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邪神の牲  作者: あすか
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第78話 知りたくなかった最悪な事実

 父への復讐を終えた僕とベルは山小屋へと戻ってきた。


「君はここが好きだねぇ」


「好きというか……他に行く場所がないだけだ」


 大前提として、母を生き返らせるまでは王都に帰りたくない。

 バーバラとコータリアは更地になっている。

 そもそもバーバラには父がいるから選択肢にすらないが。

 あと僕が知っている場所といえば研究所……だけど、あそこはねぇ。

 というわけで残っている場所はこの山小屋しか残っていないと。


「それにここなら誰か来る心配もないし」


 下手に人が来そうな場所は面倒になりそうだからな。

 バーバラとコータリアが滅んだからこの辺りに人は居ない。

 唯一来そうなのが父だけど……父が来ることもないだろう。


「そんなことよりさ。早くかあさまを生き返らせてよ!」


 僕は逸る気持ちを抑えられずにベルにせっつく。

 母が生き返るなら場所なんかどうでもいいよ。


「もう。せっかちだなぁ。でも本当に生き返らせていいんだね?」


「当たり前だろ」


 父のことでベルが本当に生き返らせることができることは確認済み。

 ついに……ついに母が生き返るんだ。


「まったく……あんな性悪女を生き返らせようなんて」


 僕はベルの言葉にピクリと反応する。


「ああっ? ベル、お前今なんて言った?」


 コイツ母のことを性悪女だと言ったか?


「ちょっと。そんなに凄まないでよ」


「なら今の発言を撤回しろ」


 ベルといえど、母のことを悪く言うのは許さない。


「撤回と言っても……事実だしぃ」

「てめっ」

「まっこの場合は、ライラが君をうまく騙し通せたってことなのかな」


 ベルに怒りを覚えた僕はベルに掴みかかろうとしたが、その一言に手が止まる。


「……何でここで性悪天使の名前が出てくる?」


 僕は(リライラ)を生き返らせろと言ったんだぞ。

 なのに何で性悪天使(ライラ)の名前が出てくるんだ!!


「何故って……本当に気づいてないの? それとも……気づかないふりをしているだけ?」


 ドクン、と心音が高鳴る。

 今まで気になっていたが、真実を知るのが怖くて目を逸らしていたこと。


 一番最初は初めて見た時の母の容姿。

 背中に翼がないだけで、天使と瓜二つだった。

 そして二回目はベルがライラの名前を呟いた時。

 名前までそっくりだったという事実。

 偶然だと思って……いや、偶然だと思いたくてずっと目を背けていた。


 急に不安が押し寄せてくる。

 止めろ。これ以上聞きたくない、知りたくない。


「君の母親のリライラは君をこの世界に転生させたライラが人間に転生した姿だよ」


 だが僕の願いも叶わずベルが残酷な事実を告げる。

 膝がガクガクと震える。


「なん……なんで……」


 言葉が出ない。

 なんで天使が母に……


「何でって? だってボクがライラを君の母親に転生させたんだもん」


「どうしてそんなことを!!」


「おしおき……だからかな」


 おし……おき?

 意味が分からない。

 僕? 母? 誰に対するお仕置きなんだよ!!


「うーんと。最初から説明するね」


 聞かないほうがいい。

 全てを知らないままの方が良い。


 母と天使が同一人物だったから何だと言うんだ。

 転生した後の母は僕を愛してくれていたんだから、それでいいじゃないか。

 このまま予定通り母を生き返らせてさ、何も気にせずニナ達と暮らしていけばさ。


「……ああ。頼む」


 だけど僕は真実を知る選択をしてしまった。

 後悔するかもしれないのに。

 それでも聞かずにはいれなかった。


「君は箱庭の……ガイアの話は覚えている?」


 僕は黙って頷く。

 忘れるはずがない。

 天使の名前がライラだって知ったのも、あの話からだったのだから。


 箱庭とは神が創造した世界のことで、ガイアという神は地球は創造した。

 その際ガイアは魔法を生み出す世界樹を植えなかったことで、地球を魔法が使えない世界にした。

 魔法が使えないことで科学が発達し、他の世界とは異なる文明を得ることに成功した。

 そのため、他の神々は地球に注目し、科学を自分の世界に取り込もうとした。


「元々ライラはボクの部下でね。ライラには地球の様子を探る仕事をさせていたんだよ。あわよくばボクの世界に科学を取り入れられるようにってね。その結果、ライラが選んで連れてきたのが君だってワケ」


「……僕は罪を犯した罰だからって」


 自殺が最大の禁忌だからって。

 暴露だけして責任を果たさなかった罪だからって。

 そんなくだらない理由で地球より過酷なこの世界に送られてきたはず。


「ああ、それね。ウソ」


「う……そ……」


「そっ全部ウソ。そもそもの話、世界中で……あっこの場合、地球だけじゃなくて全ての世界でってことね。その全ての世界で、毎日どれだけの人が死んでいると思う? 億とかじゃ済まないよ。それで死んだ人の罪を一々確認だなんて、時間がかかるし、狭間の世界が飽和しちゃうよ。人は死んだらそれまで。転生なんて普通はしないし、天国や地獄なんかも存在しないから。まっ一応魂のデータみたいなのは記録できるから、君の父親みたいに記録から生き返らせることは出来るけどね」


「じゃ、じゃあ狭間の世界で話した自殺が最大の禁忌ってのも、罪を犯したから記憶を持ったまま不死の呪いを与えたってのも……」


 僕を苦しめていた全てが。


「そっ。ぜーんぶライラがついたウソなんだ。だいたい前世の罪まで背負うなんて意味分かんないし。少し考えれば分かることでしょ」


 僕はその場に崩れ落ちる。


「一応、地球の技術は欲しかったから、記憶はそのままで連れてくるつもりだったんだ。でも不死の呪いとかはライラが勝手に仕組んだだけ。まっ彼女は地球の技術を得る前に死んだら困るって言い訳していたけど。それならそもそも赤ちゃんに転生させなくても、元の体のまま転生させればいいだけなんだけどね」


「なん……なんで僕なんだ!? 僕はただの高校生で……地球の技術を手に入れるだけなら、僕なんかよりもいくらでもいるだろ!!」


 技術者でも先生でもなんでもいい!

 ちゃんとした大人を連れてくればいいだけじゃないか!!


「ムカついたから」

「えっ?」


「ムカついたからだって。ライラも観察中にたまたま君を見つけてさ。そしたらイジメられてうじうじして、挙句の果てに卑怯な復讐だけして自殺して逃げ出して。そんな性根の腐った君にイライラしたからだって」


 ――あなたはただ復讐がしたいという自分の欲求を満たしたかっただけ。

 ――イジメていた加害者と何も変わらない。

 ――本当に最低で下劣な行為。

 ――完全に自業自得です。


 狭間の世界でライラが言った言葉がよみがえる。

 確かにライラの私情が滲み出ていた。


「ボクが気づいた時は、既に君が不死の呪いを持って、あのクズの父親の子になることが決定していたんだよ。だからボクがガツンと言ってやったんだ。勝手なことするなって。そんなことするやつはお仕置きだってさ」


「……お仕置き以前に、すぐに僕を助けようとは思わなかったのか?」


「助けたかったけど、ほらこの世界に転生されちゃったら干渉不可じゃない。だから……せめてもの助けになればと、お仕置きとして、天使の能力を封じ、ライラを君の母親に転生させたんだよ。生まれ変わったRe:ライラとしてね」


 それがお仕置き。

 それがライラが僕の母親だった理由。


「ライラには君に掛けた不死の呪いが解けたら天使に戻すって言ってたんだ。もちろん自分が罪を犯すことも禁止でね。まっ天使に戻る前に死んじゃったみたいだけどさ」


 僕の不死の呪いが解けるための条件は罪の精算を終わらせること。


 ――復讐なんか考えないで。

 ――まっすぐに生きて愛しい我が子。


 生前の母の言葉がよみがえる。

 僕を愛していると言った言葉。


「ライラが優しくしていたのは全部自分が天使に戻るため。君は一度も愛されてなかったんだよ。それでも君はライラを生き返らせる?」


 それが全部ニセモノだった。


「うそ……うそだ……うそだあああああああ!!!」

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