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双子の絆VS藤田との絆

【 2006年 望月たかし 17歳 藤田浩正 32歳 桃 17歳 神政復古教・大教会】


 俺たちは今、大教会の近くまで来て、物陰に潜んでいる。


 あの後、俺は警察が来る前に、藤田を負ぶって廃屋を飛び出した。


 そして筋肉と裏筋肉を70%まで開放し、マッハ3をキープしながら、大教会までやってきた。


 距離にすると20㎞ほどだから、およそ30秒でついたわけだ。


 藤田が警察のネットワークをハッキングしてくれたので、パトカーや警官を避けつつ、最短ルートでここまで来れた。


 そして今は、大教会内部のセキュリティをハッキングして、俺たちの指紋で全ての部屋に入れるようにしているところだ。


 藤田の能力が思ったよりとんでもないな。プロのヤクザとして働いてるんだから、当然と言えば当然だけどね。


「まあ、やはりこの程度だろうな。薄々感じてはいたが、神政復古教のセキュリティは大したことないようだ」


 藤田はそう言って、パソコンをいじりながら、少し嬉しそうな表情を見せたが、すぐに顔を引き締めた。


「俺はセキュリティなんて詳しくないから、あんたのやってることのすごさがわからないけど、まあ手っ取り早くすむのは助かるよ」


 実際、警察さえ手を出せないような組織のセキュリティが、そんなに甘いわけないからな。やっぱり藤田は相当手慣れているんだろう。


「いや、この程度は朝飯前だ。ほら、施設内の見取り図も手に入れたぞ」


 藤田はそう言ってPCの画面を見せてきた。そこには、大教会のかなり細かな地図が表示されている。


「これは分かりやすいな。それで地下室ってのはどこにあるんだ?」


「ああ、ここを見てくれ。何か妙な空間があるだろう?これは、教団が隠したいものがあるときに、よく使う建築手法だ。恐らく、ここに地下に通じる何かがある」


 確かに、これだけ細かい地図なのに、何があるかよくわからない空間が一部屋だけあるな。ここが地下室の入口ってことか。


「じゃあ、ここにいけばいいんだな?そこまでの扉は指紋認証で開くのか?」


「ああ、問題ない。君のスピードで移動し扉を開けていくのなら、慎重に敵から身を隠したとしても、数分もかからずに地下室までたどり着けるだろう」


 よし!じゃあ何もかもバッチリだ!今すぐ、桃のいる地下室に突撃するぞ!!


 そう言って、俺たちは慎重に、しかし速度はマッハ3で、信徒と思われる人影を避けながら、地下室へ向かって行った。


【 2006年 望月たかし 17歳 藤田浩正 32歳 桃 17歳 大教会・地下室】


「ようやくついたな。あんたのお陰でほとんど障害はなかったけど」


「いや、本当に大変なのはここからだ。さっきも言っただろう。地下牢には双子の番人がいると」


 藤田がそう言った瞬間、俺たちの前に二人の少女が立ちはだかった。


 ……いや、正確には、なんというか……着ぐるみ……?『黒猫』と『白猫』の着ぐるみを着た二人の少女だ。


 いや、厳密に言えば着ぐるみではないか。顔の部分が露出してる。首から下は、完全に着ぐるみだが、頭は猫耳のついたフードみたいなのを被ってるな。


 顔を見る限り、二人ともまだ中学生くらいに見えるけど……。


「なあ、あれがあんたのいう『パワースーツ』なのか?何というか、見た感じだとすごく動き難そうなんだが」


「いや、あれを舐めてはいけない。どういう原理かは知らないが『チャンネル登録者数』が増えるほど、『強いスキル』が解放される仕組みだそうだ」


 そう言われて、俺は一瞬何のことかわからなかった。『チャンネル登録者数』という言葉がピンと来なかったからだ。


 少しして、思い当たったものの、それがスーツの性能の話と上手く結びつかない。


「チャンネル登録者……って、まさかYourTube(ゆあ ちゅーぶ)のか?」


「そうだ。彼女たちの戦いは全て、YourTubeで生配信されている。そして、登録者数が一定数まで増えると、『スキル』が解放されるんだ」


 『スキル』……って……ここは物理法則が支配する地球(の記憶)だぞ!なんでスキルなんて、異世界みたいなものを使えるスーツがあるんだ?


 しかも……仮に2050年の話だったら、まだ他の宇宙から入って来たとかいう可能性もあるだろう。


 けど、今は2006年だ。茂やたかしはまだ高校生、ここ以外の宇宙があることさえ知らないはずだ。


 そんな時期にどうして、物理法則の通じないスーツがあるんだよ!?


 俺が困惑していると、双子の少女のうち、黒猫の着ぐるみを着ている方が話し始めた。


「私はクロム。国光命(くにびかりのみこと)を守る右の壁」


 クロムに続いて、白猫の着ぐるみを着ている方も自己紹介をした。


「私はシロム。国光命(くにびかりのみこと)を守る左の壁」


 国光命とは、神政復古教の教祖だ。桃の話ではイザナギとイザナミの末子ってことになってるらしい。


「この先は、最重要秘密がある」


「何人たりとも、ここは通さない」


 二人がそう言うと、クロムの着ぐるみを漆黒の炎が覆い、シロムの着ぐるみを純白の凍気が覆った!


「燃え尽きろ……『黒の業炎』!」


 クロムがそう叫ぶと、漆黒の炎が一段と大きくなった。そして渦を巻いた炎が、俺の方へと放たれた!!


「くっ……まずい!!」


 俺は筋肉と裏筋肉を100%開放し、全力で炎を回避する!なんとか躱せた!!


 その瞬間、待っていたかのように、シロムが叫んだ!


「……今!! 氷の棺に眠れ……『永久凍土』!!」


 シロムはそう叫んで、藤田の方に向けて凍気の渦を放った!


 まずい!!俺は炎の回避に精いっぱいで、藤田からは距離が離れてしまっている!!


 ここで藤田がやられたら、やつを愛すことができなくなる!命がけで守るしかない!!


 脳の高度計算機能を100%開放しよう。しばらく動けなくなるだろうが、仕方ない。


 俺は脳の高度計算機能を100%開放し、藤田を救う最適の方法とルートを考える!!よし!いけるぞ!!


 そして、マッハ5のスピードで、藤田に向かって突進した!!


「「何っ?」」


 クロムとシロムが驚くのを尻目に、俺は藤田を抱きかかえて、凍気の渦を回避した!


 よし、ひと先ずは安心だ。


 と思ったが、脳にかけた負担が大きすぎたのか、少しふらつく。まずい、次の攻撃が来たら避けきれるか怪しいぞ。


「お、おい大丈夫か。どうして、俺を助けるのにそこまで無理をするんだ。俺はお前の幼馴染や妹を殺させたんだぞ」


「簡単なことだ。お前を愛さなきゃ世界が滅ぶからな。そう、今は義務感だけの偽りの愛に過ぎないが、必ずお前を愛して見せるぜ。俺が守りたいすべてのためにな!」


 俺の言葉に、藤田はわけがわからないという表情を見せる。


 さすがに、愛さないと世界が滅ぶなんて話は簡単には信じられないか。俺の行動があまりにも異常に見えるんだろう。


 さて、まともに動けるようになるには、まだ数分かかるか。何とか時間稼ぎをしないといけない。


「き、君たち!!どうして教団に従っているんだ!教団は人々を洗脳し、この国を専制君主制に戻そうとしているんだぞ!!それに君たちの命だって何とも思っちゃいない!」


 俺はそう叫んだ。ともかく、二人と話すことで少しでも時間を稼ぐんだ。


 二人は俺の方に目を向けて、少し睨んだ。とりあえず、注意は引けてるみたいだ。


「教団は孤児だった私たちを拾ってくれた……」


「それだけじゃなく、夢を叶えるステージを与えてくれた……」


「「私たちが教団に従わない理由がない」」


 この子たちは孤児だったのか。なるほど、教団は孤児を引き取って鍛え上げ、戦闘員に仕立てている……。


 いや、それは良いけど、夢を叶えるステージってのは何なんだ?


「夢を叶えるステージ?君たちの夢って何なんだ?」


 俺のその質問に、それまでぼそぼそと喋っていた二人が大声を上げて答えた。


「それはもちろん!」


「皆を幸せにする、アイドルになること!!」


「「ア、アイドルぅ?」」


 意外な返答に俺だけでなく、藤田まで間抜けな声で驚いた。


「私たちは、ホームレス街の孤児だった……。たまに大人がご飯を恵んでくれたけど、日々の食事にも困っていた……」


「だから、毎日 街に出かけて食べられそうなものを盗んでた。でも、そんなある日……」


「あの日、私たちは偶然、秋葉原にいた。そして秋葉原の巨大ビジョンで、あれを見たんだ……」


「「アイドルのライブ配信を!」」


「それは、衝撃的だった。私たちのそれまでの常識を完全に塗り替えてしまった……」


「かわいい服にカッコいいダンス、感動的な歌!すべてが私たちを魅了した!」


「そして、応援してる皆も、ライブに熱狂し、すっごく楽しんでいた!」


「「私たちも!!」」


「誰かを幸せにできる、アイドルになりたいと思った!」


「そしてそうすれば」


「シロムに」


「クロムに」


「「お腹いっぱいご飯を食べさせてあげられるって!!」」


「そして、私たちは必死にアイドルになるための特訓をした……」


「教団は、ホームレス街に住んでるのに、アイドルの特訓をしてる変な子の情報を嗅ぎつけた……」


 そうか!それで、教団はアイドルに憧れた二人をYourTuberに仕立て上げたってことか。


 けど、実際にやってることは、教団内の粛清や外敵の駆除だ。殺すところは配信に乗せてないんだろうけど、殺してはいるだろう。


「そして、教団は私たちを拾って、スーパーアイドルになる特訓をしてくれた……」


「可愛いアイドルになるために、にゃんこスーツを提供してくれた……」


 このスーツ、にゃんこスーツって言うのか。確かに猫の着ぐるみだけど、殺人兵器の名前だと考えると、しっくりこないなあ。


「そして今では」


「配信を見てくれた人は喜び、教団の敵は消えて、私たちも皆を喜ばせられて嬉しい!」


「このシステムは」


「「皆が嬉しい!!」」


 視聴者と教団は嬉しいかもしれないが、二人がやってることは殺人だ。


 純粋な少女の夢を利用して、殺人マシーンに仕立て上げるなんて、許すわけにはいかないぞ。


 俺がそう考えていると、クロムとシロムは虚空に向かって両手を広げ、呟いた。


「配信を見てるみんな……力を貸して……」


「皆がチャンネル登録すれば……、新たな力が芽生える……!」


 二人がそう叫んだ瞬間、白猫と黒猫の着ぐるみが光った!!


 もしかして、チャンネル登録者数が増えて、スキルが解放されたのか?


「100万人登録……ありがとう!」


「これで……役目をはたせる……」


 そういうと、着ぐるみから出ていた黒炎と凍気が二人の回りで渦を巻き、少しずつ混ざり始めた。


 二人の回りを炎と凍気の混ざった、不思議なエネルギーが渦巻いている。


「私たちは生まれたときから一緒だもん……」


「私たちの絆には、絶対誰も敵わない……!」


「「極氷炎地獄コキュートス・インフェルノ」」


 まずい!この技はまずい!脳の高度計算機能でわかるぞ!この技を食らえば、1秒間に

一兆度と絶対零度を1万回行き来する。


 そんなことをされたら、どんなに熱や冷気に強い物質でも、物質間の繋がりが弱くなり、全身にヒビが入ってコナゴナになってしまう!


 食らうまで、あと5秒ほど……、脳の高度計算機能を100%開放し、回避策を探す!


 そうだ、考えろ。あったはずだ。これまでの情報に、この攻撃の回避策が……。


 回りがゆっくりになり、俺のこれまでの人生が走馬灯のように流れる。


 その中でひっかかる言葉があった!つい最近聞いた言葉だ!


【頭にひっかかった言葉】


「まあ、やはりこの程度だろうな。薄々感じてはいたが、神政復古教のセキュリティは大したことないようだ」


「いや、この程度は朝飯前だ。ほら、施設内の見取り図も手に入れたぞ」


(警察さえ手を出せないような組織のセキュリティが、そんなに甘いわけないからな。やっぱり藤田は相当手慣れているんだろう)


【頭にひっかかった言葉:終わり】


 セキュリティ……ハッキング……


「あ、あああーーーっ!!」


 そのとき、俺の頭の中にとんでもない閃きが起こった!!


「ふ、藤田!!今、配信を見てるPCを全てハッキングすることができるか!?」


「も、もちろん素人のPCなど何台でもハッキングできるだろうが……む、そうか!」


 藤田も気づいたようだ。にゃんこスーツのスキルは、『チャンネル登録者』の数によってスキルが解放される。


 だったら……。


「配信を見てる全PCをハッキングして、チャンネル登録を外させるんだな!!」


 そう藤田が叫んだ。その通りだ。もちろん登録はしてるけど、この配信は見てないという人もいるだろうが、登録者数が激減するのは間違いない。


 そうなれば、かなり多くの『強いスキル』が封印されるはずだ!


「ああ、何とかやってくれ!俺は今から、二人に特攻する!」


 俺が突撃するまでに、チャンネル登録削除が間に合えば、恐らく今使ってるスキルは消える。それなら、俺は無防備な二人に攻撃できる。


 逆に間に合わなかった場合、俺は『極氷炎地獄』をモロに食らうことになるだろう。死ぬ可能性が高い。


 つまり俺は、今はまだ愛していない『未来の恋人』、藤田に自分の命を預けることになる!!


「本気か!もし間に合わなければ死ぬことになるぞ」


「いいさ、あんたはきっと間に合う。俺の命を預けるぜ!!」


 そう言って、俺は筋肉と裏筋肉、そして再び脳の高度計算機能を100%開放し、最短最速ルートで、双子の方へ向かった!


 一兆度の業炎が、絶対零度の凍気が、俺と接触する……!!


 俺が半分死を覚悟した、その瞬間、業炎と凍気がウソのように消えた!


「よし!YourTube本社のデータをハッキングして、チャンネル登録を全て削除したぞ!この方が早かったからな!!」


 なんと、視聴者のPCではなく、YourTube本社をハッキングしたのか。いや、それなら確かにチャンネル登録を確実に0にできる。


 そして、俺はスーツの力が無くなってオタオタしている双子を取り押さえた。


「くう……無念……」


「国光命様……申し訳ありません……」


 この二人には悪いが、俺たちも目的がある。全次元が滅びたら、この子たちも俺の仲間も死ぬんだからな。


 それでも、できればもっとまっとうな形でアイドルにしてあげたいところではあるな。最も、ここは俺の記憶の世界だから、現実ではもう手遅れなんだろうけど。


「藤田。機転を聞かしてくれてありがとう。まともにチャンネル登録を削除してたら、間に合わなかったかも知れない」


「何、構わんさ。私にも息子を救う目的があるんだ。君に死なれては困るのでね」


 そう言って、藤田はにっこりと笑った。ここまで表情を硬くして隙を見せないようにしてたのに、少しは心を許してくれたんだろうか。


「よし、じゃあ いよいよ地下牢に向かおう。そこに桃がいるんだろ?」


「そのはずだ。さっきのハッキングで、教団内の通信記録も探ってみたのだが、恐らく間違いない。地下牢と、クローンの製造施設がこの先にある」


 俺たちは地下室の先を見据える。この先に地下牢がある。桃がいる。


 俺が初恋した桃は、クローンだった。ここにいるのはオリジナルの桃だから、別人だ。


 だが、ともかく感慨深くないわけがない。それに、藤田と恋をする上で桃の救出は必須だ。


 俺は覚悟を決めて、地下牢へと一歩を踏み出した!!


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