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裁きの日 3

 

 

 稲妻が光り、雷鳴がとどろく。

 大粒の雨が痛いほど強く、逃げる人々に叩きつけてくる。


 みなが我先にと、王宮礼拝堂のエントランスへ向かい、聖獣の像が左右に置かれた石階段を上って中へ駆けこんだ。


 礼拝堂は一つのホール構造となっており、左右に三階構造の礼拝席、聖歌隊・楽隊席がある。

 入り口から入って正面には、天井近くまでもあるステンドガラスの窓、壇上には主神フレイアの像と祭壇が置かれている。側壁には十二神柱の像が、人々を見下ろしていた。


 雨に濡れた人々で、礼拝堂の中はすべての階席までいっぱいになり、身動きが取れないほどひしめきあう。


 普段は王侯貴族が座る螺鈿細工の椅子の上に、貧しい人々が汚れた服で腰掛けるのを見て、貴族階級の者が眉をひそめた。



 時折、閃く稲妻が礼拝堂の中を青白く照らし、切り裂くような轟音が鳴る。

 雨はますます激しく、ザァーザァーと降り注いだ。



 ジェレミーの側近の近衛騎士は、礼拝堂のなかに衛兵たちがいるのを見つける。

 手招きして呼び寄せ、壇上にいる王の警護をするように命じた。


 先程の教皇のように、もしも人々が暴徒と化す事態になれば、近衛騎士ひとりでは王を守ることなどできない。

 衛兵たちは群衆から守るように、王を囲んだ。




 死霊系魔物アンデット・モンスターは、礼拝堂の中には入って来なかった。


 そのことにひとまずホッとした人々だったが、すぐにこの先のことが不安になってくる。


「いったい俺たちは、これからどうなるんだ」

「外にスケルトンが大量にいるから、ここから出られない」

「じわじわと飢えに苦しみながら、死んでいくのか」


 ざわめきがホールの中に広がっていく。

 恐怖の連鎖が人々の間に伝わり、不穏な空気が礼拝堂を満す。



「余の民たちよ! 怖れるな。王宮にはいざという時の食糧備蓄が十分にある!」


 ジェレミーが壇上から声を上げて、人々に語りかけた。


死霊系魔物アンデット・モンスターは、太陽の陽射しに弱い。雨が止み雲が晴れたら、反撃のチャンスだ! 我らはともにこの苦難を乗り越えよう!」


 人々は、国王が皆を鼓舞しようとする姿に、頼もしさを感じた。

 けれどジェレミーの隣にいる寵姫に目を止めると、再び怒りと不安が巻き起こった。


「聖女さまを告発したのは、あの女だ」

「寵姫のせいで、聖女さまは――」

「あいつがいる限り、この災いは終わらないんじゃ……」


 近衛騎士は人々の怒りの矛先が、やがて王へ向けられるかもしれない危険性を感じた。

 

「陛下、公爵夫人をあの者たちに引き渡して、礼拝堂地下の聖廟に隠れてください。さもなければ、尊いお命の保証はできません」

「何を言う、エレオニーは余の子を身籠っているのだぞ。見捨てることなど出来るか」

「しかし、王都は混乱の最中にあり、指揮系統は壊滅状態です。陛下に万一のことがあれば、国も民も滅んでしまいます」


 二人が話し合っていると、衛兵たちがジェレミーの前に進み出た。


「おそれながら、陛下に申し上げます。

 私ども国民は……陛下にはその毒婦ではなく、王妃である聖女リリアーヌさまこそ、守っていただきたかった!」


 するとそこに居た人々が、共感の声をあげた。


「そうだ、その通りだ!」

「この災禍は、その女が原因だ! このままだと、王都は呪われてしまう!」

「禍根を断て! 毒婦には死を!」


 ジェレミーのいる壇上に、人々が身を乗り出して迫ってくる。

 王族を守るべき衛兵たちも、エレオニーの引き渡しを要求した。


「国を滅ぼす寵姫を、見過ごすことなどできません」

「陛下、ご決断を!」


 側近の騎士も、ジェレミーに寵姫を諦めるよう諭す。

 エレオニーはジェレミーの腕にしがみつき、恐怖に血走った目を見開いた。



(もちろん、川に落ちた我が王妃、リリアーヌを助けたかったに決まっている! もとから王妃の処刑までするつもりはなかったんだ。だがこうなってしまった以上、男としてせめてエレオニーを救ってやらなければ)


「――分かった。みなの言う通りだ」


 苦渋の決断をする国王の腕に、エレオニーは爪を立てて抗議する。


「うそっ、わたくしを見殺しにする気?!」

「痛ッ。……いいから黙れ!」


 ジェレミーはエレオニーを一喝すると、人々に向き合った。


「エレオニーには、死を。

 だがその前に、地下の霊廟に安置された我が子に最後の別れと、神々に祈る時間を与える」


 するとエレオニーは、狂ったように泣き叫けび、ジェレミーに食って掛かった。


「この人でなし! わたくしは、あなたの子を身籠っているのよ! 信じられないっ!」

「しっ。この場で民に引き裂かれたくなければ、静かにしていろ。何とかしてやるから」


 二人のやり取りを見ていた衛兵たちは「やはり自分たちで毒婦を」と目で合図し合った。


 近衛騎士があわてて衛兵と王の間に入り、大切な剣を抜いて床に立て、主神に誓いを立てる。

 

「私が騎士の名にかけて証人となろう! もしもあなた方にこの後、寵姫の遺体を引き渡さなかったら、主神フレイアが幾重にも私を罰しますように」

「よし、なら半刻だけ待とう。それ以上はだめだ」


 暴れるエレオニーを、ジェレミーが必死で押さえる。


「いやぁっ、死ぬのはいやぁっ。殺さないでぇっ」

「いい加減にしろ! 暴れるなっ」

 

 こうしてジェレミーは側近の力を借りて、何とか衛兵と民をなだめることに成功する。


 礼拝堂地下の聖廟へ、王と側近は泣きわめくエレオニーを連れて降りて行った。



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