第8話 忌み子の処遇
父に刺し殺された僕は、死んでいる間に、手足を縛られ、完全に身動きが取れなかった。
さらに猿ぐつわまで……声すら出せなくなっていた。
「んーー!! んーー!!」
許さない!! 母を殺したコイツを許さない!!
そう言ってやりたいが、言葉にできない。
「おら、大人しくしろ」
父はそう言って僕の腹を蹴る。
「んんっ!?」
痛みに悶絶する。
大人しくなった僕を抱え、父は外へ出る。
運ばれた先は……檻。
生け捕りにした野生の魔物を入れる檻らしい。
今は生き物が入っていないが、その檻の中に縛られたまま入れられた。
「一角猪が暴れても壊れない檻だ。貴様じゃどうやっても抜けなせないだろうよ」
一角猪がどんな魔物か知らないが、確かに僕が暴れたところで、ビクともしないだろう。
それ以前に身動きがとれないから、暴れようもないが。
父は僕が出られないことを確認すると、この場から離れた。
僕は縛られた手足をどうにかできないか試してみるが……駄目だ。
ロープで頑丈に縛られていて、解ける気配がない。
――母が死んだ。
先程の光景が鮮明に蘇る。
……夢じゃないんだ。
悲しくて……悔しくて、涙が出る。
母はまだ家の中で死んだときのまま放置されている。
今すぐ母のもとに戻りたい。
でも……その願いは叶わないだろう。
最後に弔いさえ出来ないなんて……この世界はどうして僕にこんなにも厳しいんだ。
****
しばらくすると、父が他の人間を連れて戻ってきた。
「この子が今言っておったお前とリライラの子か。……生まれてすぐ死んだと聞いておったが、生きておったのか」
初老の男が僕を見ながら父に聞く。
リライラ……母の名前だ。
数年前に一度だけ母から聞いただけで、父は母の名前を呼ばないし、僕も『かあさま』としか呼んでいないから聞き慣れないけれど。
「ああ。忌み子だったからな。死んだことにしていた」
周囲がざわつく。
まだ僕が忌み子ってことは聞いていなかったようだ。
「忌み子はその場で殺すか、すみやかに国に報告することになっておったが……よもや知らぬとは言わさぬぞ」
「知っていたが……あいつがどうしても育てると言って聞かなかったからな」
そう言って父は説明を……嘘で塗り固められた言い訳を始めた。
父は愛するリライラの頼み、そして忌み子だと言っても、息子なのだから、国に報告するのは忍びない。
だから、仕方なく僕を育てることにした。
――ふざけるなと。
お前が母を愛してなかったことは間違いないし、僕を匿っていたのも金の為でしかなかった。
「だが、忌み子はやはり忌み子。こいつは育てた恩を忘れ、リライラを殺しやがった」
――殺したのはお前だろう!!
だが猿ぐつわのせいでうめき声にしかならない。
母が死んだことはすでに聞かされていたようで、驚きの声は上がらない。
「俺はリライラを殺したコイツを許せない。町長、国に報告を頼む」
「国に売る。町長、手続きをしてくれ」
「それは構わぬが……この子は本当に忌み子なんじゃな?」
「そうだ。どんなことをしても死なない忌み子だ」
「死なない……?」
ちょっと待ってろと父が言って……準備してきたのは槍だった。
「みてろよ……」
そう言いながら檻の外から僕の胸に槍を突き刺す。
「んんんーーー!?」
あまりの痛さに僕の意識は一瞬で飛んだ。
****
……意識が戻る。
すでに槍は抜かれ、痛みもない。
「ほ、本当に生き返ったぞ」
「見ろ、血が止まってる……傷跡すらないぞ」
「本当に……本当に忌み子なのか!?」
生き返った僕を見て周囲のざわつきが大きくなる。
どうやらあれから殆ど時間が経っていないみたいだ。
「これでこのガキが忌み子だって分かっただろ。殺そうにも死なないから、さっさと国に連絡してくれ」
「う、うむ……」
町長が驚きながら頷く。
大まかな流れとしては、王都に手紙で忌み子の報告をし、その後国から使者がやってくることになる。
「儂も初めてのことじゃから、いつになるか分からぬが……使者がやってくるまでに、ひと月くらい掛かるじゃろうな」
「ひと月……まぁ仕方ないか。その代わり、使者が来るまでこの檻を使わせてくれよな」
「それは構わぬが……世話はお前がやるんじゃぞ」
「はぁ? 別にこのまま放置でいいだろ」
餓死する心配がないから食べ物を与える必要はない。
縛ったままなら逃げられる必要もない。
一ヶ月間放置でもなんの心配もいらない。
「ああ、そうだ。それから……勝手にコイツを殺して遊ぶのは構わんが、その分の使用料は貰うからな」
父は集まった全員に向かってそう言った。