-(マイナス)次元の恐怖
【 縺ゅ>縺年 悟空 喧縺ヱ歳 時の孤島 】
[博士視点]
『反次元砲』
悟空がそう叫んだ瞬間、なんと!私のパミスムの黒い部分と白い部分が入れ替わりました!
これは、多分願いを叶える力が無くなってますね!それどころか、『反転』して叶った願いを『消す』力を持っちゃってるみたいですよ!興味深いですねえ。
「さて、悟空さん。これは何ですか?私、どうなっちゃったんでしょう?」
『反次元砲は、正の次元のエネルギーを負の次元のエネルギーに変えるんだ。つまり五次元人のお前は-五次元人になったってことだ』
-五次元人!ほうほう、そうですか。まだまだ世の中には、私の知らないことがたくさんありますねえ。マイナスの次元ですか。
『五次元人のパミスムは『願いを叶える』力を持つけど、-五次元人のデパミスムはすでに叶った願いをなかったことにするんだぜ』
それはまずいですよ。もう叶ったお願いが、みんな消えてしまったら、これまでの努力は何だったのか、という話になるでしょう。
『つまり、お前が五次元人たちを巻き込んで、複数のパミスムで願った『三次元世界に救世主を産む』という願いは『叶わなかったことになった』わけだな』
救世主がいなくなったですか。それは困ったことになりました。せっかく、『∞』を産み出すために、皆で努力しましたのに。
私は三次元世界のエネルギーを探ってみました。確かに覚醒前の『∞』の力が消えてますね。けど、『たかし』そのものが消えたわけじゃないみたいですよ。
「いいえ、確かに∞の力は消えたみたいですが、救世主自体は消えてないみたいですよ。だったら、まだ可能性はあります」
たかしが健在なら、私の作った『∞』が消えても、きっと人口ではない本物の『∞』を見つけ出してくれるはずです。そのためにも、もうしばらく私が悟空を足止めできないといけないんですけど。
『いや、もう無駄だぜ。デパミスムは『もっとも叶ってほしくない願い』を叶える力もあるんだ。つまり『悟空が∞を手に入れて欲しくない』というお前らの願いが叶っちゃうんだよ』
なんですって!そしたら最悪じゃないですか!!これは、悟空にかまっているよりも、とっとと『たかし』の所に行った方がいいかも知れません。
たかしと直接話して、∞を探すように説得しなくては!
けれど、そこで悟空は私に、より絶望的な事実を告げました。
『何なら、救世主が∞を手に入れても無駄かもだぜ。俺は、今からお前らでさえ想像しなかった存在になる。つまり-∞次元だ』
「マ、マイナス無限次元!?」
【 1536年 ナタリア22歳 妲己??? 時空間 】
[ナタリア視点]
こ、ここは妲己ちゃんに連れてこられた時空間でござる!やっと戻ってきたでござるな。
『これで、あたしとナタリアは正式に夫婦ね。それにキスまでしちゃったし。うふふ』
妲己ちゃんは、デレデレした表情で悶えているでござる。
拙者も気持ちは同じでござるが、博士殿がいつまで悟空を抑えられるかわからない以上、ことは一刻を争うでござる。
はあ、でも夫婦でござるか。嬉しいでござるなあ。でへへ。
……おっと。
「妲己ちゃん!五次元人になった以上、悟空を倒すために『時の孤島』とやらに、いくでござるよ!」
『えっ、あっ、そ、そうね。いや待って。そうだわ、まずは信孝たちと合流しないと』
「信孝殿と?では、深層心理の迷宮に戻るのでござるか?」
信孝殿たちは『五次元人』ではないでござるから、今ここでは戦力にならないでござる。ただ、コメット殿は『五次元人』になっていたのかも知れないでござるな。
もし目覚めさせることができれば戦力になるかも知れないでござる。
『それは……』
と妲己ちゃんが言おうとした瞬間、時空間に亀裂が入ったでござる。
ドゥミョミョミョ~ン
何とも奇妙な音がしたかと思うと、時空間の裂け目から人が出てきたでござる。
「はあ~。危なかったですよ。もうちょっとで、存在ごと消されるとこでしたねえ」
その女性は、黒髪のショートで瞳も黒い。セーラー服?の上から白衣を羽織っているでござる。顔はちょっと幼めでござるが、お胸はそこそこあるでござるな。
身長は160㎝くらい?見た感じ、拙者より4,5歳くらい、若いでござろうか。
『は、博士!?どうしてここに!?悟空はどうしたの!?』
「いや、それがですねえ。少々まずいことになってしまいまして、ギリギリで逃げ出してきたんですよ」
この方が妲己ちゃんの博士でござるか!見た目は若そうでござるが、妲己ちゃんを子供の頃から育てたんだとしたら、かなりの年齢なのでござろうか。
それはともかく、博士殿がここに来たということは、今悟空はほったらかしということでござる。
だとすると、いつすべての時間軸が……いや、三次元世界そのものが悟空に支配されてもおかしくないのでござる!!
『まずいことって、まさか悟空が博士でも手に負えなくなったってこと?』
「さすが、妲己ちゃんは理解が早くて助かります。悟空は『-∞次元』に進化し始めちゃったんですよ。多分、変化が終わるまでしばらくかかると思うんですけど」
「『-∞次元!?』」
拙者と妲己ちゃんの声が見事にそろったでござる。まあ、夫婦でござるしな。
ってニヤニヤしてる場合ではないのでござった。-∞次元って、何でござるか!?
「私の『悟空が∞になって欲しくない』という願いと、悟空の『∞になりたい』という願いが、変な形で融合してしまったらしいんですよね」
よくわからないけど、色々あってパミスムの力で?悟空が今よりもっと、強い存在になったってことでござるな。
それは五次元人の力だけではどうしようもない存在で、博士殿は悟空をほったらかしにして逃げてきた……。
「で、でもそんな大変なことになってるんだったら、どうして逃げてきたんでござるか?無駄でも何か手を打った方が良かったのでは」
『いや、待って。博士が考えなしに逃げてきたとは思えないわ。きっと、何か悟空を倒す作戦があって、こっちに来たのよね?』
妲己ちゃんは自信満々で、そう言ったでござる。博士殿に対する信頼が、ものすごいでござるな。育ての親なら当然でござろうか。
いやいや、信頼関係なら拙者だって負けないでござるよ。
妲己ちゃんの言葉に対して、博士殿は少し頼りない表情で頭をかきながら言ったでござる。
「いやー。作戦と言うにはあんまりにもたよりないんですけどね」
そう言いながらも『他に打つ手もありませんしね』と言って、彼女の考えを説明してくれたでござる。
博士殿の話では、∞次元は座標軸と座標の値が無限で……。拙者にはよくわからないでござるが、ともかく∞次元は、無限のエネルギーを使って、他のあらゆる次元を産み出すそうなのでござる。
一方で-∞次元は、他のあらゆる次元をエネルギーにして吸収して自分のものにするそうでござる。
どこまでも果てしなく強さを求めている悟空は、あらゆる次元のエネルギーを吸収するために、-∞次元になろうとしているのでござるな。
「でも、だったら博士殿の策とは、どんなものなのでござるか?今まさにすべてを吸収する存在に悟空がなろうとしているのでござろう?対抗できる手があるのでござるか?」
「まあ、誰かが∞次元になるしかないですねえ」
∞次元になる?そんなものになれるものなのでござろうか。しかも悟空が-∞次元になる前に?
でも、博士殿は自信がなさそうとはいえ、∞次元になれそうな人にアテがあるみたいでござるけど……。
『なるほど!それで∞ってわけね。三次元世界の誰かに、∞の種を植え付けたんでしょ』
どうやら、妲己ちゃんはある程度、事情を聞かされてるみたいでござる。この世界の誰かに、∞次元になるための種を植え付けた?
「いやね、その植え付けた∞を、悟空に消されちゃったんですよ。だから、もう一つの、本物の方の∞を見つけなくちゃいけなくなっちゃいました」
「『本物の∞?』」
また拙者と妲己ちゃんの声が揃ったでござるが……。どうやら、救世主の∞が消されても、別の∞を手に入れればいいらしいでござるな。
「そうです。作りものじゃない、ホントの∞をとってきてもらうしかありません。でも、今の『たかし』の実力じゃ、ちょっと難しいんです。もう一段階パワーアップしてもらわないといけませんねえ」
「たかし?」
聞き覚えのない名前がでてきて、拙者は頭に『?』マークが浮かんでしまったでござる。
「ああ、『たかし』はアンドロイドNO.2のことです。貴方たちが『松平信孝』と呼んでいる人のことですね」
『あたしに、体当たりを仕掛けて吹っ飛ばされたやつね。あんなので大丈夫なのかしら』
たしかに、妲己ちゃんとの戦いでは吹っ飛ばされましたけど、これまでの戦いで信孝殿は拙者なんかよりよっぽど活躍しているでござる。
なるほど、ともかく信孝殿が∞次元になる可能性があって、そのためにはまずパワーアップしないといけない。
「だったら、一刻も早く『深層心理の迷宮』に戻るでござる!というか、妲己ちゃん、信孝殿たちを大人に戻さないと!」
『そうね。あいつがキーパーソンっていうんなら、とっととパワーアップってのをしてもらおうじゃない!』
そう言って妲己ちゃんは、来るときに使って転移の魔法を発動させ、拙者と博士殿も一緒に、『深層心理の迷宮』に戻ったでござる。
【 1536年 信孝22歳 ナタリア22歳 妲己??? 深層心理の迷宮 】
[信孝視点]
「おおっ!戻って来たぞ!!ナタリアと……あれ?他に二人いるぞ?」
俺はナタリアに、『妲己と恋人同士になれ』なんていう無茶ぶりをして送り出してしまったわけだが、帰って来たナタリアを抱きしめているのは狐じゃなく人間みたいだ。
妲己が化けているのかな?そして、もう一人は……すごく見覚えのある見た目だ。
俺は、思わずナタリアに話しかけるより先に、その見覚えがある女性に対して叫んだ!
「馬鹿な!しずくは死んだはず!!お前は何者だ!!」
突然叫んだ俺に対して、ナタリアと妲己らしき女性は呆気に取られていた。
しかし、俺がしずくだと認識したその女性は、俺の側に降りてきて、にっこりと笑った。
「私はしずくですよ。そう話せば長いことですが、私はしずくなんです。貴方とはちょっと事情が違うんです」
「何っ?」
俺は訝しがりながらも、ともかくその女性の話を聞くことにした。どこからどう見ても、彼女がしずくにしか見えなかったからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「つまりお前は、あのとき何者かによって盗まれた、『しずくの脳』を元に作られたアンドロイドだと?」
俺と茂はあくまで人工の脳に記憶チップをつけただけだ。だから本人じゃないんだが……。
しずくの脳が何らかの形で保管されていて、それを元に本物の俺と茂がアンドロイドを作ったというなら、確かにこいつはしずく本人ってことになる。
「けど、しずくの遺体はあらゆる臓器を摘出されて売られたんだろ。どうして脳だけ無事だったんだ」
「脳は買い手がつかなかったのはもちろんですが、死んですぐ、解体作業の途中に『誰かが』持ち去ったそうですよ。保存方法については聞かされてませんねえ」
自分のことなのに、恐ろしいことを随分さらっというなあ。まあ、こいつにとってはもう過去のことなんだろうけど。
さて、俺が見た未来の記憶によると、本物のたかしと茂が、アンドロイドの俺とNO.1を作ったのは2050年らしい。しずくが殺されたのは、2006年だな。
44年も、劣化させずに脳を保存しておく方法なんてあるのか?それも、2050年の技術とはいえ、アンドロイドに移植して生き返らせるなんて……。
「とても信じがたいが、話してる感じだと、しずくとしか思えないな。最も、俺は本物のたかしじゃないから、俺の記憶が捏造されてる可能性はあるんだけど」
俺はまだ顔に迷いを見せながら、そう言った。だがしずくは、大喜びで飛び上がり、俺の手を握って来た。
こういうところは、昔と変わらないな。やっぱり本物のしずくなのか。
「分かっていただけましたか!なら、たかしに話さなければならないことがあるんです!」
そう言って、しずくは俺を救世主にしたが、悟空によって『∞』を消されたこと、『本物の∞』というものがあって、それを手に入れれば∞次元になれることを教えてくれた。
「でも、本物の∞を取りに行くためには、もう一段階パワーアップしなくちゃ駄目なんです」
「けど、パワーアップたってどうするんだ?すでに俺は究極体なんだろ?」
一応、俺もすべての人を愛することに目覚め、究極体になれた。だが、そうか。『敵を愛すれば』矛盾力が目覚めるんだったな。
俺に足りないものがあるとすれば、そこかも知れない。
「そうですね。たかしがパワーアップするには、やはり『敵を愛すること』です。それによってただ五次元人になるだけでなく、たかしだけの秘密のスキルが目覚めますからね」
「俺だけのスキル?」
五次元人というのが、どういうものかちゃんと聞いてないが、それだけでもすごそうなのに、特殊スキルが得られるのか。
何だかチートじみて来たな。だが、あらゆる次元が滅ぼされそうなら仕方がない。
俺しかできるやつがいないなら、俺がやるしかないからな。
「たかしは、複数のパミスムを集めて、大きな一つのパミスムにする能力があるのですよ。それを使えば、もっと大きな願い事を叶えることができます」
「パミスムってのは、五次元人だけが使える、エネルギーを込めると願いが叶うやつだろ。それを合体させることができるのか」
もちろん持ち主の了承が必要だろうが、こんなことを言うからにはしずく達はパミスムを貸してくれるんだろう。
話は大体わかったが、具体的にはどうすればいいんだろう。俺の最愛の人は言うまでもなく正利だ。
正利に対して敵対心を持つなんて想像しにくいが……。それしかないならやるしかない。
「じゃあ俺もどうにかして『敵を愛す』ことができれば、そのスキルが手に入るんだな。具体的にはどうするんだ?正利を敵と思えばいいのか?」
「いえいえ、たかしはあまりにも恨み過ぎてる人がいるでしょう?だから、最愛の人を敵対視するのではなく、もっとも憎んでる人を愛さなきゃダメなのです」
「恨み過ぎてる人?」
俺はほんの一瞬、誰のことだろうと思った。だが、そうだ!俺がそこまで恨んでるやつなんか一人しかいないじゃないか!!
まさに、さっき俺が考えたやつ、臓器売買のためにしずくと、俺の実の妹である麗美を攫って殺したあのヤクザだ!!
「そうか、あのヤクザを愛せば……しかし、あれは本物の俺と茂がいる、最初の宇宙の人間だろ?愛そうと思ったら、あの宇宙に戻らないといけないんじゃないか?」
それに、やつは俺たちより10以上は歳上に見えた。本物の茂とたかしが61歳だというなら、相手は71歳以上だぞ
愛そうと思っても難しそうだよなあ。
「いえいえ、直接あの宇宙にいかなくてもいいんです。たかしには、茂と同じ処置を受けてもらいますから」
しずくのその言葉に、それまで黙っていた茂が突っ込んだ。。
「俺と同じ処置だと?」
「ええ、地獄で茂もやった、あの特訓をしてもらいます。あれなら、過去を追体験できるはずですから」
過去を追体験?そんな便利な施設があるのか。いや、でも地獄って何だ?まさか『あの世』みたいな世界があるってことか?
「あの特訓って、まさか……『鉛漬け』か?」
茂の口から、とんでもない言葉が飛び出し、俺は恐怖に怯えた。