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神の愛に目覚めるために~恋愛シミュレーションすごろく~

【陸奥国 楢葉郡 富岡 神愛の塔】


 あれから、私たちは魔界から真愛の塔に転移させられたわ。


 そして、すぐに神界に繋がっているという神愛の塔へワープしたの。


「ふえーっ。大きいねえ」


 ワームホールを抜けると、そこには天に届くかと思うほど大きな塔が建っていた。


 コメットくんは塔を見上げながら、『うんうん』と頷いている。どうやら、ダンジョンマニアにとって、この塔は合格みたいね。


「これが、神愛の塔らしいね。中に神界へ続くワームホールがあるはずだ」


 私たちは、門の前に来た。門だけでも、私たちの身長の三倍~四倍くらいの大きさがあるわね。そして、不思議な光を放ってる。


「これって、魔界のときみたいに、二人で杖を差し込めば開くのかしら」


「多分ね。やってみようよ」


 そう言って、コメットくんは『世界樹の杖』を出してきた。神居古潭で真愛の塔に入るときにも使ったやつね。


「これを扉の穴に差し込めば、扉が開くはずだよ」


 コメットくんはそう言って杖を握っている。私も、コメットくんの手にを添えるように、杖を握った。


 すると、扉が真っ白に光った!!そして重々しい音を立ててギィィっと開いた。


 そこに広がっていたのは、何も無い真っ白な空間だった!私は、あまりにも予想外の出来事に呆然と立ち尽くしていた。


 だってホントに何もないもの!!こんなことってあるかしら!


「本当に、この白い部屋から神界に行けるの?ホントに何もないよ?」


 私がそう言った瞬間、私たちの頭の中に言葉が流れたわ。


『皆と仲良く』


 その言葉が流れた瞬間、目の前の視界が変わったの。


 目の前に現れたのは……、ここは王宮かしら?大きな椅子に王冠を被った男性が座っている。隣には王妃らしき女性もいるわ。


 そして、その間に綺麗なドレスを着た私くらいの年齢の女の子が、ちょこんと座っていたわ。すごく可愛い。この国の王女様かな?


 私は王女様に見とれてしまった。


 まるで、コメットくんから聞いた『フランス人形』みたいな可愛さね!『フランス人形』なんて直接見たことはないけど、この王女様はまさに私が想像する『フランス人形』そのものだわ!


 おっと、あんまり王女様が可愛いから、気をとられ過ぎちゃってたわ。


 私は改めて周囲を見回した。


 どうやら、私たちは絨毯の上にワープしてきたらしい。その絨毯の回りをたくさんの、大臣や兵士らしい人たちが囲んでいる。


 皆の視線が私とコメットくんに集まってる!


 改めて考えると、これってどういう状況なんだろう?どうして皆は私たちを見てるの?


 私がそんなことを考えていると、突然 王様が興奮した様子で叫んだ。


「せ、成功したのか!異世界召喚魔法は!!」


 それに対してローブを被った神官?の男性が答えた。


「せ、成功です!!この者たちが、創造神ゴニャータから啓示があった、世界を救う勇者のはずです!!」


 なんだか王様と神官の人がよくわからない話をしていた。私たちが世界を救う勇者?何のことだろう。


 やっぱり、話を聞いてみないとわかんないよね。そう思った私は、とにかく王様に話しかけた。


「私たち、魔界で魔神になったんです。だから、神になるために神界に来たんですが……。勇者って何ですか?」


 周囲がザワついた。あれ?何かまずかったかな?あ、そうか。王様に直接話しかけるのってまずいんだっけ?


 元の世界でだって天皇陛下に直接話しかけたらまずいよね。もうちょっと慎重にするべきだったかも。


 そう思っていると、王女様が口を開いた。うわあ!すごく綺麗な まるで天使のように澄んだ声だわ。


「ふふふふ。おめぇら、面白れえ奴らなのやね。こんなにいっぱい人がおるのに、パパに直接話しかけるなんて」


 王女様は私たちをマジマジと見つめ、ニコニコとご機嫌だ。


 それにしても、王女様は少し独特な口調ね。それもまた可愛いけど。


「えーと、じゃあ誰に話しかければいいの?」


 私が余り気おされずに話を続けたので、王様も周りの人達も少し呆れているみたいだ。怒ってはいないみたいなので、ちょっと安心ね。


 でも、王女様はすごく楽しそうに『ケラケラ』と笑って、私の質問に答えた。


「じゃあ、ハルナが聞いてやるのや。どうも神官や大臣じゃあ話が、面倒くさくなりそうやしねえ」


 王女様は私たちに興味深々みたいで、ニヤニヤしながらこちらの様子を探ってくる。私は、王女様に見つめられて、少し恥ずかしくなって顔を背けてしまった。


 そんな私を見て、コメットくんが改めて私たちの情報を話してくれた。


「僕達は、神界で神になれると聞いて、他の宇宙から来ました。愛美が言ったように、すでに魔神になっています」


 コメットくんが簡潔に説明すると、王女様が立ち上がった。ちょっとスカートの裾を踏みそうになったけど、私たちの方に近づいてきた。


 そして、指を顎に当てて『ふむふむ』と言いながら、言った。


「なるほどやね。じゃあ、やっぱりおめぇたちが、神官の言う『勇者』で間違いねえのや」


「勇者って何なの?」


 私はさっき王様にした質問を、もう一度した。


「勇者はこの世界を救う救世主や。というのも、神界は今にも滅びそうなのやよ。それを救えるのは『魔神』であり、『神』になったやつだけなのや」


 神界が滅びかけてる!?しかも、それを救えるのは『魔神』で『神』になった人だけ?


 なんとなく話はわかるけど、ちょっと壮大過ぎてついていけないよ!


「ねえ、もっと詳しく説明してよ!」


 王女様の話によると


―――――――――――――――――――――――


 数千年ほど前、魔界で『魔神』になった人が神界を訪れた。その人は『神の愛』に目覚め、神になった。


 『魔神』で『神』になった人は新しい宇宙を創れる『創世神』になれる。皆はその人が自分の宇宙を創って、魔界を出て行くんだと思ってた。


 けど、その人は新しい宇宙を創るのではなく、その途方もないパワーを使って神界を滅ぼそうとした。


 そこで、神界の創世神は三人の子供たちに命じて、なんとかその人を封印した。


 けど、何故か今になってその封印が解けかかっているらしい。


―――――――――――――――――――――――


「つまり、私たちが『神』になって、その人を封印もしくは倒して欲しいってこと?」


「うん、そうなのや。何でか、今回は神界の創世神が動かねえみたいなのやよ。だから、ハルナ達で『創世神』級の強者を用意するしかねえのやね」


 なるほど。確かに神界が滅びちゃったら可哀そうだけど。そんな危険なものと戦うのは、ちょっとヤダなあ。


「もちろん、ちゃんとお礼は用意してあるのやよ。まず神になる方法は無条件で教えるのや。んでもう一つ、この『叶え球』を使う権利をあげるのや」


 そう言って、王女様はふところから、金色に輝く球を出してきた。


「叶え球?」


「うん、『愛の核』のパワーを凝縮して固めたって噂の、すごい球なのや。これに願えば、一生に一度だけ、どんな願いでも叶うのやよ」


 それはすごい!あ、でも私はコメットくんといれれば幸せだから、ものすごく叶えたいお願いはないかも知れない。


 強いて言うなら、姉さんも幸せになって欲しいなあ。


 っていうか、それよりも!


「その球にお願いして、神界を救ってもらえないの?」


「当然、ハルナ達もそう思ったのやよ。だから、何人かに試してもらったのや」


 王女様、ハルナ姫は両手を宙に向けて『けど、ダメやね』と言った。


「どうも、これって使うやつの『一番の願い』じゃねえと叶わねえのやよ。皆、口ではちゃんと『神界を救って』と願ったのや。でも、結果的にその人が本当にしたいことや欲しいものが叶っちまったのやね」


 んんー、神界が滅びちゃったらお願いを叶えてもしょうがないはずなんだけど。


 それでも、皆 他に『一番の願い』があったのね。


 横を見ると、コメットくんがそわそわしてる。そうだよね。コメットくんのお願いは『最高のダンジョン』のはずだわ。


 『叶え球』なら、それが手に入るかもしれない。でも……、創世神になるはずだった神様なんて、これまでとは比べ物にならないくらい強い相手っぽいよねえ?どうしよう。


「愛美、僕はこの戦いに挑戦しようと思う。すべての冒険家の夢、『ダンジョン・ザ・ダンジョン』!叶え球なら、そこに導いてくれるはずだ」


「ダンジョン・ザ・ダンジョン!?何それ!?」


 これまでコメットくんと旅して来たけど『ダンジョン・ザ・ダンジョン』については聞いたことない。何だかものすごいダンジョンなんだろうとは思うけど。


「究極の敵、究極の宝、究極の罠……この世のどんなダンジョンをも上回る究極のダンジョンだよ。父と母は、そこを目指せと言った。お前の望むものがそこにあると」


 お父さんとお母さんが、目指せと言ったダンジョン!!そんなところがあるんだ。そこに、コメットくんの望むものがある?


 それって、また別のダンジョンがあるの?それとももっと別の何かなのかな?


「わかった。コメットくんが、そこに行きたいんだったら、私も協力するよ!夫婦は助け合うんだよね!!」


 私のお願いは、コメットくんとずっと一緒にいることだもんね!つまり『ダンジョン・ザ・ダンジョン』を目指すことで、結局私のお願いも叶っちゃうんだ!


「話はまとまったみてえやね。それじゃあ、まず『神』になる方法を説明するのや」


 ハルナ姫は相変わらず、ニコニコしながらのんびりした口調で、『神になる方法』を説明し始めた。


「神になるための条件は『博愛』つまり誰でも全ての人を愛し慈しむことなのや。これだけだと、具体的にはよくわからねえのやね」


 ハルナ姫が、『やから、これを使うのや』と言って兵士たちに合図をした。すると、兵士たちは大きな『つづら』のようなものを持ってきた。


 これ、なんだろう?


「これはなあ、王家に伝わる神術具なのや。ハルナ達は『恋愛シミュレーションすごろく』と呼んでるのやね」


 恋愛しみれーしょんすごろく……?恋愛とすごろくはわかるけど、シミュレーションって何だっけ?


「そんでこっちが『ボード』やね。ボードは簡単に言ったら『すごろく』なのや。このすごろくで止まったマスの『デートスポット』に神術具がワープさせてくれるのや」


 えっと、つまり『ボード』ですごろくをして、止まったマスのデートスポット……つまり男女の逢引きに適した場所に、『つづら』が実際にワープさせてくれる……?


「でも、それがどうして『博愛』の訓練になるの?」


「この訓練は四人一組でやるのや、そのうち二人同士は愛し合ってるのやね。つまり『二組のカップル』でやるのや」


「マス目に止まると、ランダムにデート相手が選ばれて、デートスポットに飛ばされるのやけど、元々カップルの組み合わせは、絶対デート相手に選ばれんのやね」


 つまり、誰かの恋人とデートし続けることになるのね。


 私が他の男の子とデートし続ける。コメットくんが他の女の子とデートし続ける。


「当然、恋人が他の人間と仲良くしてたらイライラしてくるのやけど、それを乗り越えるのが、この訓練の目的なのやね」


「つまり『真実の愛で愛し合った相手が、他のやつに強い愛情を持っていても、それごと愛せること』が『神の愛』に目覚める第一歩なのや」


 私は反省したとはいえ、魔界で随分ルシアに嫉妬をしてた。結局、ルシアが悪かったんだけど、これからもコメットくんが女性と話すことは、いっぱいあると思う。


 その度に怒るわけにもいかないよね。


 でも、すごく大変そうな訓練だなあ。できればやりたくないけど、コメットくんはやる気になってるみたいだし、私はそれを応援したい。


 私は『ふう』と大きなため息をついた。また大変なことになっちゃったけど、やるしかないよね。


「わかった!私はやるよ!!要するに、どんなに嫉妬してもコメットくんを愛せればいいんでしょ!愛するだけなら、簡単だもん!」


「ああ、待った。ちょっと違うのや。正確には、元の恋人を愛するのに加えて、もう片方のカップルも愛せないとダメなのや。そのためのデートなのやからね」


「ふえ?」


 つまり、デートを積み重ねながら


 他の人を愛した恋人を愛する

 他のカップルの男性を愛する

 他のカップルの女性を愛する


 この三つができて、初めて『神の愛』に近づけるってことなのね。


 やるべきことに納得したところで、コメットくんが新たな質問をした。


「えーと、それでもう一組のカップルって誰なんです?」


「それはもちろん、ハルナとハルナの『彼女』の『ツバサ』なのやね」


 ええ!?王女様も一緒に訓練するの!?い、いやそれよりも!


「え……。『彼女』?ええと、ハルナ姫は女の子なんだよね?」


「そりゃあ、もちろん女なのやよ。神界では女同士、男同士のカップルなんて珍しくねえのや。『同性子作り』の神術もあるのやしね」


 『同性小作り』の神術!?そんなのがあるんだ!っていうか、倫理的な問題とかはないのね。


 そっか。神界では男女の境目も超えて、好きな人同士が結婚できるんだ!いいなあ!


「そ、そうなんだね!!それって凄いよ!!理想的だよ!!」


「ははは、貴方 ホントに珍しい人なのやね。普通、外から来た人は批判するのやけどね」


 そこで、私たちの会話を遮り、コメットくんが質問した。


「それで、そのツバサって人は今どこにいるんです?その『すごろく』に挑戦するには、その人がいないといけないんでしょ?」


「ツバサなら、もう来てるのやよ。ほら」


 そう言って、ハルナ姫は私たちの立っている赤い絨毯を指さした。


 その瞬間、絨毯に魔法陣の模様が浮かび上がった!!


 その模様から黄金の光が放たれた!どんどん光は強くなっていく、まぶしくて見ていられない!!


 そう思ったとき、魔法陣がそれまで以上にひときわ強く、神々しい光を放った!!


 そのとき!!


 突然、後ろから誰かが私の肩を叩いた!


 私はびっくりして飛び上がった!!


「ふひゃっ!?な、な、な、何!?」


「やっほー、初めまして。僕がツバサ、ツバサ・プレリアっていうんだ。よろしくね」


 私の目の前には、水色の髪でショートカットの女の子が立っていた。服は、魔女のようなローブを着ていて、背中にすごく大きな翼が生えている。


「って、って、っていうか!!後ろから話しかけてくるなら、あの魔法陣は何だったの!?」


 私がそう言って抗議すると、ツバサさんはニコニコしながら答えた。


「だってさ、あっちに注目させてた方が、後ろから話しかけたときに、びっくりするでしょ?」


「なっ…!?」


 そりゃあ、びっくりしたけど、じゃあこの人は相手をびっくりさせるためだけに、いつもあんな大掛かりな神術?をやってるの?


「おかげで、君のすごく可愛い姿が見られたよ。良かった~」


 そう言って、優しそうな顔でニコニコ微笑むツバサさんに、私は怒るに怒れなくなり、雄叫びを上げた。


「ななな……もおお!なんなんですかーーーー!!!」


 とにもかくにも、この四人で『恋愛シミュレーションすごろく』に挑むことになった。


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