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俺は藤田のヒーロー

【 2006年 望月たかし 17歳 藤田浩正 32歳 ♂×♂ヴァージン・ロード】


「藤田、お前の人生 これからの全てを、俺に任せてくれないか?」


 俺の決死の告白に対して、藤田は訝しむような表情で、俺の顔を覗き込み、こちらの様子をうかがっている。


 そして、低い声で俺の言葉に答えた。


「私の全てをお前に任せろ……だと?」


「ああ、そうだ!俺はお前のヒーローになり、奇跡を起こし続ける!そして、お前の全てを俺に任せてくれれば、俺はお前を導き、お前にも奇跡を起こさせる!!二人で幸せになるにはそれしかない!!」


 その言葉を聞いて、藤田は少し表情を変えた。そして『ヒーローか』と呟いた。


「お前を表すには、まさに その言葉がふさわしいな」


 藤田は俺の顔を見つめて、すがすがしい顔をしている。


 そして、俺の肩を今度は優しく抱いた。


「お前は、これまで私にただひたすら、奇跡としか思えないような現象を見せてきた」


「そうだ。マッハ3で走り、あの双子を倒すアイディアを編み出した。そして何より!私が、心より望んだ願い!不可能だと打ちひしがれた、あのクロマルを手に入れる手助けをしてくれた!!!」


「お前が奇跡を起こす度に、私は思春期の年上に憧れる乙女のように、お前の奇跡に目を奪われ、次にどんな奇跡を起こすのかとワクワクし、お前の行動すべてを目で追って、どんどん心を奪われていった」


 藤田はうっとりとした目でそんな風に語った。どうやら、俺がやってきたことは思いの外、藤田の心を射止めていたらしい。これはいい流れだ。


 そして、藤田の表情が一層 真剣になった。顔は赤く染まり、呼吸も浅い。


「望月たかし、俺のヒーローよ。お前に私の全てを預けよう。どうか、俺をこのまま さらなる奇跡へと導いてくれ」


 その藤田の告白を聞いて、俺の中で何かが弾けた!!俺の惚れた藤田が、俺を愛してくれた!俺のことをヒーローと呼び、俺の奇跡を求めてくれた!!


 最高の気分だ!!これが敵を愛するということか。


 最初に強い憎しみがあったからこそ、愛と憎しみのギャップで、より深い愛を育むことができた。


 最初から恋人として出会っていれば、この感動は得られなかったはずだ!!


 そう思ったとき、俺の中で何かが弾けた!!


 俺の藤田を想う心、藤田の思考や行動にキュンとする気持ち『ときめき』が俺のハートで爆発し、俺の細胞一つ一つに宿っていった。


 その『ときめき細胞』は俺の体を作り変え、異質なものへと変化させていく。


 俺の精神と肉体が、ときめきの形にドロドロに溶けて、また形成されていく……。


「ぐはっ!?」


「だ、大丈夫か?何だかものすごいことになっていたが……」


 しばらく意識が途切れていたような気がする。だが、ちゃんと復活したぞ。


 そう思って、自分の胸元を見ると、藤田の模様をした紋章が確かにあった!


「これがパミスム!やったぞ、これで話が一段階進んだ!」


 しずくの話では、俺がパミスムに目覚めれば、他の人のパミスムを俺のもとに集め、大きなパミスムにする能力が使えるようになるはずだ。

 そして、その巨大パミスムがあれば、悟空を倒すための『(インフィニティ)』とやらを取りに行ける。


 悟空を倒し、全次元を守る目途が立つんだ!!


 そう思ったとき、周りの景色が揺らぎ始めた。今、目の前にいる藤田の姿も揺らぐ……世界が消え失せようとしているみたいに!!


 そうか、この世界は俺の記憶の世界だった。だとすると、パミスムを手に入れたことで、現実の俺が目を覚まそうとしているんだ。


 まずい!このまま、俺の記憶でしかない、この世界が消えれば俺の恋人となった藤田も、藤田の愛する息子・桃も消えてしまう!!


 そんなのダメだ!!藤田は俺に全てを預けると言ってくれた!今や大切な恋人となった藤田の想いを裏切るわけにいかない!!


 パミスム、パミスムよ!何とかしてくれ!!


 俺はパミスムに愛のエネルギーを乗せる!藤田への愛と憎しみ、初恋のときの桃への想い、そしてかけがえのない最愛の人・正利への愛情も乗せる!!


 これが、俺がパミスムで起こす最初の奇跡だ!藤田と桃を、『現実世界に実体化』させる!!藤田の奥さんは……無理だ。顔も名前も知らない人を実体化するのは今の俺では不可能だ!


 俺のパミスムが光る!!いけえ!!起こせ!愛の奇跡を!!


【 1536年 信孝22歳 藤田浩正 32歳 正利20歳 深層心理の迷宮 】


「やや!帰ってきましたね。お疲れ様ですよ」


 周りの景色が移り変わり、気づくと目の前にしずくがいた。ここは、地獄に行く前にいた、宇宙ダンジョンの『深層心理の迷宮』か?


 それより!!藤田は?桃はどうなったんだ!?


 俺が慌てて周囲を見渡すと、俺の側に 確かに二人はいた。


 良かった!二人を現実世界に連れ出すことに成功したんだ!!


「な、何だ!?何が起こった?ここは何処だ!?」


「あ、あれ?ボク、どうしたんだっけ?あ、お父さんがいる!!」


 突然、周囲の景色が変わり、二人は随分混乱しているみたいだ。


 しかし、今から二人にはもっとショックなことを知らせなければならない。俺の記憶の世界は消滅してしまったんだからな。


 もし仮に拷問でもう一度作り出したとしても、それはよく似た別の世界だ。


「二人とも、聞いて欲しい。君たちがいた世界は、俺の過去を投影した記憶の世界だ。そして、俺がパミスムによる奇跡の力で、君たちだけを実体化した」


 二人は驚愕の表情を浮かべる。


 桃はあまり信じていないようだが、藤田は本気でショックを受けているみたいだ。


 これまでの俺の行動からして、嘘ではないと確信しているんだろう。


「ならば、私の妻は……いや、全てがお前の記憶の投影に過ぎなかったのなら、元々そんなものは存在しなかったということか」


「え?え?お父さん、今の話を信じるの?」


「こいつが私にウソをつくメリットが今のところ無さそうだからな」


 それを聞いた桃は泣き出しそうになる。


「じゃ、じゃあお母さんとはもう会えないの……?」


 桃はそう言って、うずくまり泣き出してしまった。


「たかしよ。私はお前に全てを預けると言った。今もその決意は変わっていない。どうか、この現実世界でも、お前の奇跡に酔いしれさせてくれ」


「それと……私たちだけでも、助けてくれてありがとう」


 そう言う藤田に対して、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「すまん……。俺にもっと力があれば、記憶の世界ごと実体化できたかも知れないのに」


「いや、お前はできるだけのことをやってくれた。そう、奇跡を起こしたんだ。それ以上のことを望むのは酷というものだ」


 俺は藤田の言葉に少しだけ心が軽くなった。でもできれば、皆を救いたかったな。


 これからは、もっと力をつけ、できるだけ多くを助けられるように頑張るしかないか。


 俺が決意を固めていると、しずくが話に割って入った。


「皆さん、思うところはあるみたいですが、時間がないのです。本題に移らせてもらっていいですか?」


 そうだ。俺がパミスムに目覚めたからには、悟空の‐∞次元に対抗するため、∞を取りにいかないといけない。


「ああ、いいぞ。それでパミスムを集めて大きなパミスムにするっていうのはどうすればいいんだ?」


「ええ、パミスムを持つ人同士が手を繋ぎ、『パミスムを渡す』と願えばいいんです」


「じゃあ……」


 俺はそう言って、妲己の方を見た。


 妲己は俺の方を見て、『ふぅ』とため息をついた。やっぱり、パミスムを渡すのが嫌なんだろうか?


「正直、あたしは、あんまりあんたを信用してないわ」


「せっかく苦労して手に入れたナタリアとの『愛の結晶』をあんたに預けるなんて嫌だけど、でも……もし全次元が消滅したら、ナタリアとも一緒にいられなくなるのよね」


「それは、一番嫌だわ。だから、あたしのパミスムをあんたに託す。だから、任せたわよ!何とかして見せなさい!」


 そう言って、妲己は俺の右手を握った。


「信孝殿、妲己ちゃんも言ったでござるが、このパミスムは拙者と妲己ちゃんの愛の結晶でござる」


「10年間、すれ違いながら互いを想い続け、やっとたどり着いた。拙者と妲己ちゃんの想いの結晶なのでござる!」


「大切な、とても大切なものなのでござるよ」


「けど、拙者も悟空殿は許せないでござる。自分が強くなるためだけに、全次元を滅ぼそうなんて、そんなやつを許してはいけないでござる!!」


「だから、信孝殿!拙者と妲己ちゃんの愛を、全次元を守るため、使ってくださいでござる!!」


 ナタリアは、そう言って俺の左手を握った。


「これで、後は私だけですね。たかしの能力なら、デパミスムをパミスムとして吸収できるはずですから、私のデパミスムも預けますよ」


 しずくはそう言って、妲己の上から俺の右手を握った。


 そう言えば、パミスムに目覚めてるってことは、しずくも誰かに恋をしてるのか。とはいえ、今聞くようなことじゃなさそうだよな。


 さて、これで3人か。あと この場でパミスムを持っているのは……。


 俺は打ちひしがれている桃の方を見た。


 いや、今の桃を説得するには時間がかかりそうだ。とりあえず4つのパミスムを合わせ、その力で∞を取りに行こう。


 こうしている間にも、悟空が‐∞次元(マイナスむげんじげん)として覚醒し、全ての次元が悟空に吸収されるかも知れない。時間がないんだ。


「よし!準備はOKだ!三人とも、始めてくれ!!」


 俺がそう言うと、しずくと妲己とナタリアは目を瞑り、静かに瞑想を始めた。


 すると、三人のパミスムが白く輝いた!!そして、パワーが少しずつ俺に流れ込んできた……!!


 こ、これが複数のパミスムか!!一つだけでも、藤田や桃を実体化させるパワーがあるのに、4つも合体させたら一体どうなるんだ!?


 俺の不安をよそに、どんどんと俺のパミスムにエネルギーが流れ込んでくる!そして、三人のパミスムの光が徐々に弱くなり、俺のパミスムの輝きが異常に増してきた!


「ぬおおおおお!!!た、魂が震えるううぅぅ!!か、体がまた作り変えられる!」


 俺がそう叫んだと同時に、俺の頭に映像が流れ込んできた。


 小さな女の子たちが……家でゲームをしている?そうだ、これは十年前の……そうか、妲己とナタリアの恋愛の記憶が流れ込んでいるのか。


 山に放逐されて、泣きじゃくるナタリア……。


 十年ぶりに再会し『敵婚式』で戦う二人……そして再び思いは通じ合う!!


 景色が移り変わる。今度はしずくの記憶か?


【しずくの恋愛記憶】


 現れた景色は王宮のような場所だ。『わかる』ぞ。ここは天界の宮殿だ。


 そこで悟空としずくが……仲良くしている!?まさか、しずくの恋愛相手は悟空なのか?


 しずくは天界宮殿に仕えていた。同僚の『ハルナ姫』とは親友だった。


 ハルナ姫が悟空に『犯されて殺された』後、しずくは絶望の闇に沈んだ。そして、時間をかけてそこから立ち直りかけたとき、悟空に対する『憎しみ』でパミスムを産み出せるのではないかと考えた。


 そのため、それまで以上に悟空に接触するようになった。でも憎しみが強すぎて、とても悟空を愛せなかった。


 しかし、あるとき悟空が天界宮殿に攻め入り、天界軍を皆殺しにして、天界の統治者『天帝』の命を奪った。


 そのときしずくは『何故そこまでして力を求めるの?』と聞いた。


 悟空は『おいらには、生まれつきDNAに強さを求めるように刻み込まれてるんよ』『オイラが、拒否しようとしても、どうしても逆らえないのさ』と言った。


 それを聞いたしずくは力を求め続けなければならない悟空に『カッコいい』と『可哀そう』という感想を抱いた。


 『カッコいい』『可哀そう』そして『憎しみ』しずくの中で三つの感情がないまぜになり、それは一つの形になって弾けた!!


 『恋愛感情』!そのとき、しずくの体にパミスムが生まれた。


【しずくの恋愛記憶:終わり】


 俺がゆっくりと噛みしめる暇もなく、しずくの恋愛経験が俺の頭に流れ込んでくる。まさか、しずくが悟空に恋していたとは。


 つまりしずくは全次元のために、自分の恋人を俺に殺せと言っているのか。


 そう考えていると、俺の肉体がまた激しい変化を起こし始めた。


 最初にパミスムを手に入れたときは、ときめき細胞によって自分が異質なものに作り変えられる感覚を受けた。


 今度のは、言うなら三人のときめき細胞が無理やり俺の中に入ってきて、俺のときめき細胞と融合している感じだ。


 俺が受け入れようとしているから融合できているが、下手に拒絶していたら拒絶反応でパミスムごと爆発していたかもしれない。


 そして、正利や藤田への強い愛がなければ、体内にときめきを(とど)めきれず、肉体が溶けて霧散していただろう。


 だが俺の体は、爆発も霧散もせず、ときめき細胞は進化を果たした!!


 ときめき細胞は(ゴッド)ときめき細胞に!

 パミスムは神パミスムに!!


 そして、俺は六次元の持つ『夢を叶える力』を完璧に制御できるようになった。


 そう、なったんだ。五次元を越え、『六次元人(ゴッド・シックス)』に!!


 いくぞ!次は∞を手に入れる!!


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