ナタリアの恋~一番の思い出をぶつける~
【愛界 宇宙ダンジョン 最下層 第五十階層 深層心理の迷宮 ハルナの部屋】
「ポイントは、まず自分の愛を、相手の『愛の核かけら』にぶつけることだ!できるだけ多くのパワーを込めて!!自分のすべてをぶつける!」
これは俺と正利が恋人同士になったときの経験からも言えることだ。
俺と正利の手順で言うなら
1.外見と強さに惹かれ合った。
2.死に瀕し、互いにかばい合うことで絆を深めた。
3.過去を語り合い、心を一つにした。
というステップを踏んだわけだが、今ここで2を経験してもらうのは難しいだろう。
外見は……狐だからなあ。人間に化けた姿とかがあれば別なのかもしれないけどね。
だからこそ、今の二人に必要なのは過去をぶつけあい、互いを理解することだ。
そう考えた俺は、ナタリアに向かって叫んだ。
「ナタリア!今二人に必要なことは、お互いの過去をぶつけあい、互いを理解することだ!それができれば、関係が一歩進むはずだ!!」
だが、ナタリアが俺の言葉に答える前に、妲己が間に割って入った。
『あんたたち、何を訳のわからないこと言ってんのよ!ともかく、ござるちゃんは頂いていくからね』
そういうと、妲己は一瞬姿を消して、すぐナタリアの側に現れた。転移系の能力か?って、まずい!ナタリアが攫われたらお終いだ!
俺はとっさに正利の手を掴んだ。二人の想いが通じ合う!究極体になって、俺たち二人の愛も限りなく増幅されている。
「アルティメット・ダイブ!!」
俺たちは一陣の光となって、妲己に突進した!
『おっと、ダメよ。おイタしちゃあ』
妲己は俺たちの攻撃を片手で受け止めた!!うーむ、愛のパワーは間違いなく強いんだが……やはり子供になってるせいか、勢いが十分じゃない。
あるいは妲己のもつ『矛盾力』のせいで、理屈を超えてガードされてしまったのかも知れないが……。
「まずいでござゆ。このままでは拙者のせいで、すべてが滅んでしまうでござゆ。ほ、本当に妲己を愛せるなら、愛さなくては!!」
妲己に抱えられたまま、ナタリアは何とか妲己を愛そうとするが、この状況では簡単ではないようだ。
『じゃあ、私はこれで失礼するわよ』
そういうと、妲己とナタリアの姿が消えた。
【 時空間 】
[ナタリア視点]
拙者は、妲己殿に抱えられたまま、周囲の空間が歪んだわけのわからない空間にいた。
どうしようどうしようどうしよう。まずいでござるよこれは!!
妲己殿は、拙者を使った人体実験で『矛盾力』の秘密を探り出し、それを悟空に教えようとしているでござる!
もし本当に悟空が矛盾力を手に入れたら、すべての宇宙、すべての時間軸は悟空の手に支配されてしまうでござる!!
というか、拙者は実験の段階で殺されるか、精神に異常をきたすか……そんなことになりたくないでござる!!
それを回避する方法は一つ!妲己殿が悟空の元に着く前に、彼女を愛することしかないでござるよね。
けど、さらわれて世界を滅ぼされそうなのに、愛せなんて無茶でござる!
けど、何とか方法を探らないといけないでござる。信孝殿は互いの過去を知りあうのがポイントといっておられたでござるな。
とりあえず、拙者の過去を妲己に伝えてみるでござるか。他にできることもないでござるし。
恐らく伝えないといけないのは、コメット殿たちの『一番の思い出』みたいに、拙者の人生で一番重要な『思い出』でござろう。
その思い出と、それに対する拙者の想いを妲己殿にぶつけるでござる!
「え、ええっと、妲己殿、拙者はでしゅな。12歳の頃、富士山中で迷子になったことがござって……」
『ちょっとちょっといきなり、何の話よ?あ、そっか。あの変なのが言ってた私を愛せとかいう話?いや、無理でしょ普通に考えて』
『死にたくないのはわかるけどさあ。もうちょっと何かマシな方法の方がいいんじゃない?』
妲己殿にそう言われて少し決心がにぶったでござる。本当にこんなことに意味があるのか?
けど、拙者はそんなに頭がいい方じゃないでござるからな。他の方法を考えるより、愛する方がわかりやすくて平和的で良いでござる。
確かに無茶苦茶でござるが、拙者の運命をかけるにはいい方法でござるよ。拙者とて愛族でござるからな。
拙者はとにかく真剣な表情をしたでござる。子供になってるからあまり迫力はないでござるが、ともかくここは真摯に想いを伝えるでござる。
「妲己殿。お願いだから、聞いて欲しいでござゆ。拙者の過去『一番の思い出』を!文字通り後生でござゆ。何とか……」
拙者には、トークで上手く相手を乗せるなんて技術はないでござる。だから、とにかく必死に訴えかけるしかないでござる。
拙者は妲己殿の目を見つめた。この人を愛せれば、宇宙も時間軸も救われる……。
拙者の真剣な顔に気おされたのか、妲己殿の顔が少し赤くなったでござる。
『わ、わぁったわよ。あんたの可愛さに免じて聞くだけは聞いてやるわ』
おおっ!これは一歩前進でござるな。
それにしても、可愛さに免じてって何でござろう?拙者、顔にそこまで自信はないでござるが……?
いやいや、そんなことはどうでもいいでござる。ともかく、拙者の『一番の思い出』でござるな。
「そう、あれは拙者が12歳のときでござった。普段は富士の風穴で暮らしていたのでござゆが、興味本位から富士山を登ってみようとしたのでござゆ」
愛族は愛識で動いているため、人間より身体能力は高いのでござる。だからプランさえきちんと立てていけば、子供が富士山を登ることも可能だったのでござる。
でも拙者は何とかなると思って、ロクに計画や準備をしないまま、登り始めて、道に迷ってしまったのでござる。
「当然、何の計画も準備もなしに登り始めたので、案の定すっかり道に迷ってしまったのでござゆ」
『え、っていうか何の話なの?』
「信孝殿が言っていたでござろう。拙者たちが愛を育むには『大切な思い出』と伝え合うことでござゆ!だから拙者の一番の思い出を話しているでござゆよ」
それを聞いた妲己殿は不思議そうな顔をして、拙者に聞いてきた。
『富士山で遭難したのが、一番の思い出なの?』
「そうじゃないでござゆよ。重要なのはここからでござゆ」
どうやら妲己殿はホントに話を聞いてくれるみたいでござる。よしよし、拙者だってできることなら戦いたくないでござるからな。
仲良くなれたらそれに越したことはないでござる。頑張ろう!
「富士山で道に迷った拙者は、深夜になっても当てもなく彷徨っていたでござゆ。何せ不用意に寝たりしたら熊にでも襲われそうでござったからな。子供の頃でもそれくらいはわかるでござゆ」
「それでも体力が尽きて、倒れこんだとき、誰かが手を差し伸べてくれたのが見えたのでござゆ」
「そして優しく微笑んで、こういったのでござゆ」
『あなた、どうした……の?こんなところで……』
『そう、山で遭難した……のね。だったら……私がとってもいいところに連れて行ってあげる……わ』
「そう言って、拙者を見たこともない円盤みたいな乗り物に乗せてくれて、その人のお家まで運んで行ってくれたのでござゆ」
拙者の話を聞くごとに、妲己殿の顔が困惑したような顔になってきたでござる。何か変なことを言ったでござろうか。
せっかく拙者が感動の体験を語っているというのに。
「それで連れて行ってもらったお家で、見たこともないような豪華な部屋に招待されたのでござゆ。さらに!食べたこともない美味しい料理をごちそうになったのでござゆ!」
今でも思い出すでござるなあ。あの数日間は正に夢のような時間でござった。
そう言った私の言葉に、妲己殿は少しにやけたように口角を上げたでござる。
そして、拙者に対して聞いてきたのでござる。
『じゃあ、豪華な部屋に止まって美味しい料理を食べたのが、ござるちゃんの『一番の思い出』ってわけ?』
そう言われて、拙者は思わず声を荒げて否定した。
「それは違うでござゆ!!」
妲己殿は拙者が突然叫んだので、びっくりして危うく拙者を時空間に落としそうになったでござる。
「確かに、豪華な部屋や料理はいい思い出で、ござゆけど、『一番の思い出』は、その日 お部屋で、同じくらいの年の子と『夢』を語り合ったことでござる!!」
『………………!!!』
妲己殿がびっくりし過ぎて、ちょっと変な顔になっているでござる。そもそも顔を赤くしたり、妙にソワソワしたり変な汗をかいてるでござる。
トイレにでも行きたいのでござろうか?
『そうその子の夢は……。世界を愛と平和で満たすこと!そのために、この三次元世界に人工的な『五次元人』を作り出すことだったのでござる!!』
【ナタリアの思い出】
そうあの日、拙者は豪華な部屋と料理で、すっかり舞い上がっていたでござる。
食事を終えて、部屋に戻ったとき、拙者と同じぐらいの年の女の子が部屋に現れたのでござる。
その子は長い金髪の髪に、白い肌、年の割に身長と、お胸のでかい女の子でござった。
「貴方はどなたでござるか?もしかして、ここのおうちの子でござるか?つまりお嬢様……ううん、こんな豪邸なら、お姫様でござるな!」
『ああ……いや、私は、あなたに三次元世界について尋問しに来た……の。私の『目的』のためには、三次元世界について知る必要があるから……』
その時の拙者は『三次元世界について尋問』の意味は解らなかったでござる。けど、ともかく拙者のことについてお話したいんだと思って、なんだか楽しくなってきたのでござる。
「そうだね!仲良しになるためには、まずはお話しないとでござる!だったら、まずは自己紹介からでござる!」
「拙者はナタリア!ナタリア・ウィドワーでござる。富士の風穴に住む、愛族でござるよ!」
拙者の言葉に、その子は面食らったような表情になった。でも、次の瞬間落ち着きを取り戻して、ちゃんとお名前を教えてくれたでござる。
「私は……そうね、『たまも』とでも名乗っておこう……かしら」
それから、拙者とたまもちゃんは、たまもちゃんが開発したという『コンピュータ・ゲーム』で遊んだでござる。
『コントローラー』なるものを使って、まるで本当にその場にいるように、レースゲームや対戦格闘ゲームなどを楽しんだでござる。
部屋には、すごく明るい照明がついてござったから、深夜遅くまで二人でずっーと遊んでいたのでござる。
こんなゲームを作れるなんて、たまもちゃんは天才でござるな!!
こんな機械は愛族の誰も持ってないでござるから、とても楽しかったでござる。
そんな風に一緒に遊んでいる内に、拙者とたまもちゃんは、どんどん仲良くなっていったでござる。
それから一週間……。
今日もたまもちゃんと遊んでいると、たまもちゃんが難しい顔をして拙者に問いかけてきたのでござる。
『ナタリアは……、不便を感じていない……?ここでの生活に……』
「全然!不便なことなんて何もないでござるよ!!だって、ここには拙者のお家にないもがたくさんあって、すごく楽しいでござるもの!」
この一週間、部屋もご飯も最高だったでござる。それに、たまもちゃんと遊ぶのは本当に楽しいでござる。
ゲームも色んなソフトがあって全然飽きないし、たまもちゃんさえよければ、ずーっとこのお家にいたいぐらいでござる。
「それに、たまもちゃんと遊ぶのも楽しいでござる!たまもちゃんは可愛くて親切で頼りがいがって、最高でござる!!」
たまもちゃんは顔を赤くして『おせじばかり言って』と言った。
拙者は本当のことばかり、言ってるつもりでござるのに。
『今日は貴方に聞きたいことが……あるの』
「ん?なんでござるか?何でも聞いて欲しいでござる。拙者にわかることなら、何でも答えるでござるよ」
拙者に何か聞いて、たまもちゃんの役に立つなら是非答えたいでござるなあ。
『それじゃあ、愛族のことだけど……』
それから、たまもちゃんは拙者のこと、拙者の家族のこと、愛族のこと、私が知ってる限りの日本と世界の情報……色んなことを聞いてきたでござる。
もちろん、拙者は一番の親友として、たまもちゃんに何でも教えてあげたでござる。
そして、質問だけで5~6時間ほど経ってくると、さすがに拙者も疑問に思ってきたので、そんなに質問ばっかりする理由を聞いてみたでござる。
そうすると、たまもちゃんは拙者の目を強く見つめ、少し顔を赤くして答えたのでござる。
『そう……ね。半分くらいは、ホントにナタリアのことをなんでも知りたいからだけど……』
『研究……には、『三次元世界』の情報が必要……なの』
「研究って何のことでござるか?」
研究と言う言葉自体も耳慣れないものだったでござる。けど、何かを調べたり、開発したりするんだろうということはわかったでござる。
この一週間で、たまもちゃんが何のお仕事をしてるかは、よくわかってたでござるからな。
問題は、何のために何について研究してるかでござった。
『研究は……秘密なんだけど、ナタリアにだけは教えてもいい……かな』
『私の研究は、三次元世界に【五次元人】を作り出すこと……よ。高次元人は争わない。三次元世界に完全な平和をもたらすには、それしか……ないの』
真面目な顔で話すたまもちゃんに対して、私は一体何を言われたのかわからずに、おろおろしてしまった。
「ご、五次元人って何?」
たまもちゃんの話によると
1.三次元世界は『縦横高さ』を自由に行き来でき『時間』が一方向にのみ進む世界
2.四次元世界は『縦横高さ時間』を自由に行き来でき『矛盾』を覆せない世界
3.五次元世界は『縦横高さ時間』を自由に行き来でき『矛盾』が両方とも成り立ち、修行により『パミスム』が覚醒する世界
拙者はまた言われた意味がわからず、ぼーっとしながら聞いていたでござる。
そして、何とか気を取り直して次の質問をしたのでござる。
そして、このときのたまもちゃんの答えが、拙者を永遠にたまもちゃんの虜にさせ、拙者の生きる指標となったのでござった。
「たまもちゃんは、どうして五次元人とやらを作りたいのでござるか?」
『私は……!!』
『五次元人は魂に『パミスム』を持つわ……。パミスムが覚醒すれば、人々は望むだけで望むものを得ることができるの。つまり……』
たまもちゃんは、呼吸を激しくし汗を少し流して、非常に興奮した状態で言った。
『誰も争わなくて済むようになる……!!』
「誰も争わなくて済む!?」
『そう、欲しいものが手に入るのだから、奪い合う必要がない。人々は、ちゃんと愛し合える……!皆がお友達になれるはず……なの!』
拙者は、たまもちゃんの理想を追求する姿にびっくりした!
愛族である拙者にとって、人助けは生きがいでござる。拙者とて、できる限り他人が喜ぶようなことをしてきたつもりでござった。
けど、たまもちゃんの人助けは桁が違うでござる!『誰も争わなくて済む』何と言っても人類全体が困らないようにするんでござるから!
そして、その目標とそれを実現する力に、拙者は感動し、たまもちゃんを尊敬して……。拙者の中で何かが爆発したのでござる!!
「ふあ……あ、あ、あああ!!」
『……どうしたの?』
こ、これはまずいでござる!『爆発』したせいで、たまもちゃんを見ると胸がドキドキ、顔が赤くなって何もしゃべれなくなるでござる!
たまもちゃんの夢に心を撃たれたからだとしても、これはちょっと異常でござる。もしや、これが噂に聞く恋というものでは……。
「あ、あ、あの、えと、その!!拙者、たまもちゃんのこと、す、好きになっちゃったかも知れないでござる!!」
そう、これが拙者の淡い初恋の記憶でござる。
【思い出、まだ続きます】