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邪神の牲  作者: あすか
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第6話 今の僕にできること

 母のために、今の僕にできることは何だろう。


 母が苦労しているのは、当然のことだが、父が原因だ。

 だから……父から遠ざければ、母を助けることができる。


 ……一番手っ取り早いのは、父を殺すこと。

 殺す方法は……父は不死じゃないから、父が酔っ払って寝ているときにでも、刃物を使って殺せばいい。

 それくらい力がない3歳の僕でも簡単にできる。

 僕個人としては、あんな父なんて死んで当然だと思う。

 さっさと父を殺して二人でここから逃げ出せばいいんだ。

 そして忌み子だと騒がれないような場所で、二人静かに暮らしていければ……。

 だがそれは不可能だ。


 確かに父を殺せば、母を守ることはできるけど……その代わり僕も母を手放すことになってしまう。

 何故なら母は僕が父を殺すことを許しはしないから。


 別に母が父を愛しているからというわけではない。

 僕が罪を犯すことを許さないんだ。


「どんなに辛くても、どんなに理不尽だと思っても……決して父を……人を憎んではだめ。悪い行いはいつか自分に返ってくるから……仕返しや復讐は絶対に考えないで」


 母は僕が父に暴力を受ける度にそう言って抱きしめる。


 悪行を積めば自分に返ってくる。

 そのことは、今まさに前世の罪を償っている僕が誰よりも一番良く分かっている。


 ただ母がそのことを知っているはずがない。

 母は本当に善人で……僕に罪を犯してほしくないだけ。

 だから、もし僕が母の言いつけを守らずに罪を犯したら、母は僕を嫌うかもしれない。

 いや、あの母が僕を嫌うとは思わないが、きっと代わりに罪を償おうとする。


 父を殺したせいで母と離ればなれになるのでは意味がない。

 だから父を殺すのはなしだ。


 じゃあ父を殺さずに、この家から逃げ出す?

 これも駄目だ。


 あの父にとって、母は大事な金づる。

 絶対に地の果てまでも追ってくるに決まっている。

 それでも母だけなら逃げられるかもしれないが……僕が足手まといになってしまう。

 忌み子で、この世界のことを何も知らなくて、しかも不死なだけで特別なことは何もないただの三歳児。

 逃げ切れるはずがなかった。


 それに、仮に父から逃げられたとしても、逃げた先で生活できるのか。


 この世界のことは、ある程度母から聞いている。



 どうやら日本とは違い、この世界は魔族やエルフ、獣人などの亜人などの種族が存在する。

 さらに魔法やスキルが存在するファンタジーな世界だった。


 魔法はゲームなどでありがちなファイアなど、火や水など魔力を使い具現化するもの。

 スキルは常人よりも力が強くなったり、五感が鋭くなったり、ケガの治りが早かったり魔法とは違う特別な能力のこと。


 ただ、この魔法とスキル。

 使えるのは魔族やエルフなどの亜人だけ。

 人族には使えなかった。


 その理由は魔石。

 人族以外の種族は体内に魔石を宿し、それを媒介に魔法やスキルを使うらしい。

 魔石を宿していない人族は、魔法もスキルも使えない。


 それなのに、ごく稀に魔法やスキルを使える人族が生まれる。

 それが忌み子だ。

 当然忌み子は人族なので、体内に魔石を宿していない。

 それなのに魔法やスキルが使える……それが、呪われているからだということらしい。


 そして、忌み子が嫌われるもう一つの理由。

 それは、人族と多種族は長い間対立し続けているからだ。


 魔法とスキルが使えない人族は、昔から他種族から見下され、差別されてきた。

 奴隷として扱われてきたこともあったそうだ。


 それに我慢できなくなった人族は、他の種族と対立することを決意した。

 しかし、対立したところで、魔法や技能が使えない人族に勝ち目はあるのか?

 すぐに滅ぼされてしまうのではないか?

 そう思われていたが……そうはならなかった。


 何故なら人族には他種族に対して二つの優位な点があったからだ。


 一つは繁殖力。

 他の種族の寿命は数百年と人族に比べて長寿のためか、出産能力に大きな差があった。


 そして、もう一つが魔道具。

 人族は魔石から魔法と同様の効果を得られる魔道具を開発した。


 結果、人口差と魔道具で、戦力差をカバー。

 勝てないまでも負けない対立が、現在も続いている。


 本来使えない魔法やスキルが使える忌み子は、人族ではなく敵として認定される。


 忌み子は判明した時点で殺されるか……もしくは研究対象として国に連れて行かれる。


 だから父も僕を殺した。

 僕が忌み子だと分かったから。


 だけど僕は死ななかった。

 殺しても殺しても……僕が死ぬことはなかった。


 だから父は僕を国に売ろうとし……それを母が止めた。


 僕を国に売れば、母が自分も死ぬと父を脅して。

 母が死ねば、父の収入がなくなる。

 僕を国に売ったところで、得られる金額は数年遊んで暮らせる程度だろう。

 だから仕方なく父は、どんなに嫌っていようと僕を家に匿っている



 僕はもう一度考える。

 ここから逃げたとして、どこに逃げればいいのか。どうやって暮らせばいいのか。


 人族と対立している多種族の国は論外。

 人族の国では忌み子とバレた時点でおしまい。


 逃げるとしたら、誰も近づかないような人里離れた場所しかない。

 そんな場所、あったとしても、人が住めるような場所じゃないだろう。

 少なくとも戦闘能力のない女性と子供の二人だけでは絶対に暮らせないだろう。


 結局この家から逃げるとしたら、別の人族の村か町。

 そこで、僕が忌み子だとバレないように隠れて住むしかない。


 ……かなりリスクが高い上、成功したとしても僕が父に殺されなくなるだけ。

 母にとっては、この家に居続けるよりも苦労させてしまうことになるだろう。


 それなら、父に殺され続けようが、この家にいた方がマシだ。


 ……今はまだ。


 せめて五歳……いや現実を見るんだ。

 五歳で現状が変わるはずがない。


 十歳……うん、せめて十歳だ。

 それくらいまで成長すれば、母の足手まといにはならないはず。

 忌み子だということを隠すことができれば、仕事をも出来るだろう。


 十歳になったら、母と一緒にこの家を出て、二人で暮らしていくんだ。

 それまで母に苦労をかけるけど……僕は体を鍛えながら、その時を待つことにした。


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