たかし…許さない
たかしがボタン押した…!
藤田の話が本当なら、今しずくの脳に脳死状態にするための薬が入っていってるらしい
俺は腕や足がちぎれても構わないつもりで、全力で拘束から逃れようと暴れるが、これほどかと思うほどまるでびくともしない。
やめろやめろやめろやめろやめろやめてくれ
しずくは俺たちにとって、花であり光であり太陽だ。
決してかけがえのないものだ。たかしもそんなことはわかってるはずだ。
欠けてはいけないんだ。しずくが欠ければ俺達だって、今のままではいられなくなる。
なのにどうして体を動かせない!ここでなんとかできなきゃ、この先 生きていく意味なんてあるもんか!
しずくを…しずくを救わないと…!!しずくを……!!
「ふむ、もうそろそろ良いでしょう」
なんとか拘束をほどこうと、もがき続ける俺に対し、藤田が静かにそう告げた
「薬液を注入し始めてから5分ほど経ちました。
今、手術室の医師に確認したところ、しずくさんは脳死状態に至ったようです。
現代医学ではここから、生き返らせる方法はありません」
淡々と告げる藤田に対して、俺の脳は焼け焦げるかと思うほどの怒りを感じていた。
しずくが何をしたっていうんだ。金のためならなんでもするのか?
どうしてしずくなんだ、どうして俺たちのしずくがよりによって…
そして………たかし…どうしてお前は…
お前は…誰よりも、俺よりもしずくを親友として、家族同然の仲間として愛していたのに…
「ここで皆さんに、すばらしいお知らせがあります」
藤田が語り掛けるような口調で、そう言った
恐らくモニターの先のお偉いさんとやらを意識しているのだろう。
「たかしさんの押したボタンは、しずくさんに薬液を注入すると申しましたが、
実はこれは正確ではありません」
「実はこのボタンはしずくさん以外、もう一人にも薬液を注入すう仕組みに
なっているのです」
愕然とした
そうなのだろうとは思いつつも、心のどこかで期待していたのかも知れない。
だが、やつらがわざわざ手間をかけて、たかしに殺させる人物なんて一人しかいない。
「医師からの報告では、麗美さんも無事に脳死状態に至ったようです。
これで本日分の臓器が滞りなく確保できます」
「ちょっと待ってよ!どういうこと?麗美にも薬液が注入されたって…!」
「言葉どおりですよ。これでたかしさんには全く利用価値がなくなりました。
せっかくなので、貴方もうちの商品になっていただくとしましょう」
部屋にいたヤクザ達が、たかしを拘束する。
言わんこっちゃないと言いたいところだったが今はそれどころじゃない。
このままでは、しずくと麗美ちゃんを失ったばかりか、たかしまで殺されてしまう。
今回は馬鹿なことをしでかしたが、しずくのいない今たかしは唯一最大の親友なんだ。
殺させてたまるもんか。
とはいっても拘束がとけるぐらいなら、とっくに解いている。
必死にもがいてみるものの、拘束を解く方法もやつらを口車に乗せて拘束を解かせる方法も思いつかなかった。
そう言ってる間に、たかしは薬をかがされて眠らされた。
これから、例の手術室に向かうみたいだ。手術室で脳死の薬液を注入した上で解体するつもりなんだろう。
「さて、たかしさんはこれで良いですね。あとは茂さんですが、
貴方には少し教育を施した方が良さそうですね」
「教育だと?」
「ええ、さきほども申した通り、身体を傷物にせずに拷問をする技術は面倒なのですが、
だからと言って、手を抜いたせいで先方に失礼があっては信用に関わりますからね」
つまり今のままじゃ俺が反抗的すぎるから、その面倒な拷問とやらで俺が客に逆らわないようにしとく必要があるってことか
ヤバいな。正直、俺のメンタルは人より弱い。拷問なんて受けたら一瞬でこいつ等の奴隷になる自信がある。
そうなると一生、おっさんの性奴隷か…もしくは飽きたら改めて殺されるかも知れない。
「それでは茂さんを特殊拷問施設にご案内します」
どうしようどうすればいい?たかしを助けなくちゃ。拷問から逃げなくちゃ。
このままじゃたかしも死ぬ、俺の人生も台無しだ。誰か助けてくれ誰か…誰か…。
「そこまでだ!!!」
そんな叫び声が聞こえたと思ったら、30人ほどの警官が廃屋になだれ込んできた。
警察…?でも警察はこいつらとズブズブの関係で骨抜きにされてるんじゃないのか?
「広域暴力団・山形組幹部・藤田浩正!!人身売買・殺人・遺体損壊・臓器売買の罪で逮捕する!!」
「待ってください。貴方方どなたですか?うちの組に手を出して、警察業界で生きていけるとお思いですか?」
「はっはっは!!貴様らも、もうそんなことは言ってられんぞ!!!
今回の捜査で山形組の関係者はすべて洗い出され、逮捕された!!」
警察が、山形組の関係者を洗い出した?でも藤田の話では、警察の内部はそのほとんどが山形組の協力者って話だった。なんせバレずに臓器売買ができるくらいだからな。
「バカな!!ウチと関係がある警察官が一体何人いると思ってるんだ!全員逮捕などしたら、警察の人事に大穴が開き、まともに機能しなくなるぞ!」
「それでも腐りきって犯罪者をのさばらせるよりマシだ!」
警官達がヤクザを拘束していく。
「チッ……てめぇら本気で…。一体、警察で何が…」
この、のちに令和大粛清と呼ばれる事件により、山形組と関係のあった警察官は一掃された。
臓器売買、人身売買はもちろん、贈賄・収賄・犯罪教唆と叩けばほこりのでてくる警官がほとんどで、しかも警視庁だけでなく全国に及んでいた。
こうして警察の正義の鉄槌により、暴力団に協力していた悪い警察官は
一掃され、警察は再び正義の組織として蘇った!!
まあそんなはずもなく、今回の事件は山形組の組長が、稲田組の鉄砲玉に殺されたことが発端らしい。
この稲田組の組長が中々のやり手らしく、山形組の組長を殺すと同時に
山形の幹部を拷問にかけて、関係のある警察官の情報を引き出し
稲田組に協力するものは許し、逆らいそうなやつは犯罪者として逮捕させた
というのが真相らしい。
勢力図が塗り替わっただけで、結局警察内部に暴力団の協力者がいる状態は
変わらなかったわけだ。
ともかく、突然殴りこんできた警察により、俺とたかしは保護された。
しずくと麗美ちゃんは……やはり間に合わなかった。
しずくは生前ドナー登録をしていたから、近くの病院で使用可能な臓器を取り出すらしい。
俺は彼女を救えなかった。それどころか偶然に助けられただけで親友のピンチに何もできなかった。
違う……たかしが悪いんだ……たかしがヤクザに騙されたりしなきゃ、しずくも死ぬことはなかった…。俺は悪くない……悪くないんだ。
そうだ……。俺は……たかしを……
「たかし…許さない」