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寵姫の謀略 2

 

 

 エレオニーが呼び出されたのは、外廷(君主が国政をとる公的な所)にある客室のひとつ。上王が国王代理の間、私室として使用している部屋だ。


「上王陛下、お呼びとうかがい、参りました」

「おお、エレオニー。待っておったぞ。ここへ座れ」


 侍女を伴ってにこやかに入室したエレオニーに、上王は上機嫌で自分が座っているゆったりとした寝椅子(カウチ・ソファ)の隣をポンと叩いた。


「今日はもう、ご政務の方はよろしゅうございましたか?」

「ああ、有能な宰相がいるからのう。わしはただのお飾りじゃ」



 これが初めてではなく幾度も繰り返された密会であるように、馴れた様子でエレオニーは上王の隣に座る。


 侍女は手早くバスケットから酒やつまみを取り出して、テーブルに並べ終わると、わきまえたように退出した。



 エレオニーは、名産地から取り寄せ地下水で冷やした発泡性葡萄酒(スパークリングワイン)を、上王のゴブレットに注いだ。


「うむ、この発泡性葡萄酒(スパークリングワイン)は、なかなか良いぞ」

「うふふ、こちらもどうぞ、召し上がれ」


 美しい指先で器用に茘枝(レイシ)を剥いて、上王の口へと運ぶ。

 上王は目を細めて、果汁をたっぷりと含んだ果実をエレオニーの白い指先ごと口に含んだ。


「おお、これは美味じゃ!」

「南国から早馬で運ばせた茘枝(レイシ)です。収穫してから、一週間以内に届かないと香りが飛んでしまうとか。実家が商家ですので、時々このような珍味が手に入ります」

「そなたの実家は、ペドリーニ商会だったな。確かフレイア教会の枢機卿を輩出しておる」

「よくご存じですね。わたくしの叔父でございます」

「前教皇が崩御して、新たに教皇を選出中ゆえ調べたのだ。教皇は、十二人いる枢機卿の中から公正な選挙によって選ばれる。そうじゃな?」


 上王に問われて、エレオニーは意味ありげに笑った。

 なぜなら()()()()()()とは名ばかりで、実際は黄金、ほぼ財力によって教皇は決定されるからだ。


 実は、エレオニーも叔父を教皇に選出するために、尽力していた。

 公妾に与えられる公費はもちろん、プロヴァリー宮廷貴族から寵姫へ贈られた品々なども換金できるものはして、叔父のための選挙資金を実家へ送っていた。


「そなたの叔父の肖像画を見たが……よく似ておるな。まるでエレオニーと親子のようじゃった」

「あら、上王陛下は、高位聖職者の顔までご存知なのですか?」

「まあな、帝王の嗜みの一つだ。大国の王族、教皇以下枢機卿くらいの肖像画は入手している。特に次の教皇になろうという、野心家の名前と顔は記憶しておかねばな」


 エレオニーはくすくす笑って、今度は上王が剥いた茘枝(レイシ)を食べた。ついでにしわの寄った老人の指を、肉感的な唇をすぼませて吸う。


 上王は気分を良くして、エレオニーのゴブレットに発泡性葡萄酒(スパークリングワイン)を注いでやった。


「……お酒を頂いたら、なんだか暑くなってしまったわ」


 息子の寵姫が行儀悪くドレスの裾から足を出して、繻子の靴を片方だけ脱ぎ、もう片方の脚を上げて、こちらの靴を脱がせろと言わんばかりに上王に差し出した。


 それを、これまでの長い人生で常に人々からかしずかれて来た側の上王が、嬉々として腰を屈め、エレオニーの靴を脱がしてやる。


 エレオニーは媚びた笑みを浮かべて上王の膝の上に座ると、シミの浮いたしわだらけの顔に滑らかな若々しい自身の頬をすり寄せた。


「上王陛下でも、国王陛下でも、プロヴァリー王家の血統には変わりません……どちらのお子でも、よろしゅうございますわよね?」





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― 新着の感想 ―
[一言] 結局、前王妃、寵姫に注意しても、まともに監視しないから、こうなると。 自分で権謀術数しといて、こんなのにはまる前王もバカだったと。
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