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愛を深めるために~愛識の記憶を共有する~

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


1536年8月 信孝22歳 正利24歳 稙宗4048歳


(ラブ)界 宇宙ダンジョン 表層 第一階層 転移門前】


 門のような形をした巨大な天体が、俺たちの前に立ちはだかった。こいつを浄化すれば、次の階層へと続くワームホールになるらしい


 門を見ていたナタリアの顔が、困惑したように歪んだ。そして、門を指さして言った。


「信孝殿、妙でござる。やつの愛識から感じられるエネルギーが、異常に大きい。これではLOVE20くらいあるでござるよ」


 そうナタリアが言った直後、『門の形をした天体』からどす黒い靄が、銀河一体を覆うほど広がった。そして、門からとてつもなく重苦しい声が響き渡った。


「強くなるのは、当たり前だ……!!一階層の門番だからと言って、来るもの皆が我を殺しに来るのだからな…!!」


 門は怨嗟を込めた世界を呪うような声で語り続けた。


「我とて自我を持った生物なのだぞ。むざむざ殺されてなるものか!!だから必死にLOVEを上げたのだ。殺されず、逆に貴様たちを我の糧とするべくな!」


 階層ボスが死にたくなくて、LOVEを上げただと!?そんなのありか?


 ボスがLOVEを上げたんじゃ、いつまでたっても実力差が埋まらないじゃないか!!


 もっとも、ここはゲームじゃないんだ。ボスがレベル上げしないなんてのは、ゲームだからこそで、現実なら殺されないために努力するのは当たり前ともいえる。


 そう考えていると、ナタリアが呆れた顔で言った。


「これは前例のない事態でござるな……。LOVEを上げる階層ボスなんて聞いたことないでござる」


 どうも、ボスがLOVEを上げるのは、この世界でも非常識なことらしい。


「前例がなかろうが、我は生きる。貴様たちを糧にして!!」


 門がそういうと、門が開き中から黒く巨大な球体が出てきた。


奇跡(ミラクル)愛識消滅砲(マナしき イレーザー)


 門がそう言った瞬間、球体から真っ黒な光線が、一階層全体に隙間なく発射された!!


 俺たちはどうにかかわそうとしたが、一瞬で周囲が1ナノの隙もなく光線に覆われたため、とても避けきれなかった。


 そして 光線に触れた瞬間、俺たちの愛識に引きちぎられるような衝撃が走った!


 これはヤバい!と思った俺は、とっさに正利と手をつないだ。愛があれば乗り切れるはずだ。


 俺の愛識から、正利の愛識に愛を送る。ここまではいい。だが、光線のパワーは思いの外、大きいようだ。どんなに愛を送りあっても、愛識の崩壊を止められない!


 ま、まずい!このままじゃあ、持っていかれる……!!


「ま、正利……。愛を…!もっと愛をくれ!!」


「は……はい……!ですが、私もギリギリです。このままでは……!!」


 思い出せ……!!プロポーズのときに至った真理を!!


 愛識を通じて、よりでかいパワーを出すためには、愛し合う二人がより深く繋がることだ。


1.外見と強さに惹かれ合った。

2.死に瀕し、互いにかばい合うことで絆を深めた。

3.過去を語り合い、心を一つにした。


 そして、プロポーズで俺たちは夫婦になった。


 これ以上、深く繋がるためには何が必要だ?


 こいつは精神の話だからな。キスやセックスじゃダメなんだ。お互いのことをどう思うか、より深く相手を愛するきっかけが……。


――――システムメッセージ――――

システムNO.1からシステムNO.2へ

“マナシキノ キオク”


 愛識の記憶……?なんだそれは、単なる記憶とはどう違う?潜在意識に眠っている記憶とも違うのか?


 愛識にだけ眠っている記憶が……!?


 そんなのがあるのか?潜在意識にすら残ってないとしたら……。


 潜在意識に残っていない記憶……?それって、生まれる前の記憶か……?だが、生まれる前に記憶なんてあるわけ……。


 そこまで考えて、俺はハッとした!!あるぞ!正利の生まれる前の記憶!!


 『オマッ』だ!!


 なるほど、人は生まれ変わる……。少なくともそれを強制する魔法や神術はある。


 つまり、お互いの前世……いや、すぐ前だけでなく、出来る限り過去世(かこせい)からの記憶を共有できれば、より愛が深まるんじゃないか?


 い、いや待て。正利の過去世を知るのは良いとしても、どうやって俺の過去世を正利に教えるんだ?


 俺はアンドロイドだ。今世の記憶はあっても前世なんてないぞ。


 待てよ、記憶か……そうか!


 確かに俺はアンドロイドだが……、記憶チップはたかしや『暗殺者』の記憶を、そのままコピーしている!!


 つまり俺の愛識には、少なくともたかしの前世の記憶がある!!


 それを、正利に伝えることができればいいんだ!!!


 しかし、前世なんて俺自身もわからないのにどうやって伝えればいいんだ?


 いや、その情報が愛識にあるなら、愛識に聞けばいいんだ。愛族たちと愛識で意思疎通したときと同じだ……!!


 俺の愛識から『オマッより前の過去世を教えて』という思いを乗せて、愛を正利の愛識に向けて送り出せばいいんだ。


 正利に教える気があるなら、正利の愛識がきっと答えてくれるはずだ。また正利も俺の愛識に対して同じメッセージを送るだろう。


 これでお互いの前世を理解し、より深く繋がることができる!!


 そう考えた瞬間、俺の中で何かが弾けた。何だこれは?他人の目を通じて、世界を見ているような奇妙な感覚を覚える。


 これは、正利が過去世で経験したことなのか……?しかしこれは……!!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


2006年8月 茂 16歳 たかし 16歳 しずく 16歳


【東京都 武蔵野市 都立・武蔵野高等学校】


「これはこれは黙っていられないですよっ!」


 俺の口から女性の声で、そんな言葉が飛び出した。この光景には見覚えがあるぞ。


 というか、目の前に俺と茂がいる。これは、しずくが死んだあの日で間違いない!!


 だが……俺は確か愛識を通じて、正利の前世を尋ねたんじゃなかったか?



 だとすれば、今俺は愛識を通じて正利の記憶の中の世界で、正利の前世になり切っているんだろう。


 そしてオマッじゃないことだけは確かだ。二つ以上前の過去世なんだろう。


 つまり、この光景は前々世で正利が見たものが、俺の視界に映っているんだ。


 だけど……だとすると俺の目の前に俺……いや本物のたかしと茂がいるなら、『今、俺は誰になってるんだ?』


「つまりですよ。きっとあの廃屋には逢魔が時だけに開く異界の門があると思うんです!」


 そう考えている間にも俺の口はペラペラと動く、このシーンも見覚えがある。このままだと、俺が暴力団に捕まって……いや、妹の心臓移植のために自ら協力したんだったな。


 しかし……本当に俺がしずくになっているみたいだ。正利の前々世は、しずくなのか?


 そして、どんどんとシーンは進んでいった。しずくになっている俺は、学校の先生たちに『異界への門』があるという『廃屋』について聞き込みをしていった。


 今頃、本物の(たかし)は廃屋の周りで、茂は校内で他の生徒に聞き込みをしているはずだ。


 この後、茂としずくが落ち合ったときに、たかしから電話がかかってきて……そうなったらもう手遅れだ!!


 いや、これは正利の記憶を見ているんだから、手遅れもクソもないんだが。


 そうだ、このままだとしずくが死んだ瞬間に直面することになるんだ。


 そう言っている間にも、しずくになっている俺は、教師たちから『行方不明者が多数出てる』という噂を聞きつけて、茂と捜査の打ち切りを決め、教室に戻ることを決めた。


 そして、たかしから茂に電話がかかってくる!


 茂が話していると、電話口の声がヤクザの男に変わった。


 しばらく茂と怒鳴りあった後、教室にヤクザがなだれ込んできた。


 俺は、つまりしずくは薬で眠らされた。


 そうだ、この後 しずくは『開かずの間』の中にあったという手術室に連れていかれ、臓器をとるのに最適な状態にするための薬を入れられるんだ。


 知ってるさ。何せ、薬を入れるための、ボタンは俺が……『本物のたかし』が押したんだからな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


1536年8月 信孝22歳 正利24歳 稙宗4048歳


(ラブ)界 宇宙ダンジョン 表層 第一階層 転移門前】


「くはっ!!」


 い、今のは!?そ、そうか。記憶がしずくの死ぬところまで再生されたので、元の宇宙ダンジョンに戻ったんだな!


 しずくが死んだ。しずくが死ぬところをしずく自身の視点で見ることになるとはな。


 しずくが正利の前々世だった。オマッのさらに前だ。しずくが正利……!!


 しずくは大切な親友だ。正利はかけがえのない恋人だ。


 正利がしずくなら、俺の愛は何百倍にもなる!守りたい気持ちも何百倍だ……!!


 そうだ!しずくを……正利を二度とあんな目に合わせてたまるか!!ここで『門』なんかにやられるわけにはいかない!!


 今の正利、前世のオマッ、そして前々世のしずく……!!俺は正利のことをより深く知った!!


 わかるぞ!!俺の愛は、確実に一足飛びに数段階成長した!!正利が愛しい!!パワーが沸き上がって来たぞ!!


 そう思って正利を見ると、正利の身体にも愛の炎が宿っていた。物理的に燃えているように見える。恐らくは神術の類だろうけどね。


「見ましたよ!信孝様の前世を!!」


 どうやら、俺が正利の前々世を見ている間に、正利は俺の前世を見ていたらしい。俺の……いや正確には『本物のたかし』の前世か。まるで想像がつかないな。


「神の依頼を受け、神を狩る『神の掃除屋(ゴッド・スイーパー)』!!全く、活躍ぶりに惚れ直しましたよ!!!」


 たかしの前世は、そんな大層な職業だったのか。いや、今の俺たちならSランク神を狩るくらいなんでもないとは思うけどね。


 しかし、最初の宇宙こそ物理法則に支配された宇宙のはずだ。あの宇宙に神はいない。恐らく生まれ変わると、別の宇宙に産まれることもあるってことなんだろう。


 ともかく!!


 前世を知りあうことで、俺と正利の愛は深まった!!今こそ、新ツープラトンだ!!


「いけるか!正利!!お互いの今世と前世を想いながら、愛識から愛を飛ばすんだ!!」


 俺は正利とオマッに加えて、しずくのことも考えよう。


「もちろんです!!今の『稀代の英雄』信孝様と、前世の『神の掃除屋』!!どちらも心の底から愛しく思います!!」


 それじゃあ完璧じゃないか!!これで、今俺たちを襲っている『愛識消滅砲(マナしき・イレーザー)』が防げるだけでなく、門のやつを倒せるぞ!!


 俺は思う。これまで共に戦ってきた正利のことを……何度も死線を乗り越えて、ついに夫婦にまでなった。


 俺は思う。アリスと二人で『真愛の塔』に挑戦し、激しい戦いを潜り抜けて、最後には転生魔法をかけられたオマッのことを……。


 そして俺は思う。幼馴染として共に育ち、俺がヤクザに騙されたせいで、殺してしまったしずくのことを……!!


 俺と正利の愛識に巨大なエネルギーが飛び交った!!


「「これが!!俺たちの新ツープラトン!!」」


奇跡(ミラクル)・ラブ次元』


 ラブ次元は『あらゆる憎悪を浄化する四次元空間』に繋がる『穴』を空中に作る!!


 周囲の憎悪は穴に飲み込まれ、浄化される!!もちろん『愛識消滅砲』の憎悪も、門そのものが持った憎悪もだ!!


 周囲のあらゆる憎悪が『ラブ次元』の穴に飲み込まれていった!!モンスター達も元は憎悪からできているため、皆ラブ次元に飲み込まれた。


 そして、周囲には憎悪が浄化されて残った、無数のラブ球が浮いている。


 ナタリアは呆気にとられていた。だが、ふと気が付いたように飛び上がって、『すごい!』と叫んだ。


 そして、憧れに溢れた眼で俺たちを見つめてきた。


「と、とんでもない威力でござる!お二人は、まだLOVE4なのに、この奇跡はLOVE30ほどの威力があったでござる!!」


 LOVE30並みか、さすがに桁違いの威力だな。


 しかし……これほどの威力があっても、まだ普通にLOVE換算が可能なのか。


 このダンジョンのラスボスはLOVE100だか200だって言ってたよな。しかもそいつらは、より便利なスキルや、必殺技を持っている可能性もある。


 もしダンジョンボスが『ラブ次元』級の技を使えるとしたら、LOVE700~1400くらいの必殺技を用意していかないといけないってことだからな。


 だが、ここは余裕を見せカッコつけるところだ。俺は、ナタリアに向けて全力の笑顔を見せ、自信満々で言った。


「言ったろ?俺と正利の愛は最強なんだって」


 そう言った俺に対し、ナタリアは『おおお!!』と叫んでしきりに感動していた。


 だが、突然がくんと首を落として、激しく落ち込んでしまった!


「うう……このままお二人が強くなって、拙者と同じLOVEまで上がったら、『ラブ次元』はLOVE210~240くらいの威力になるでござる」


 ナタリアは頭を抱えて、体をのけ反らせて『ああ~!!』と叫んだ。


「拙者、せっかく護衛として着いてきたのに、このままじゃもうお役御免でござる!!」


 普段、明るめの性格をしているナタリアが、あまりにも落ち込んでいたので、俺は何とか励まそうと声をかけた。


「いや……、正しいワームホールを選ぶのにナタリアは必要だし……戦力としても、2人より3人の方が強いに決まってるだろ?」


 いくら俺達が強くなれたとしても、ナタリアがいるといないとじゃ戦力が違い過ぎる。特に高レベルのモンスターと集団戦になったりしたら、こっちも人数がいないとやられてしまうからな。


 俺の言葉に、ナタリアは少し元気を取り戻したようだ。だが、俺たちを見つめた後、ものすごい決意を固めたような目になった。


「そ、それは……、まあそうでござるな。でも、拙者 この冒険でたくさんラブ球を手に入れて、もっともっと強くなるでござる!ちゃんと、お二人を守れるように!!」


 ナタリアは拳を握りしめ、『負けない!』とか『やるぞ!』とか言っている。


 まあ強くなってくれる分には問題ないか。あまり無理されて死なれると困るけどな。ナタリアがいなきゃ帰り道もわからないんだし。


「のう、お前たち。我を無理するでないぞ」


 ナタリアと話していたら、『門』が話しかけてきた。浄化されてラブ球になったんじゃなかったのか?


「他のモンスターはラブ球になったのに、なんでお前は無事なんだ?」


「どうやら、これまでLOVE上げのために数限りないモンスターのラブ球を吸収したせいで、我にも疑似的な『愛識』ができていたらしい。そのため憎悪をすべて浄化されても自我が残ったのだ」


 モンスターがラブ球を吸収し続けると『愛識』ができるのか。なるほどLOVEの高いモンスターは、自我があって愛識もある……。要するに体の機能的には人間と変わらないわけだな。


「なるほどな。それで、どうするんだ?まだ戦うのか、それともお互い死なずに俺たちを通してくれる方法があるのか?」


 門は静かに佇んでいる。憎悪が浄化されたおかげで、悟りを開いたように静かな雰囲気だ。


「いいだろう。お前たちは十分に力を示した。我を通り二階層に向かうのだ」


 門がそういうと、やつの身体である門が左右に開いた。門の中では空間がぐにゃぐにゃに歪んでいる。あれがワームホールってやつか。


 そう思っていると、ナタリアが『はあ』とため息をついた。


「ようやく、一階層突破でござるな。しかし階層ボスを倒さずに、次の階層へ行くなんて聞いたことがないでござる」


 さすがに、階層ボスを殺さず進むのは、相当非常識らしいな。けど、まあ死ぬのは誰だって嫌だし、俺は活人をモットーにしてるからな。これでいいんだろう。


 これでまた、『愛の核』に一歩近づいた。


 このまま、どこまでも正利と二人で強くなって行こう。そうすれば『時空転移』を編み出し、しずくを救うことができる!!


 ………?なんだ?今、何か違和感があったような……?


『正利と一緒に戦う』『しずくを救う』


 二つの言葉を並べてみて、やっと気づいた。


 しずくを助けたら……しずくが死ななかったら……?


 もしかして正利は生まれてこない……のか?


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