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ツバサはアンデットへの恐怖を克服した!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【恋愛シミュレーションすごろく デートマス5 アンデット・タウン】

 

 私たちがいるのは、薄暗い街の中ね。周囲には誰も住んでないのか、崩れかけた建物が立ち並んでいるわ。


 それはいいんだけど。


「ねえ、ツバサ。どうしちゃったの?私にすがりついたりして」


 舞踏会では、王子様のような振る舞いで散々、私をときめかせてくれたツバサが、今は涙目で私にすがりついてる。


 印象が違い過ぎて、本当に同一人物かと思っちゃうけど、キリっと引き締まった顔や、背中の目立つ翼は、舞踏会で見たときと同じだわ。


「い、いや。僕はお化けが苦手なんだ。小さいころハルナに肝試しと言ってアンデットだらけのダンジョンに連れていかれて……。さんざん連れまわされたあげく、恐怖で失神したんだ」


 そう説明している間も、ツバサの身体はガクガク震えてる。涙もポロポロと流してる。私の身体を掴む手に、もっと力を入れてきた。


「それからしばらくは、アンデットの夢を毎晩見続けた。半年か一年ほどは、頭が恐怖に覆われて他のことが何もできなかったんだ」


 どうやら、思った以上にお化けがトラウマみたい。でも、どうしよう?アンデット・タウンって言うからには、この町はお化けだらけのはずよね。


 頼みのツバサがこの調子じゃあ、私はどうしたらいいのかしら?


 それに、コメットくんとのことも聞きたかったのに!


 最初のデートで、多分ツバサとコメットくんはキスしたはずだ。それが体のどこかはわかんないけど、したのは間違いない。


 やっぱりコメットくんの彼女としては、聞く権利があると思うのよね。


「ねえ、ツバサ……」


 ぎょわぁ~ん ぎょわぁ~ん ぎょわぁ~ん


 私がキスについて聞こうとすると、いきなり周囲に異様なリズムの不協和音が流れ始めた。どうやら、ここの『イベント』が始まっちゃったみたいね。


 心なしか周囲の気温も下がった気がする。これも『すごろく』の演出なのかしら?


 私が身構えていると、周囲の何ヶ所かが、黒く光った!


 そして次の瞬間、黒い光から大きな剣と盾を持った、動く骸骨の化け物が現れた!


 その骸骨剣士たちは、『ぐぅぉぉぉ』と不気味な唸り声を上げて、飛び掛かって来た。


「ひゃぁっ!?」


 私は、ギリギリでその場から飛びのいて、骸骨剣士の攻撃をかわした!


 私の体にはツバサが引っ付いたままだ。結構重い。けど、魔神になって身体能力が上がっているのか、ツバサの体重を支えても動けるみたいね。


「ね、ねえ!逃げようよ!!早く逃げないと!!」


 ツバサは完全にパニック状態だ。必死に逃げようと、背中の羽根をバタつかせているけど、焦り過ぎて上手く飛び立てないみたいね。


 ツバサが頼りにならないとなると、私が一人で戦うしかないのかなあ。


 でも、ランクマッチ・スタジアムでは、ほとんどコメットくんが一人で戦ってたんだよね。だから、私の戦闘経験はまるでないわ。


「よし!決めた!逃げよう!!」


 私一人で戦って、どうにかなるものじゃないもん。私はツバサの意見に賛同し、逃げることにした。


「でも、引っ付いたままじゃ走りにくいわ。ツバサも自分で走ってくれないかな?」


「で、でも腰が抜けて動けないんだ」


 ツバサは何とか立ち上がろうとしているけど、どうしても立ち上がれないみたいね。


「空を飛ぶのも無理なの?」


 ツバサは背中の羽根を羽ばたかせようとするけど、強張っているのかどうしても力が入らないみたい。


「仕方ないなあ。じゃあ私がおんぶするしかないかなあ」


「ええ!?う、うーん、でもそうするしかないよね。お願いしてもいいかい?」


 私がかがむと、ツバサが背中に寄り掛かって来た。私は両手でツバサのお尻を支えて、立ち上がった。


 ツバサが手を私の背中にかけた。ツバサの身体が密着する。ツバサの胸が私の背中に当たった。ツバサはボーイッシュな見た目に反して、割とおっぱいがあるみたいだ。


「それじゃあ、逃げるよっ!」


 私は、そう叫ぶとスケルトンたちの隙をついて反対方向に逃げ出した。


 そして、しばらく走ったあと、一旦休憩することにした。


「はあっ…!はあっ…」


 全力で走って来たので、かなり疲れちゃったわね。次のお化けが来たら、まずいかも知れない。


「大丈夫かい?随分、疲れてるみたいだけど」


「うーん、そろそろまずいかも。休憩してる間に、襲われないといいね」


 そう言って周囲を見渡した瞬間、また周囲が黒く光った!


 今度は土の中から半分腐ったような死体が這い出て来た!これは私も怖い……。足がすくむ。まずい、逃げなくちゃ!!


 走ろうとするけど、足が痛い 心臓もバクバクいっている。いつまでも逃げきることはできないかも知れないわ。


 私は疲れすぎて、その場にへたり込んでしまった。どうしよう、このままだと、あの死体のお化けが襲ってくるわ!


 そう思っていると、死体のお化けがすごいスピードで近づいて来て、私に殴り掛かった!


 殴られる!と思った瞬間、私の身体が空に浮かび上がった!!


「え、ええ!?どうなってるの!?」


「ま、愛美が頑張ってるのに、僕が何もしないわけに……いかないから!!」


 そうか!ツバサが私を抱えて飛んでるんだ!さっきは羽根が強張ってたけど、少し落ち着いたってことかな?


 ツバサは必死に羽ばたいて、死体のお化けたちから距離を取っていった。


 そして、とりあえずお化けのいなさそうなところに着陸した。


「ツバサ、ありがとう!!怖いのに頑張ったね!!」


「う、うん。だって、僕は決めてるんだ。女の子のピンチは絶対、救わなくちゃダメだって!!」


 ツバサの表情が、いつもの引き締まった顔になってる。ツバサにとって女の子を救うことは、お化けの恐怖を克服するほど重要なのかも知れないわね。


 ともかく、『おんぶ』と『飛んで運んでくれた』こと。お互いを助け合ったことで、また少し仲良くなれたんじゃないかな?


「ねえ、ツバサ。このマスで起こってる『イベント』ってお化けでツバサを怖がらせるものよね。だとすると、私がツバサに何かして『お化けを克服』させればクリアなんだと思うの」


「そ、そっか。そうだね。これまでのマスから考えて、それは間違いないと思う。でも、どうすれば克服できるか、全くわからないなあ」


 今、ツバサは勇気を出して私を助けてくれた。でも、一度だけなら勇気を出せても、根本的な解決にはなってないよね。


 もっと、何か大きな壁を乗り越えないといけない気がする。


 そう考えていると、周囲にそれまでと比べ物にならないほどの瘴気が、周囲を覆った!!!


 ずごごごごご!!


 という地鳴りのような音と共に、巨大な人の形をした何かが現れた!!


「あれは!!」


 ツバサが大きな声で叫んだ!


「あいつは、確か10年前に僕とハルナを襲ったやつ、『ネクロマンサー』のミリアスだ!」


 ツバサは顔を青くして、その場に伏せ、目を閉じ耳も塞いでしまった。体もまたガタガタと震えている。よっぽど怖いみたいだ。


 多分、10年前はこいつに襲われたときに、失神してしまったのね。


 あれ?でもだったら、何でツバサもハルナ姫も無事だったんだろう?


 そう思っていると、その化け物が私たちの前にその姿を現した。大きさは五重塔の二倍はあるかしら。上を見上げて、なんとか顔が見えるくらいの大きさね。


 正直言って、私が戦ってどうにかなる相手には見えないけど……。


 でも、


 もう逃げられない!!戦うしかない!!


 でもどうやって?


 難しいことは、わかんない。


 だから、私が身を張って、ツバサの勇気を目覚めさせるしかない!!


 この『マス』は私とツバサを仲良くさせるために作られてるはずだもん。


 だったら、どんな相手でも二人で戦えば、絶対勝てるはずだわ!!


「我に歯向かうとは、愚かなもの達よ」


 そう言うと、『ミリアス』は両腕を大きく広げた。すると、ミリアスの周囲を黒い瘴気が覆った。


「集え!亡者よ!!サモン・マイファミリー!!」


 ミリアスがそう叫ぶと、街中に瘴気が広がっていった!


 そして、瘴気の中から骸骨剣士が無数に生み出された。さらに、瘴気は地中に沈んでいき、地中から腐った死体たちが這い出て来た。


 それに加え、空気中にも透明な体のお化けたちが、いっぱい現れた!


「あわ……あわ……」


 ツバサは動きが完全に止まって、ただ震えているだけだ。私が何とかしないと!!


 そう思ってる間にも、骸骨剣士が飛び掛かって来た!私は何とか避けた!


 腐った死体が抱き着こうとした!どうにか躱した!!


 透明なお化けたちは、周りをうろうろ飛んでるだけで、攻撃はしてこないみたい。


 んん~、でもこれどうしよう?このまま、ずっと避け続けても、その内、疲れてやられちゃうわよね。


 私は、何とか活路を見出そうと、必死にアンデッドたちの動きを観察した!!


 そして、ずっと見ていると私はアンデットたちの動きに特徴があることに気づいた。


 え、でも……


 ……んん?いや、まさかそんなあ。


 よく観察すると、骸骨剣士や腐った死体たちは私たちに攻撃しているわけじゃなく、ただ変な踊りを踊っているだけみたいだ。


 その過程で、私にぶつかったりじゃれついてきたりしてきただけ……に見える。


 ってことは、つまりここでの正解は……!!


「ツバサ!踊ろう!舞踏会と同じよ!!ここでも一緒に踊ればよかったのよ!」


 つまり、一緒に踊ってツバサがお化けたちと仲良くなることが、ここの答えだったんだ!!


「ええっ!?どういうこと!?」


「お化けの皆は、最初から踊りを楽しんでいただけだったの!そして、私たちと一緒に踊りたがってたのよ!」


 私の言葉に、ツバサは言葉を失った。確かに私が行ったことは荒唐無稽かも知れないけど、多分ホントだ。


 今はもうアンデットたちから悪意を感じないもん。


「ちょっと信じがたいけど、なるほど、そうか。敵意がないアンデッドと、一緒に踊って仲良くなることでトラウマを克服する。それが、ここの『イベント』なんだね」


 でも、だとすると、問題は最初に戻っちゃった。どうすれば、ツバサがお化けたちと一緒に踊れるようになるかしら?


 いや!そうよ。さっきは、身を張ると言ってもどうしていいかわからなかったけど!!


 今は踊れば良いってわかってる!まずは、私が踊れば良いんだ!お化けたちと手に手をとって!!


 それがすごく楽しそうだったら、ツバサも踊りに入ってきてくれるはずだわ!!


 そうと決まれば、話は早い!!見様見真似で踊るにしても、お化けたちの踊りを覚えなくちゃ!


 観察する限り、お化けたちの踊りは日本の『盆踊り』に似てる。私は農村にあまり行ったことがないから、よくは知らないけど多分そうだ。


「だったら、私にも何とか踊れる!」


 そう叫んだ私は、アンデットたちの集団に飛び込んだ!!


『エラヤッチャ エラヤッチャ』

『ドッコイショ ドッコイショ』

『デデレコデン デデレコデン』


 盆踊りじゃないのも混ざってる気がするけど、まあいいわ。


 私は、骸骨剣士の手を取り一緒に踊り始めた!!


『エラヤッチャ エラヤッチャ』

『ドッコイショ ドッコイショ』

『デデレコデン デデレコデン』


 踊っていると、すごく楽しくなってきた。骸骨剣士や腐った死体たちも、楽しそうだ!彼らの表情も少しづつわかるようになってきた。


 しばらく踊ってから、私は一旦列を離れて、ツバサの側に向かった!


 ツバサはもう身を伏せてない!!私たちの踊りに見入っていたみたいだ。


「ツバサ!!見たでしょ!お化けたちは、全然怖くないよ!!一緒に踊ろう!!」


「う、うん……。うん!!わかった!!楽しく踊る君を見ていたら、恐怖も薄れてきた。それより何より、これは……!!」


 ツバサは私を見つめながら、少し顔を赤くして言った。


「恐ろしいものにも、まっすぐ立ち向かう姿、それと仲良くなってしまう力、そして最初から感じていた、隙の多さ」


「え?私のこと?っていうか隙の多さだけ、悪口なんだけど」


 私の言葉を無視して、ツバサは話し続けた。


「なるほどね。これが『イベント』!つまり、このマスの目的は『恋に落ちること』だったんだ!」


「え?それってつまり……」


 ツバサはさらに顔を赤くして、興奮した様子で私の手を握って来た!


「僕は君に恋をした!多分、これでここの『イベント』はクリアだ!」


「そっか。つまり、舞踏会では私が、アンデット・タウンではツバサが恋をする仕組みになってたのね」


 舞踏会では、ツバサのカッコいいエスコートで、私はツバサのことで頭がいっぱいになった。多分、あのとき私は恋に落ちたんだ。


 そしてここではツバサが私の『アンデットとも仲良くなる』姿を見て?恋に落ちた。


「そうか、だったら二人は両想いじゃないか。これで一つの壁はクリアしたのかな?」


「うん!そうね。でも、私はコメットくんも好きだし、ツバサはハルナ姫も好きでしょ?きっとそれを乗り越えるための『イベント』も用意されてるんだと思う」


 自分で言っていて、少し怖くなった。コメットくんもツバサも好きな私。そしてツバサは……。


「あ、そうだ!ツバサはコメットくんとキス―――」


 そこまで言ったところで、ツバサの身体が突然消えた!!


「そっか。サイコロを振ったのは私だったから……」


 このマスをクリアした判定になったせいで、ツバサが元のマスに戻されたみたいだ。


 だとすると、ええと私が四人目に振ったんだから、これで一周したのよね。だったら、次にサイコロを振るのは、最初に振ったツバサかな?


 『恋人同士』がデート相手に選ばれないんだとしたら、この回はツバサとコメットくんの二回目になるはず。


 そして、これまでの流れからすると……。


「次のデートでツバサとコメットくんも両想いになっちゃう!?」


 すごろくはまだまだ続く でも私とツバサが恋人同士になったことで、少しだけ終わりが見えてきたのかも知れない。

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