第25話 正しい魔法の使い方
僕は二人っきりになる僅かな時間を利用して、ニナから魔法について教わっていた。
「イサムは魔法についてどれくらい知ってます?」
まずは僕が魔法のことについてどの程度知っているか聞かれた。
基本的なことは所長との魔法講座で知っている。
魔法には魔素というものが必要らしい。
この世界では、魔素は酸素などと同じく、大気中に存在している。
その魔素を体内に取り込んで、魔力へと変換。
その魔力の性質を変化させて、外に放出するのが魔法の原理らしい。
魔素を取り込むのは簡単。
何せ大気中に存在しているのだから、呼吸をするだけで、体内に取り込むことができる。
ただし、その取り込んだ魔素を体内に維持し、魔力へと変換するのが、魔石を持っていない人族には難しい。
魔石は魔素の貯蔵と魔力への変換器の役目がある。
だから魔石を持たない人族は、魔素を取り込んでも、貯める場所がないからすぐに体外へ排出されてしまう。
そして変換器もないから魔力にすることもできない。
これが人族が魔法を使えない理由。
ちなみに所長は魔法を使うために、魔石を体内に移植して、魔法を使えるようにしようと僕で何度も試した。
結果は全部失敗だったが。
だから魔石に頼らずに魔法を使うにはどうすればいいのか。
「そもそもニナは魔法が使えるの?」
今更な質問だけど、実際にニナが魔法を使っているところは見たことない。
「一応、使えますけど……この研究所内では使えませんよ」
実験体が逃げ出せないように、魔道具で研究所内の魔素を遮断しているらしい。
まぁどうせここで魔法を使ったら、所長が大慌てでやってくるだろうから、どちらにせよ試せないけど。
「それは……やっぱり魔石があるから?」
「最初はそうでした。でも、今は魔石がなくても使えますよ」
魔法に慣れれば、大気中の魔素を認識することも可能になるらしい。
そして、魔素の取り込みも、呼吸だけじゃなく、手足や体……何処からでも吸収できるようになるらしい。
「慣れれば魔石がなくても魔法は使える。でも、慣れるまでは魔石がなければ魔法が使えない」
僕は頭の中で、自転車の補助輪が思い浮かんだ。
自転車に乗れるようになったら補助輪は必要ないけど、乗れるようになるまでは必要と。
でも今の僕は、自転車の乗り方が分からない上に、補助輪もない状態。
これでどうやって乗れと。
「それってやっぱり人族には魔法が使えないんじゃ?」
「でも、実際に魔石を持っていなくても、魔法を使える人はいますよね?」
確かにニナの言う通り、魔石を持っていなくても魔法が使える人達はいる。
……忌み子のことだ。
忌み子は魔石がなくても、魔素を体内に取り込み、魔力へと変換できる。
だから忌み子がどうやって魔法を使っているか解明できれば、人族だって魔法が使えようになる。
「でも、忌み子にもその方法は分からないんだよなぁ」
さっきの自転車の例でいうと、補助輪もなくセンスでいきなり自転車に乗ることが出来たって感じだ。
何で自分が魔法を使えるか理解できていない。
無意識に……それこそ呼吸と同じようにやっているだけ。
どうやって魔法を使っているのか聞くってのは、呼吸のやり方を聞いているのと同じこと。
説明のしようがないのだ。
所長も忌み子が魔法を使うのを何度も調べたけど、結局分からなかったって言ってた。
「ニナは説明できる?」
「感覚的なものですから口でなんとも……」
やっぱり無理じゃね―か。
「それに……いくら魔法が使えても、魔石がないのは事実なので……強い魔法は使えません」
魔石という貯蔵庫がないから、吸収したものをその場で変換して発動することしか出来ないので、大した魔法は使えない。
なら、結局僕が魔法を覚えたって、強い魔法は覚えられないってことになる。
「えっ? じゃあ意味ないじゃん」
僕が使いたいのは今の環境から打破できる強力な魔法。
たとえ魔法が使えるようになっても、それが出来なかったら意味がない。
「そもそも研究所内には魔素がありませんし」
あう。
確かに魔法を使う以前の問題だった。
仕方がない、魔法に関してはひとまず諦めよう。
「じゃあ、もう一つの……スキルについて教えてくれる?」
魔法とは違うもう一つの特殊な能力……スキル。
身体能力や五感の強化、治癒能力の向上など、魔法とは違う特別な能力。
僕の不死の呪いもこっちに分類されている。
「スキルに関しても原理は同じです。魔素を体内に取り込み、変換させる。ただ、その変換が魔力ではなく、身体能力や特殊な効果として現れています」
ふ~ん。
結局、魔素が必要ってことか。
ちなみに忌み子に関しても、魔法が使える忌み子よりも、スキルの忌み子の方が多いらしい。
多分、魔素を魔力に変換するよりも、自分の得意な分野に変換するって感じなのだろう。
「ですので、魔法と同じく、魔素がない場所ではスキルが発動しません」
まぁそりゃあそうだよな。
「でも、イサムのスキルは……魔素がない研究所でも発動してますよね?」
まぁ僕のはスキルじゃなく呪いだし。
「不死のスキルは、不死族が習得していますが……イサムのような完全な不死の能力は聞いたことありません」
魔族にはヴァンパイアなどの不死族が存在する。
不死族は叩いても斬っても再生し、死ぬことはないが、光に弱かったりと弱点は存在する。
そして、周囲に魔素がなく、魔石に溜めた魔力か空の状態でも再生せずに死んでしまう。
僕のように魔素に関係なく、しかも弱点すらない不死の呪いは魔族にすらないらしい。
「って、ニナはこの研究所から出たことないんだろ? 単純にニナが知らないだけじゃないのか?」
というか、魔法のことだって、何でこんなに詳しいんだ?
「私の母は物知りでしたから……いつか私が外に出ても生きていけるようにと、色々教わっていました」
……こんなところまで僕の母とそっくりなんだな。
ニナの母親にも一度会ってみたかったなぁ。
「実は……母から魔素を使わない禁断の魔法も教わっているんです」
「禁断の……魔法?」
しかも、魔素を使わない?
「私にも扱えない魔法なんですが……イサムなら、使えるかもしれません」




