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王妃と寵姫 1

 

 

 リリアーヌは、離宮からフェリクス王子を迎えるための準備を進めていた。


 健やかに王子を育てる環境を整えるために、子供部屋の整備や、宮廷医、乳母、侍従、教育係、遊び相手等の人選などにも余念がない。



 フレイア教の公現節に合わせたフェリクスの、幼児洗礼式はペドリーニ教皇がプロヴァリー王国へ来訪して行うことが決まった。


 これは異例の出来事である。

 教皇が諸外国の国王の戴冠式、結婚式の典礼を行うことがあっても、一王子の幼児洗礼式にわざわざ足を運ぶということは、前例がない。


 理由として人々は「フェリクス王子の生母がエレオニーであり、ペドリーニ教皇とは叔父と姪の血縁であること、その王子が次期国王になるからだろう」と推測する。



 リリアーヌは、手ずからフェリクス王子の洗礼式に着せるガウンをひと針ひと針、心を込めて縫う。

 東南の国より最上級の白絹を取り寄せ、緻密なレース編みで名高い修道院に特注した高級レースを、襟と袖、裾に飾り付けた。




 そんな王妃に、以前エレオニーの存在を知らせたことがある伯爵夫人が、再び忠告するために訪れた。


「ちょっと、王妃さまのお耳に入れて置いた方が良いと思いましてね。

 実は陛下の従者の中に、わたしの娘婿の身内の者がおりますの。

 それでその者が言うには、ここ最近、陛下は毎週のように離宮にお泊りになられているとか」

「ええ、陛下は王子に会いに行かれています」

「……あ、あらまあ、王妃さまがご存知なら、良いのですけれど」

「それより、陛下の行き先などを軽々しく口にするのは、重大な過失、国家機密漏洩罪に問われかねませんわ」

「そ、そんなっ、違います! わたしは、王妃さまを心配してっ」

「もちろん、分かってますわ。伯爵夫人のお身内の方に、よく言い聞かせて差し上げて」


 リリアーヌが夫の行動を承知している風を装えば、伯爵夫人はすごすごと引き下がる。



 ジェレミーが視察や遠乗り、狩猟にかこつけて離宮のフェリクスに会いに行っていることは、リリアーヌも薄々感づいていた。


 王が隠れて離宮に通っていることについては、リリアーヌも複雑な思いだった。

 けれど、彼が自分の子に会いたいという気持ちを、リリアーヌが止めることは出来ないと考える。


 それに、もうすぐフェリクス王子は、王宮に来てリリアーヌが育てるのだから。


 エレオニーがお腹を痛めて産んだ子を、リリアーヌに託す気持ちを汲み取り、寛大にならなければいけない、と思った。


 そして何より、ジェレミーはリリアーヌを再び裏切ったりはしない、と信じていたかった。

 一度目の裏切りで、リリアーヌが痩せるほどに苦しんだ姿を見て、ジェレミーのしたことがどれだけ妻を傷つけたのか、もう知っているのだから、と。



 ジェレミーはと言えば、リリアーヌに優しく接し、ニコラの不在を気遣うことすらした。


「ニコラは王国を旅立ってから随分経つけれど、帰国はいつになる?」

「最近届いた手紙に、公現節の頃には戻る予定だと書いてあったわ」

「そうか。では、フェリクスの洗礼式に間に合うな。

 リリアーヌも自分の守護聖騎士がいれば、心強いだろう」


 

 それでも、リリアーヌはエレオニーが再び王宮に来ると知ると、動揺した。


 ジェレミーに問いただせば「彼女がフェリクスの洗礼式に出席したい、と言うので許した」という。


 フレイア教の公現節に行われる幼児洗礼は、親が我が子に健やかに成長することを祈る行事でもある。


 母親として見届けたい、という気持ちも分からなくはない。

 しかし、一度追放した寵姫が、王子とともに再び王宮に乗り込んでくるのは……。



 宮廷の人々は、最近の王の動向から、再びエレオニーが王の寵愛を取り戻し、王子の実母として宮廷に返り咲きするつもりだろうか、と囁き合う。




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