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ハルナの鍵と『愛の矛盾』

(ラブ)界 宇宙ダンジョン 最下層 第五十階層 深層心理の迷宮】


 事態が思ったより危険なことになっていた。俺たちは新たな決意とともに、部屋の前に戻された。


「どうだった?私の『鍵』を手に入れられたの?」


「あ、ああ。見てくれ。『愛美の鍵』は手に入れたぞ」


 そう言って、愛美に『鍵』を見せる。ツバサのときと同様、愛美に持っていてもらうつもりだ。


 鍵を受け取った愛美は怪訝そうな顔でこちらを見てきた。


「上手くいったわりには、あんまり嬉しそうじゃないわねえ」


「ああ、どうも悟空のパワーが増してるらしくてな。早くコメットを目覚めさせないと、取り返しのつかないことになるかも知れないんだ」


 俺の言葉に、愛美も他の皆も緊張が走る。あとどれくらい時間が残っているのかもわからない。


 もし悟空が『矛盾力』を手に入れたら、その瞬間に俺たちは生まれなかったことにされて消滅するかも知れない……!!


 そう考えると、冷や汗が流れ、体中に恐怖が走る。


「それなら、急ぐしかないわね。下手したら、コメットくんを起こせたとしても悟空が強すぎて倒せないなんてことになるかも知れないもの」


 周囲に沈黙が走る。愛美の言うことは正にその通りだ。とにかく急がないといけない。


 だが、次はハルナの部屋だ。ここを最後にしたのは他でもない。ここにハルナ姫がいないせいで、皆で情報共有をしたとしても、状況再現が不完全なものになりそうだからだ。


 でも、とにかくできるだけのことをやるしかない。


 そう思って俺たちは、必死に情報共有をする。


「やはり、二人の『一番の思い出』はコメットを救うため、ハルナ姫が必死に自分の愛を伝え、二人の想いが通じ合ったところだろうな」


 黒の核に囚われたコメットに対して、ハルナ姫は何とか両想いになることで、状況を脱しようとした。


 そのために、二人のこれまでの冒険を語り、その中で自分に芽生えた想いを叫んだ!


「となると、キーワードになりそうなのは……」


「『黙ってハルナについてくればいいのや!!』 じゃねえか?あの言葉でコメットに恋心が生まれたと言っていいだろう」


 俺の意見は茂と同じだ。キーワードとしては、ちょっと長い気もするが、二人の想いを表している言葉だと言える。


 ハルナ姫はひたすら恋心をぶつけ、それにコメットが答えることで生まれた言葉だからな。


 話がまとまりかけたところで、ナタリアが『あ、あの』と言った。


「上手く言葉にできないでござるが、何か違和感があるような気がするでござる」


「つまり、『黙ってハルナについてくればいいのや!』以外に、それらしい候補があるってことか?」


 俺がそう言うと、ナタリアは少し落ち込んだ表情では首を振った。


「ごめんでござる。そこまで具体的にはわからないでござる」


 うーん、ナタリアの言葉は気になるが……。悟空が矛盾力を学んでるというし、いつまでも考えてるわけにはいかない。


「矛盾……?でも、何がどう矛盾してるのかわからないでござる……」


 ナタリアが何かボソボソ言ってる。どういうことかはわからないが……。


「まあ、ともかく行ってみようぜ。どうせハルナはいねえんだ。中で話し合ったって同じだろう」


(ラブ)界 宇宙ダンジョン 最下層 第五十階層 深層心理の迷宮 ハルナの部屋】


「さて、部屋の様子は他と同じだな」


 やはり、広い部屋の奥に鍵モンスターが座っている。


「あれは……狐か?」


 ハルナ姫と同じ『金色の体毛』に妙に白い顔、そして九つに分かれた尻尾。


 日本の感覚で言うと九尾の狐って感じの見た目だ。


 加えて、デカい!!体長が40mくらいありそうだな。


 その狐が、俺達に向かって語り掛けてきた。


『おお、やっときたね。じゃあ、さっさとやっちゃってよ。状況再現ってやつ』


 俺たちは、驚愕した!!これまでの鍵モンスターは機械的な言葉しか言わなかったのに、どうもこいつは、俺たちとまともに会話ができるみたいだ。


「ちょっと待て!なんであんた喋れるんだよ!鍵モンスターってのは、決められた言葉以外も喋れるもんなのか?」


『ふふふ、それはね。あたしはちょっと特別なのよ。色々あってね』


 特別?もしかして、コメットとハルナ姫の間に、ツバサや愛美とは異なる何かがあったせいで鍵モンスターの性質が違うってことか?


 俺たちの予想では、ハルナ姫の言葉で二人の想いが通じ合い、『黄金同調』が起きるという、ツバサや愛美と同じパターンだと思ったのだが……何か見落としがあるんだろうか?


「信孝様、どうしましょう。このまま状況再現をしますか?それとも、何か見落としがないか話し合ってみますか?」


「そうだな。いや、今のままじゃ新しいアイディアも浮かばないし、とりあえずやってみよう。やってるうちに何か気づくことがあるかも知れない」


 俺のその言葉で、ハルナ姫とコメットの状況再現が始まった。


【ハルナ姫とコメットの思い出】


 神界の『終焉神研究開発センター』……この施設は『純悪の愛』に乗っ取られ、黒の核が終焉神のエネルギーを吸収していた。


 『恋愛シミュレーションすごろく』によってそこへ送られたハルナ姫とコメット。二人が施設を調べていると、突然 黒の核のエネルギーが膨れ上がり、コメットを取り込んだ。


 思い出の注目すべきシーンはここからだ。


「コメット!!気をしっかりもつのや!憎悪にとりこまれたら戻ってこられなくなるのや!!」


 ハルナ姫がいくら叫んでも、コメットは反応を見せず、どんどん黒く染まっていく。


「こら、あかんのや。どうすればええ、無間地獄でせっかく仲良くなったちゅうのに、ここで死なれたら困るのや」


 大無間地獄では命がけの戦いだった。倒せない神:無限神『エターニ』と戦ったとき、もうダメだと本当に思った。


 もしコメットがいなかったら、さすがのハルナ姫も心が折れていただろう。だが、コメットのダンジョンに賭ける想いがハルナ姫を突き動かした!!


 『ダンジョンには必ず突破口がある』


 どんなダンジョンも、その特徴と傾向を掴めば、必ず突破口があるというのが、コメットの持論であった。『エターニ』もダンジョンのボスならば突破口があると。


 それでも、簡単には倒す方法など思いつかなかった。だが、戦いの中でハルナ姫は気づいた。大無間空間に漂う、無間菌(むげんきん)の存在に……!!


 無間菌は、触れたものの時間軸に変化を起こす。時が早まったり遅くなったりするのだ。大無間空間で数兆年過ごしても、外界では数か月しか経っていないのはこのためだ。


 『エターニ』も生き物である限り、寿命がある。ハルナ姫はそう考え、無間菌を使って、対象の時間の流れを数兆倍にする『存在消滅弾』を開発した!


「そうなのやね。あん時と比べたら、『黒の核』なんて大したことないのや。傾向も対策もわかっとるのやからね!!」


 黒の核は憎悪の塊だ。そして愛の力に弱い。元々は『愛の核のかけら』からできているからだ。


「やったら、あの時 エターニを倒したときに燃え上がったコメットへの想いをここでぶつけたらええのや!!」


 自分だけでは絶対に死んでいた。コメットがいてくれたから生き残れた。コメットが力を与えてくれて『存在消滅弾』が作れた。


「そんなん、好きにならんわけないのや」


 そう呟いたハルナ姫は、黒の核に飲まれていくコメットに訴えかけた。


「おい!コメット!!思い出すのや!大無間地獄での大冒険を!!あんたのアイディアで、業火モンスターもエターニも倒せたのや!!」


 コメットに反応はない。


「あの存在消滅弾をエターニの口に投げ入れたとき!二人で閃光弾を投げて気を引いたからこそ、隙をつくれたのや!!」


 コメットを覆う黒い靄が揺らいだ。そして、それはハルナ姫が叫ぶのをとめるべく襲ってきた。


 だが、ハルナ姫は全く動じず、コメットに訴えかけ続けた。


「あんたがいなければハルナは生き残れなかったのや!あんたがいなければ、あんな発明はできなかったのや!あんたと守りあわなければ早々に諦めてたのや!!」


 ハルナ姫の身体から淡い光が立ち上る。黒い靄が少しずつ消えていく。


「だから!!ハルナはコメットが好きになったのや!!この気持ちをあんたにぶつける!!ハルナの愛は黒の核なんかに負けんのや!!」


 そしてハルナ姫は、全神経を集中させ、もっとも伝えたい言葉を叫んだ!!


「やから……」


「黙ってハルナについて来ればいいのや!!」


 その言葉を聞いてコメットは、ハルナ姫とともに戦ったこと、ハルナ姫の頼り甲斐、頼もしさにときめいた。


 そしてハルナ姫を、研究と発明のために、あらゆる知識と経験を求める、『創造者(フロンティア)』だと感じた。


 これはコメットの『ダンジョン・開拓者(フロンティア)』や、愛美の『恋愛・研究者(フロンティア)』と重なるものだ。


 それを感じた瞬間、コメットもまたハルナ姫に恋をした!!


 そして二人の身体は『白く(・・)』輝いた!!


【ハルナ姫とコメットの思い出 終わり】


 そうだ!やっぱりここだ!!ハルナ姫の想いがコメットに届いた瞬間!!だとすれば、キーワードは……。


 俺たちの『状況再現』が終わったとみて、鍵モンスターが指示をしてきた。


『じゃあ、二人の『一番の思い出』を示すキーワードを言ってみて?』


 俺は自分たちの考えが正しいと信じて『キーワード』を言った。


「キーワードは、『黙ってハルナについて来ればいいのや!!』だ!!」


 俺がそう言うと、鍵モンスターは不機嫌そうな顔になった。


『ブッブー。ダメだよ、っていうか、これまでの私の態度から、大体違うってわかるでしょ?もっと、ちゃんと考えなきゃ』


 ダメだしされてしまった。むむう、自信はあったのだが。


 そう思った瞬間、狐の身体が白く輝き始めた。


『キーワードを当てられたら許してあげようと思ったけど、そういう訳にもいかなくなっかったわねえ。覚悟してもらうわ』


 狐の身体から白い光線が発射された。突然のことで不意を突かれた俺たちはモロに食らってしまった!!


 俺たちの身体がどんどん縮んでいき、小学生くらいの大きさになってしまった!!


「何をするんだ!鍵モンスターは、攻撃してこないんじゃなかったのか!?」


『ふふふ、あたしは鍵モンスターじゃないわよ。悟空様の使いでやってきた。『九尾の狐』通称は『妲己』よ』


 悟空の使いだと!まずいな。つまり悟空はNO.3のせいで自分は手を出せないから、部下を送り込んできたってことだろ。俺たちがコメットの意識を目覚めさせられないように!


 俺たちはこいつの罠にまんまとはまり子供にされてしまった。おまけにハルナ姫とコメットのキーワードもわからない。


 これじゃあ、とてもじゃないが妲己に対抗しようがないぞ。


 そのとき、突然ナタリアの身体が白く輝きだした!狐が出したのと同じ光だ!!


「な、な、な なんでござゆか!これは!?拙者の身体が……!!」


 ナタリアは子供になった影響か、舌足らずの言葉で驚きを示した。


「ば、馬鹿な、この次元には私以外『矛盾光』を放つ者はいないはずよ!!」


 妲己はあんまりにも驚いたのか、飛び上がって尻もちをついた。


 一方、ナタリアは何かを閃いたようで、目を見開いて『そうか!』と叫んだ。


「む、矛盾でござゆよ!!さっきから感じてた違和感はそれだったでござゆ!!」


「コメット殿に告白したときのハルナ殿には違和感があったのでござゆ。深い慈愛、それもまるで、黒の核すら愛しているような表情とエネルギーが感じられたでござる!」


 深い慈愛……?いや、それより黒の核を愛してたってどういうことだ?ハルナ姫は絶対『純悪の愛』とは関係ないはずだ。


 それなのに黒の核をあいするって……。あの告白の瞬間に一体、何が起きてたんだ?


『なるほど、びっくりだわ。本当にこの三次元世界で『敵を愛する矛盾』を身に着けた人がいるなんてね』


 妲己とナタリアが、俺によくわからない話を展開させている。このままじゃ埒が明かないぞ。


「ちょっと待て!お前ら!!分かるように説明しろ!!」


『説明してる暇なんてないわ。ともかく、あたしの目的は、その『ござるちゃん』を悟空様の下に連れてくことよ』


 ござるちゃんというのはナタリアのことか?でも、何故悟空がナタリアを求めているんだ?ナタリアは確かに究極体だが、それを言ったら俺たちだってそうだ。


 悟空から見たら特別強い存在ともいえないと思うんだが。


「何故、拙者を?自分で言うのも何でござゆが、拙者を攫って得があるとも思えないのでござゆが」


『悟空様は見つけたのよ。この世界にもまだ『矛盾力』を持った人間がいることを。まさか、もう力が目覚め始めてるとは思わなかったけどね』


 ナタリアが『矛盾力』を?しかし、こいつは俺たちと同じ強さなんだぞ。とてもじゃないが、悟空に匹敵するような力があるとは思えない。


『もちろん、意識的に使いこなせてるわけじゃないみたいだけど、研究材料としては申し分ないわ』


 どうする?少なくとも妲己の話では、ナタリアがいれば矛盾力の研究が大きく進むらしい。それはつまり悟空がNO.3の制御を乗り越えて、俺たちを殺しに来られるようになるってことだ。


 そうなればすべて終わりだ。悟空を倒すどころじゃない。俺たちが生まれる前に、親あるいは作った人間を殺せば済む話だからな。


 つまり、ここで妲己を倒してしまうしかない……が、俺たちは子供にされている。愛のパワーが衰えているわけじゃないが、出せる絶対的なエネルギー量が違い過ぎるだろう。


 ましてや、妲己は『矛盾力』が使えるみたいだしな。


 だとすると……方法は一つ!!


「ナタリアの矛盾力を完全に覚醒させて、妲己を叩く!それができれば悟空戦でも大きく役立つはずだ!!」


「か、覚醒ってどうやるのでござゆか!?」


「決まってるだろ!!」


 そうだ、妲己はヒントを出してくれた。憎むべき『敵を愛することで』矛盾力が目覚めると言っていた!だったら答えは単純だ。


「妲己を愛せ!!そうすれば、この戦いに勝てるはずだ!!」


「本気でござゆか!?」


 こうして、ナタリアの、あらゆる宇宙と時間軸の運命をかけた、『愛の矛盾』を乗り越える試練が始まった。


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