過去と今、通じ合う二人の愛!
【 1526年 ナタリア12歳 五次元研究所 】
「あ、あ、あの、えと、その!!拙者、たまもちゃんのこと、す、好きになっちゃったかも知れないでござる!!」
『……そう』
あわわわ……まずいでござる。何だか、不機嫌になったみたいでござるよ!?ど、どうしよう。冗談だと思われたのでござろうか。
こんなにドキドキして苦しくて、変になりそうなくらいなのに……!!
『やっと……私の想いが届いた……ということね』
「ふえ!?ど、どういう意味でござろう!?」
拙者はたまもちゃんの言った言葉が理解できずに、そのまま聞き返してしまったでござる。たまもちゃんの想いとは……?
「決まってる……でしょ。私の方が先に恋をしたと……言うこと。あの日、あなたと出会ったとき……よ」
「え、ええええええええ!?」
たまもちゃんが拙者に恋!?しかも初めて出会ったときから!?
『貴方には、私の気持ちを伝えないと……いけない。どうして、私が恋をしたのか……。どうしてナタリアじゃないとダメなのか……を』
「拙者じゃないと、ダメって……」
そんな嬉しいことを言ってくれるなんて、拙者喜びのあまり頭がどうにかなりそうでござるよ!それにしても、たまもちゃんが最初に会ったときから、拙者のことを好きだなんて、夢のような話でござるなあ。
拙者は嬉しさを隠すことができずに、ずっとニヤニヤしているでござる。
『それには……ね。そもそも、私が『五次元人』について研究している『理由』から……話さないといけない……の』
「誰も争わないようにするためじゃないんでござるか?」
少なくとも、さっきたまもちゃんからそう聞いたばかりでござるが。
『うん……もちろんそう……よ。けど、私がそれを目指そうと思ったのは、私を育て、科学と魔法と【矛盾の力】について教えてくれた【博士】の存在が大きい……の』
「はかせ?」
『そう……博士は身寄りのない私を……赤ちゃんのときから育てて、彼女の持つあらゆる知識を教えて……くれた』
そんな人がいたでござるか。というかホントのご両親は……聞かない方が良いでござるよね。
「その博士殿は、今どうしてるのでござるか?」
『博士は『五次元人』に……なった。研究は成功した……の。けど、博士は自分だけ五次元人になっても、平和は訪れないと言って……』
たまもちゃんは、悲しい目でどこか遠くを見つめている。
『【五次元世界】に旅立ってしまった……の。直接見て研究してくると……言って。現在の研究を全て私に引き継いで……』
五次元世界?そんなとこがあるのでござるか!?というか、博士殿は五次元人になれたのでござるね。
つまり、人を五次元人にするという研究自体は完成しているわけでござる。いや、たまたまなれただけだとしたら再現性が、まだ足りないのでござろうか。
少なくとも、今すぐに人類 皆を五次元人にできるわけではないみたいでござる。
『それが先週のこと……。そして、博士がいなくなってどうしていいか分からず、途方に暮れていた私の前に……突然ナタリアがあらわれた……の!』
なんと、博士殿がいなくなったのは、拙者が富士山中に迷い込んだ、まさにその日だったわけでござるか。
つまり、拙者とたまもちゃんは、正に運命の時に運命の出会いとしたわけでござるな!
「拙者が現れた、とはつまり拙者が富士山中で迷っている所に、出くわしたということでござるよね?」
『うん……あのとき私は全身が感電したみたい……に、激しい衝動に襲われた……の』
『顔も体型も……、しぐさも!そのとき、私の目に映った全てが、私の求める最高の理想だと感じた……の!!』
たまもちゃんは、真剣な顔で拙者のことを見つめ、いつもでは考えられないくらい、しっかりした声で言ったでござる!
『一目惚れ……しないわけがなかった……わ』
そうか、そうだったのでござるね。そんなに愛されていながら、今までたまもちゃんの気持ちに気づかなかったなんて、拙者はなんと愚かなのでござろう。
『それで……この一週間、一緒に過ごしてきて、分かった……の。やっぱり、ナタリアが運命の人だっ……て』
「そ、それじゃあ拙者とお付き合い……と言っても何をしていいのかわからないでござるが、してくれるのでござるか?」
私がそう言うと、たまもちゃんは顔を赤らめて、少し笑って言った。
『ええ……、けど、その前にやらなくちゃならないことがある……の。それが済まないと、ナタリアと付き合うわけにいかない……わ』
「ふえ?なんでござるか?やらなくちゃいけないことって?」
『ナタリアは運命の人……五次元人の実験体として、最高の素質を持つ……。それがこの一週間でわかった……の』
『私の愛は本物……だから、とても辛いけど、貴方を実験体にしなきゃいけない……わ。博士の理想を実現するため……に』
実験体!?拙者を!?
「へ?たまもちゃん。い、一体何を言ってるでござるか!拙者を実験体にって……!?」
『ナタリアの脳に、『博士の記憶』を元に生成した『矛盾知識のチップ』を入れる。そうすれば、訓練次第で『パミスム』を覚醒させられる……はず』
拙者は驚き過ぎて、言葉が出なかったでござる。せっかく仲良くなったのに、せっかく相思相愛なのに、拙者の脳にチップを入れる?
いくら博士殿の研究を完成させるためでも、そんな酷いことをするなんて!
『もちろん、私の脳にもチップを入れる……わ。五次元人は一人じゃ意味がない……もの。私とナタリアが五次元人になれば……、争いのない世界が近づく……わ!』
たまもちゃんは、自分の言葉に酔いしれるように、幸せそうな表情で語っている。確かにやろうとしてることは酷いのでござるが、彼女は真剣に夢を追い求めているのでござるな。
ここは愛の見せどころなのかも知れないでござる。
「分かったでござる。拙者が実験体を引き受けるでござるよ」
拙者の言葉に、たまもちゃんは驚きと呆れが入り混じったような表情になったでござる。そして、声を震わせながら聞いてきたでござる。
『い、いい……の?本当に……?脳を弄るってだけでも、酷い……のに。博士の記憶チップを植え付けたら、人格に影響が……出るかも知れない』
たまもちゃんは、自分で実験体のことを言いだした癖に、拙者の答えに泣きそうになっているでござる。
『な、ナタリアが……!ナタリアじゃ無くなっちゃかもしれない……んだよ!』
拙者は、たまもちゃんが拙者のことを心配してくれるのを、とても嬉しく思ったでござる。
そして、それによって拙者の決意はより強く固まったのでござる。
「でも、たまもちゃんはそれでも研究の完成を望むのでござろう?だったら、拙者は命をかけてでも、応援するしかないでござるよ!!」
たまもちゃんは、フルフルと体を震わせている。目からポタポタと涙が零れ始めた。
『わかった……よ。私も覚悟を決めた……わ!世界から争いを無くすため、私は愛する人を改造……する!!』
たまもちゃんは、とびきりの笑顔でそう言ったでござる!普段、表情の変化が少ないだけにこれは嬉しいでござるなあ!
「是非、お願いするでござる。で、拙者はどうすればいいのでござるか?」
『この薬を飲んで……。後は眠っているだけですべては終わる……から』
そう言って、たまもちゃんは無色透明の飲み物を出してきたでござる。これを飲めばいいのでござるな。
「わかったでござる。拙者は……もし人格が変わってしまっても、ずっとたまもちゃんのことが大好きでござるからな」
『うん……嬉しい。私も大好き……だよ』
こうして拙者は眠りにつき……次に目覚めたときには、富士山中に放逐されていたでござる。
拙者が一週間も戻らないので、愛族の集落では大規模な捜索隊が出されていたようで、発見された拙者は、両親に泣きつかれるやら怒鳴られるやらで大変だったでござる。
でも!それどころじゃないでござる!!何故、たまもちゃんは拙者を放逐したのか!?
拙者の脳にチップを入れて、それでその後もたまもちゃんのお家で暮らせると思っていたのに!!
拙者はその後しばらく、泣き続けて何もできなかったでござる。
もちろん、たまもちゃんのお家を探すために、今度はちゃんと準備をして富士山中を捜索したのでござるが、どうしても見つけられなかったのでござる。
【ナタリアの思い出 終わり】
【 1536年 ナタリア22歳(魔法により3歳) 時空間 】
でも、拙者は今でもたまもちゃんのことを心から愛しているのでござる。女々しいと思うかも知れないでござるが、運命の相手を忘れるなんて、できっこないでござるからな!
拙者の回想を聞いて、妲己殿は目に涙を浮かべ震えだしたでござる。
『ねえ、ござるちゃんさあ。今の話、マジ?』
「そりゃぁ、もちろんホントでござる。嘘つく意味もないでござろう?」
震えながら聞いてくる妲己殿に対して、拙者は当たり前のように答えたでござる。妲己殿は乾いた笑いを浮かべながら『だよねー』と言った。
『あのさー、怒んないで聞いて欲しいんだけど』
妲己殿は今度は少し恥ずかしそうにモジモジとし始めた。世界を消滅させるために攫っておいて今更、怒るなとは何を言い出すつもりでござろうか?
「攫っておいて、今更 何でござるか?拙者と愛し合えるようなことなら、何でも聞くでござゆよ」
『えーと、今 話に出てきた、たまもちゃんってさあ。……あたしだって言ったら信じる?』
あまりにも唐突な質問に、拙者は言葉を失い、しばらく反応できずにぼけっとしてしまったでござる。
「は……え……な、何を言ってるでござゆか!たまもちゃんは狐じゃなくて人間だし、世界を滅ぼそうなんてしないでござゆよ!!」
『あはは、だよねー』
そう言った瞬間、妲己殿の表情に深い悲しみが見て取れたでござる。でも、そんな馬鹿な。たまもちゃんが妲己殿だなんて。
そもそもたまもちゃんは、ちょっと暗い喋り方が魅力の子だったでござる。妲己殿はわりとノリノリの喋り方をされるでござるからな。
共通点が少なすぎるでござる。
拙者は妲己殿の目を見つめた。正直、嘘を言っている眼には見えないでござるが……。拙者が馬鹿正直で騙されてるだけかも知れないでござる。
そのとき、拙者の中で何かが爆発した!この感覚は……10年前と同じ!?な、何ごとでござるか!拙者の身体!!
まさか本当に、妲己殿が!?け、けどだったら何で、こんなに性格が変わっちゃってるんでござるか!
あと、なんで10年間も拙者をほったらかしにしたでござるか!!説明を要求するでござるよ!
もう妲己殿がたまもちゃんだとわかった拙者は、震える声で言葉を絞り出した。
「だ、だったら……何で拙者を富士山中に放逐して……10年間もほったらかしにしたんでござるか……」
『え、まさか信じてくれんの?こんなに全然変わってんのに?』
「信じるでござるよ!拙者の魂……『愛の核のかけら』が、妲己殿がたまもちゃんだと訴えているでござる!それより、質問に答えて欲しいでござる!」
拙者はあの時、とても悲しかったでござるよ!それに10年間どれだけ、たまもちゃんのことを思い続けたと思ってるでござるか!!
『あたしだって、会いたかったよ。ずっとずーっと、ござるちゃ……ううん、ナタリアのこと考えてたもん』
妲己殿の言葉に、拙者は胸がはちきれそうになり、ボロボロと涙を流した。
「だったら……どうして……」
『そう、あたしも 会いたかったんだ。でも博士の『四神計画』に従わなきゃいけなかったのよ。あたしが考えても博士の計画は完璧だったしね』
またわけのわからない言葉がでてきたでござる。いや、まあ『博士』はたまもちゃん……いや、妲己ちゃんを育ててくれて知識を与えてくれた人らしいから、無条件にプランに従うのもわかるのでござるが。
でも、とにかく拙者と妲己ちゃんを離れ離れにした、『四神計画』どんなものか聞かないわけにいかないでござる。
「『四神計画』って何なんでござるか?『五次元人』を作り出す計画なのは、わかるでござるが、具体的に妲己ちゃんはこの10年どんな研究をしてたのでござる?」
『そうね~、うん。ナタリアには知る権利があるわ。10年も待ってくれてたんだもんね。きちんと話したげる』
そう言うと、妲己ちゃんは『ポン』という音とともに、人間に変身したでござる。これは!拙者のよく知ってる10年前の妲己ちゃんでござるな!
「お、おお~。ホントに、妲己ちゃんが、たまもちゃんだったのでござるなあ」
拙者がそう言うと、妲己ちゃんはウインクしながら答えた。
『そりゃあ、そうよ!こんな美人がそんな何人もいないでしょ~?』
妲己ちゃん、本当に活発になったでござるなあ。ぼそぼそと話してたころが懐かしいでござるが、これはこれでよいものでござる。
「さて!『四神計画』ってのはね、四人の『三次元人』の頭に『記憶チップ』を入れる。そして、その四人の力が全て覚醒すれば、無限に『五次元人』を増やせるって計画よ!」
1.『矛盾』チップを入れられたナタリアがパミスムに覚醒し五次元人になる
2.『遺伝子』チップを入れられたツバサが、五次元人のゲノム解析をし、再現可能にする
3.『動物使い』チップを入れられた織田信秀が、改造するための動物を集める
4.『未来視』チップを入れられた本願寺証如が、さらに進化させる方法を夢で見る
『でも何百年も生きてる、ツバサはともかく、チップを植えた時点ではナタリアも、『信秀』や『証如』も子供だったのよね。だから覚醒には大人になるのを待つ必要があったのよ』
『それに、あたし自身 いつまで経ってもパミスムに覚醒できなかったしね』
妲己ちゃんは自身をあざわらうように『へへへ』と言った。
そうでござったか。妲己ちゃんも、意地悪で会わなかったわけじゃないのでござるね。実験が一定の成果を出すまで、会うわけにいかなかった……。
それにしても、10年前の記憶をたどる限り妲己ちゃんの知識や技術は完璧でござる。
拙者たちが覚醒してないのはともかく、何で妲己ちゃんはパミスムに覚醒できなかったのでござろうか?
『んで、ね。最近になってやっと、パミスムに覚醒する方法がわかったのよ』
『五次元人は『争わない』。そう、今ナタリアがやってる『敵を愛す』ことが、五次元人になる条件だったわけよ』
おお!もう条件は、わかっているのでござるね。そういえば信孝殿も『敵を愛することが矛盾力を高める』と言っていたでござる。
矛盾力を身に着け、高め、それを越えて全ての望みを実現するパミスムを覚醒させるには、まず敵を愛する必要があるのでござるな。
妲己ちゃんの10年間、これまでの経緯を聞いて、拙者は一つの疑問を抱いたでござる。
「ん?でも、だったら何で妲己ちゃんは今、悟空の手先になって拙者をさらってるのでござるか?」
『言ったでしょ?『敵を愛す』ためよ』
『あのとき、『博士は悟空に殺されかけた』私の心に憎悪が燃え上がったわ。チャンスだと思ったの。敵を愛し、パミスムに覚醒する最高のチャンスが来たってね』
「ええええっ!?じゃあ、妲己ちゃんは『敵を愛すため』に、博士を殺そうとした悟空に従ってるのでござるか!?」
事態は混迷度を増してきたでござる。けど、もうちょっと……。そう、拙者は最初から妲己ちゃんを愛しているのでござるから!
拙者は、悟空の手先である妲己ちゃんを愛しているでござる。
多分、あと一つ、何かのきっかけがあれば、拙者がパミスムに覚醒できるはず!!
妲己ちゃんの想いを乗せ、拙者はパミスムに目覚める覚悟を決めたのでござった。