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賤ケ岳の戦い1~これ以上誰を愛せって言うんだ?~

【 2050年 信孝22歳 藤田浩正 32歳 正利20歳  近江国 伊香郡 賤ケ岳 頂上 】


「さてさてさてさて!!全次元の皆さん、お聞きになってますでしょうか!カメラ娘のカメコでございます!」


「神界出身の方々はご存じでしょう!その他の宇宙・次元の方は初めまして!」


「今回はわたくしが、全次元の運命をかけた!松平信孝さんと孫悟空の戦いを、実況中継させていただきます!!」


「なお、この放送は『全次元神』国光命の能力で、全次元に放映されております!」


 今回、全次元の運命をかけた戦いを行うと聞いて、『神界』の実況者『カメコ』が、実況と解説に名乗り出てきた。


 彼女のスキル『四次元中継カメラ』は、『球』から半径5km以内のあらゆる角度からの映像と音声を神界全体に見せることができる。


 今回は国光命の能力でカメコの力を強化し、映像を全次元に送ることができるようにしたわけだ。


「わーい!ここが賤ケ岳?」


 インはそう言って、はしゃいで周りを見渡す。


 ここは標高421m賤ヶ岳の頂上だ。眼下には海かと見間違えるような巨大な湖が広がっている。琵琶湖だ。


 すでに次元構築師は、ゲートを開く作業に入っている。つまり後10分ほどで全次元の運命をかけた戦いが始まるんだ。


 戦いを前に、俺の目は次元構築師達の作業を見つめている。そして、正利と藤田の意識も、同じものを見つめていることに気づいた。


 そして、俺の緊張を感じ取った正利が、俺の意識に強い決意を込めた言葉を送って来た。


「信孝様、わたしはこれまでずっと信孝様についてきました。そしてこれからも一生離れることはありません」


「信孝様と私と、藤田殿 三人の絆によって!我らの筋を通して見せましょう!!」


 俺の心が奮い立つ。そこで、今度は藤田が、強い決意を込めた言葉を送って来た。


「信孝よ。これまで私が見てきたどんなヒーローも『全次元を救う』ほどの奇跡は起こさなかった」


「私たちがやろうとしていることは、『全次元で最高の奇跡』だ!!信孝と私、そして正利兄貴の愛で、これまで誰も見たことのない『最高の奇跡』を起こしてやろうではないか!」


 俺の心が震える。合体したことで二人の想いがダイレクトに伝わってくる。


 二人の決意に背中を押されて俺の中に勇気が燃えあがる!そうだ!三人一緒ならなにも怖くはない!!


 俺は二人と、自分の想いを込めて叫んだ!!


「俺たちの愛は全次元で最強だ!!」


 そうやって、俺が覚悟を決めたところで、いつの間にか隣にいた国光命が話しかけてきた。


『ふむふむ。相変わらず仲が良いようで、わらわとしては最高なのじゃが……』


 国光命は俺を見て、相変わらず嬉しそうにニヤニヤしている。俺たち三人が精神内でやっていたやり取りが、こいつには聞こえているらしい。


 そんな国光命を見て、俺がため息をつくと、突然国光命の表情が引き締まった。どうやら真面目な話をするつもりらしい。


『悟空のやつと戦う前に、一つアドバイスをしておこうと思ってな』


「アドバイスだって?あいつに勝つ作戦でもあるのか?」


 そんなのがあるんだったら、教えて欲しいもんだ。何しろ、全次元の運命がかかってるんだからな。勝率を上げる方法があるなら、何でも使って行くべきだろう。


『うむ。改めて言うまでもないが、この戦いでは、∞の能力が鍵となる。インとどれだけ絆を結べるかによって、勝敗は大きく分かれるじゃろう』


「そりゃあそうだろうけど、そんなのは分かってることだろ?具体的にどうすりゃ仲良くできるんだ?」


『そこじゃ。まずお主たちの力の本質は愛にある。そして∞の力の源は愛じゃ。つまり、お主たち三人が、今以上どれだけ愛を育めるかによって、インとの関係も変わってくるのじゃ』


「俺たち三人がどれだけ愛を育めるか?」


 俺たちの愛は、もはや全次元最高というところまで高まっている。それをさらに高め、そしてイン自身とも愛し愛されなければ、∞の本当の力は出せないってことか。


『じゃが、それを為しえたとしても、まだ足りぬ』


 正利と藤田と今以上に愛を育み、インと愛し合って、それでもまだ足りないだって?


「どういうことだ!?まだ足りないって……一体に他に誰を愛せって……」


 俺がそこまで考えたところで、全次元にカメコの声が響き渡った。


「皆さんお待たせいたしました!ついに!次元構築師によって、賤ヶ岳・次元に通じるゲートが開かれました!!」


「信孝さん!悟空さん!それでは『賤ヶ岳・次元』に移動してください!!


 俺は国光命に最後の質問をできないまま、カメコの言葉に従って、『賤ケ岳・次元』に入っていった。


【 2050年 信孝22歳 藤田浩正 32歳 正利20歳  賤ケ岳・次元 】


 ゲートをくぐると、そこには何もない空間が果てしなく広がっていた。何だ?ここは?


 『n座標の迷宮』も相当異質だったが、ここはまだ別の恐ろしさがあるな。


 そんな風に考えていると、悟空がこの次元について説明してくれた。


『ここは、全次元を最初に作った『全次元神』が、次の全次元神を決める試合をするためのフィールドとして作ったらしいぜ』


「次の全次元神を決めるフィールド?というか、何でそんなこと知ってるんだよ」


『俺は全次元を掌握したからな。知らねえことはねえぜ。『Mother』のことだって、本来なら誰も知るはずのない情報だしな』


 なるほど。悟空は全次元を掌握していて、あらゆる知識がある。そして、恐らくは吸収しようと思えばいつでもできる状態ってわけか。


 あくまで戦いを楽しみたいだけで、俺と勝負することにしたってことだな。


『さーて、じゃあ始めようぜ。お前の全次元一の愛と!!オイラの全次元一のパワー!!どちらが強いか、『戦って』決めるんだ!』


「ああ。だが、俺たちの愛は!無限だ!!お前が‐∞次元だとしても、俺たちの愛に叶うはずもない!」


 俺たちが叫び合う中、インも俺の手を握りながら悟空に向かって叫んだ。


「パパはすごーく強いんだもん!絶対に負けないよ!!」


 俺もインの手を強く握る。彼女を愛することが、この戦いの鍵だ。この手のぬくもりを大切にしよう。彼女の想いを、できるだけ汲み取らなければ……。


『まずは次元三つだ!これくらいは避けてくれよ!!』


 そう言うと悟空は、『5次元』を三つ『生成した』


 そして、その三つの次元を圧縮して、野球のボールほどの大きさに固めた。


『へへへ、昔使ってた『宇宙圧縮』の応用技『次元圧縮』だ。こんな小さなボールだが、ぶつかれば『超次元極爆』3つ分の破壊力があるぜ』


 超次元極爆は、星の超新星爆発のように、『次元』が消滅するときに起こる爆発だったか。それが3つ分、小さなボールに超圧縮されている……。


 食らった場合はもちろん、どこかにぶつかっても5次元3つ分の『超次元極爆』が起こってしまう!!


「俺たち三人がどれだけ愛を育めるか……」


 俺はインとつないだ手に力を込める。そして正利と藤田に向かって叫んだ。


「見せるんだ!俺たちの愛を!!インを本気で愛するのはまだ難しいが、俺達の愛を見せることはできる!!」


 俺の言葉に二人は待ってましたとばかりに、俺への愛をぶつけてきた!


『正義!』『筋!』『英雄!』『奇跡!』


 その愛のエネルギーが、俺の手のひらを伝ってインに流れ込む!!


「ふあああぁぁ~~!!」


 インの俺と繋いでいた手が赤く輝き始めた!!


 インが手を振りほどき、拳を固めて『次元玉』を殴りつけた!


「インフィニティ・ラブリー・ぱぁーーーーんち!!」


 次元玉は愛の力をぶつけられ、力を失って消滅した!


「よ、よし!よくやったぞ、イン!!」


 褒めた俺に対して、インはにっこり笑って返した。


「えっへん!でも、パパたちのおかげだよっ!」


『なるほどな。面白え!俺が複数の次元で球を作れば、おめぇらは、愛で『∞次元』を強化する』


『それじゃあ、ちょっと本気をだしてやろう。次元の数をギリギリまで増やすぞ。避けれるなら避けて見ろ!!』


 そう言って、悟空は5900個の次元を産み出して、それらのエネルギーを吸収した。


 そして、そのエネルギーの全てを一本の棒に込めた。


『伸びろ!如意棒!!』


 悟空は、如意棒を『賤ケ岳・次元』と同じ質量まで広げる!!どこにも回避するところがない!!


 次元・5900個のエネルギーが入った如意棒は破壊もできない!!


 俺が死ねば、正利や藤田も……いや、全次元が消滅する!


 そ、そうだインを……インさえ守れば、きっと何とかできるはず!!


 俺はとっさにインを抱きかかえる。


 そのとき、インの意思が俺の中に流れ込んできた。


『座標を変えて』


 座標を変える?


 そうだ。俺はn座標の迷宮で『神・信孝・愛』になったことで、座標を自在に操れるようになったんだ!


 だったら、転移で逃げればいい。


 し、しかし如意棒は『賤ケ岳・次元』全体を占めるように膨らんでいるんだぞ。


 もちろん『賤ケ岳・次元』を出るような転移もできない。


 待てよ、そうか!!あったぞ!ただ一つ如意棒の攻撃範囲に含まれていない場所が!!


 俺は、インを抱いたまま転移した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おいっ!油断したな!!俺たちはここだぜっ!」


『まさか、そんな回避をしてくるとは、面白えじゃねえか!!』


 俺は『座標操作』の能力で自分とインの体を縮めて、悟空の懐に転移していた。いくら如意棒を巨大化させても悟空の側なら安全だと考えたんだ。


 そしてまだ引っ付いたままだ。悟空の体に触れていれば、やつも攻撃しにくいはずだからな。


『ちっ。しょうがねえな!奥の手を使わしてもらうしかねえみたいだぜ』


『∞が『愛』の神技を使えるように、-∞は『憎悪』の神技を使えるんだぜ』


 そう言うと、空間に神パミスムに似た模様が浮かび上がった。


『神・悟空・∞虐待!』


 悟空がそう言うと、俺が抱きかかえていたインの周囲に黒い邪悪な次元が生成された。


 そして、それはインの意識と接続してきた!!


「な……、なんだこの次元は!?インに何をした!?」


『言っただろ『神・悟空・虐待』だ。お前たちの『慈』や『甘』が愛の感情に基づく技なら『虐待』や『無視』は憎悪の感情を与えるんだ。つまり、嬢ちゃんの愛を憎悪に塗り替えて力を使わせんようにするってことだ』


 つまり、今インは精神世界で悟空の『憎悪』による虐待を受けてるってことか!?


『今は嬢ちゃんが使いものにならねえ。あんただけの能力じゃ、オイラの攻撃を防げねえだろ』


 その台詞と共に、悟空の体が爆発した。悟空に引っ付いていた俺は当然爆風に飲み込まれる。


「がはっ……!!」


 く、ダメだこのままじゃ、爆風で燃え尽きて死ぬ!


 どうすれば逃れられる、どうすれば……転移か?ダメだ 爆風は、『賤ケ岳・次元』全体に広がってる。


 愛さなくちゃ愛をもっと、インをインを愛して、虐待から救って……。


「愛を!!」


 そう俺が叫んだと同時に、俺の体が輝きだす。変化が起きる、俺の細胞が作り変えられて……。


「変形完了!『神・正利・慈』!!」


「これは……私の手足が動く!?信孝様の中で意識を共有していた私が何故?」


 気がつけば『俺』は正利の中で意識だけの存在になっていた。


 まさか、意識の主導権が正利に移ったのか?合体にはそんな機能もあるのか。


 つまり、インの心を癒したいと俺が強く願ったことで、それが可能な正利に切り替わったってこととだよな。だとすれば、正利に任せるしかない。


「正利!今はお前が、俺たち三人の主導権を握っている!!お前が、『虐待』で心を壊されたインを救うんだ!!」


「な、なるほど!わかりました。ならば、我ら三人の慈しむ力を一つに!!『神・正利・慈』!!」


 正利はそう叫んでインの頭に触れた。


 正利の意識が、インの精神世界に入り込む。俺と藤田の意識も正利に引っ張られて、インの中に入っていく。


 そこでは、真っ暗な空間で、『靄』に覆われた悟空が、インを『虐待』していた。


 四肢は捥がれ、目は繰りぬかれ、東部にも穴が開いて脳をいじくったような跡もある。ここは精神世界だから、死にかけても治せるんだろうけど、心に負ったダメージまでは治せないだろう。


 俺の頭が煮えたぎりそうになる。だが、意識の手動は正利だ。正利の心には怒りと共に『慈しむ』心が確かにある。


「正利!藤田!助けるぞ!!インを!肉体だけじゃない!!心も!!ここは精神世界だ。いくらでも時間をかけられる!一億年かけて、インを癒してやる!!」


「了解です!!私の慈しむ心を見せましょう!!」


「ああ、私の甘える心もだ」


「育むぞ!!インも入れた4人の愛を!!!」


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