりも、俺たちの心理に付け込んで倒しに来る相手ってことか。
だとすれば、そんな策を使われる前に先制攻撃だ!
「行くよ!」
「ああ!!」
ツバサは俺に合図をすると、蹴り技でエリアボスに向かって俺をぶつけようとした!
だが、その瞬間 エリアボスから無数の雲の塊が噴き出してきた。
「これは!?」
ツバサは、反射的に雲の塊を蹴りつけた。俺の体が雲の塊にぶつかり、塊は霧散して周りの空気と混ざった!
なんだ、これは?必殺技にしては簡単に消えてしまったが……。いや違う雲は水蒸気だ。つまり空気と混ざったってことは、呼吸によって吸わせるのが目的のはず!
「ツバサ!息を止めて奴から距離を取ろう!」
俺はアンドロイドとして他の宇宙に送り込むため、呼吸する必要のない肉体に作られているが、ツバサには呼吸が必要だ。
雲が部屋全体に及ぶ前に、距離を取り遠距離攻撃でエリアボスを倒すべきだろう。
だが、そんな俺の言葉を聞いたツバサの顔が曇っていく。
「ご、ごめん。もう手遅れかも」
【不和不和雲】
雲の塊を撃ちだす技。吸い込ませることで効果を発揮する。
ハーモニーパワーを持つ者たちのうち、恋してない方が、恋している方をとてつもなく嫌いになる。
「……気持ち悪いんだけど、どこかへ行ってくれないかな?」
俺たち二人の関係と、俺のメンタルが危機を迎えていた。