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邪神の牲  作者: あすか
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第3話 罪と罰

 僕自身が罪を償う?


「ど、どういうこと?」


 さっきの話じゃ、罪を償うのは僕じゃなく、僕の記憶を持っていない来世のはずだ。


「あなたはまだ前世の罪を償いきっておりません。自殺することによって、本来死ぬ予定だった運命よりも早く死んだからです」


 僕に関係ない前世の僕の罪。

 それの償いが終わっていないのに死んだこと。

 それが僕の三つ目の罪らしい。


「今世の罪は、来世のあなたに償わせることができますが、前世の罪は今のあなたにしか償うことができません。そうしないと魂が浄化されず、次のあなたになることができませんから」


 それってつまり……


「まさか償い終わるまで死ねないとか?」


 実は死んでなくて、今から生き返る?

 今の話だと、僕が暴露したことによって、とんでもない影響が起こるのに?

 ……そんなの絶対に嫌だ!? 絶対に戻りたくない!!


「いえ。先ほども言いましたが、あなたは完全に死にました。さすがに完全に死んでしまった器に、もう一度魂を容れることは私にも……神にもできません。まぁアンデッドとしてなら戻せますが」


「あ、アンデッドっ!?」


 アンデッドなんてそんなの……って天使や神がいるならアンデッドがいてもおかしくない。


「もちろん、そんなことはしませんが」


 ふふっと笑う天使。

 天使ジョークのつもりかもしれないが、全く笑えない。


「そういうわけで、今回は特別に今のあなたの魂のまま、来世へ送ることにしました。要するに、あなたは今の記憶を持ったまま来世へ行くということです」


 特別ですよ……と、笑顔で天使が言う。


「そこであなたには前世の罪を償っていただきます。そして、もちろん来世となりますから、そこでは今世の罪も償っていただきます」


 その言葉はまさに死刑宣告に等しかった。

 あの辛かった今世よりも更に辛いと分かっている人生を僕のままで……。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 僕は天使に詰め寄ろうとしたが……それより先に天使が僕の前に手を突き出す。


「いいえ。待ちません。ちょっと大人しく聞いていてください」


 天使がそう言うと、まるで金縛りにあったように、僕の体が動かなくなる。

 文句を言おうにも声も出ない。

 僕が大人しくなったことに満足したのか、天使が続きを話す。


「それでですね、来世ですが、なんと日本ではありません! そりゃあそうですよね。そもそも、日本のような、家もあって食べ物にも困らない環境は、ぬるま湯みたいなものです。とても過酷な人生とは言えません」


 さっきまでの落ち着いた印象とは別人のように楽しそうに話す天使。


 ……あの地獄のような環境がぬるま湯?


「あっ、ちなみに地球ですらありませんから。良かったですね。これって日本人の大好きな異世界転生ってやつですよ」


 何が大好きな異世界転生だ!!

 この天使……完全にふざけている。


「あれ? お気に召しませんでしたか?」


 当たり前だろうが!!


「仕方がないですね。では、あなたにだけ、特別な能力を差し上げます。ほら、異世界転生にありがちな……所謂チートスキルってやつです。これで、異世界に行っても安心ですね」


 俺は天使を睨み付ける。

 絶対にチートスキルなんかくれるはずないんだから。


「もしかして疑ってます? 女神の使いたる私が嘘をつくはずがないじゃないですか。その能力というのは……絶対に死なない能力。なんと不死です! 漫画やアニメでよくありますよね。不死の能力を得るために、人魚の肉を食べたり、お酒を造ったり、願いが叶う玉を集めたり。ねっ、誰もがあこがれる素敵な能力でしょう?」


 不死の……能力?


「あっ、ちなみに不老不死じゃありませんから。不老不死だったら、赤ちゃんから一切成長しませんもんね。そんな残酷なことはできません。ちゃんと普通に成長しますから安心してください」


 それはつまり老人になっても、永遠に生き続けるということじゃないのか。


「あなたが何を考えているか分かります。ですが、安心してください。この不死の力は、あなたが罪を償いきったら消滅します。要するに、罪を償いきる前に、病気や事故で死なないようにするための措置ですね。まぁ罪を償わず、新たな罪を犯し続ければ、延々と生き続けることになるでしょうが……普通に過ごしていれば、無駄に長生きせずに、天寿を全うできます」


 この天使の話だと、確かに有用な能力のように聞こえるが……だまされない。


 罪を償いきるまで死ぬことができない……つまり、来世がどんな地獄であろうと、今回のように自殺できない。

 今世以上の過酷な人生で、絶対に逃げることができないんだ。


「それから、私が与えるのは不死の能力だけ。当然ながら怪我もしますし、病気もします。痛覚もそのままですし、身体能力もそのままです」


 つまり、どれだけ大怪我しようとも、死ねないだけで、痛みは残り続ける。

 これ……チートではなく、ただの呪いだ。


「さて。これで全部説明が終わりました。あとはあなたを来世へ送るだけ。最後に何かありますか?」


 天使の言葉に呪縛が解ける。


「何で……何で僕だけこんな目に遭うんだ」


 前世の罪なんて僕には関係ない。

 そして、それがなかったらイジメられていない。

 イジメがなかったら、自殺することもなかったし、アップロードすることもなかった。

 何一つ罪を犯すこともなかったんだ。


「確かにあなたには同情すべき点はあります。ですが……やはり最後だけは、ただあなたの自己満足。あれさえなければ、もっと罪は軽かった。ですから……これは完全に自業自得です」


 そして、天使は一番いい……邪悪な笑みを浮かべる。


「あはっ、あなたがイジメた人に言えなかった一言をボクが代わりに言ってあげるね。……ざまぁ」


 天使の言葉を最後に僕の意識は急速に薄れていく。


 ――ああ、これが夢でありますように。


 そう叶わない願いをしながら、僕は来世へと転生した。

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