命と矜持~女相手だからって、恥ずかしがってる場合じゃないぞ!!!~
【 2050年 信孝22歳 藤田浩正 32歳 正利20歳 ラブ・キング・キャッスル 広間 】
俺の目の前にツバサがいる。考えてみると、これまでほとんど接点が無かったな。
というか、今のツバサはラプラスに洗脳された状態のままなんだろうか?もしそうだとしたら、恋人同士になるのも難しい気がする。
俺が聞こうとすると、ツバサはそれを制して言った。
「大体の事情はわかってるよ。まさか、僕が洗脳されるとは腹立たしい限りだけどね」
「おっ!そうなのか!だったら話が早い」
とはいえ、このまま『宇宙意識』から現実世界に戻れば、また洗脳の影響下に戻ってしまうだろう。その前に、何とかツバサと『恋人』にならなければいけない。
そう考えていると俺たちの前に、アトラクションの『案内板』が現れた。
そこには、この『ラブ・キング・キャッスル』にあるらしい、いくつかのアトラクションが図入りで描かれていた。
アトラクション・Q’sマウンテン 難易度:ラブリー
アトラクション・風見鶏の迷宮 難易度:ラブリー
アトラクション・スカイジャンプ 難易度:アガペー
アトラクション・天使の懐 難易度:アガペー
アトラクション・天啓の神殿 難易度:アガペー
アトラクション・宇宙観覧車 難易度:ノーマル
アトラクション・天地ジェットコースター:ノーマル
どうやら、アトラクションには難易度があるらしい。
掲示板の説明によれば
【アガペー】
命の危険がある極限状態におかれることで、愛が極端に深まりやすい。挑戦中に死亡しても復活できるが、途中で辞退できないため、三度死ぬまでに恋人同士になれなければソウルを全て失う。
【ラブリー】
四肢の欠損や、五感の一部を消失するリスクがある。アトラクションが終われば『ソウル』を一つ消費して元の状態に戻すことができる。
アガペーほどではないが、極限状態におかれるので、愛が深まりやすい。
【ノーマル】
普通のデートスポットである。失敗してもソウルを失わないが、これと言った仕掛けもない。そのため、他のアトラクションと比べて愛が深まりにくい。
「ふむふむ。高難易度のアトラクションほど、恋愛関係になりやすいけど、失敗したとき失う『ソウル』が多いってことだね」
例え再生できるにしても、死亡や四肢欠損したときの痛みや喪失感はあるはずだ。愛の城どころか、ここ自体が地獄じゃないかと思うようなアトラクションだな。
「さて、どうする?どれもロクなアトラクションじゃなさそうだけど、やらなきゃ戻れないんでしょ?」
そうだ。俺は『四神の焼き印』のやつらと恋人同士にならないと、現実世界に戻れない。例え戻れたとしても、『皇・大和』の自爆を防げないからな。
俺たちはもちろん、自爆したツバサや信秀も死んでしまうだろう。そうはいかない。俺は四人を救うと誓ったんだからな。
だから、命の危険があろうがどれかアトラクションに挑まなきゃいけないんだが……。
「よし、難易度『ラブリー』から行ってみよう。アガペーは途中でやめられないらしいからな」
『ヘル』がどんなところかわからない以上、最初からリスクの高いものに挑むのは抵抗がある。先に『ラブリー』に挑戦するべきだろう。
もちろん、ラブリーに失敗して追い詰められれば、『アガペー』に挑まないといけないかも知れないが、まだその時ではない。
「なるほど。言いたいことはわかったよ。それで?『ラブリー』もいくつかあるみたいだけどどれにする?それとも僕が決めていいのかい?」
「そうだな……。アトラクションの名前や図から内容を推測するのは難しそうだし、適当に選ぶしかないか」
俺はそう言って看板を見直す。この看板に書いてある『ラブリー』はQ’sマウンテンと風見鶏の迷宮か。
俺は『どちらにしようかな』というやつをやって、最初に入るアトラクションを決めた!
「Q’sマウンテンだ!どうせ入るまで内容はわからないんだ。適当に入ってみよう」
俺たちは案内板の地図に従って、『Q’sマウンテン』を目指した。
そして、それらしいものを見つけた。巨大な山に幾重にも渡って城壁があり、頂上にこれまた巨大な城が建っている。
これがQ’sマウンテンか。ってことは、この山を頂上まで登れってことか?
山の麓に大きな門があり、それをくぐって中に入ると、長い廊下があって広間に出た。さっきの広間より少し小さいが、飾られている装飾品は豪華だ。
「そなたたちが次のカップルですわね!!ふふふ、いいでしょう。このわたくしが責任を持って別れさせてあげますわ!さあ!我が試練に挑みなさい!!」
何だか、また癖が強い人が出てきたな。
というか、Q’sマウンテンってくらいだから、こいつが女王……いや、王妃かな?
『我が試練』とか言ってたし、このアトラクションを管理しているのはこいつなんだろう。
「あなたが、このアトラクションの管理人なのかな?ここはどんな施設なんだい?」
「あらあら、馴れ馴れしい子ですわね。まあいいでしょう。我がアトラクションは、二人を引き裂く愛の試練『Q’s・マウンテン』ですわ!!」
「城壁ごとにエリアが分けられていて、各エリアには『破壊者』がいますの。次のエリアに進むには、破壊者を倒さなければいけません」
「ですが、そのためには『ハーモニーパワー』が必要です。貴方たちの絆が一定の値に達していなければ、どんな攻撃も通らないでしょう」
「そして、すべてのエリアを突破し頂上に辿り着くことができれば、『パーフェクト・ハーモニー』が手に入ります。そのときは、王の言葉通り『愛帝の間』にご案内しますわ」
山が城壁ごとにエリアに分かれていて、それを全部突破したら『愛帝の間』にいける。
そのためには、各エリアで愛を育み、『ハーモニー・パワー』を身につけないといけない。
けど、ハーモニー・パワーって何なんだ?普通に仲良くなればいいんだろうか?
「そのために!貴方たちにはこれをプレゼントしますわ」
クイーンがそう言うと、俺とツバサの足を繋ぐ『足枷』が現れた!!
二つの足かせはぴったりくっついている。これでは、何をするにも一緒だ。ずっと二人三脚で動けと言われているようなものだな。
まずいぞ。これじゃあ、二人とも自由に動けない。でも、そうかエリアを突破するには『ハーモニーパワー』だったな。
この足枷ではチームワークがないとそもそも一歩も動けない。そういう意味では、この試練にはぴったりのアイテムなのか。
「なお、貴方達が使っている『不思議な術』は、魔法も神術もそれ以外の力も一切封じさせていただきました」
「な、な、なんだと!!」
いや、さすがにそれは本気でまずい。『エリア』や『破壊者』を突破するのが、どのくらい大変かはわからないが、最初に松平信孝になったとき程度の身体能力しかないとしたら、相手が何でもまるで勝てそうな気がしないぞ。
それにしても今や全次元に匹敵するようなエネルギーを持つ、俺の能力を封じられるって……。いや、ここは宇宙意識だ。皆の意識が共通にアクセスできる精神世界だよな。
だったら精神にブロックをかけることで、特殊能力を封じ込めることも不可能じゃないかも知れない。
「それでは、頑張って!できるだけ、大げんかをして諦めるところを見せて頂きたいものですわ!!」
そういうと、クイーンの姿はそこから消えた。
クイーンのいた場所の後ろには扉らしきものがある。あそこから最初のエリアに入るんだろう。
「じゃ、じゃあ行くか。歩きにくいけど、せーので足を踏み出すことにしよう」
「OK!『せーの』だね。それじゃあ……」
「「せーの」」
びたん!!
俺たちは勢いよく転び、顔を地面に叩きつけた。
「痛た……す、すまん。タイミングを合わせられなかった」
「うーん、それはいいんだけど」
ツバサは首をかしげて、俺を見つめる。何か変なことでもしただろうか?
謝りはしたが、タイミングはお互いの問題だと思う。他に何か問題があるのだろうか?
「君、僕に触れるのもためらってるよね?それじゃあ息を合わせるなんてできないよ」
「えっ……」
言われてみれば、確かに俺は女に触れることに抵抗がある。
そもそも、こんなに女性と密着したのは初めてなのだ。子供の頃ならしずくと密着したこともあったかも知れないが、しずくは妹のようなものだし……。
男が相手なら、キスだってできるんだけどなあ。
まずい、意識すると心臓がドキドキしてきたぞ。
「あ、ああ。すまん。だけど、俺はあんまり女に慣れてなくてな」
「うん。それはわかるよ。僕だって男の人に慣れてるとはいえないからね」
ツバサはにっこり笑ってそう言った。だが、次の瞬間、それまでとは打って変わって真剣な顔になる。
「ねえ、君は信秀や証如の仲間なんだよね。だったら、あの子たちが何を思い、どんな夢を持って生きてるかしってるんでしょ?」
その言葉を聞いて、俺の中に衝撃が走った!!
俺は知ってる。信秀の矜持を、あいつが生きる目的を!
そうだ。やつは、どこまでも力を愛し、どこまでも強くなろうとしていた。そして、負ければ何をおいても強いものに従った。
『強さ』それが奴の全てだ。だからこそ、俺に聖王の座を渡して共に天下統一を目指してくれた。
俺は知ってる。証如が命がけで追い求める夢を。
やつは見果てぬ夢と知りながら『世界から戦争を無くす』ことを望んでいた。自分の『未来の武器を予知する』能力ならそれを成し遂げられると信じて!
そのためなら、どんな犠牲を払っても構わないと、自分の命を犠牲にしてもいいと言っていた。
そして……俺は知ってる。目の前のツバサが、ハルナ姫を悟空に殺されてどんなに辛い思いをしたか、仇をとることをどんなに願っているか。
俺は自分の覚悟の足りなさを思い知った。『四神の焼き印』の皆を助けようと息巻いていた癖に、死なせないことにばかり頭がいって、洗脳によって奪われた、彼らの『夢や生き様』を取り戻すことまで考えが及んでいなかった。
「彼らの思いを知ってるなら、それがラプラスの洗脳によって踏みにじられるのを、放っておいていいの!?」
「だ……ダメだ!!」
それはダメだ。あいつらが、そしてツバサがそれぞれの思いを遂げられず、ラプラスの洗脳で人形のように一生を過ごすなんて、絶対にダメだ。
命だけじゃない、彼らの矜持 生き様を救わなくては!!
女相手だからって、恥ずかしがってる場合じゃないぞ!!!
「済まなかった。覚悟が決まったよ。恥ずかしがってる場合じゃなよな」
「そうだね。僕も、これ以上 洗脳され続けるわけにいかないからね。せっかくハルナを復活させる方法がわかりそうなんだ」
「ハルナ姫を復活させる方法だって?」
「うん、悟空がハルナを埋めた『仙行域』は、仙人が修行するために『時間が止まった』世界なんだ。ハルナは脳か心臓が止まってすぐの状態でそこにいる。今の僕達なら、ちょっとした回復魔法で復活させられるだろうね」
そ、そうか!そうなのか!!死んだと聞かされていたが、死んだ直後の状態なら、確かに復活させるのは容易かも知れない。
「だったら!尚更モタモタしていられないじゃないか!そ、そうだ!肩を組もう、二人三脚だ!まずは歩くことから始めようぜ」
「それはいい考えだね。よし、急ごう。練習するにしてもしばらく時間がかかりそうだからね」
そう言って、俺たちは肩を組む。うん、違和感はない。一旦、覚悟を決めたら恥ずかしさも吹っ飛んだ。
そして俺たちは歩き出す……転ぶ!! そしてまた歩き出す……転ぶ!!
俺たちはそんなことを一時間ほど繰り返した。
「「いちに いちに いちに」」
「よ、よし!!100mは歩けたんじゃないか?これはもう合格だろ!」
「う、うん。思ったより早くできたよ!信孝が合わせてくれたおかげだね!
「い、いやツバサこそ、俺の息を読んで合わせてくれたじゃないか」
二人で検討をたたえ合う。小さな一歩だが、少しだけ前進することができた。
その時、俺たちを結ぶ足かせが小さく光った。枷の接合部についているハートマークが淡く光っている。
「ん?何だ、これは?」
「わからないけど、もしかしたらクイーンが言っていた、ハーモニーパワーかも知れない」
ハーモニーパワー!?そ、そうか歩ける程度には二人の絆が深まったから、ハーモニーパワーが生まれたってことか!
「じゃあ、ここのエリアボスにも挑めるってことか?」
「んー、確かクイーンは『エリアボスはハーモニーパワーじゃないと倒せない』って言ってたよね。ボスを倒すくらいのパワーだとすると、もっと大きくする必要があるんじゃないかな?」
確かに、それはそうか今はまだ足枷がちょっと光ってるくらいだもんな。少なくとも攻撃に使えそうな気はしない。
「じゃあ、引き続き特訓だな!次は、一人のときと同じスピードで走るのを目指そうぜ」
「うん!戦うんだったら、普段と同じくらい飛び回れないと無理だろうからね」
なるほど、それはそうだ。じゃあ走れるようになったら、ジャンプや身をかわす練習もしなくちゃいけないな。
俺たちはハーモニーパワーを高めるために、ひたすら特訓を続ける……!