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愛の大問題 愛の大解答

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


1536年8月 信孝22歳 正利24歳 稙宗4048歳


(ラブ)界 宇宙ダンジョン 表層 第一階層 転移門前】


 しずくが死ななければ、正利は生まれてこない。当然と言えば当然だ。正利はしずくの生まれ変わりなんだからな。


 現在、最初の宇宙が2050年だと仮定する。しずくが生きていれば60歳か。もし、あのとき過去で助けることができてれば、生きててもおかしくない年齢だな。


 ……だったら、どうする?


 俺の信念はしずくを救うことだ。


 だが俺にとって、今 一番大切なのは正利だ。


 『一番』は揺らがない。どうしても、どちらかを選ぶなら正利だ。


 だが、俺はしずくを救いたい!!ここまで、しずくを救うことだけ考えて命がけの戦いを突破してきたんだ!!


 今しずくを見捨てたら、俺のアイデンティが崩壊してしまう。というか絶望して立ち直れなくなりそうだ。


 それでも、正利の消滅よりはしずくの死を選ぶだろうが……。それを選ぶことで、俺が絶望して廃人になったら、正利もしずくも喜ばないだろう。


 しかも決断の時は迫っている。このダンジョンの50階層にある『愛の核』に触れることができれば、時空転移ができるようになるからな。


 そのときが来て……決断できなかったら……。俺はその先、何を目的に戦えばいいんだ?


「信孝様?大丈夫ですか?」


 正利に呼びかけられてハッとした!しまった、随分長いことボーっとしていたらしい。


「あ、ああ。すまない。門が開いたから、次の階層に行くんだったな」


 俺はとりあえず問題を棚上げした。とにかく50階層にたどり着くまでに考えればいいんだからな。


 そう考えていると、ナタリアが今後の方針を提案してきた。


「お二人は『ラブ次元』のおかげでLOVE30くらいの敵と戦えるでござるが、やはり戦いには慣れておいた方がいいでござる」


 なるほど、確かに俺たちは対人の戦いはたくさんしてきたが、モンスターとは戦ったことがないからな。


 あまり『ラブ次元』に頼りすぎると、それが効かない相手が出てきたときに困るだろう。


「そうだな。とりあえず周りのラブ球を吸収すれば、多少LOVEが上がるだろう。そこから、俺たちが戦闘に参加できるレベルを保ちつつ降りていくことにするか」


 周囲には、門の『愛識消滅砲』に巻き込まれたモンスターたちのラブ球が、無数に浮かんでいる。こいつを吸収するだけでも、そこそこLOVEが上がるだろう。


 そういうと、ナタリアは顎に手を当てて少し考えた。そして『うん』と頷いてから言った。


「そうでござるな。とりあえず10階層までは、それでいいでござろう」


 10階層まで?何か含みのある言葉だな。


 10階層と11階層の間には何かあるのか?モンスターが極端に強くなるとかだったら、10階層で安全圏までLOVEを上げるか、11階層に降りてからしばらくは、『ラブ次元』アリで戦うことも考えた方がいいだろうな。


「10階層を超えると何かあるのか?」


「そうでござるな。10階層までは表層、11階層からは上層でござる。表層から上層に降りるときの階層主は、表層主といって極端に強いのでござる」


 なるほど、10階層ごとに強い階層主がいるのか、なら20階層には上層主、30階層には中層主、40階層には下層主がいるわけだな。


 とすると、10階層で表層主を倒せるくらいLOVEをあげるしかないか。『ラブ次元』でカタをつけると11階層に降りてからが大変そうだからね。


「じゃあとりあえず10階層だな。そこまでのモンスターや階層主を倒しながら、10階層まで行こう。そしてそこで、表層主と戦えるくらいLOVEを上げることだな」


 俺の言葉を、ナタリアは頷きながら聞いていた。どうやら作戦に問題はないようだ。


「そうでござるな。ではさっそく行きましょう」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


1536年8月 信孝22歳 正利24歳 稙宗4048歳


(ラブ)界 宇宙ダンジョン 表層 第十階層 上層門前】


松平信孝 LOVE16 蜂須賀正利 LOVE16 ナタリア・ウィザリス LOVE33


 あれから俺たちは、ともかく戦った。一階層で戦った『ゼロ次元』とは比べ物にならないモンスターと多数遭遇した。


 表層に多かったのは、『〇〇次元』と言う名前のモンスターだ。ゼロ次元は、四次元とか三次元に対して、すべてを消滅させるのでゼロ次元という名前だった。


 しかし、多くの『〇〇次元』は特殊な効果を持つ四次元空間を作り出すモンスターたちだ。


 俺たちの住んでいる空間は三次元の座標と、一方通行の時間座標からできてる四次元空間だ。


 一方で『〇〇次元』というやつらは、この四次元座標が『時間』ではない四次元空間と、俺たちのいる空間を繋ぐ『穴』を作る能力を持つ。


 四次元座標が『容量』で、無限の『容量』を収納できる『収納次元』は、宇宙すら内部に収納してしまう、恐ろしい敵だった。


 四次元座標が『夢現(ゆめうつつ)』で一定空間の夢と現実を、自由に入れ替えて精神を破壊する『夢次元』には、ほとほと参らされた。


 こいつはLOVEが高けりゃ勝てる相手というわけでもないようで、ナタリアもてこずっていた。


 そして最も恐ろしかったのは『平行次元』だ。こいつは、あらゆるパラレルワールドに繋がる四次元空間を出すことができる。


 その空間を通じて、パラレルワールドの自分自身を無限に呼び出して、同時攻撃するというとんでもない技をやられた!


 倒しても無限に湧き出てくるので、最後は『ラブ次元』を使って一掃した。一匹も残って無ければ、さすがに次を出せないからね。


 そんなこんなで、苦労はしたがどうにか十階層から十一階層におりる門、表層最後の門にして上層の入り口である『上層門』にたどり着いたわけだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「さて、上層門にたどり着いたけど、今度の階層主……いや表層主はどんなやつなんだ?」


 俺がそう聞くと、ナタリアは『ええと』と言いながら、頭を振って考え始めた。記憶を呼び起こしているのだろう。


「確か、ここの階層主は屍魔王というアンデットだったはずでござる。宇宙を殺して魂を食らうことで、パワーアップするアンデットでござるな」


 宇宙は創世神が姿を変えた生き物だ。だから、魂があっても不思議じゃないが……。宇宙の魂を複数食ってるやつか。


 中々手ごわそうだが、LOVE1でも宇宙数千個のエネルギーがあることを考えれば、大したことないかも知れないな。


 そう思った瞬間、門が大きく形を変え、『学校の校門』のような姿になった。


「屍魔王は死んだ。今、この表層門を守っているのは、この私 学園王『ダイモンダイ』だ。」


 ナタリアの言っていたボスは殺されたらしい。俺は少し困惑した顔で、ナタリアの方を見た。


 ナタリアも冷や汗を流しながら、呆気に取られている。そして、ハッと気づいたように、突然叫んだ。


「ば、馬鹿な!?階層ボスは殺されても、同じモンスターが再生成されるはずでござる!!他の者が取って代わるなど、聞いたことないでござる!!」


 どうやら階層ボスは死んでも『リポップ』するらしい。つまり、この『ダイモンダイ』というやつも一階層の『門』と同じくイレギュラーってことか。


 イレギュラーも二つ続くと、何か原因があるんじゃないかと疑ってしまうな。


「ワシは死魔王を倒し、上層に改革を起こした!『教育改革』じゃ!上層に住むモンスターと、ここを訪れる者たちが『愛』を学べる『学園ダンジョン』を作り上げたのじゃ!!」


 ダイモンダイの言うことが、何一つ理解できなかった。上層に教育改革を起こした……?


 俺はとにかく少しでも情報を得るべく、『ダイモンダイ』に質問した。


「じゃ、じゃあこの下の階層は『愛』を学ぶ学校になっているってのか?」


「そうじゃ!もちろんお主らにも入学資格がある!!ただし、私の出す『愛の大問題』を突破できたらな!!」


 なんだかおかしなことになってきたな。殺された死魔王がリポップしないこと、ダンジョンを学校にしたという話の意味不明ぶり……。そして『愛の大問題』か。


「ちなみに、その『愛の大問題』ってどんなものなんだ?」


 とにかく俺達は、上層にいかないといけない。最下層の50階層を目指してる以上、こんなところでモタつくわけにはいかないからな。


 解けば上層に降りられるというなら、解いてやろうじゃないか。


「『愛の大問題』は今、お主らが抱えておる『恋愛についての大問題』に結論を出すことじゃ!!」


 自分が抱えている『恋愛の大問題』に結論を出す……?その言葉を聞いて、俺は青くなった。


『しずくを助ければ、正利は生まれてこない』


 それが、俺が恋愛に関して抱えている『大問題』だ。


 どうやら、早くも結論から逃げられない事態に陥ってしまったようだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


1536年8月 信孝22歳 正利24歳 稙宗4048歳


【大問題と大解答】


 考えろ!!しずくも助かって、正利も消滅しない方法を……


『大解答1 しずくのクローンを作る』


 要するにしずくが生き残っても、正利が生まれてくればいいんだ。


 つまり……神術でしずくのコピーを作って、そいつを転生神術でオマッに生まれ変わらせればいいんじゃないか?


 そしたら、本物のしずくは死なないし、正利は生まれてくるぞ。


 しかし……大切な幼馴染のコピーを作ったり、それを生まれ変わらせて、最愛のパートナーを生まれさせたり……


 それは俺の中で倫理的に許されるのか?


『大解答2 分岐した歴史を行き来できるようにする』


 しずくを助けた時点で、未来は『正利が生まれない未来』に固定されてしまう。


 だから神術を使って、『正利が生まれる未来』と『正利が生まれない未来』が両方存在できる状態にする。


 そして、双方の異なる未来を行き来できるようにすればいいんだ!!


 そうすれば、正利は消えないし、もう一つの未来のしずくにはいつでも会える!


 ……でも『正利が生まれる世界』のしずくは結局死んじゃうんだよな。


 『正利が生まれない世界』からしずくを連れてくるという方法もあるだろうけど……


 いや、それじゃ結局コピーを作る方法と変わらない。俺の知ってるしずくじゃない、別の……まやかしのしずくができるだけだ。


 偽のしずくを作らない方法で何かないか……?


『大解答3 年老いて亡くなったしずくを、過去に連れて行きオマッに転生させる』


1.過去においてしずくを救う

2.しずくが寿命で亡くなる未来に時空転移する

3.しずくの魂を回収する

4.オマッが生まれる過去に時空転移する

5.しずくをオマッに転生させる


 元気なしずくを転生させるよりは、倫理的なハードルが低いな。


 元々、オマッに転生する運命なんだし、それを手伝っただけとも言える。


 だが……ホントにそれでいいのか?しずくを転生させるなんてことを、やっていいのか……。


 俺の悩みが頂点に達したとき、俺の周囲の宇宙空間に巨大な穴が発生した。


 俺たち3人と『ダイモンダイ』は一瞬、思考を止めてその穴にくぎ付けになった!!


「よっしゃーー!!ついに帰って来たぞ!!人がいる宇宙に!!」


 俺は穴から出てきた人物を見て、驚愕した。


「し、し、茂!?」


 そこにいたのは、俺の……いや、本物のたかしの幼馴染である、高木茂だった!少なくとも俺にはそう見えた。


「おーっ?おめえが、アンドロイドNO.2か?なるほど、『愛識』を通じて見てたのとそっくりやん」


 茂は……いや、こいつは多分アンドロイドNO.1だな。こいつは愛識を通じて、俺たちのことを見ていたのか。


 そして、俺がピンチになったときに、愛識を通じて愛を飛ばすことで、アドバイスしてくれてたんだ。


 俺の姿は松平信孝だが、こいつは元の高木茂にそっくりだ。戦国武将になっていたわけではないんだろうか。


 確か、俺たちアンドロイドは、『アトランティックキー』を開放し、元の宇宙にエネルギーを流し込むために、それぞれ物理法則が違う、三つの宇宙に送り込まれたはずだ。


「しかし、なんでこのタイミングで出てきたんだ?というか、お前はどこに送り込まれてたんだよ?」


 NO.1の話によると


1.仙人や妖怪がいる『戦国時代』の織田信孝になっていた。

2.色々あって孫悟空との戦闘中に『ゼロ次元』に進化し、その宇宙を滅ぼしてしまった。

3.それから三万年、何も無い宇宙で漂っていた。


「そして、おめえの友人、フォルティアってのが、人に化ける術を使ってただろ?あれ見て、真似してみたんや。そのおかげで、ついに! 宇宙を滅ぼさずに人のいるところにいけるようになったんや」


 ちょっと衝撃的過ぎる発言だが……。まあ俺も似たようなもんか。


「それで、今出てきたってことは、俺が抱えてる問題に答えを出してくれるのか?」


 かなりずるい気がするが、No.1が、この矛盾する問題を解決する方法を持っているなら、それに従うしかない。


「ああ、はっきり言おう。アンドロイドNO.3は『矛盾魔法』が使える。矛盾する二つの事象を両方とも成り立たせる『理屈の通らない』魔法だ」


 矛盾を両方とも成り立たせる魔法?確かにそんなのがあれば、しずくを救った上で正利も産まれることが可能かも知れない。


 けど……どうしても理屈で考えてしまうな。


『なんでも貫く(ほこ)』と『絶対に貫かれない盾』があるとする。


 今のNO.1の説明からすると


 矛が盾を『貫いた』と『貫かなかった』が同時に起こる魔法があるってことだよな?


 全く意味がわからんし、使った後どうなるのか想像ができないぞ。


 でもまあ、しずくと正利の場合はわからないでもないな。『しずくの魂が無くてもオマッが産まれる』だけなら、魔法や神術ならあり得そうだ。


「なるほどな。『矛盾が両立する』戦国時代に送りこまれた、第三のアンドロイドならしずくを生かしつつ、正利を産まれさせることができるわけだ」


 しかし、そのアンドロイドNO.3はその『矛盾が両立する』宇宙にいるんだろ。そこに行くためには例によって『ブラックホールの目』を通らないといけない。


 神界に行けたことを考えると、宇宙本人から招かれればいけるのかも知れないけどね。


 だが『矛盾宇宙』とは知り合いじゃない。それに、『矛盾宇宙』に通じるブラックホールがどこにあるかもわからない。


「しかもなあ、俺は愛識を通じて、お前ら他のアンドロイドがどの宇宙におるかわかっとるんや。つまり、今お前んとこに来たのと同じように、NO.3がおるところにもいけるぜ」


 なんだって!じゃあバッチリじゃないか。少なくとも、しずくと正利の問題は解決した。後は、この宇宙ダンジョンを50階層まで進んで、『愛の核』に触れるだけだ。


「おお!そうなのか!!だったら、俺が『時間転移魔法』を使えさえすれば、問題は解決するんだな?」


 それが大変だと言えばそうなのだが、この宇宙ダンジョンに来た以上、『愛の核』は目と鼻の先ともいえる。何か問題があれば、俺と正利の愛で突破すればいいんだからな。


「もちろんや!ついでに、このダンジョンの攻略にも攻略したる。恐らく11階層からの『学園ダンジョン』では俺の存在がキーになるで」


 アンドロイドNO.1……めんどくさいから『茂』でいいか。茂が、『学園ダンジョン』のキーになる?どういうことだろう。


 ここに出てくる階層ボスや、中層ボスと茂の相性がいいとか?でも茂が『ゼロ次元』なら一階層の雑魚的と同じ種族だし……。そんなに役に立つのかね?


「詳しいことはわからんけど、どうも俺がおらんと『学園ダンジョン』を超えられんやつがおるらしいな」


 茂は『くっくっくっ』と笑いながら、そんなことを言った。


 そこまで話したところで、『ダイモンダイ』が勢いのある声で言った。


「ようし! お前たち『愛の大問題』に答えを出したようだな!ならば通ってよし!!」


 『ダイモンダイ』はそう叫んだ。って通してくれるのかよ! 階層ボスを殺さずに降りれるなんてあり得ないんじゃなかったのか?


 まあ降りれるなら、降りればいいか。こいつは元の表層主を倒したやつらしいからな。イレギュラーが重なっているんだろう。


 それより、正利とナタリアはいつのまに『愛の大問題』に答えを出したんだ?


 二人がどんな問題を抱えていて、どういう答えを出したのか……。本人だけの秘密ってことかな?


 ナタリアはともかく、正利の方はいつか聞く機会があるかも知れない。


 こうして俺たちは『校門』の姿をしたモンスター『ダイモンダイ』をくぐり、ワームホールを抜けて、11階層に降りた。


 そこには……


『第13回 学園ダンジョン入学式』


 と書かれた看板が立っていた。


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