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邪神の牲  作者: あすか
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第55話 研究所襲撃

 今、僕とベルは研究所上空にいる。


「……なんとかたどり着いたな」


 ここまでの道のりは思ったよりも大変だった。


 自由自在に空を飛ぶ……と言っても、そのイメージが想像以上に難しかった。

 浮かぶだけなら単純だったが、移動となると、うまく進まない。

 一応、前に進めと念じると、進むのだが、まるでベルトコンベアの上に乗っているかのような、直進での移動になった。

 もっと自由に……上下左右好きな方向に動くというのがイメージできず。

 翼でもあればもっと簡単にイメージが出来たのだろうが。

 結局、空を歩いてみたり、泳いでみたり。

 ベルに手を引いてもらいながら移動したりと、1時間くらい練習してようやく普通に動けるようになった。


 大変だったのはそれだけではない。


 所長がいないから研究所の場所が分からなかったのだ。

 方向は馬車道を進んでいけばいいからなんとなく分かるのだが、分かれ道があった時点でアウト。

 仮に研究所を見つけても、それが研究所なのかすら分からない。

 だって僕が知っているのは研究所の入口だけ。

 研究所の全貌も、周囲の状況も何も分からない。

 似たような建物がいくつもあれば、どれが本当の研究所なのかすら分からないんだ。


「しょちょーさんの時の失敗が生きてよかったね」


「まったくだ」


 ベルの言葉に僕はうなずく。

 研究所の場所を見つけた方法は、城下町で所長を見つけた時と同じ――契約魔法で探知する方法を使った。

 その際、条件で僕とベル以外見えない光と制限をつけた。

 もし所長の時に失敗していたら、今頃研究所内は大騒ぎだったかもしれない。


 結局、移動に2時間。

 練習時間も合わせると、所長と別れて3時間も過ぎていた。


「ちょっと苦労したけど、馬車よりも全然速かったでしょ」


「そうだな」


 馬車で移動していたら後5時間くらいかかるだろう。

 というか、所長は変わらず死に続けているのだろうか。

 それとも、痛みに耐えきれずに死ぬのを辞めたか。

 どちらにせよ所長の到着はまだ大分先。


「所長が到着する前にさっさと終わらせてしまおう」


 待つ必要もないよな。


「そうだ……ほわぁっ!?」


 突然ベルが素っ頓狂な声を上げる。

 そして、一呼吸開けて大笑いを始める。


「あはっあはははは!? なるほどねー。そーきたか」

「おっおいベル。どうしたんだ?」


 別におかしなところは何もなかったところに思うが。


「あのねっ。今しょちょーさんが僕と契約魔法の契約を結んだの」

「はぁっ!?」


 契約魔法って……そうか!?

 所長は契約魔法の儀式は当然知っている。

 ただ、今まで儀式を儀式をしなかったのは、対価ってデメリットがあったから。

 不死になったことで、対価を支払っても、死んで元通りになるから、デメリットが無くなったんだ。


「流石にしょちょーさんと契約するとは思わなかったよ。ふふっ。しょちょーさんの方が、君より上手く契約魔法を使えるかもね」


 ……否定できない。

 なにせ僕は所長から、正しい契約魔法の使い方を教わったんだ。

 そう考えると、所長の方が契約魔法を使いこなしてもおかしくない。

 ……空飛んで追いかけてきたらどうしよう。


「まっしょちょーさんは対価先払いだから、君の優位性は変わらないけどね」


 あ、そっか。

 僕はベルと一緒に行動するから、後払いが許されているが、所長の場合は僕がベルと会う前の状況と同じで、対価は全部先払いになるんだ。


 先払いと後払いの違いはかなり大きい。

 単純に支払いの時期の差だけではない。

 契約魔法の威力自体が変わってくる。


 例えば先払いの場合、使える魔法は、一番高い対価の自分の命。

 しかし後払いなら、自分の命でも1個以上でも可能だ。

 それは所長を不死にした時に命10個分を消費しているから間違いない。


 それを考えると、ベルの言う通り僕の優位性は変わらない。


「ベル。僕の後払いのツケはどのくらい貯まっているんだ?」


「そーだね。君の命ざっと18個分かな。それとご飯」


 ご飯は物体交換と縮小化の魔法の分だな。

 それ以外で18……所長を不死にした分が10個分だとしても、それ以外で8個分も使ったのか。


「飛行魔法の消費が大きかったね。あれ、1時間で命1個分で、自動更新ね」


 つまり今3時間だから、3……いや、4個消費しているってことか。

 一回使ったらそれで終わりじゃなくて、時間で追加徴収もあるのな。

 ったく。そういう魔法があるなら、事前に教えておけって。

 ……まぁ教えて貰っても使うけど。

 でもそうなると、所長が飛んで追いかけてくる可能性はないかな。


「ツケって後どれくらい貯められる?」


「そりゃ、ボクの気分しだいだから、決めてなかったけど……。そーだね。あまり多すぎても回収が面倒だし、一回の魔法の限界が命10個分。ツケは20個分までってとこかな」


「……後2個分しかないじゃねーか」


 ニナ達に被害が及ばず、敵を全滅する方法はすでに考えてある。

 簡単なことで、研究所内にいる実験体以外の人族を殺せと契約魔法を使えばいいだけ。

 敵に見つからずに一瞬で殺せるから、ニナ達が人質になることも、殺されることもない。

 問題は後2個分の命で研究所内の敵を全滅できるか。


 魔法陣の上で兵士たちを殺した時は、先払いの命1個分で良かったから大丈夫だと思うが……念の為、今ここで一度清算した方がいいか。

 でも、精算するには一度降りたほうがいいよな。

 魔法を使うには研究所の全貌を見渡せる空にいた方がいいんだが。


「ボクの気分次第って言ったでしょ。20個を少しくらいオーバーしても問題ないよ」


 あくまで基準ってことか。

 なら、ニナ達を助け終わるまでは貯めててもらおう。


「……研究所の外に兵士はいないな」


 研究所の外にいたら、各個撃破するつもりだったが、その必要はなさそうだ。


「……よし」


 僕は大きく一回深呼吸して契約魔法を唱える。


 ――あの建物にいる実験体以外の人族を殺せ。


 これで……終わったはず。


「ねぇねぇ。死んだ人たちの体と魂貰っていーい?」


 外から見る限り変化がないが……ベルがそう言うってことは、無事に死んだってことだ。


「……服ごと全部貰ってしまえ。取り込みが終わったら中に入るぞ」


 さあ、ニナ達を解放しに行こう。

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