打倒悟空!~それぞれの思いが一つになった~
【愛界 宇宙ダンジョン 上層(学園ダンジョン) 第十一階層 講堂】
≪信孝視点≫
「くはああっっ!!!???」
な、何が起こった?私は……い、いや俺は、そうか!
いかんいかん。すっかり校長の意識に同化していたんで自我がおかしくなってたよ。
そうだ。俺はアンドロイドNO.2だ。望月たかしの記憶を持っている。
伊達稙宗の要請を受けて、悟空を倒す方法を見つけるために、この宇宙ダンジョンに来たんだったな。
そして、その十階層『学園ダンジョン』で変な校長に『愛の核と一体化する方法』を教えると言われて、校長の意識と同化し過去を見ていたんだった。
そう考えて、自分の姿を見ると、校長の記憶で見たのと同じように、俺の姿が虹色のハートになっていた。
そうか、それじゃあ校長の目論見は成功したわけだな。俺は『究極体』とやらになったわけだ。
そう考えて周りを見渡す。俺は配偶者の『正利』、高木茂の記憶を持つ『アンドロイドNO.1』そして愛族で宇宙ダンジョンの案内を買って出た『ナタリア』と四人でここに来たんだったな。
「どうやら、四人とも『究極体』になれたみたいね」
校長の言う通り、正利たちも『虹色のハート』になっている。つまり俺たち四人と校長、合わせて五人の究極体がここに集まったわけだ。
「っていうか、校長!あんたはあの後すぐ、この『宇宙ダンジョン』に来たんだろ。どうしてまだコメットを元に戻せてないんだよ!」
俺はすっかり過去の校長の意識に同化していた。だから、話の結末を聞かずにはいられなかったんだ。正利たちだってそうだろう。
西暦からしたら、校長が悟空の偽物?を倒してから700年ほども経っている。
それだけの時間をかけて、『コメットを救えてない理由』と、あの後『ツバサとハルナ姫はどうなったのか?』を知りたい。
「そうねえ、それは最深層にある『深層心理の迷宮』を私一人じゃ突破できなかったからよ」
聞き覚えのない言葉が出てきたことで、俺はオウム返しに聞き返した。
「『深層心理の迷宮』?なんだそれは?」
「名前の通り、コメットくんの深層心理が眠る領域ね。今のコメットくんと対話するには迷宮の先にいる『コメットくんの意識』までたどり着かないといけないんだけど……」
そこで校長は、一度言葉を区切って、大きく息を吐いた。
「『迷宮の謎』は一人では解けない。どうしても愛の核と一体化した人が複数必要だったの。そのために、この学園を建てたってわけね」
なんだか面倒くさい話だが、ともかくコメットの意識を取り戻すには、その『迷宮の謎』とやらを解いて迷宮を突破する必要があるのか。
一人ではどうにもならないと気づいた日から、700年に渡って学校で生徒を教育して来た。けど、俺たちが来るまで『究極体』になれるやつはいなかったってわけだ。
だから俺たちの協力が必要……だが。
「そもそも俺たちの主目的は『しずくを生き返らせる』ことだぜ。愛の核と一体化したことで、もう時間遡行は使えるみたいだし、もう悟空なんてどうでもいいんだよな」
校長の過去を見たことで、コメットやツバサ、ハルナ姫に思い入れができたのは確かだ。けど、俺が第一に考えるべきは『しずく』だ。茂も、その点は同じなはず。
まずはしずくを生き返らせることだ。他のことはその後でいい。
「そうはいかないわよ。悟空はもう私たちを補足してる。もし『しずく』さんを救ったとしても、その瞬間に悟空が現れて、貴方たちもろとも殺されたんじゃ意味ないでしょ?」
「なるほど、俺やあんたが分身体を倒したときに、目をつけられたっちゅうわけかい」
茂は太上老君にそそのかされて、『ゼロ次元』になり、悟空を倒したけど、それから三万年以上も何もない宇宙で彷徨うことになったんだったか。
妙だな。茂が戦ったときに悟空はもう『宇宙創造』を使ってたんだろ?
校長と戦ったのが700年前、茂と戦ったのが三万年前……?もしかして、宇宙が違うと時間の流れが違うのか?
いや、とりあえずそれは置いておこう。つまり俺たちが時間遡行をして、しずくを救っても悟空はそれを補足して、俺たちを殺しに来る……。
もしくは、俺たちがいなくなった後でしずくを殺すかも知れない。それじゃあ、ダメだ。
「悟空は本体を『時の孤島』においてるわ。そこから、あらゆる時間軸に分身を送り込んでいるのよ。だから、本体を殺さないことには、いくらでも蘇ってくるの」
「時の孤島?」
「ええ、あいつは愛の核さえ超えるパワーと、『宇宙創造』の技術を駆使して『時間軸創造』の技術を編み出した。そして、他の時間軸と一切繋がらない『時の孤島』を生み出したの」
ますますわけがわからない。だが、とにかく悟空は時間遡行どころか、特定の過去を持つ『時間軸』を生み出せるのか。
そしてどんな時間軸にも自由に移動できる。今ここに現れても不思議じゃない。
「そうか……しかし、そんな無茶苦茶なやつと戦えるのか?」
「『時の孤島』に行く方法があれば、ね。そのためには私たちも『時間軸創造』を身に着け時の孤島に繋がる時間軸を生み出すしかない」
なるほど、どこにも繋がらない『孤島』にいられては本体を倒せないが、そこに繋がる時間軸を作って『孤島』じゃなくすれば、倒しに行けるわけだ。
「しかし『時間軸創造』を身に着けるたって、どうやったらそんなことができるんだ」
「『キー』となるのは、終焉神でありながら宇宙を創造したコメットくんよ。それができたのは、愛の核と一体化した上で、愛の核を上回る憎悪を得たから」
『愛の核と一体化』に加え、それを上回る憎悪か。校長を殺された恨みは相当でかかったらしいな。その校長は生き返ってるんだけどね。
「その二つのエネルギーが混ざり合うことで、愛の核をはるかに超えるエネルギーを得た。それが、この宇宙ダンジョンなの」
「だから、コメットくんの『意識』までたどり着けば、そのエネルギーで『時間軸創造』をしてもらうことは可能なはずよ」
コメットのエネルギーは、愛の核とそれを超えるコメットの憎悪で、無尽蔵にでかい。だから、『時間軸創造』もできるってことか。
話としてめちゃくちゃな部分も多い気がするが、いつ悟空に殺されるかわからない現状を考えると、それに賭けてみるしかないのかな。
「というか、そもそも何故、今俺たちは悟空に襲われないんだ?」
悟空はあらゆる時間に干渉できる上に、俺たちを補足してるんだろ。だったら何故今ここで襲ってこない?
あるいは、俺たちが生まれる前に親(俺たちは製造者だが)を殺してしまえば、脅威を取り除けるはずだ。
「それについては、調べてるけどわかんないのよ。多分、コメットくんか何かが守ってくれてるんじゃないかと思うんだけど」
そのとき、突然俺の脳内に言葉が聞こえた。
――――システムメッセージ――――
システムNO.3からシステムNO.1とシステムNO.2へ
“ワタシガ マモル ミンナハ キエナイ”
システムメッセージ!?しかもNO.3からだって!?
というか、この声は……。すごく聞き覚えがある。忘れもしない。死んだしずくの声だ。
アンドロイドNO.3はしずくがモデルなのか?だが、しずくは高校生のときに死んだんだぞ。俺たちアンドロイドが作られたのは2050年、しずくが死んでから40年ちょっと後だ。
どうやってしずくの記憶データを作ったんだ……?
「おい、たかし。今の聞こえたろ?どうやらNO.3が『矛盾魔法』で俺たちを守ってるらしいぜ」
矛盾魔法?そういや茂から聞いた覚えがあるぞ。矛盾する二つの事象を両方とも成り立たせる『理屈の通らない』魔法だっけ。
「つまり、具体的な方法は分からないが、その矛盾魔法とやらでアンドロイドNO.3が俺たちを守ってくれている。だが、そんな大規模な魔法が長く続くとは思えない。俺たちは一刻も早く悟空を倒さなきゃいけないわけだ」
「よくわからないけど、悟空を止めてる何かがあるってことね。だったら今のうちに『深層心理の迷宮』に行きましょう。途中の階層は私の転移魔法なら……」
校長がそう言った瞬間、空間に転移のためのワームホールが出てきた。
俺たち皆は校長が、転移のためにワームホールを開いたのだと思った。だがワームホールの中から人が出てきた。
俺たちは困惑した。このタイミングでこんなところに誰が来るっていうんだ?
皆がワームホールから出てくる人物に注目していると、後ろから俺の肩を何者かが叩いた。
「ぎゅえっ!?」
俺が驚いて飛び上がると、その人物は楽しそうにケタケタ笑った。
「ワームホールの方はダミー人形だよ。こういうことは最初のインパクトが大事だからね」
俺に向かってそう言ったのは、長いツヤツヤした黒髪の、背の高い女性だ。初対面でイタズラされていなければ、大和撫子と呼んでもいいくらいだ。
そして、背中に巨大な翼が生えている。
「ツバサ!!そっか。メンバーが揃ったのを嗅ぎつけてきたのね」
ツバサ!?ツバサってさっきまでみてた『校長の過去』に出ていたやつか。でも、あの子は美人というより、カッコいい王子様系の女の子だった気がする。
成長して女性らしさが増したってことか?
「ちょ、ちょっと待てよ。メンバーが揃ったのを嗅ぎつけてって、そんなことどうやってしたんだよ!今日ここに俺たちが来ることなんて、俺たちすら予定外だったんだぞ?」
「そりゃ、簡単さ。君がここに来るよう『お願い』してから、ずっと後を着けてたんだからね」
ツバサはなんてことないような顔でそんなことを言った。だが、そもそも俺はツバサとは初対面のはずだ。
校長の記憶と同調していたせいで、他人のような気はしないが、これまで一度も会ったことはない。
すると、ツバサは俺の考えを読んだように、ニヤニヤした顔で言った。校長の記憶で見た700年前と同じ笑顔だ。
「え~?僕のこと忘れちゃったの?それは酷いなあ」
そういうと、ツバサの身体が光だし、姿を変えた。
そして、ツバサの姿が『伊達稙宗』の姿に変わった。
「た……稙宗!?」
「そうだよ。君たちに悟空を倒す要請をして、強くなるためにこのダンジョンを紹介したのは僕だよ」
稙宗がツバサ!?つまり、元々校長の過去を見せる予定で、宇宙ダンジョンに来させたのか。
その上で、俺たちに協力させコメットを人間に戻すつもりだったんだ。
悟空を倒すために、仕組まれたこと。俺たちは校長とツバサに踊らされてたのか?
だが、『究極体』になったことで、しずくを救うための『時間遡行』の力が手に入ったのは確かなんだ。結果オーライと言っても問題はないだろう。だったら後は、校長たちと力を合わせて悟空を倒すだけだ。
お互いの目的のためにな。
「なるほどな。稙宗がツバサか。こちらとしては問題ない。それでハルナ姫はどうなったんだ?」
俺がそう言った瞬間、校長とツバサの表情が一気に曇った。何かまずいことを言っただろうか。
「前に言ったでしょ。ハルナがあの後どうなったのか」
前にって、稙宗として話した時か?あの時、ハルナ姫の話題なんか出ただろうか。あ、いや。そうか、奥さんって……!!
『目を着けられたら大変だと考えた妻は、とにかく悟空を歓待した。しかし酒を飲んだ悟空はいい気分になって暴れ始めた』
『止めようとした妻を悟空は力づくで抑え込んだ。その際に妻の着衣は乱れ、それを見て欲情した悟空は妻を犯した』
『我々夫婦は天帝のお気に入りだ。この事件が発覚すれば、天上界は再び悟空を討つべく大戦争となる』
『それをわずらわしく思った悟空は、妻を殺し絶対に誰も踏み入らない場所に埋めることにした』
この話の『妻』ってのがハルナ姫のことだったのか!!あのハルナ姫が悟空に犯されて殺された……!!
ふつふつと怒りがこみあげてくる。さっきまで校長の記憶と同化してたせいだな。俺はハルナ姫と面識がないのにね。
「僕たちは大切な恋人を二人も奪われた。宇宙ダンジョンになったコメットと、殺されたハルナだ」
「それを取り戻すには、コメットくんを救うことと、過去改変が必要なのよ」
なるほど、それでわざわざ回りくどいことをして、俺たちに協力させようってことになったのか。
コメットを救うにも、ハルナ姫が殺された過去を変えるにも、まずは深層心理の迷宮を抜けなきゃ話にならないんだからな。
それに悟空と戦うのも、人数は多い方がいい。
よし。いいだろう。何も悩む必要はない。俺たちの思いは校長やツバサと同じだ。
そう考えて、俺は正利の方を見た。正利もツバサや校長の話に憤りを感じているようで、とても興奮した様子だ。
「正利、しずくを生き返らせるためにも、二人に協力するしかないと思うが、どうだ?」
俺がそういうと、正利は俺の手を握り、俺の目を見つめて訴えかけてきた。
「当たり前です!!この様な非道を許しては、筋が通りません。我らの手で悟空を討てるならば、他に選択肢はありますまい」
俺も正利の目を見つめ返す。握っていた手を放して、正利の肩を抱いた。
「やっぱり、そうだよな。目的もそうだが、悟空を許しちゃおけないよな」
正利と気持ちが通じ合い、気分が高揚して来た。よし!決まったぞ!!校長たちに味方をして、悟空を倒す!!
盛り上がっている俺の横で、茂が低いトーンの声で言った。
「ああ、俺も問題はねえぜ。ゼロ次元になる前から、悟空とは敵対関係だからなあ」
そして、ナタリアも興奮した様子で、両手を大きく広げ、飛び上がりながら言った。
「拙者も、もちろん問題ないでござる!正利殿の言う通り、そんな非道は騎士として許せないでござるよ!」
三人の話を聞いて、俺はパン!と手を叩いた。
「よし!決まりだ!!この六人で、『深層心理の迷宮』に行き、コメットの意識を呼び起こす!!」
「「「おお!!!」」」
そう言って俺は、校長の方に向き直り、彼女の眼を見て微笑んだ。
「じゃあ、これからよろしくな。校長……いや、愛美だったか」
「ええ、貴方は信孝でいいのかしら?」
「ああ、それで問題ない」
俺の認識では、俺の名前はたかしだが、この宇宙では信孝で通して来たんだから、わざわざその名前で呼ばせる必要はないだろう。
「じゃあ、行くわよ。今度こそ『ワープ』!」
愛美の言葉で、俺たちの前に『深層心理の迷宮』に続くワームホールが現れた。
悟空を完全に倒すため、俺たちの新しい冒険が始まる!!!