第18話 未知なる痛み
牢から担ぎ出された僕は、拘束されたまま巨大な袋に詰められる。
そして、そのまま荷馬車で運ばれる。
当然移動中は食事もなく、袋から出されることもない。
これが他の忌み子なら死なないように食事くらいはあるのだろうが……食事の必要も、死ぬ心配もない僕に対しては、完全にモノ扱いだ。
まぁこれくらいは覚悟していたけど……袋の中なので、牢にいた頃以上に自由がなく、更に光がない暗闇。
動きはともかく、視界が奪われたのが辛い。
真っ暗な状態で馬車の酷い揺れ。
僕は空腹と酔いに苦しみながら、数日に一回餓死するという地獄を、二週間に渡って味わい続けた。
そして、辿り着いた場所が、この国の研究所。
「この子が不死の忌み子かい!? 話を聞いてから居ても経ってもいられなくてね。もう待ちくたびれちゃったよ」
袋から取り出された僕を見て目を輝かせる男。
白衣を着て眼鏡を掛けた……いかにも研究者って感じの男だ。
「さっ早く実験室に運んでよ。いやぁ本当に楽しみだなぁ」
まるで子供のようにはしゃいでいる。
兵士たちの対応から、この男がこの研究所の所長……一番偉い人物だということが分かった。
この男から……僕は本当の地獄を味わうことになった。
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「さて、軽く話は聞いているけど、実際にこの目で見て確認しないとね」
実験場について早々、所長が僕の心臓にメスを突き刺す。
ただそれだけで、僕はアッサリ殺される。
今回は即死で痛みもほとんど感じなかったからか、すぐに意識が戻る。
「なるほどなるほど。死んだ直後から再生が始まる……と。魔力は……計測できないね。どんな原理なんだろう?」
ブツブツと呟きながら、メモをとる。
僕を殺したことに対する感情なんて何もない。
「う~ん。過去データが欲しいよね。ちょっとさ、今までにどんな死に方したか教えてくれない?」
そう言って僕の猿ぐつわを外す。
「……そんなこと、話すと思うのか?」
何故僕が自分を殺す実験のために、協力しないといけないのか。
そもそも、話したところで、確認のため……とか言って、同じ殺され方をされるに決まっているんだ。
「随分とケチな子供だね。じゃあ……ちょっと早いけどコイツを使ってみようか」
僕は腕に注射を打たれる。
すると、すぐに意識が朦朧としてきた。
「これはね。捕虜を尋問するのに使用するの自白剤だよ。非常に強力なやつでね。打たれたら廃人になってしまうけれど……生き返っても廃人のままなのかな? それとも、意識が戻るのかな? まぁどっちにしろ、実験には影響がないから問題ないよね」
所長が何か話しているが……僕の薄れゆく意識の中ではほとんど理解することが出来なかった。
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「ふむふむ。生き返ると薬の効果も完全に消えるみたいだね。これは便利だね。今まで強力すぎて実験できなかった薬品をようやく試せるよ」
……所長の声がハッキリと聞こえる。
意識を失う前に、廃人って聞こえた気がするが……どうやら僕は廃人にならずに、普通に生き返ったようだ。
正直なところ、逃げられないなら、いっそ壊れた方がどんなに楽か。
そう思っていたが、やはりあの天使の呪いにそんな抜け道はないか。
「君は今まで普通の……綺麗な殺され方しか経験してないみたいだね」
どうやら自白剤のせいで、僕の今までの死に方を話してしまったみたいだ。
ただ……綺麗な殺され方だと?
「……自白剤の効果は微妙だったみたいだな」
父に蹴られ殺されたのが、魔物に食われそうになったことが、槍や剣で刺し殺されたことの何が普通だ。何が綺麗だ。
少なくとも僕がそう感じたことはない。
僕が感じたことないことを自白したってことは……自白剤の効果が間違っているってこと。
「ただの暴力を受けて死ぬなんて、普通以外何物でもないじゃないか。君にはまず、綺麗じゃない死に方を経験してもらうことにするよ」
綺麗じゃない死に方……か。
どのみち殺されることには変わらないんだから……いつもどおりってことだ。
「随分と余裕そうだね。まぁそれだけ君がは死に慣れているからだろうけど。でも、撲殺、刺殺、斬殺以外の……君の知らない痛みを伴った死に方を経験しても、その余裕がいつまで続くかな」
僕の知らない痛み。
その痛みを経験した時、僕は本当の地獄を知ることになる。
10月中旬まで平日の投稿は不定期になります。
ご了承ください。




