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邪神の牲  作者: あすか
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第9話 蜘蛛の糸

 あの日から僕は檻の中でサンドバッグになった。


 頻繁に僕を殺すのは……父の仲間たち。

 外でいつも父と酒と女とギャンブルで遊んでいる……最低な奴らだ。


「よお、お前のせいでリライラが死んだってな」

「ったく。せっかくの極上な女だったのによ」

「ああ。頼めば何だってするしな。ありゃあとんでもない淫乱女だぜ」

「ははっ金のためって言ってたが、実はあの女が一番楽しんでいたのかもな」


 ――貴様らに母の何が分かる!!

 これ以上母を辱めるな!!

 母は……母は僕のために自分を犠牲にしてたんだぞ!!


「おい、このガキ俺たちのこと睨んでやがるぜ」

「もしかして怒ってんのか? へっ、てめぇが殺したくせに」

「いや、実は母親のヤッてる姿を想像して興奮しているんじゃね?」

「はははっマジかよ!?」


「んんんーー!? んんっ!?」


 ――許さない許さない許さない。

 母を侮辱するコイツらを……絶対に許さない。

 僕は怒りでどうにかなってしまいそうだった。


「はん。何言ってんのか分かんね―んだよ!」

「きっと『僕も仲間に入れて』とか言ってんじゃね」

「ははっ誰が入れてやるかっての」

「おい、煩いから殺しちまおうぜ」


 そう言って全員で僕の体に槍を突き刺す。


「んぐっ!?」


 コイツら……殺すとか言っておきながら、全員急所を外して刺してやがる。


「……やっぱ悲鳴がねーと物足りねーな」

「そうは言ってもよ。絶対に外すなって言われてんじゃん」

「まぁな。万が一逃げられたら、ヤバいからな」


 父は僕を殺すのに、手足の縛りと猿ぐつわは絶対に外すなと厳命していた。

 国に引き渡す前に逃げられないようにするためだ。

 同じように殺しても手足や首を切断することも禁じている。

 生き返った時に、縛りが外れる可能性があるからだ。


 だから、僕を殺すのは基本的に檻から少し離れた場所から槍のようなもので刺すのがルールになっている。


「う~ん。仕方がないとはいえ、何回も同じように殺していると飽きるよな」

「今度、面白い殺し方でも考えよーぜ」

「そうだな。1ヶ月しかないんだし、色々試さねーと勿体ないもんな」

「ってなわけで、期待してろよ」


 そう言って男たちは僕にとどめを刺した。



 ****


 最初の一週間は、父の仲間しか僕を殺さなかった。

 でも、一週間をすぎると、他の人達も僕を殺し始めるようになった。


「貴様がこの村にいたから、俺の畑が魔物に荒らされたんだ!!」

「アンタのせいで、息子が冒険先で死んじゃったじゃないか!!」

「今日ギャンブルで負けるのは、全部お前のせいらしいじゃないか」

「今日魔物に逃げられたんだ。練習したいから僕の矢の的になってよ」


 完全な八つ当たりだ。

 僕が忌み子ってだけで、悪いことは全て僕のせいになるらしい。


 父の仲間が気軽に僕を殺しまくるので、丁度いいストレス発散の道具だと思っているのだろうか?

 ……なぜ、そんなに平気な顔をして人を殺せるんだ?


 父の仲間も……僕を殺す人も……見て見ぬ振りをしている人達も……。

 ―ーこの町の人間は全員狂っている。


 国の使者がやってくるまで、僕はこのまま殺され続けるのか?

 いや、国の使者がやってきた時点で、僕の人生は終わる。


 町長の予想では、国の使者がやってくるまであと半月。


 僕が檻に入って一週間は必ず誰かが見張りについていた。

 他の人も僕を殺し始めるようになって、人の目が増えたからか……もしくは、僕が脱出できないと確信したのか、見張りはなくなった。

 おそらく最後の一週間は、最後にもう一度……とか、いつ国の使者が到着してもいいようにと、また見張りが戻ってくるかもしれない。


 そう考えると、今が脱出するのに一番のチャンスなんだ。

 深夜なら人の目は殆どない。

 このチャンスに……何とかここを脱出できないか。


 しかし、僕の力じゃどうやっても手枷足枷を外すことが出来ない。

 それこそ切り落として死ねば、生き返る際に外れているかもしれないが……。

 残念ながら近くに刃物はないし、僕一人では切ることすら出来ない。

 仮に自由になったとしても、この檻からどうやって出ればいいのか。

 魔物が暴れても壊れない檻を破壊する方法……くそっ、どうやっても脱出できないじゃないか!!


 結局これが僕に与えられた罰なのか。

 この運命から……地獄からはどうやっても抜け出せないのか。


 僕が絶望し、諦めかけたところで……僕と同じくらいの年齢の女の子の姿が見えた。

 こんな深夜に女の子?

 この町にも子供はいるし、昼間なら僕めがけて石を投げたりしている。

 でも、深夜に子供を見かけたのは初めてだ。


 女の子は周囲をキョロキョロと見渡し、人の姿がないのを確認するとこっちに近づいてきた。

 ……昼間は人の目があるから、人の目がないところで僕を殺したいのかな?


「ねーママ。はやくはやく」


 と、母親がいたようだ。

 女の子は僕に近づくと、振り返って小さな声で母親を呼んだ。


 女の子に呼ばれたからか、物陰から母親が周囲に気をつけながらこっちにやってきた。


「もう。誰かに見つかったらどうするの」

「大丈夫だよ。ちゃんと確認したもん」


 なんだこの母娘? 様子がおかしいぞ。


「それよりママ。急がないと」

「そうね。早く助けてあげないと」


 ……助ける?

 どういうこと……と考える前に、母親が檻の鍵を外す。

 えっ!? 助けるって……もしかして……。


「時間がないから外すのは後回しにするから……大人しくしててね」


 そう言って母親が僕を担ぐ。


「さっ急いでここから逃げましょう」


 その母娘はまるで地獄に下ろされた蜘蛛の糸のように、僕を地獄から引っ張り上げてくれた。

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