第77話 復讐の終わり
「アンタは普段殴る蹴る刺す切るくらいしかしなかったけど……ただ切られるよりも削られる方が何倍も痛いだろ?」
「ぎゃああああああ!!!」
僕は父をすりおろし器で削り殺す。
「似たような感じでじわじわと囓られるってのもあるが……これは痛みよりも恐怖があるよな」
「ひっ、ひゃべ……ひゃべて、たべないで……」
小さく分裂したブラッドコクローチの群れが父を足から食い殺す。
「溶かされるのって、地味だけどきついんだよなぁ」
「あじゃああ!!! いだい、いだいいだいいだい」
父を硫酸の入った風呂に入れて溶かし殺す。
「さて、と。次はどうやって殺そうか」
僕が教授から受けた殺され方はまだまだたくさんある。
「ねぇ。脳みそパッカーンとかどう?」
「う~ん。即死とかもそうだけど、脳みそとか心臓とか、すぐに死に直結するのって、死ぬ方はあんまり辛くないんだよなぁ」
痛みを感じる前に死んじゃうからね。
ただ……脳を損傷すると、生き返った後に後遺症が残る。
とはいっても、数回程度じゃ何も感じないけど。
ギロチンの時みたいに数百はこなさないと無理だから……流石に面倒くさい。
「そっかぁ。どうせなら痛い方法で殺したいもんね」
確かにそうだけど……笑って言うことじゃないよな。
ベルはさっきまでの不機嫌さはどこへやら。
僕が復讐のために父を不死にしてから一転してご機嫌になっていた。
う~ん。ベルがどうして機嫌を直したかさっぱり分からない。
まぁ拗ねたままよりは全然いいけどね。
「う、うぅ……」
おっと、いつの間にか父が生き返っていた。
「もう生き返ったのか? まだ次の殺し方を考えてなかったからちょっと待ってろ」
――動くな。
これでよしと。
「たす……たすけて。もう……もう許してくれ」
父が涙し懇願する。
僕は呆れてため息をつく。
……ふむ。
「そうだな。流石に僕も殺し続けて疲れたし……アンタも腹減っただろ?」
父は僕の言葉に何度も頷く。
生き返ったばかりで腹なんて減っているはずないのに。
少しでも殺されないようにと思ったのだろうが……。
「よし。じゃあ肉を食べさせてやろう。幸い肉ならたくさんあるからな。……ほら」
僕は町へ向かって手を広げる。
そこにはブラッドマンティス達によって崩壊したバーバラの町。
そして夥しいほどの死体の数々。
「まっ、まさか……」
僕はベルゼブブに命じ、死体を一つ持ってきてもらう。
「さて。僕は料理できないから……生でいいよな?」
「いやあああああああああ!? かん、勘弁してくれえええええ!!」
父が今までで一番の拒否反応を示す。
必死でその場から逃げ出そうとするが、体が動く気配はない。
そこにベルゼブブが容赦なく父の口に肉を入れる。
「げええええええええ!! げぼっ!?」
父が慌てて口から肉を吐き出し何度も咽る。
「なんっ何でこんなに非道なことが出来るんだよ!?」
非道って……お前が言うのか?
「アンタが今までやってきたことと比べると、こんなの全然非道なことじゃないよ」
「おっ俺はこんなことしてない!!」
「そうか? 一人の女性を寄ってたかって弄び、挙句の果てに目の前で娘を殺すほうがよっぽど非人道的な行いだと思うがな」
そう。父がリリちゃん母娘にやったことに比べると、死体の肉を口に入れるくらいなんてことない。
「それに……こんなのまだ序の口だぞ。アンタにはリリちゃんの母親が受けた絶望以上を受けてもらわないといけないからな」
僕の言葉に父の顔が真っ青になる。
「頼む。頼むから許してくれ。本当に、本当に悪かった。もうこれからは絶対にしない。だからな。助けてくれ。助けてくれるなら何でもするから!!」
「……本当に許して欲しいなら、それなりの頼み方ってのがあるよな?」
僕は父を地面へ座らせた後、頭を掴み……無理矢理土下座の体制へと持っていく。
そしてそのまま何度も頭を地面に叩きつける。
「いだいっやめ、やめてくれええええ」
ふぅ。ひとしきりやって満足した僕は父の頭を踏みつけて言う。
「ほら、許して欲しかったら、こうやって地べたに頭を擦りながら懇願しろ」
「わがっだ。わがったから、ふまっ踏まないでくれ」
仕方がないから僕は足を上げる。
「わ、わるがっだ。ほんどうにわるがった。ゆるじでぐれ」
父は涙を流し、床に額を擦り付けて懇願する。
その父の評定には悔しいだとか屈辱だとかそんな感情は一切ない。
本当にただ助かりたいと、そう見えた。
だから僕はこう言ってやる。
「なぁ。アンタはかあさまが許してと言ったとき、許したことがあったか?」
そしてそのまま父を蹴る。
「確かアンタは母を払って、僕を嘲りながら蹴り殺したよな」
「ぐふっわるっわるがっだ。ゆ、ゆるじでぐで」
父は壊れたおもちゃのように何度も何度も許してくれと繰り返す。
僕は蹴るのを止め、父の顔に足を持って行く。
「舐めろ」
「へっ?」
「クズならクズらしく靴を舐めながら許しを乞え」
「ひゃっひゃい」
恥も外聞もなく父は僕の靴を舐める。
体が動かないから必死に舌を伸ばして……本当に情けない姿だ。
こんな奴に僕は殺され続けていたのか。
「うぐっ!?」
靴を舐めていた父が突然首を押さえながら苦しみ出す。
「ははっ毒が塗られた靴は美味しくなかったか?」
「ぐあああああ!?」
苦しみで返事どころじゃないか。
「これさ。同じことを僕もやらされたんだ」
死にたくないと懇願しながら教授の靴を舐めたっけ。
そしたら靴に毒が塗ってあってさ。
「許してと言ったくらいで開放されると思ったら大間違いだ。アンタにはもっと……もっともっと後悔してもらわないとな」
父は既に苦しみ死んでいたようで、何の反応も示さない。
さて、次はどうやって殺そうかな。
****
それから数日が経過した。
流石に死体の臭いが厳しくなってきたから、バーバラの町は既にブラッドホッパーにより更地にしてある。
その更地になった場所で、僕は父をひたすら殺し続けた。
「…………」
父はもう何も反応しない。
別に壊れたとか意識がないとかでもない。
途中で壊れたりもしたが、生き返ったら正常に戻るから、壊れることすらさせてくれない。
ただ全てを諦め、殺されるのを待つだけになった。
「ねぇ。流石に飽きたよ」
色々な殺し方を提案してきたベルも流石に飽きてきたようだ。
「……まぁみんなも待っているみたいだし、そろそろ終わりにするか」
昨日、教授からまだ終わらないのかと連絡がきた。
一応、復讐は終わって、少しゆっくりしていると伝えたが……教授は母と二人きりでゆっくりしていると解釈したみたいだ。
こっちは大丈夫だからゆっくりしていいよと言われた。
僕も数日間殺し続けて溜飲を下げた。
いい加減母も生き返らせたいし、父に構っている場合じゃないか。
「よし。アンタを解放する」
僕は父にかけていた拘束魔法を解除する。
「へっ?」
突然のことに驚く父。
「許してほしかったんだろ? もう許してやるから……自由に生きろ」
「ほっ本当か!?」
「ああ。本当だ……ただな、アンタは自分が忌み子だってことを忘れるなよ?」
実際には後数日で父の不死の能力はなくなるのだが、それは父は知らないこと。
「もしアンタが忌み子だとバレたらどうなるか……アンタならどうなるか分かるだろう?」
なにせ忌み子だった僕を散々見てきたんだから。
父は王都が滅んだことも、その理由も知らない。
だから未だに忌み子が周りから排除される存在であると、見つかれば国に捕まると思っている。
今の父の服装は……父の全裸なんて見たくないからベルのお願いを使って、生き返るときに服を着用したままでとしていたが、その服もボロボロ。
バーバラの町は更地状態で武器も服も食料も何もない。
他所の町へ行くと……忌み子だとバレた場合、待っているのは地獄。
そんな状態で父はこれからどうやって生きていくのだろうか。
忌み子だとバレないことを信じて他所の町へ向かうか。
それとも誰にも気づかれずに一人でヒッソリと暮らすか。
逆に自分が不死だということを利用して暴れるか。
まぁどの選択肢を選んだとしても……不死の能力を失った後、すぐに死ぬのは間違いない。
怪我の回復、空腹から逃れるため、理由は何であれ、便利な不死の能力を父が金輪際使わないことはあり得ないから。
「じゃあな。後は好きに生きてくれ」
僕は空を飛んでその場を後にする。
「待て……待ってくれええええ!!」
遠くから聞こえてきた父の声に僕は振り返ることはなかった。




