悟空の正体~絶対に乙姫を取り戻す!~
【 2050年 信孝22歳 藤田浩正 32歳 正利20歳 悟空・精神世界 龍宮城・結婚式会場 】
『ついに来たか。これは俺が『全次元』に飛ばされる原因になった、俺と乙姫の『結婚式』の日だ。ここで結婚式の直前に、城は消し炭にされ、俺は『全次元』に飛ばされたんだ』
ついに、目的だった結婚式の日まで来た。もちろん、ここまでの情報だって無駄じゃない。
悟空が超魔神を倒し、乙姫に惚れられたこと。乙姫が『バグ』を龍神拳で倒し、悟空に惚れられたこと。
そして二人で愛を燃やし、バグのボス『バグウイルス』を浄化したこと。
どれもかけがえのない二人の愛の歴史だからな。
だが、ここまでは悟空が覚えていたことだ。インの見立てでは『思考コントロール・チップ』によってプロテクトがかかってる、悟空も知らない領域に、悟空が-∞になるための秘密があるという。
それが何なのかはわからない。ラプラスとの間に何かがあったのか?それとも結婚式で、乙姫との間に何かがあったのか?
俺たちは、式場の控室に来ていた。
控室には、『この時間』の悟空がいる。見た目は猿の姿に袴を着た感じだ。
『『バグウイルス』との戦いの後、龍神王は俺と乙姫の功績を認め、俺たちの結婚を認めた』
『だが、それと同時に『極災』が本当に訪れるもことも認めた。だから、『救世の龍神騎士』と『龍神の巫女』が力を合わせるため、俺たちの結婚式を急いだんだ』
悟空がそこまで言った、まさにその瞬間、俺たちがいた建物が『消えた』。
まるで最初から何もなかったように消失し、俺たちは何もない原っぱにいた。
「な、何だ?何が起きた?ラプラスの仕業か?けど、こりゃどう見ても消し炭って感じじゃないぞ。ただあったはずの『城が消えた』。そうとしか表現できない」
この時間の悟空だけでなく、俺たちの時間の悟空もこの事態に驚いている。どうやら、『城の消失』は悟空の記憶にないらしい。
「確か城が消し炭になったって言ってたよな?この事態はお前の記憶とは違うのか?」
『そうだな。ラプラスがやったのか、太上老君がやったのか知らねえが、オイラの記憶は改竄されているらしい』
ということは、ここから起きることが『-∞』になるために重要な、悟空の『欠けた記憶』ってことだ。
「なるほど。じゃあ、ここからが勝負だな。過去のお前がどんな目にあったのか、一緒に見届けようぜ。もう一度、乙姫を救うためにな!」
『ああ、そうだな。-∞にさえなれれば、もう一度TTRAWに来られるんだ。今のTTRAWがどうなっているのか不安ではあるが、∞と-∞の力がありゃあ、どうにかなるだろう』
∞と-∞の力があれば、時間を戻すこともできる。そもそも悟空はTTRAWを作り直すこともできるんだ。
未来のTTRAWがどうなっていようが、基本的に乙姫を助ける方法はあるはずだ。
俺たちが話している内に、場面が変わる。どうやらこの時間の悟空が乙姫の元へ向かって走り出したらしい。
『なんでぇ、こりゃあ……』
この時間の悟空がたどり着いた先には、寂れた村があった。住人は十数人ってところか?藁ぶき屋根の家が数軒建っている。
城の建っていた場所に村?一体、どういうことだ?城が村に化けたなんて、そんなことあるか?
『こいつは……どうなってやがる』
「『覚えてる』のぉですね。やはぁり貴方は危ぃ険です」
「私たぁちが『プログラム』を書き換ぇたせいで、『城は村に』『龍神王は村長に』『龍神の巫女は村娘に』なぁったはずなんですけどねぇ」
プログラムを書き換えた……?どういうことだ?TTRAWは現実世界のはずだ。世界のプログラムを書き換える……?
ラプラスには、そんなことが可能なのか?
「我々ぇは、この行き詰ったTTRAWを何とぅか進化させよぅとして、敢えて世界に『致命的なバグ』を入れたぁのです」
「それぇが、『孫悟空』貴方でぇした。当然、そんなことをする上で賛成派も反対派もいまぁした。貴方という『バグ』を入れるせいでTTRAWが滅びるかぁも知れませんでぇしたからねぇ」
「実際、貴ぁ方は、超魔神戦で一度TTRAWを滅ぼしぃてしまいました。そぉして、貴方の『抜け毛』から生まれた『バグウイルス』のおかげぇで、もう一度滅びかけまぁした」
「賛成派は、貴方が強くなることがTTRAWの進化だと言って、『浄化する者』の資格を与えまぁしたけどね。反対派は強硬手段にでたぁのです」
「つまり、TTRAWに直接乗りこんで貴方を消してしまぁえとね」
話についていけない。ともかくラプラスは、いやラプラスの一味は、TTRAWをプログラムとして扱うことができ、どんな変化も起こせるらしい。
それで、TTRAWを進化させるために『致命的なバグ』を入れたけど、TTRAWが滅びたりしたので、改めて消去しに来た……。
でも、それだったら城みたいに、悟空というプログラムを消すだけじゃダメだったんだろうか?この時点で悟空はTTRAWから独立した何かになってたってことか?
この時間の悟空は、ショックを隠しつつラプラスに対して不敵な笑みを浮かべた。
『なるほどな。色々聞かされたが、あんたがオイラを殺そうってんなら、要するにあんたを倒しちまえば、すべて片付くってわけだ』
「私をぉですか?さすがに、プログラムでしかない貴ぁ方が人間の私を倒すのは、難しぃんじゃなぁいでしょうかね?」
ラプラスがそう言った瞬間、悟空の周囲からあらゆる物質が『消えた』。
「『虚無』空間を作りまぁした。虚無空間は、あらゆるデータを0に戻しまぁす。そして、TTRAWの存在でぇは、そこから外界へのアクセスは不可能でぇすよ」
虚無空間の中の悟空が悲痛な表情になる。悟空の細胞が数字の0に変換され始める。やはりこのTTRAWは作られたプログラムなのか?
『こ、こんなところで消えるわけにはいかねえ』
悟空がそういうと、悟空の中からすさまじいエネルギーが溢れ始めた。
「これは……!!龍神子の『資格』と生まれ持った『才能』をすべてエネルギーに変えよぅと言ぅんですか。そこまでして一体なぁにを」
虚無空間に『ドア』が現れた。あれは……!!未来で太上老君が使っていた。全次元とTTRAWを繋ぐ『ドア』だ!!
『残念だが、ここは一時撤退する!!覚えてろよ!必ず、戻ってきて、お前を倒し乙姫を助けてみせるからな!!』
「ふぅん、乙姫ですか。さっきも言いましたが、彼女のデータは『龍神の巫女』から『村娘』に書き換えました。当然、生まれたときから村娘として育って記憶しか持っていません。貴方のことなど忘れてますよ」
『くっ……そうかよ。だが、関係ねえ!!それならそれで、最初から仲良くなってやるぜ!!』
そういうと、悟空はドアをくぐり、『全次元』へと移動した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺たちは、真っ暗な空間にいる。まだ元の『賤ケ岳・次元』に戻っていない。精神世界から抜け出す条件を満たしてないってことか?
とにかく、話を整理しよう。
「つまり悟空の『欠けていた記憶』ってのは……」
1.悟空はTTRAWの致命的なバグで『反対派』によって消されかけた。
1.乙姫が『村娘』に変えられ、悟空のことを忘れている。
「ってのがメインか。これを思い出したことで、-∞になれそうか?」
悟空は虚空を見つめて俯いたままだ。事実を飲み込むのに苦労しているのかも知れない。
確かに、恋人が自分を忘れてるってのは辛い話だよな。
『許せねえ……』
『オイラはオイラを許せねえぞ!!何だ!あんなやつに負けて、乙姫の記憶を消されたのに逃げるしかなかったなんて!!』
悟空の周囲を黒いオーラが包む!!
『オイラがバグだってんなら、大いにその力を発揮してやろうじゃねえか!!』
そういうと、悟空の体が0と1の集合体になっていく。
「お、おい!それ、大丈夫なのか!?」
『ああ、もちろんだ。なるぞ俺は!-∞もバグウイルスも超えた究極のバグ……。そうだ!マイナスのバグ、『-バグに!!』。
『触れたものをすべて、不規則な0か1に変える。もちろん全次元だろうとTTRAWだろうと、何でもだ!』
『そうはさせないよっ!!』
そう叫んで、それまで大人しくしていたインが、悟空に抱き着いた!!
『貴方は愛を取り戻した!!それを暴走で台無しにしちゃ駄目だよ!!』
インの体の体の一部が0と1に変換されそうになる。俺はたまらず、インの体を抱きしめた!
「イン!確かなんだな!?記憶を取り戻したことで、悟空の愛は進化した。記憶が欠けていた状態よりも、より乙姫への愛が深まったんだよな?」
『もちろんだよ!悟空が、全次元に来る前に言ったでしょ!『忘れられてても、また最初から仲良くなる』って!悟空の想いはそれだけ強いんだよ!!』
「だったら!進化するんだ!!『-バグ』の黒い憎悪を持ったまま、愛を燃やせ!!乙姫への愛で、憎悪をコントロールしろ!!」
俺たちの言葉で、それまで悟空を覆っていた黒いオーラに、白いオーラが混じり始めた。
『そ、そうだ。オイラは……戻って……乙姫を助けないと……敵はラプラスだけじゃねえ、太上老君だって、何をしでかすかわからねえんだ!オイラ……オイラが戻らないと!!』
黒と白のオーラが渦となって悟空を覆う。そして、周囲に強烈な黒い光を放って……収まった。
『完成だ。憎悪と愛を纏う戦士、『悟空・-バグ』ここに誕生した!』
進化した悟空の姿は思いの外、シンプルだ。猿の体に中国風の漆黒の武道着と黒いズボン、真っ黒な腹巻きを身に着けている。
色は違うが、三蔵たちと旅してたときと同じ格好だな。
一方で、頭には真っ白な『輪』が嵌っている。あれが憎悪をコントロールする愛の象徴なんだろう。憎悪に飲まれそうになったら、きつく締まるのかも知れない。
それを見たインが飛び跳ねて喜ぶ!
『やったね!悟空!!これで乙姫さんを救えるよ!』
『ああ、だが油断はならねえ。ラプラスと、『反対派』のプログラマー達、何をやらかすかわからない太上老君、どいつも油断できるような相手じゃねえからな』
『お前たちの力も、相当借りることになるだろう。問題ねえか?』
悟空はこれまで心を許し合った人間が少なかったようだ。三蔵や八戒、沙悟浄とはうまく付き合っていたのかもしれないが……。
だが、俺たちと悟空は過去を見て、その心の深淵を覗いた。もはや俺たちは他人じゃない。
悟空のため、共に戦うのは当然だ!!
「我々も、異存ありませんぞ」
「ああ、悟空もまた稀代の英雄だ。その戦いぶりを私も見たい」
正利と藤田も同意してくれた。よし、じゃあ悟空とインの力を使って、TTRAWに乗り込もう!!
そう思った瞬間、俺たちは悟空の精神世界からはじき出された。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2050年 信孝22歳 藤田浩正 32歳 正利20歳 賤ケ岳・次元 】
そして、俺たちは『賤ケ岳・次元』に戻って来た。周囲には相変わらず『何もない空間』が広がっている。
「よし、悟空とインが『TTWAW』へ渡る力を手に入れたんだから、一刻も早く向かおうぜ」
俺がそう言った瞬間、俺たちの目の前に『扉』が現れた。
見覚えのある扉だ。ついさっき精神世界で見た。『全次元』と『TTRAW』を繋ぐ扉……!!
だが、あれを作るには全次元を吸収するほどのエネルギーが必要なはず。
いや、TTRAWのエネルギーは全次元の三乗だという話だ。全次元を100とすれば100万だからな。こちらへの扉を開けるやつがいても不思議はない。
だったらどうして、これまでラプラスがこっちにこなかったんだって話になるけどな。
俺が考えを巡らせていると、突然扉が開いた。中から人が出てくる……!!
「何だと!?.お、お前たちは……」
扉から出てきた人たちを見た俺は、驚き 固まってしまった。
そんな俺を見て、扉から出てきた四人の男女は、勢いよく名乗りを上げた。
「僕は、青龍の焼き印 ハルナ王国:魔術騎士団・団長 ツバサ・プレリア 能力は『遺伝子改造』」
「俺は、白虎の焼き印 尾張の神王! 織田信秀だ!! 能力は『音波』!」
「わ、私は、朱雀の焼き印 本願寺法主、本願寺証如です。能力は『未来の武器を予知』することです」
「我は、玄武の焼き印 島津の鬼 島津義弘だ。能力は『死霊捨て肝』」
つ、ツバサに信秀に証如に……島津義弘!?
な、何でここに、というかどうやって『賤ケ岳・次元』に入ったんだ?ここには次の『創世神』候補しか入れないって話だったんじゃ?
あまりの混乱に、俺は膝をつきしゃがみ込んでしまった。そんな俺を見下ろして、ツバサが口を開いた。
「ラプラス様のご命令で、君たちを倒しに来たんだ」
ツバサがラプラスの命令で!?いや、待てこのメンバーは『四神の焼き印』を押された奴らだ。
そいつらが、そろってラプラスに従ってる?
ツバサはハルナ姫を悟空に殺されて恨みがあるかも知れないが、信秀や証如に恨まれる覚えはない。むしろ聖王として慕ってくれていたくらいだ。
「お、お前たちはラプラスに従っているのか?一体、何故?そもそも、やつは全次元に干渉できるのか?」
「何で、だって?そんなの決まってるよ。僕達は、みんなラプラス様の偉大さに気付いたんだ」
「僕らの脳に埋められている『チップ』はね、ただ僕たちに能力や知識を与えるだけでなく、ラプラス様の素晴らしさを教えていただけるデータが入ってたんだ」
「だから僕たちは、偉大な存在に逆らう愚かさ、そして、僕たち羽虫同士で争うことの愚かさも知ることができたんだ!!」
「そうさ!ラプラス様がすべてを支配すれば!この世から悲しみは無くなる!!」
ツバサは、自分の言葉に酔ったような表情で、演説し続ける。
どう見ても俺の知ってるツバサには見えないな。あの、いつも冷静で、とてつもなく気が利いて、少しだけ怖がりのツバサと同じには見えない。
それも素晴らしさを教える……洗脳プログラムみたいなものの影響ってことか。
つまり元々ラプラスは、『全次元』に逃げた悟空を倒させるために、戦国時代ではあり得ない知識が入ったチップをツバサ達四人の脳に埋め込んだ。
そして、もし四人が想定と違う動きをしたときのために、遠隔で発動できる洗脳プログラムをチップに仕込んでいたんだな。
しかし、だとしたらまずいぞ。俺はできればこいつらを殺したくない。だがそんな気持ちで戦っていたら、隙をついて殺されるかも知れない。
「これ以上、君たちに勝手はさせないよ。この世から悲しみを消す、ラプラス様の理想を邪魔させるわけにいかないんだ!」
「待て、悲しみを消すってのは、何なんだ?どうやって、そんな状況にするつもりだ?」
「もちろん!そこの悟空が今目覚めた能力を奪うんだよ」
悟空が目覚めた能力……って、あらゆるものを『不規則な0か1に変える』にとかって能力か?
全てを0か1に変えることで、この世から悲しみを無くす……?
「その能力があれば、あらゆるものを0と1に置き換えられる。つまり、現実世界である全次元を、プログラムに変えてしまうことが出来るんだ」
ぜ、全次元をプログラムに変える……?
「そのプログラムを書き換えることで、ラプラス様は全次元から悲しみを無くし、完璧に管理することができる」
「そして全次元から得られたエネルギーを使い、『プログラマー』同士の権力争いにも勝利する」
「そうすれば、全次元だけじゃない!TTRAWにも永遠の平和が約束されるんだ!」
俺はツバサの演説を聞き、ラプラスの企みに怒りを覚えていた。
何が悲しみのない世界だ。ツバサの話が本当なら、やつが作ろうとしてるのは、ただの『管理しやすい』エネルギー源じゃないか。
何が素晴らしい世界なもんか。やつは自分が管理しやすいように、愛も怒りも悲しみも無くさせた、感情のない世界を作ろうとしているんだ!
この全次元を、感情の消えた管理社会になんか、させないぞ!
俺は考える。こいつ等をこのままにしちゃいけない。助ける。チップをどうにかして、人格を元に戻してやらなきゃいけない。
そのために、考えられる方法は一つ。悟空の能力で、洗脳プログラムが入ったチップを『0と1』に分解することだ。
そうすれば洗脳から解放されるはず。
音波を操る能力や、武器を予知する能力は無くなるだろうが、そんなことを言っていられない。
俺は立ち上がり、ツバサ達を指さして言った。
「よし、いいぜ。敵を助け、敵を愛するのが俺の戦い方だ!」
「俺のすべてをかけて!!お前たちを救う!!」
俺の言葉に対し、四人は手のひらを天にかざした。
「「「「降臨!!」」」」
四人がそう叫ぶと、天からいくつかの『パーツ』が降りてきて、瞬く間に『合体』した。
そして、『戦隊もの』を思わせる、巨大なロボットが完成した!!
ロボットから光線が出て、四人を取り込んだ。なんだこれは、これが四人の切り札なのか。
「「「「完成!!全次元合体、『皇・大和』!!!」」」」
全長が富士山ほどもある、その『合体ロボット』を見上げながら、俺は四人とどう戦いどう助けるかに思いを巡らせていた。