正利と藤田~恋の秘訣はなでなでだ!~
【 2050年 信孝22歳 藤田浩正 32歳 正利20歳 地球 n座標の迷宮 】
「待て待て待て、落ち着け!!何でお前は、こう男同士となると……いやまあいい」
俺は、テンションが振り切っている国光命を必死になだめようとした。
だが、国光命は『フィーバーじゃ!』と叫び続けて、おさまらない。
そこで、俺は咳ばらいをして、一旦落ち着いて考えた。まあ、『喉』の座標はわからないので、咳ばらいをしたつもりというところだ。
ここは、下手に国光命のテンションを下げるより、盛り上がっている内に、ヒントを聞いた方がいいかも知れないんじゃないか?
そう考えた俺は、『正利と藤田が愛し合う』方法を国光命に聞いてみた。
「正利と藤田が恋すれば、『n座標に触れる』スキルが使えるとして、この状況でどうやって二人に恋させるんだよ?」
『ふっふっふ、そう来ると思っておったぞ!安心して、ここはわらわに任せるのじゃ!!』
『わらわの力で、見事 最高のシチュを作り出してみせようぞ!!』
その言葉を聞いて、俺たちはさらにげんなりする。
正利と藤田が愛し合わなきゃいけないのは確かだが、国光命の策に乗っていると、何だか取り返しのつかない沼に引きずり込まれているような危険な感じがする。
そんな俺たちの様子を無視して、国光命は『最高のシチュ』とやらを考えているようだ。
『では、まず!!チキチキ『信孝のどこが好き』のコーナー!!』
「信孝様の」
「どこが好きのコーナーだと?」
正利と藤田が呆れた声で、国光命の台詞をオウム返しした。
『そうじゃ、まずは小粋なトークで仲を深めるところからじゃ。そのために、二人にとって最も身近な、『信孝』について話してもらうのじゃ!』
俺たちは呆気にとられていた。だが、国光命はBLソムリエだ。もしかしたら、ホントに二人を愛し合わせるために言っているのかも知れない。
だったら、全次元を救うため、従ってもらうしかないか。
「正利、藤田、国光命の言ってることは冗談のように聞こえるかも知れないが、恐らく現状を突破し∞を手に入れるための突破口になるはずだ。何とか、従ってみてくれないか?」
二人が『顔を見合わせた』気がする。もちろん、座標が無いので表情はわからない。だが、『愛そのもの』で繋がっている影響か、何となく二人の感覚がわかるのだ。
「別に構いませんが、『信孝様のどこが好きか』ですか。ふむ……。多すぎてまとめ難いですが、頑張ってみましょう」
そう言って、正利は少し時間をとって考えをまとめ、『信孝のどこが好きか』について話し始めた。
「やはり、私が愛するのはどんなにボロボロになっても、打ちひしがれても立ち上がり、愛を燃え上がらせ、最後には敵を倒す。その『英雄像』ですね」
俺はこれまで正利と、ずっと一緒に戦ってきた。だから情けないところも随分見せたが、それも含めて愛してくれているのはありがたいことだ。
まあ、改めて口にされるとすごく恥ずかしいんだけど。
そう思っていると、今度は藤田が強い口調で自分の『信孝のどこが好きか』を伝えてきた。
「待て、信孝の魅力はいつ何時も奇跡を起こし続けることだ!誰にも乗り越えられない困難を、誰もできない 思いつきもしない方法『奇跡』であざやかに、きらびやかに、カッコよく突破する姿だ。その雄姿に!私は魅了されたのだからな」
藤田は、ちょっと盲目的に『奇跡のヒーロー』を推してくる。やつの前で奇跡を起こし続けたのは確かだし、これからも起こしていくつもりだけど、ちょっと思想が行き過ぎてる気がして心配だ。
自分の言葉に酔いしれる藤田に対して、正利も少し心配しているみたいだ。仲間内では一番気が利く男だからね。
「確かに、信孝様があざやかに、きらびやかに奇跡を起こしていく姿は美しい。けれど、追い詰められ、這いつくばる姿もまた美しいのだ。そして、その困難があってこそ、奇跡は本当の輝きを見せる」
正利の言葉に、藤田も納得した様子を見せる。
「ふむ、なるほど。確かに苦難と戦う姿も美しいのだろう。私も是非見たいし、惚れ直すことは間違いない。だが、私が最も愛する姿は、やはり奇跡を起こし続ける、あの姿なのだ!」
「まるで物語の勇者のように!私の心を、強く掴んで 決して離さない!!」
藤田の言葉を聞いて、正利は深く考えた。これまで俺と出会ってからのことを思い返し、藤田にかける言葉を探っているようだ。
藤田の『奇跡』への妄信そのものは認める。だが、あまり行き過ぎて藤田自身が『おかしなことにならないよう』適切なアドバイスを探しているみたいだ。
そして、言葉を発した。
「奇跡は……」
そう言いかけた瞬間、俺の意識がガクンと揺れた。
な、何だ!?この座標のない世界で『攻撃を受けた!?』一体、誰がどうやって?
『∞じゃな。どうやら、しびれを切らしたらしいのう』
「∞が攻撃してきた!?どういうことだ!!」
『この『n座標の迷宮』に入ってしばらくしても、∞を手に入れられなければ、∞は対象者を排除する、ということじゃよ』
∞は、∞を手に入れられない者を排除する!?聞いてないぞそんなこと!!
『何はともあれ、急がんとまずいのう。ほれほれ、正利に藤田よ。信孝の危機じゃぞ。もっと『愛を語る』のじゃ!』
そう言ってる間にも、俺の意識はグワングワンと揺らされる、そのうち決定的な一撃が来るのかもしれない。
急いで欲しいのは確かだが、でも二人にゆっくりと心を通じ合わせて欲しいという思いもある。
そのとき、正利が強い決心を固めたのが感じられた。藤田の『奇跡』に対する思いを、受け入れ昇華させるアドバイスを思いついたらしい。
「藤田殿!奇跡が……信孝様の奇跡が輝くのは、心が引きちぎられ、体がバラバラにされても、決して挫けず、諦めずに その困難を糧として」
「より猛烈に『愛を燃え上がらせる』ことができるからです!!」
「だからこそ、信孝様の奇跡はあざやかできらびやかなのです、どこまでも果てしなく燃え上がる愛の力なのです!!」
その言葉に、藤田の心が打ちぬかれたのを感じた!
「そ、そうか!!信孝の愛の秘訣は、挫折や苦悩 その先に、私の憧れる奇跡がある!!」
「それを気づかせてくれた、正利は恩人だ。これからは兄貴と呼ばせてもらおう!」
藤田のその台詞に呼応するように、二人の『愛』が強く輝いた!気がした。
「こ、攻撃が止んだ?」
『ふっふっふ。ええのう。どうやら第一段階は突破というところじゃ。じゃが、まだ弱い!次で本当の恋人同士になってもらうぞ!』
ニヤニヤしている国光命はまあいいとして、とりあえずこれで正利と藤田の仲が進んだってことか。
友達は突破して、恋人未満?ただ、藤田の想いは『尊敬』に近いな。恋愛感情まで昇華できるかどうか?
「そういうからには、二人を恋人にする秘策があるのか?」
国光命はBLソムリエだし、さっきから随分自信がありそうだからな。もう一押し、二人を恋人にする作戦を考えているのかも知れない。
『もちろんなのじゃ。そしてその秘策とは、『スーパー慈ゴッドなでなで』なのじゃ!!』
また、俺たち三人が呆れた顔になる。何だよ『スーパー慈ゴッドなでなで』って。
「あまり期待でき無さそうな名前なんだが、一体どんな作戦なんだ?」
『簡単なことじゃ。藤田は子供の頃、厳しく育てられたため『パパに甘えたい』という願望を持っておる。つまり、撫でられることは藤田にとって『愛そのもの』に刻まれた『性癖』なのじゃ!!』
藤田から、怒りと恥ずかしさの混ざった感情を感じる。本当に甘えたい体質なのか?
「貴様、私がそんな趣味を持っているわけがないだろう」
『隠しても無駄じゃ。お主と信孝、正利は『愛そのもの』で繋がっておるのじゃからな。自分のときめきにウソはつけないのじゃ!』
「くっ……」
藤田の中で恥ずかしい感情が膨れ上がり、国光命に言い返せなくなってしまった。
『そして!!素晴らしいことに、正利はその真逆、『愛する人の頭を撫でまわしたい』という『性癖』を持っておる!つまり、二人の相性は抜群であり、撫でることで二人の愛は覚醒するのじゃ!』
「え!そうなのか!?正利!!」
俺は座標のない世界で、正利の方を見たような気持ちになる。実際に俺の『愛そのもの』が正利の方を向いたような気分だ。
「え、ええ。そうですね。私は小さい頃から蜂須賀党の者たちに、兄と慕われ絆を築いてきました。そのため、頭を撫でることに、特に心から信頼をおけるものの頭を撫でることに、異常な執着心を得るようになってしまったのです」
「それは年下に限らず、中年の幹部や我が父にまで及びました。そして私は、撫でる技術を身に着けることで、彼らさえ喜ばせることができるようになったのでございます」
勢いよくまくしたてる正利に、俺は圧倒された。そうか、正利はそんなに頭を撫でるのが好きだったのか。言ってくれれば、いくらでも撫でさせてあげたのに。
「そんなに撫でたいなら、言ってくれよ。俺たちは夫婦だろ」
「ええ、信孝様の頭を見るたび、ずっと撫でたいと心の底で思っていたのでございます。∞を手に入れた後で、是非撫でさせてください」
そう固く約束した俺と正利に対して、国光命がツッコミを入れてきた。
『いやいや、待て!今は信孝と正利ではなく!正利が藤田を撫でる話をしておるのじゃぞ!!』
ああ、そうだったな。しかし、藤田が撫でられたくて正利が撫でたいっていうのはわかったけど、そもそも『スーパー慈ゴッドなでなで』ってなんなんだよ。
「話はわかったけど、『スーパー慈ゴッドなでなで』って、具体的には何なんだ?」
『ふむ!よくぞ聞いてくれた!この『n座標の迷宮』には、座標が無い。よって、当然相手を撫でることはできんわけじゃ』
『じゃが、正利が藤田を慈しむ気持ち、そして藤田がそれに甘えたいという気持ちが革命的な共鳴を起こせば!座標などなくとも、藤田の頭に『撫でられた感覚』を与えることができるのじゃ』
『愛に時間や距離は関係ないからの。愛が強ければ、『座標がなくても撫でられる』のじゃ』
愛があれば、座標がなくても撫でられる。とてつもない理論だが、自分で愛の奇跡を起こしてきた俺だからこそ、そんな理屈も信じられる。
「じゃあ、その『スーパー慈ゴッドなでなで』で正利が藤田を撫でれば、二人の想いは恋愛感情に昇華され、パミスムが生まれるんだな?」
『わらわの見立てではそうじゃのう』
なるほど。話は大体わかった。じゃあ、ともかく重要なのは正利が慈しむ気持ちと、藤田が甘える気持ちが『革命的な共鳴』を起こすことだな。
それができれば『撫でる』現象は起こる。
「じゃあ二人の気持ちに『革命的な共鳴』ってのを起こすにはどうしたらいいんだ?」
『それは簡単じゃ。何せ最初の『どこが好き』トークで、二人は自分たちの相性を肌で感じ、すでに『慈しむ』気持ちと『甘えたい』気持ちを極限にまで高めておるからのう』
すでに二人の気持ちは十分に高まっているらしい。じゃあ、後はきっかけだけってことか。
『後はもう、藤田が素直な気持ちで、正利に『甘えたい欲求』を言葉にしてぶつけるだけじゃ!』
「言葉にしてぶつける?」
『おう!そうじゃ!しかも、今の二人なら細かい言葉などいらぬ。ただ一言『撫でて』と頼むだけで良いじゃろう。それで二人の気持ちは恋愛感情へと昇華されるのじゃ』
それを聞いた藤田が固まってしまった。藤田の中で、国光命への怒りと、不安、緊張、そして何より強い『照れ』が、猛烈にうずまき暴れているようだ。
俺はたまらず藤田に声をかけた。
「お、おい藤田、大丈夫か?あまり辛いようなら、国光命の言葉なんて無視しても……」
俺がそう言いかけた瞬間、俺の意識に『強烈な爆発』が起こり、一瞬 意識を失った。
これは∞からの攻撃か?意識に爆発を起こし、破壊する攻撃か。それはまずいぞ。
この『n座標の迷宮』では俺は意識だけで存在を保ってるんだ。その意識を破壊されたら死んでしまう!!
このまま爆発が続けば、いずれは破壊されるだろう。急がないといけない!
正利と藤田も、俺の危機感を感じているようだ。
藤田の心で、焦りが大きくなる。緊急事態で、動かなければとは思っているようだが、ヤクザとして育ってきて、今おっさんとなっている藤田にとって『甘えたい』気持ちを素直に出すのは困難なのだろう。
っと……まず……い。連続して爆発を食らい、意識が……途切れ途切れ……に……。
その時、藤田が声を上げて叫んだ。
「わかった!!」
そして恥ずかしい気持ちを押し殺し、言葉を無理やりに押し出す。
「言えばいいんだろう。私の素直な気持ちを。そうしなければ、信孝も私たちも死んでしまう。そんなことさせてたまるか」
藤田は正利の方に強く意識を向けた。恥ずかしすぎて押しつぶされそうな、藤田の感情が俺にもビンビンと伝わってくる。
『言わなければ』『だがそんなこと』という葛藤を続けながら、それでも一歩を踏み出した!
「な……な……撫で……て」
その瞬間、世界は華やぎ 『n座標の迷宮』のすべてが二人の愛に包まれた!!
それにより、『n座標の迷宮』のあらゆる座標は『1であり0であり∞』から、『愛』に変化した!!
これで、正利は藤田を撫でられる……そして、∞にも触れられるはずだ!!