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王家の秘密 1

  

 

 王太后の書斎へ、侍女がエレオニーを案内して来た。


 書斎の机に向かって手紙を書いている王太后は、エレオニーをチラとも見ない。

 エレオニーは王太后の許可がないので、礼を取ったまま腰を屈め、顔を伏せて待ち続けている。


 ジェレミーと面差しが似ている王太后は、美しい筆跡で最後に署名を入れるとゆっくりと羽ペンをペン立てに置く。

 それから便箋に砂を散らしてインクを乾かすと、丁寧に折って封に入れた。


 そうしてようやく、エレオニーへ顔を向ける。


「大それたことは考えるなと、お前には初めから幾度も釘を刺していたわね」

「――はい、王太后さま」

「お前の役目は、若くしてこの国の王座に就いた陛下のお心を慰め、王妃の代わりに子を産むこと。それだけです。それを……」


 あれからジェレミーは、周囲の反対を押し切り、エレオニーのために新たに『公妾』という役職を作ってしまった。

 愛妾を公式な臣下にしたのだ。

 さらに宮廷法によって、公妾の外交や社交界でかかる費用を宮廷費から支給されるように定めた。

 

 公妾となったエレオニーは喪服を脱ぎ去り、華やかな社交を開始する。

 すると王の寵愛を得た寵姫のもとへ、時流に目ざとい人々が集まっていく。


 一方リリアーヌは王の寵愛を失い、空虚な心を埋めるように、教会の奉仕活動に没頭するようになっていた。



「教皇聖下から非公式に、わが王家へ誡告がありました。

 聖下は王妃を支持し、国王陛下とお前を批判しています。

 万が一、陛下が教会から破門されでもしたら、人心は離れ、同盟国との関係も不安定なものになってしまうかもしれないわ」


 ぴくり、とエレオニーの肩が動いた。

 椅子に座るようにとは勧められず、立ったまま王太后の話を聞いている。


「いいですか、間違っても王妃に成り代わろうなどと、身分不相応なことを考えてはなりませんよ。

 陛下のことは、母であるこの私が一番よく理解しています。お前の代わりなど、いくらでも居るのですからね」

「……すべて王太后さまの仰せのままに。わたくしが陛下にお仕えするようになったのも、王太后さまのお力添えがあってのことと、心に刻んでおります」


 エレオニーが退出すると、王太后は侍女に手紙を渡した。


「これを離宮にいらっしゃる、上王陛下のもとへ届けさせて」






 上王は王太后からの手紙を受け取り、宮廷で何が起きているのかを知ると、離宮にジェレミーとリリアーヌを招待した。


 国王夫妻は近習だけを連れて、久しぶりに二人揃っての行幸となる。

 宮廷の人々はいよいよ上王が、二人の関係修復のために動いたのだ、とささやきあった。



 離宮は、風光明媚な地にある。

 豊かな森は狩猟にも最適で温泉も湧いている。


 王宮から一行が到着すると、さっそく上王はジェレミーと狩りに出かけた。


 鷹を飛ばし、猟犬を狐にけしかける。巧みに愛馬を操り、狩猟の技を披露することは、王侯貴族の嗜みであり、心躍る娯楽だ。


 お気に入りの近習たちを引き連れ、父子は存分に狩りを楽しんだ。

 そして多くの獲物を得ることが出来た。


 狩りの後には、野外パーティが準備されている。

 豪華な食事と着飾った夫人たちが待っていた。



 パーティ会場に行く前に、上王はジェレミーを温泉に誘った。

 大理石で作られた入浴施設で、父子はさっとひと風呂浴びて汗を流し、よく冷やされた白ワインを飲む。


 上王は人払いをして、召使たちを下がらせた。

 ジェレミーと二人きりになったところで、話を切り出す。


「我が子よ、話して置かなければならないことがある」

「はい、父上」


 離宮に招待された時からジェレミーは、エレオニーのことで上王から、どうせ小言を言われるのだろうとあらかじめ覚悟していた。


 ところが、上王から聞かされたのは、王家のおそるべき秘密だった。


「リリアーヌの一族を滅ぼしたのは、わしだ。

 隣国に時間をかけて工作し、あちらの王族にラグランジュ侯爵家に対する不信感を植え付けて。そうして彼らをプロヴァリーに亡命するよう仕向けた。

 侯爵たちが国境まで逃げて来た所で、こちらから送った軍にリリアーヌを除いたすべての者を討ち取らせるよう命じたのだ」


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 王太后もやるならもっと自分が操縦できる人物選ぶなり、子供出来たら悪い言い方だが消せる人物選ばんかったんですかね。 まあ、王家の秘密はやっぱりでしたか。
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