三人の想いが、ついに一つになった!!
【 2050年 信孝22歳 藤田浩正 32歳 正利20歳 地球 n座標の迷宮 】
藤田の『お願い』に呼応して、正利が対象の座標を『愛』にした『スーパー慈ゴッドなでなで』を発動させた。
空間が歪み、『座標のない空間』に『座標のない手』が生成された!
その『手』が、藤田の意識に伸びていき『撫でる』感覚を発生させた。
そして、藤田の中に気持ちよさと心がリラックスしていく感覚が生まれ、藤田はたまらず声を上げた。
「は……はああっ」
正利が藤田を撫でるごとに、藤田の中にある『負の感情』がすべて浄化されていく!
「あ、兄貴!私は『なでなで』のお陰で、子供の頃から心の中に開いていた穴を、埋めることができた!ありがとう……ありがとう!!」
もし『座標』があったなら、藤田は涙を流しているのかも知れない。よほど『なでなで』が効いたみたいだな。
『よしよし!いいぞ二人とも!!特に藤田の感情と声がたまらんのう!!何はともあれ、これで藤田の方も……』
国光命が意味ありげな言葉を発したところで、藤田の意識に変化が起こった。
藤田が微笑んでいる!それも、人をあざ笑う嘲笑ではなく、心からの笑顔だ!
『負の感情』が完全に浄化され、対象の座標を『愛』にした『スーパー甘ゴッドスマイル』が生まれた!!
空間が歪み、『座標のない空間』に『座標のない頭』が生み出された!!
そして『スーパー慈ゴッドなでなで』が『スーパー甘ゴッドスマイル』を撫でるたびに、二人の意識が革命的な共鳴を生み出していく!!
愛のパワーが『n座標の迷宮』全体を巻き込む大嵐を起こし、迷宮のもつ全ての愛が、二人の意識に吸い込まれていった!!
そして、二人の意識が覚醒する!!
――――システムメッセージ――――
『スーパー慈ゴッドなでなで』は『神パミスム慈』に進化しました。
『スーパー甘ゴッドスマイル』は『神パミスム甘』に進化しました。
お、おお!!二人が生み出した『手』と『頭』が神パミスムに進化しただと!?
『それだけではないぞ。今度は信孝の神パミスムも共鳴するはずじゃ』
国光命の言葉と共に、俺の神パミスムも二人に共鳴を始めた。
そして、二人と同じように、空間に『座標のないハート』が生成された。
その瞬間、俺たちの意識は無意識に言葉を放った!
「慈しむ心!神パミスム慈!!」
「甘える勇気!神パミスム甘!!」
「そして、燃え上がる愛!神パミスム愛!!」
3つの神パミスムの共鳴がさらに強くなる……!!
『手』と『頭』と『ハート』が一つになり……、巨大な爆発を起こした!!
そして、『座標のない空間』に『松平信孝』が生成された!!
「「「完成!!『神・信孝・愛』」」」
これは、『n座標の空間』に体ができたのか。これなら、座標が0だろうと1だろうと無限だろうと、そして『愛』だろうと触れるはずだ!
体は一つだが、精神は正利や藤田と共有しているみたいだな。何だかすごく不思議な気分だ。
「文字通り、信孝様と一つになれたという訳ですな。藤田殿も、これで寂しくはありますまい」
「私は最初から寂しがってなどいない。だが、まあこれは悪くないな。お前たちと一心同体というのは、なんとも穏やかな気持ちだ」
藤田は相変わらず素直じゃないが、ともかく三人の想いは繋がっている。今こそ『ここにある』という∞を手に入れる時だ。
俺は新しい肉体の『眼』をよくこらして、目の前をみた。すると、周囲の空間に淡い光を放つ球が浮かんでいるのがわかった。
これまでは『座標』が確かじゃなかったから見えなかったが、やはり『∞』はすぐそこにあったんだ。
そのとき、周囲の淡い光がそこらじゅうから集まり、光が人間の形に合体していった。
そしてその光から、8歳くらいの幼女が形作られた。袖とスカートにフリルのついた、真っ白なドレスを着ている。
『パパ!!』
そして、その幼女が俺の胸を目掛けて、まっしぐらに飛び込んできた。
「うわっ!な、何だ君は!?」
『インはね、インフィニティの『イン』だよ!!パパの力になるために生み出されたの!』
この娘が∞!?それに、俺の……パパってのは俺のことなんだと思うが、俺のために生み出されたってのは、どういうことだ?
つまり、俺たち三人の愛の力が『n座標の迷宮』に何らかの作用をして……、あの『淡い光』から、∞が生まれたってことか!?
いや、そこまでは良いとしても、∞が意思を持ち人間の姿をした幼女だなんて聞いてないぞ!?
『ねえねえ、インはね。パパのお手伝いをするために、すごい『ちから』を持ってるんだよ!』
「え?例えば、どんな?」
俺は言ってしまってから後悔した。相手は∞だ。しかも、善悪の判断がつかない幼女だ。能力なんて聞いたら、俺たちが想像もつかないような大惨事を起こすに決まってるじゃないか。
『あ、だったら見せてあげる!いくよーっ!せーのっ!』
『デリート・ディメンション』
インがそう言った瞬間、周囲のあらゆるものが崩壊を始めた。ま、まさか『n座標の迷宮』を消滅させる能力を使ったのか!?
自分が中にいる状態で!?馬鹿げてる!いや、子供だから仕方ないのかも知れないが……。
ともかく今は転移だ!元の場所に戻ろう!!
俺は『座標』の変化を念じる。『神・信孝・愛』になったことで、特定の座標から別の座標への転移が可能になった。
そして次元の数もまた座標だ。n次元のnの部分を変化させればいい。
俺は『三次元空間』の『深層心理の迷宮』に転移座標を合わせた。
『わっ!待ってよ~』
そう言って、インは俺の体に捕まって来た。まあ、しょうがないか。こいつがホントに俺たちが求めていた∞なら、悟空を倒す鍵になるはずだからな。連れていくしか、ないだろう。
こうして、俺たちとインは『n座標の迷宮』から『深層心理の迷宮』へと戻った。
【 2050年 信孝22歳 藤田浩正 32歳 正利20歳 深層心理の迷宮 】
目の前の景色が入れ替わり、しずくや茂たちがいる『深層心理の迷宮』が目の前に現れた。やっと、戻って来たんだ。
「ああ!たかし!!ようやく帰って来たんですね!もう心配しましたよ!」
そう言って、しずくが俺の肩を叩く。時間の感覚が薄くなっていて、向こうにどのくらいいたのかはわからないが、随分心配をかけてしまったらしい。
そうだよな。全次元滅亡の危機なんだ。いつ悟空が攻めてくるかわからないし、気が気じゃなかっただろう。
だが、今の俺はそんなことよりも気にしないといけないことがあるようだ。
「『神・信孝・愛』のままだ。正利や藤田との合体が解けていない!」
これは大変なことだ。こっちに帰ってくれば、あるいは悟空を倒せば合体が解けると勝手に思っていたんだが、もしかして死ぬまでこのままなのか?
そう思っていると、頭の中で正利の声が聞こえた。
「そうか、もしかして私が感じた『愛が深まるけど、よくないこと』とはこのことだったのかも知れません」
「ですが、これで信孝様が正義をなし、弱いものが虐げられる不条理を食い止め『筋を通していく』姿を誰よりも近くで見ることができるのです。私にとってこれ以上の幸せはありません」
『合体が戻らない』ことについて、正利の中には確かに恐怖がある。だが、俺の戦いを俺と共に見られることを本気で嬉しがっているのも確かみたいだ。
そうだよな。俺と正利の絆があれば、合体していてもやっていける。
「全く、まさか合体したまま解けないとは、本当にお前と一緒にいると退屈しない。だが、やはり二度と自分の意思で動けないのかと思うといい気分ではないな」
「最も、これでお前とは永遠に一緒だ。もう寂しがることはない。誰かに怯えることもない。そして、お前が起こし続ける奇跡の一端になれるのだ。これほど素晴らしいことはないだろう」
藤田もまた不安を抱えているみたいだ。でも、俺と奇跡を共にすることを嬉しいと言ってくれた。俺だって、こんなに嬉しいことは他にない。
そうだ。俺たちは愛し合い、心を一つにしたからこそ合体できたんだ。これから、何か問題が起きても、絶対に三人で力を合わせ乗り切って見せる。
俺がそう意気込んでいると、不意にインが声をかけてきた。
「ねえねえ、パパ!インの『ちから』凄かったでしょ!ほめてほめて!!」
インが俺に抱き着いて、褒めて欲しそうにしている。だが、『n座標の迷宮』はまだしも、この調子で今いる次元まで破壊されたらたまらない。
なんとかカドがたたないように言い聞かせなくてはいけないだろう。
「な、なあイン。聞いて欲しい。確かに君の力は大したもんだよ。でもね、その、使うには時と場所を選ぶべきだと思うんだ」
『時と場所?』
「あ、ああ。だって、インの力はとっても強いだろ?だから、むやみに使ったら誰かが困るかも知れないんだ」
『えー……?パパはインが『ちから』使ったら困る?インが『ちから』使ったら、迷惑かなあ』
インはうつむいて、目に涙を溜めながらそう言った。
「い、いや迷惑とかじゃないんだよ。でもね、インの力は強すぎて『役に立つ』場合と『困る』場合が極端なんだ。だから……」
「インが自分で『役に立つ』ときを判断できるようになるまで、俺が頼んだ時だけ『ちから』を使うようにしてくれないかな?」
インは顔をあげて、俺の顔を覗き込む。そしてしばらく考えてから笑顔になって、もう一度俺に抱き着いた。
『うん!分かった!イン、パパの役に立ちたいもん!ちゃんと、言われたときだけ『ちから』を使うことにする!!』
「あはは、ありがとう。インはいい子だね」
そう言って、俺はインの頭を撫でた。すると、俺の手とインの頭に淡い光が灯った。これは『n座標の迷宮』で集まってインの元になった光に似ているな。
「いつの時代も子供は可愛いものですな」
「何ともやっかいな者を仲間にしたものだな。下手なことを言えば、何をするかわからんぞ」
正利と藤田は対照的な反応を示した。正利は蜂須賀党で年下を育てていたこともあって、子供には寛容みたいだ。
一方の藤田は……桃に対しては寛容なんだけど、よその子供にはそうじゃないみたいだな。
「とりあえず、話はまとまったみたいですね。では、いよいよ悟空との決戦ですよ!」
そうだ。俺たちは悟空を倒し、全次元が吸収されるのを防ぐため、『n座標の迷宮』で∞、つまりインを仲間にしたんだったな。
できれば、悟空と戦う前にインとの連携とかを練習しておきたいところだ。大人と違って指示を通すのが難しそうだしね。
俺がそんな風に考えていると、突然『次元そのもの』が大きく振るえた。まるで、全ての次元が崩壊しようとしているような、絶望的な振動だ。
これは、まさか悟空が全次元を吸収しようとしているのか?
俺はとっさにインに向かって叫んだ!
「イ、イン!今すぐこの振動を……」
『いや、それには及ばねえぜ』
俺の目の前に、一匹の猿が立っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しかし、とてもじゃないがただの猿だとは思えない。いまや神・信孝・愛となり、インを仲間にして、あらゆる次元を超えるパワーを手に入れた俺でさえ、この猿を前にすると強い恐怖を感じる。
ただ見つめているだけでも、臓腑が抉られ、脳をかき混ぜられるような気持ちだ。
「お、お前は……悟空なのか?どうしてここに……?」
俺が怯えながら質問すると、悟空は『ニヤッ』と怪しい微笑みを浮かべた。
『オイラがどうして、ここに来たかだって?』
そして、指を一本立てて空に掲げ、オーバーな動きでまくしたてた。
『そいつは!もちろん!!オイラが戦闘狂だからさ!!』
「ば、バトルジャンキー?それはどういう意味だ」
俺がそう言うと、悟空は空に向けていた指を俺に向けて『いいか?』と言った。
『全次元を吸収したら、一瞬ですべてが終わるんだ。そしたら、もうオイラは誰とも戦えないんだぜ?』
『オイラはな。際限なく強くなるように『プログラム』されてんだ。だから全次元を吸収することは、オイラが止めようとしてもできねえ。そう作られてるからな』
『けどよう、オイラは強さを求めて戦う中で、戦いの楽しさを知ったんだよ。そしてオイラは戦いにのめり込みやめられなくなった!』
『だから、戦う相手のいる全次元を、一瞬で消すなんてもったいねえ。消すにしても『最後のバトル』を楽しんでからにしてえと思ったんだ』
悟空の話は何となくわかった。つまり、全次元が消え、戦う相手がいなくなる前に、最後の思い出として、最高のバトルを楽しみたいということらしい。
『で、そしたら相手はあんたしかいねえだろう。俺は『-∞次元』になった。『-∞』を手に入れたからな。これに対抗できるのは『∞』を仲間にしたあんただけだ』
『俺を倒せば全次元は助かる。俺が勝てば全次元はお終いだ。全次元の運命をかけた一発勝負!面白いと思わねえか?』
悟空の申し出はともかく、全次元が吸収されるのを防ぐためにはどっちみち、戦うしかない。
けど、決闘のような形で戦うなら、被害は俺と悟空だけにして、関係ない人を巻き込まないように要求できるかも知れない。
勝利の報酬が全次元の平和なのに、俺たちの戦いで破壊してしまったら意味がないからな。
「それで、どんな条件で戦うんだ?どっち道、戦うのは決まってるんだから、細かい条件を決めようぜ」
俺は決戦に乗り気な様子を見せた。上手いこと、余計な被害が出ない決戦場を提案したいところだ。でも候補地なんて思い浮かばないんだよな。
『決戦の場は、もちろん運命の地『賤ケ岳』だ!そこから、次元構築師によって作られた、『賤ケ岳・次元』で戦うことになる』
「『し、賤ケ岳・次元』!?それに運命の地って???」
『賤ケ岳には、『最初の次元』を産み出した、始まりの石『Mother』が埋まっている。こいつを手に入れれば全次元を好きに作り変えることができる。∞や-∞の力が無くてもな』
『一度吸収した全次元を再び創造し、また吸収することも可能ってわけだ』
悟空がとんでもないことを言いだした。全次元を創造して、もう一度吸収する?それを永遠に繰り返すのか?
まずい、ここで悟空を食い止められなかったら、全次元は悟空が強くなるためだけに創造されては吸収されるだけの、道具になってしまう。
戦って、倒すしかない。全次元の未来のために、俺たちの未来のために!!
「分かった。その条件でいいだろう。決戦だ!俺たちの愛を見せてやる!!」