第67話 コータリアの壊滅
ブラッドマンティスの様子を確認できた僕は一旦ベルに契約魔法の対価支払を行う。
なにせ一体創造するだけで命10個分が必要。
次は二体同時に町へ落としたいから、20個分に抑えるためにもここで支払いは必須だった。
「ああくそっムカつく」
いつもの支払い後の不快感に悩まされながらも新たな魔物を創造する。
――20個分の血肉を対価に、意のままに操る魔物を二体創造せよ。
そして現れるふたつの黒い物体。
僕はそれを別々の場所へ堕とす。
「よしいけ、ブラッドコクローチ、ベルゼブブ。町を破壊せよ」
二体目は予定通りゴキブリのブラッドコクローチ。
そして三体目はハエのベルゼブブだ。
ブラッドマンティスと同じく10メートルの巨大なゴキブリとハエ。
黒い影のような姿なので顔の表情などは分からないのだが、その輪郭や仕草だけでも、そのおぞましさは十分に伝わってくる。
「あのさぁ。何でハエだけブラッドじゃなくてベルゼブブなのさ?」
「何故って……ハエと言えばやっぱりベルゼブブだろ」
誰もが知っている蠅の王だ。
それこそカマキリとゴキブリもベルゼブブと同じくらい有名なのがあれば僕だってそれを使った。
けど思い当たらなかったんだから仕方がない。
「まぁ何度も言うけど名前なんて分かれば何でもいいんだよ」
「そうだけどさ、せっかくだからブラッドで統一したらいいのに」
「う~ん。言いたいことは分かるけど、ハエってフライだろ? ブラッドフライって微妙じゃね?」
ゴキブリはコックローチだから、コクローチってすれば語呂がいいかなと。
でもブラッドフライはなぁ。
「まぁ名前に関しては今後考えるとして……この二体はヤバいな」
カマキリは前脚の鎌とか格好良さもあったが……ゴキブリとハエはその全てがただ気持ち悪いだけ。
特にブラッドコクローチの方はヤバい。
元々僕自身がゴキブリが苦手ってのもあるけど……巨大化することによって、脚のわちゃわちゃ感とか、羽音とか嫌悪感しかない。
これに殺されたり食べられたりする住民は……ははっ。ざまぁとしか言いようがないな。
ただ、流石に住民たちも逃げ惑うだけではない。
反撃に出るものが現れ始めた。
おそらく以前教授が教えてくれた雇兵だろう。
王都では火事場泥棒をしていたが、普段の雇兵は地元で魔物退治や護衛の仕事しているって話だ。
雇兵は……カタパルトって言うんだっけ。
大きめの石を投げる投石機を持ち出していた。
「あの三体って疑似生物って話だったよな。殺すことは出来るのか?」
「う~ん。あれって君から出てきた黒い霧状の塊だから……ほら見てよ」
投石機から石が放たれ……ブラッドマンティスの頭部が霧状に四散する。
が、四散した霧が再び頭部にあった場所に戻り……すっかり元通りになる。
「ねっ。元が霧だから物理攻撃は効かないの。殺すことが出来るとしたら、霧を全部消滅させるか、君の魔法を打ち消すかのどちらかだろうね」
「つまりこの世界では誰も勝てないと」
霧を全部消滅なんて出来るわけないし、ベルの力を借りた魔法を打ち消すなんて、ベルと同じこの世界の理から外れた神でもない限り無理だろう。
それがたとえ魔法に長けた魔王であっても。
「じゃあ手助けする必要はなさそうだな」
もし苦戦するようだったら雷でも落としてサポートしようと思ったけど、その心配はなさそうだ。
「んっ? ねぇあそこ見てよ」
なんだ? 別の問題か?
そう思ってベルが指した方を見てみると……まだ三体が到達していない場所にも関わらず火の手が上がっていた。
大きめの屋敷が燃え、かなり騒ぎになっているようだが……。
「んん? 首?」
人混みの中心に、先端に人の首が刺さった長い棒が三本あった。
その首に対して祈りを捧げている人々。
「あ~なるほど。今になって首を差し出したってわけか」
ブラッドマンティスが暴れ始めてようやく本当だと気づいたから、慌てて元凶の首を差し出したと。
「じゃああの首が君の復讐相手?」
「う~ん。どうだろう?」
正直、首だけ見せられても。
復讐相手ではあるけど、10年前に少しだけ会話しただけなんだから顔なんて覚えてない。
それに10年も経っていれば顔つきも変わっているだろうしな。
せめて全身姿で門番の服装でもしていれば、あ~とか思ったかもしれない。
「というか何で首が三つなんだよ」
「残りは女の人みたいだし、家族じゃない?」
確かに残りの首は女性と子どものようだし、そう考えるのが妥当か。
「んで、どうするの?」
「どうするって……別にどうもしないぞ」
だって約束は一時間以内にって話だったし、家族の首は求めていない。
そもそも助けるって話は10歳以下の子どもだけだし……例え復讐相手の子どもだとしても、その子どもを殺すのはねぇ。
「なぁベル。あれって霧だから、分裂って出来るか?」
「それもイメージすればいいよ」
なるほど。イメージすれば出来ると。
「よし、ベル。もう一度支払いを頼む」
二体分の支払いが終わらないと追加の契約魔法が使えない。
「りょーかい。分かったよ」
そして本日三回目の支払いが行われる。
全身を駆け巡るドス黒い何か。そして途切れる意識。
意識が戻った僕は支払いの不快感を覚えながらも、あそこにいる奴らにだけ声を放つ。
『聞こえるか罪人ども。罪人の首を捧げようが約束の時はとうに過ぎておる。それどころか、我の指定した人物以外の首も捧げるとは……その浅ましさは万死に値する。自らの行いを悔いながら死んでいくが良い』
そして続けざまに四体目の創造を行う。
――10個分の血肉を対価に、意のままに操る魔物を創造せよ。
僕から噴き出る黒い霧。
10メートル大の巨大な物体を奴らのすぐ近くに堕とす。
そしてイメージしたのは……通常の大きさのイナゴ。
巨大な塊から無数の黒いイナゴに変形する。
イナゴの大量発生で何もかも食べ尽くされたというのを聞いたことがある。
人も食べるかは分からないが……それは食べるようにイメージすればいいだけのこと。
「さぁいけブラッドホッパーども。そこにある全てを食らいつくせ」
僕の命令で黒い群れが一斉に動き始める。
フハハ。一撃で殺されるのではなく、じわじわと食われながら死んでいくがいい。
そして数時間後、コータリアの町は完全に消滅した。




