『教祖:国光命』の暴走
【 2006年 望月たかし 17歳 藤田浩正 32歳 桃 17歳 神政復古教・大教会 地下牢】
俺と藤田は、クロムたちがいた場所から、さらに奥へと進んだ!
そして、目の前に現れた景色に驚愕した!!
そこには、スペックの高そうなコンピュータが立ち並んだ研究室があった!!
「ここは地下牢じゃなかったのか?」
「見ろ。培養液のようなものの中に人が入れられている。恐らく桃も、あんな状態でどこかに入れられているんだろう」
つまり培養液に監禁されてるってことか。しかし……、見るからに異常な点が一つあるな。
「培養液に入れられてるのは、全員 桃に見えるぞ?藤田には、どれが本物かわかるのか?」
目の前に無数にある、培養液のカプセルには、どれも可憐な少女に見える少年が入っている。妹の麗美にもそっくりな……どう見ても桃だ。
俺はその姿に懐かしさと、少しの心の痛みを感じた。あの日、桃が豹変して刑務官573人を皆殺しにして逃げた日に、俺の初恋は終わってしまったんだから、胸が痛むのも当然か。
「もちろんだ。俺は父親だからな。直接見れば、必ずわかる」
どうやら、藤田は桃の判別に自信があるみたいだ。俺は一緒にいたと言っても数ヶ月ほどだからな。藤田の方が確かだろう。
「ってことは、この辺りの培養器の桃は皆、クローンなんだな?」
監禁されてる息子を見つけたら、縋り付きそうなもんだからね。大きなリアクションを見せてないところを見ると、この辺に本物はいないんだろう。
「ああ、恐らくはもう少し奥だろうが……、この部屋はそう広くなさそうだ」
そう言って俺たちは、研究所を探索し始めた。そして、部屋の奥で『奇妙な』小部屋に通じるドアを見つけた。
何が『奇妙』かって……。この小部屋から、感じられるエネルギーは明らかに周囲と質が異なる。
だって、これは明らかに三次元世界のものじゃない……!!
「パミスム……か?まさか、物理宇宙にあるわけないだろう!」
謎の小部屋には培養器があり、そこにも一人の桃がいた。
そして、その桃の胸には、明らかにパミスムと思われる紋章が輝いていた……!!
俺の言葉に対して、藤田は怪訝な表情をした。そりゃそうだ。この次元のこの時代の人間が、パミスムを知ってるわけがない。
だが、ここにこうしてあるということは、教団は単にクローンを研究していたのではなく、偶然できたパミスムを持つ人間を量産しようとしていたということか。
今いるのは2006年、俺の記憶の中の世界だ。もし2050年にこの研究がもっと進んでいるとしたら、物理宇宙にも全次元に干渉し得る何かがあるのかも知れない。
しかし、パミスムに目覚めるには敵を愛さなきゃいけないんだろ。桃は誰かに恋してるってことか?
「望月君、これが本物の桃のようだぞ」
藤田はとりあえずパミスムの話題を無視して、桃を救うことを優先した。そうだ。そのためにここに来たんだからな。
桃を救う……のはいいが、気をつけて連れ出さないといけない。パミスムがある以上、もし怒らせたりしたら、物理宇宙ごと消滅させられる恐れもあるからな。
これは、いよいよ早く藤田と恋に落ちないといけなくなってきた。この記憶の世界のためにも、現実の世界のためにもだ。
【 2006年 望月たかし 17歳 藤田浩正 32歳 桃 17歳 クローン培養室】
俺たちが桃の培養器に近づくと、急にハッチが開き、中から桃が出てきた。
それと同時に、桃の身体が一段と強く光り、桃の身体に『服』が生成された。
『黒』を基調としたフリフリのドレスだ。変身ヒロインが来てそうな衣装だな。俺の知ってるクローン桃は、女と間違われるのを嫌がっていたけど……。
オリジナルの『桃』は可愛い服が好きなんだろうか?
そう思っていると、桃がトテトテと走ってきて、藤田に抱き着いた。
「お父さん!ようやく来てくれたんだね、ボク、ずっと寂しかったんだ!」
「ああ、済まなかったね。ようやく、お前を連れ出す目途が経ったんだ」
何せ、藤田一人じゃあ、あの双子を倒す策が思いつかなかっただろうからな。もちろん俺一人でも無理だった。
俺のアイディアと藤田の技術が合わさってこそ、桃を助けられたわけだ。
「あれ?君は誰?お父さんの組の人?」
「あ、いや。俺は望月たかし。普通の高校生だよ」
中に入ってるのは、様々な戦いを潜り抜けた32歳のおっさんだけどね。
「君はどう考えても普通ではないぞ。国やヤクザでも敵わない組織に殴り込みをかけられる高校生などいないだろう」
それは確かにそうだ。そんなやつがそこら中にいたら、国の防衛は成り立たないだろう。
「ふふふっ。たかし君は、随分 お父さんと仲がいいんだねっ!普段、お父さん静かなのに、君と一緒だとよく喋るみたい」
俺と藤田が仲がいい?確かに双子との戦いで、少しは絆が深まった気がするが、一目見てわかるほど、仲良くなれてるのだろうか?
藤田は少し照れたような表情をする。無表情ながら、少しづつ表情が読めるようになって来たぞ。
「そんなことより、追手がこない内に脱出するぞ」
そう言った、藤田の表情は照れ隠しに見える。
どうやら、思ったよりも藤田との仲は進展しているようだ。そして何より、そのことを俺自身も好ましく思っている。これなら、もう一押し、何か大きなイベントがあれば、俺と藤田の心が大きく動かし、恋人同士になることも可能かも知れない。
そう思った瞬間、周囲にものすごいエネルギーの振動を感じた。
『パミスムは我の夢、我の希望、そなたらを逃すわけにはいかぬ』
そう聞こえたと思ったら、部屋中に黒い靄が現れ、それらが俺たちの目の前に集まっていった。
そして、その中心から一気に黒い光が放たれた!!
次の瞬間、そこにいたのは……!!
「また子供!?」
そこにいたのは10歳くらいの少女だ。髪は青く、腰ぐらいまである。格好はビキニみたいに胸と股間だけが隠れたやつで、女幹部っぽい格好だ。
『子供とはなんじゃ!!我は国光命。この教団の祭神にして、やがて、この日ノ本を統べる存在なるぞ!!』
『ちなみに、これでも三千歳じゃ』
国光命は、頬を膨らませてプリプリと怒っている。本当にこの子が三千歳なのか……。
というか、以前クローン桃から聞いた話では『国光命』はこの教団の教祖のはずだ。この子が教祖の教団が国や警察も手を出せない集団とは、考えにくい。
優秀なブレーンとかが、ついているんだろうか?
ともかく、桃の奪還が教祖にばれてしまったとなると、寄進をしてこっそり教団に潜り込むってわけにはいかなくなったな。
ここを逃げきれたとしても、今後の身の振り方を考えないといけない。
『さて、お主たちは我の研究の邪魔をしてくれた。ここで消えてもらわねばならぬのう』
そう言って、国光命が精神を集中すると、胸元が輝き始める。あれは……パミスムか!?
だが、何だ?桃やナタリアたちとは何かが違う。パワーがでかい!!
『避けようとしても、無駄であるぞ。パミスムは世界を、使用者の願望が叶った状態に改編する。その運命からは、誰も逃れることはできぬ』
つまり『俺たちを殺す』わけじゃなく、『俺たちが死んだ世界に改編する』わけか。それじゃあどうしようもないじゃないか!!
今すぐ、藤田に恋……1秒じゃ無理だ!
「も、桃……パミスムがあるんだろ?な、何とかならないか!?」
「え、パミスム?それなーに?」
「胸に、人の形をしたタトゥーみたいなのがあるだろ、それにパワーを込めるんだ!!」
「こ、こう……?」
桃のパミスムが光り始める。だが、国光命のパミスムに比べてパワーが弱い。
ビュンッ
風が吹いたような音がして、世界が移り変わった。少なくとも死んではないみたいだが……。
俺は真っ白い世界に、藤田と二人っきりで立っていた。何が起こったんだ?
恐らくは、桃がパミスムに何か願った結果、俺たちは『世界』の因果を逃れて、この世界に飛ばされたんだと思う。
国光命の話からしたら、少なくとも物理宇宙にいたんじゃ、『殺された世界』への改変を逃れられないはずだからな。
しかし、だとするとここはどこだ?
さっきの桃が細かい場所の指定をできたとは思えない。ということは、曖昧な指示をした結果、条件に合う空間が選ばれたはずだ。
そして、『国光命』の攻撃から逃れられる空間は三次元世界には存在しない……はずだ。
ってことは、ここは四次元以上の次元ってことになるのか?
「何だ、ここは。一体何が起きた」
「ああ、多分 桃の能力で飛ばされたんだ。あの国光命だかの攻撃を避けるために」
俺は大まかな状況説明をするが、俺にとってもよくわかっていないので、かなり適当な説明になってしまった。
「桃の能力だと?あの子は一体、何なんだ?教団に攫われたときには、そんな力は無かったはずだ」
ということは、培養液で何らかの実験をしている途中にパミスムに目覚めたってことか。
実験の途中で、攫われる前の時点で恋してた人を敵対視したか、もしくは恨んでた人を好きになったんだろう。
そう考えると、桃の好きな人は教団とは関係ない誰かってことか。じゃあ、相手は普通に異性だろうな。
そう考えていると、俺たちの目の前に大きな看板が降りてきた。
そして、その看板にはこう書かれていた。
【恋人同士にならないと 出られない部屋】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2006年 望月たかし 17歳 藤田浩正 32歳 桃 17歳 恋人同士にならないと出られない部屋】
「なんだ、これは……」
藤田が厳しい表情でつぶやいた。何だと言われてもわからない。俺が聞きたいくらいだ。
「多分、言葉通りだろうな。桃が『俺たちが恋人同士になるよう』パミスムに願ったんだろう。それでこの次元が生成された……」
だとすると、この部屋は三次元世界ではあるけど、他の三次元世界と隔絶された空間ってことか。パミスムなら、そんな空間を作れるのかもしれないけど、何と言うかとんでもないな。
「恋人同士……男同士でか?それに俺には妻もいる」
俺にも妻というか夫がいるんだけどな。けど、藤田を愛さないと、俺はパミスムに覚醒できない。そうなると、現実の全次元が悟空に吸収されてしまう。
よし、考えてみよう。どうすれば藤田を愛せるか?それと、愛してもらえるかもな。
そう考えていると、真っ白な空間の中に、聞き覚えのある声が響き渡った。
『聞こえておるか!有資格者たちよ!!我じゃ!国光命じゃ!!』
何!?ここは桃の能力で逃れた空間じゃないのか?どうして、国光命が干渉できるんだ?
『ここは、我が作り出した空間じゃ!そなた達は、我の眼鏡にかなった!故に、この部屋でラブラブになるところを見せてもらうぞ!』
「待て待て!!有資格者って何だよ!!それに、お前の眼鏡にかなったってのは何だ!!」
まさかとは思うが、俺と藤田がイチャイチャするのを見たくて、この空間を作り出したのか?俺がパミスムに覚醒したら、倒されるかも知れないのに?
俺たちを舐めているのか、それともよっぽどBLが好きなんだろうか……。きっと両方だな。
『決まっておろう!お前たちは我の好みじゃ!じゃから、ラブラブなところを見たい!!理由など、それだけで十分であろう!!』
どうやらBL好きの方が、理由としては大きいようだ。
『では、始めてもらうぞ。それっ』
国光命がそういうと、俺たちの前に金色に輝く『道』が現れた。何だ?これは?
『これは、我が『♂×♂ヴァージン・ロード』と呼んでいるものじゃ。道を進めば、『どきどきイベント』が起こる』
『二人の愛情度は、そっちの電光掲示板に表示される。あれが100になったとき、そなた達は晴れて恋人同士となり、この部屋から出られるのじゃ』
そう言った国光命に対し、藤田は強い怒りを込めて、一言呟いた。
「……なんだ、この茶番は……」
『それでは、始めるのじゃ!!『望月たかし』!『藤田浩正』!ラブラブ・ツアーを!!』
その言葉と共に、俺たちは『道』の上に転移させられた。この空間では、何もかも国光命の思い通りってことか、下手に反抗するとまずいかも知れない。
やるしかないか。俺としては、願ったり叶ったりと言わざるを得ない。
全次元を救うためだ。『ラブラブ・ツアー』でもなんでもやってやろうじゃないか!!
俺は決意を決め、『♂×♂ヴァージン・ロード』に最初の一歩を踏み出した!