いつか解決! 暇つぶしサラリーマンは名探偵
「今日もいーい天気だなぁ」
桜前線は北へ去り、公園ではとびきり生育の良い紅白のツツジが咲き誇っていた。
数年前に整備されてからは四季折々の花を楽しめる市民の憩いの場となっている。
家にいると嫁と娘がうるさいので、天気の良い休日は日が傾くまでここで過ごすのがオレの習慣だ。
「こんにちは、城戸さん。この前はありがとう」
「よう、イツカさん!また何かあった時は頼むよ!」
「おじちゃん、ポチ、大きくなったでしょ?」
この公園にいるといろいろな人が声をかけてくれる。皆、オレが解決した事件の依頼者だ。
メインは失せ物や迷子のペット探しだが、解決率は100%なのが自慢だ。ただし、推理力が発動するのは暇な時だけ。だから依頼を受ける条件は、「気長に待てること」だった。
「おじさん、名探偵なんだって?」
いつの間にか眠っていたようで、目を開けると小学生くらいの女の子が夕日を背にして立っていた。
「探してほしいものがある」と、少女は言った。
「いつみつけるかは約束出来ないけど、いい?」
「うん。もう2年くらい探しているから、みつかるなら何でもいいよ」
それなら、と依頼を受けることにしたが、詳しく話を聞いてみると厄介なものだった。
「ママが毎日探してて、みつからないって泣いてるの。でも、それが何なのかわからないの」
探しものが何かすらわからないのではみつけようがないな。ヒントを得るためしばらくの間おしゃべりをすることにした。
どうせ嫁はオレの夕食なんか用意してはいないだろう。時間はたっぷりある。
日没からだいぶ経った頃、ようやく話を聞き終えた。
探しものは何かわかった。その在り方も。
ただそれをこの子に伝えるべきではないと思ったので、彼女を家まで送って行った。
「あとはおじさんに任せて。探しものは必ずみつけるから」
「ありがとう!」
彼女を見送ると、オレは公園へ戻った。
翌朝、公園は警察と報道陣で賑わっていた。ツツジの下からあの子の遺体が発見されたから。
昨日、彼女の名前を聞いてすぐに探しものがなんなのかわかった。同時に、ずっとこの公園に感じていた違和感の正体も。
毎週ここで過ごしているオレだからこそ気づくことが出来たんだろう。
正直こんなことは初めてでびっくりしたけど、不思議と怖くはなかった。
「じゃ、次は犯人を探しますか」
今度の依頼はあの子の母親からだ。たぶん、時間はそんなにかからないだろう。何しろオレは今とっても暇だから。
「タイトルは面白そう!」の「暇つぶし」へ投稿した作品です。
今回の大賞に応募するためあらすじを膨らませ、他のキーワードも盛り込んで1つのお話にしました。
気に入ってくださるとうれしいです。