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邪神の牲  作者: あすか
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第60話 ツケの支払い

 普通の人間として生きる。

 この言葉は心を閉ざしていた忌み子だった子供たち全員に生きる力を与えたようだ。

 ひとしきり泣いた後、先ほどまでの無気力な目をした子は一人もいなかった。


 ――もう大丈夫だな。


 安心した僕は教授とニナに少し離れると言って、この場から離れる。

 ようやく一区切りついたから、ベルに溜まっていた契約魔法の対価を払うためだ。


「いやぁ君があんなに熱い演説をするとは思わなかったよ」


 ベルは二人っきりになった瞬間からかってくる。

 ……確かに僕らしくないとは思うし、端から見ればお涙頂戴的な茶番に見えるかもしれない。


「だって、ほっとけないだろ」


 同じ立場だった僕にはあの子らの気持ちがよく分かるから。

 だがベルは何故か少し驚いた表情を浮かべている。


「……まだ君に他人を思いやる気持ちが残ってるんだ」


「お前は僕を何だと思っているんだ」


 極悪非道な男とでも思っているのか?

 僕は極悪人だった父とは違う。

 母と同じように他人を思いやる気持ちはしっかりと持っているぞ。


「なんだか平気で人を殺していたからさ」


「はぁ? アイツらはクズなんだから当然だろ」


 クズは母を生き返らせるための贄なんだから、殺しても問題ない。

 というか、平和な世界にするんだから、むしろ率先して殺した方がいい。


「う~ん。なんか変な風にねじ曲がっちゃったけど……もう少しかな」


 ねじ曲がる? 何を言っているんだベルは。


「何がもう少しなんだ?」


「んーん。こっちのこと。何でもない」


 すごく気になるが……この調子じゃ教えてくれそうもない。


「というかベルの方はどうなんだよ」


 人に思いやりのない人物みたいに言っちゃってるけど、実はベルの方が優しさが足りなくね?


「はっ? どゆこと?」


「だって、こういう時こそ神の出番だろ? それなのにずっと黙っているし」


 ベルはずっと僕の近くにいたけど、ほとんど喋ろうとしなかった。

 まぁ干渉はできないってことだから、神の力で助けるってことはできないだろうけども。

 普通に会話はできるんだから、少しでも声をかけてやればいいのに。

 みんなも本物の神から大丈夫だと声をかけられたら、安心するはずだ。


「残念だけど、神の言葉はそんなに安くはないの」


 普段気軽に接しろと安売りしているのにな。


「まっボクの言葉を聞けるのは、ボクが認めた人だけ。君としょちょ……じゃない。きょーじゅさんと……ニーナちゃんだっけ?」


「ニーナじゃない。ニナだ」


「あっそうそう。ニナちゃん。それくらいかなぁ」


 要するにベルは気に入った奴としか話さないってことか。


「それよかさ。ようやく供物をくれるんでしょ。早く早く!」


 旗色が悪いと思ったのか露骨に話題を変えるベル。

 まぁ確かにそろそろ本題に入ろう。


「結局、今貯まっている対価ってどれくらいなんだ?」


「んっとねー。ざっと君の命35個分かな」


 あれっ? 思っていた以上に多いぞ。


「研究所襲撃までは18個だったよな?」


「そだねー。でも、あれからたくさん魔法を使ったでしょ」


 えっと……どうだったかな。

 まず研究所の敵を殺した。これは今までの経験から考えると多くても命2個分。

 次にそれぞれの部屋の鍵を開けた。これは大したことないはず。精々命半個ほどだと思う。

 物体転移と縮小化の解除魔法は別枠扱いだろ。

 後は……


「そっか。転移魔法か」


「そゆことー」


 教授が使えないって言ってたから、少なくとも一回の転移でひとつ以上の命が必要。

 仮に2個だったとして、使用回数は5回で10個。

 人数や距離で対価の量が違うと考えれば、おかしな数字ではないか。


「後は治療もしたしね」


 そういえば教授を手伝って部位欠損の回復もしたな。

 全部合わせて35個分ってことか。


「それで……どうやって支払えばいいんだ? 35回死ねばいいのか?」


 別に構わないが……終わるのに1時間以上かかるぞ。


「うんにゃ。そんな面倒なことはしないよ」


 じゃあどうするんだろう?


「ちょっと上半身だけ裸になってよ」


「……裸に?」


 えっ。本当に何する気だ?


「そっ裸。言っとくけど、エッチなことじゃないからね。期待しちゃ駄目だぞっ!」


 いや、全く期待してないんだが。

 というか、ベルってどちらかと言うとひんそ「ああん!?」

 ……地上では心が読めないはずなのに、何で分かるのか。


「はいはい。分かりましたよ……ほら。これでいいか」


 何をするか知らないが、とりあえず言われたとおり上半身だけ裸になる。

 するとベルは僕の正面に立ち……右手を僕の胸に当てる。


「ちょっとだけ苦しいかもしんないけど、我慢してね」


 そう言うと、ベルは右手にグッと力を入れて僕を押……右手が僕の胸にズブっと入り込む。


「うえええっ!?」

「うるさい。静かにする」


 僕が驚きの声を上げベルに怒られる。

 いや、でもさ……これ、どうなってるの?


 痛くもないし血も出ていない。

 刺された……わけではない。

 僕の胸がまるで穴でも空いていてそこにズブっとはまったような……。


「どう? 中に入れられた気分は。気持ちいい?」


「……お前。ワザと言っているだろ」


 神のくせに下ネタを言うなっての。


「ごめんごめん。でも実際どーお?」


「別に痛くも苦しくもないが……体内に異物が入ったみたいな感じがして気持ち悪い」


「……その言い方も十分卑猥だよ」


 そうか? 別にそこまでじゃないだろ。


「それから苦しくなるのは今からだから……いくよ」


 ベルがそう言うと……体中に何かが駆け巡る。


「ぐっ……なん……」


 苦し……息ができない。

 僕は思わずベルの右手を掴む。

 早くこの手を外に出さないと……。

 だけどベルの右手はピクリともしない。


「すぐ終わるから我慢してね」


「すぐ……って……っぐ」


 まるで体中にドス黒い何かが侵食しているような……


「があああっ!?」


 僕はそのまま意識を失った。

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