第72話 最後の復讐③
「わっ儂にこんなことをしていいと思っているのか!? 儂はこの町の領主だぞ」
僕は今、町の北側へと来ていた。
上空から見たときに貴族街っぽいと思っていたが、ビンゴだったようだ。
やはり町長とか言われていた爺さんとは別人だったな。
んで、目の前で腰砕けながらも必死で虚勢を張っているオッサンがこの町の領主。
「つまりこの町で一番悪い親玉だろ」
もちろん一番は父だが、その父を野放しにしているコイツが親玉だと言っても過言ではない。
僕は銃口を領主に向ける。
このマシンガンの威力は領主も重々承知している。
何故ならついさっきまで、領主の護衛をこのマシンガンで殺していたのだから。
「ひぃぃぃ。まて、待つのだ!?」
何時でも殺せるのだが、最後の言葉くらいは付き合ってやろう。
「分かった。待ってやるから早く最後の言葉を言え」
「さっ、違う。最後ではなく、儂を助けろと言っておるのだ」
「貴様を助ける理由なんかない」
「もし儂を助けてくれるのなら、好きなだけ金をやろう。いや、金だけではない。女も……遺族の地位だって望むがまま」
「全て必要ないものばかりだな」
「くっでは、何を望む。貴様が望むものは何でも用意しよう」
「僕が望むものは……貴様の命だな」
僕は銃口を領主の口の中へ入れる。
「わ、わて、やめへくれ」
領主はイヤイヤと左右に首を振り、涙を流しながら懇願する。
こんな情けない姿を住民が見たらどう思うだろうか?
というか、この男は自分のことばかりだったな。
領主ってのは自分はどうなってもいいから、これ以上町に被害は……とか、家族の命だけはとか言えば、まだ話を聞いてやったのに。
……ふむ。
僕は領主の口から銃口を抜く。
「た、助けて……くれるのか」
「そんな訳あるか。それより……この屋敷に残っている全員をここに集めろ」
この屋敷で護衛を殺しながらここまで来たが、領主の家族と思わしき人は殺していない。
まだ人は残っている気配はするし、家族も残っているだろう。
「全員が集まったら……ちょっとしたゲームをする。そのゲームの結果次第で殺すか判断してやる。ああ、言っておくが屋敷から逃げ出そうとするなよ」
僕は屋敷に結界を張り逃げられないようにする。
さぁ楽しいデスゲームの始まりだ。
****
集まった人数は10人。
領主と領主の嫁、息子と娘の4人。
そして執事とメイドが6人。
ほぼ全員が涙を流し嗚咽を漏らしている。
その中で唯一無表情なのが領主の娘。
年は僕と同じくらいだが……あの表情はなんとなく気になる。
まぁこの娘を気にしてもしょうがない。
早速僕はゲームを始める。
「今から一人ずつ質問する。その答え次第で誰を殺すか、殺さないかを決めようと思う」
ということで、まずは領主から。
他の人は余計な口を出さないように声を発せなくして、動けないように拘束しておく。
「この中で一人だけを助けると言ったら誰を助けたい?」
「一人だけ!? では儂を儂を助けてくれ!」
やっぱり。この男はそういうと思った。
「ではそうだな……嫁と娘には今生き残っている住民100人から陵辱を受けて死んでもらう。そんな条件をつけても?」
「構わん! どうせ儂しか生き残らんのなら、死ぬ前に何をされようと関係あるまい」
「……そういうことらしいけど、貴女はどう思う?」
僕は領主との会話を終え、領主の妻へ質問を始める。
領主は他の人と同じように拘束して喋られなくする。
「誰か一人を助けるとなれば旦那である領主を助けるか? その場合は陵辱された上で死ぬことになるが」
「そんなこと認められるわけないでしょう!」
「では貴女は誰を助ける?」
「アタクシを助けてちょうだい。アタクシを助けてくれるなら、貴方にどんなことでもして差し上げますわ」
何をするつもりなのか、彼女はしなを作る。
……この人って若作りしているけど、若くても40代後半だろ。
無理がありすぎるだろ。
「じゃあ次はアンタだ」
今度は息子に質問する。
「アンタは両親か自分、助かるのはどちらがいいと思う?」
「それなら私が生き残るべきでしょう。若い私の方が未来があるので」
「じゃあもう一つ。この後、この町の生き残りを……そうだな。100人ほど自分の手で殺せばアンタだけは助ける。そういう契約ならどうする」
「……私の力では100人も殺せないが」
「それは僕が力を貸してやる。抵抗できないように100人並べてやるからアンタは一人ずつナイフで刺し殺すだけだ。それならできるだろう?」
「それならなんとか」
なるほど。
自分が生き残るためなら、自領の民だろうが平気で殺せると。
領主の息子だけのことはある。
最後に娘に質問する。
「アンタは誰を助けたい?」
「…………」
何も答えない。
ちゃんと喋れるように魔法は解除したんだが。
「……だれも助けなくていい」
「えっ?」
「ここにいる全員生きている価値もない。全員死ねばいいんだ」
あ~この目は覚えがある。
全てに絶望して自棄になっている目だ。
「……じゃあここにいる全員をアンタが殺したら、アンタだけ助けるが?」
「どうでもいい。どうせ私みたいな出来損ないは生きてても良いことなんてなにもないんだから」
どおりで気になったはずだ。
この娘は……日本にいた頃の僕と同じだ。
出来損ないだと言われ続けていたに違いない。
……僕は彼女にマシンガンを渡す。
「……何?」
「ここを引くと弾が出る。それで今まで虐げてきた奴らに復讐してみろ」
彼女は少し逡巡してから……自分の両親たちに向かって引き金を引いた。




