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邪神の牲  作者: あすか
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第2話 世界の挾間から

 ……目が覚めた。

 なぜ? 僕は屋上から飛び降りて死んだはずなのに。

 もしかして、死なずに生き残ってしまったのか?


「いいえ。あなたは死にました」

「えっ?」


 声がした方を振り向く。

 そこには一人の女性が……白い翼のある……天使のような。


「ここは死したものの魂が集まる狭間の世界。あなたにも分かりやすく説明すると『あの世』ですね」


 あの世!?

 ははっ何を馬鹿な……って、笑い飛ばせる状況じゃなかった。

 だって、目の前の女性の存在が、どう見ても本物だから。


「あの……あの世ってことは……あなたは閻魔……大王……ですか?」


 何て言えば言いか分からず思わず口ごもる。

 目の前の女性が天使なのか閻魔なのか分からない存在じゃ、どう話していいものか。

 にしても、女性に向かって閻魔はなかったかもしれない。


「ふふっ確かに似たような存在ですが……私のことは女神の使いと思っていただければと」


 そう言って女神の使いはニコリと笑う。

 そういえば、天使って神の使いだったはず。

 じゃあやっぱりこの人は天使になるのか。


「私の仕事は、あなたのように現世で死んだ魂を選定し、来世へ送ること」


 来世か……来世ではいい人生を送れるようにと願ったけど、本当に来世があるとは思わなかった。


「来世でどんな生を受けるか……それは前世での行いで決定します」


 天使の話によると、生きている間に善人だったら、来世では金持ちだったり、一流アスリートだったり、運が良かったりと幸せな人生が待っている。

 逆に悪人だった場合は、家庭環境が悪かったり、運が悪かったり……罪を償うために、不幸な人生が待ち受けているらしい。


 要するに、生前の行いで、天国か地獄じゃなくて、来世が運命が決まると。

 たまに超絶運がよかったり、逆に事故にばかり遭ったりする人がいるけど、それも前世の行いのせいってことか。


 ……ん?


「あの……じゃあ、家庭内環境が最悪だったのも、イジメられていたのも、前世のせいってこと?」


 そういうことになるよな?


「その通りです。あなたの前世は罪を犯していました」


 罪を犯していたから、罪を償うために辛い運命だったと。


 前世と言ったって、何も覚えていないんだから、赤の他人も同然。

 そんな他人の罪を償うために、僕はあんなに辛い思いをしていたなんて……そんなの理不尽すぎる。


「でも……それなら、来世はまともな人生ってこと?」


 今世では僕は悪いことは何もしていない。

 いや、かといって善行と言われることもしていないけど。


 ……まぁどうせ今の僕は来世に行けば何も覚えていない。

 それこそ他人の人生がまともになると言われているようなものだ。


 それでも、今世よりもマシな人生になると思えば、少しは気が晴れるってもんだ。

 それに、僕をイジメたことは悪行だろうから、来世はきっと僕みたいな人生を送るんじゃないか?

 ははっ、当然の報いだな。


「いえ。残念ながら、あなたは今世で前世以上の大罪を犯しました。故に、今世より過酷な人生となるでしょう」


「なっ、なんで!?」


 僕は彼女の言ったことが理解できなかった。

 大罪って……そんなの知らない!?


「僕は罪なんか犯していない! 誰か別の人と勘違いしているよ!」


 大罪って言うくらいだから、殺人とかだろう。

 僕は殺人どころか、万引すらしたことない。

 だが、彼女はゆっくりと首を横に振る。


「いいえ、間違えていません。あなたの罪……それは、生物が絶対に犯してはならない最大の禁忌。与えられた生を自ら絶つこと。すなわち自殺です」


「はっ? じ……さ……つ?」


 自殺が最大の禁忌?

 確かに僕は自殺した。


「で、でも、それはアイツらが僕をイジメたからで……」


 僕の場合は禁忌を犯したんじゃなく、強要されたと言っても過言ではない。


「理由は関係ありません。あなたが自ら命を絶った。結果が全てです」


「結果が全てって……そんなの絶対間違っている!! だって悪いのは全部あいつらじゃないか!!」


 だいたいイジメで自殺している人間なんて、日本だけでもたくさんもいるじゃないか。

 みんな、悩んで……苦しんで……どうしようもなくなって、自殺したんだ。

 最低なのはイジメをした奴らの方だ。


「確かに中にはやむを得ず自殺した方もいるでしょう」


 イジメだけじゃなく、誰かを助けるために自らの死を強要された場合など。


「確かにそういった場合、罪が多少軽くなることがあるかもしれませんが、あなたの場合は違います」


「どうして!?」


 僕だってそれしか方法がなかったんだ。


「あなたは自殺したことで、他にも3つの罪を犯しています」


 自殺以外にも3つの罪? それこそ記憶にない!


「私には人々の少し先の運命を見ることができます。ですから、あなたが死んだ後……これから起こる出来事を知っています」


 僕が死んだ後の未来の様子を知っている……。


「それによると、あなたは自殺をする前に、行った行動で、多くの人が被害に遭います。これが一つ目の罪です」


「僕が死ぬ前にやったこと? ……もしかしてイジメの証拠をアップロードしたこと?」


 僕の言葉に天使が頷く。

 それによって、多くの人に被害が出る?


「そ、そんなの全部自業自得じゃないか!!」


 復讐なんだから、被害が出るのは当然だ。

 そもそもイジメなければ、復讐されることも……僕だって自殺する必要はなかったんだ。


「確かにイジメを行った加害者でだけであれば、まだ情状酌量の余地もありました。ですが、あなたの場合は無関係な人にまで影響が及んでいるのです」


 僕をイジメていたクラスメイトは、予想通り進学や就職の取り消し。

 顔や名前、家族構成も晒され、いたずら電話や落書きなど、引っ越しを余儀なくされた。

 そして弟妹がいれば、僕と同じようにイジメの対象に。

 親は会社を退職、自営業では店を閉めることに。


「た、確かに、家族には影響があるかもしれないけど……そもそもイジメをするような奴を育てた家族にも責任がある」


 確かに弟や妹が兄や姉のせいで僕と同じようなイジメにあう。

 それは少し申し訳ない気持ちになる。

 でも、親は自業自得だと思う。


「では、その親が経営をしていた店が誹謗中傷を受けて閉店になり、従業員が職を失ったことに関しては?」

「全くの無関係でありながら、イジメを行った人物と同姓同名というだけで、イジメられるようになった人に関しては?」

「あなたが自分の家族すら陥れたことにより、企業イメージが地に落ち、あなたの父の会社の関係者に数百人、数千人規模の人間に影響を及ぼしています」


 天使の言葉に思わず僕は叫ぶ。


「そ、そんなこと知らないよ!」


 そんな二次災害みたいな状況まで考えているはずないじゃないか!


「あなたにその気がなくても、結果としてそうなるのです。そして……あなたはその責任を取らなかった。それが二つ目の罪です」


「責任を……取る?」


「ええ。あなたのせいで被害に遭った方への謝罪。そして償い。ですが、あなたはその責任を果たさずに、自殺という手段で犯し逃げ出した」


 逃げ出した。その言葉が僕の心に突き刺さる。


「ちなみに、あなたをイジメていた加害者……そして、その関係者は、誰一人自殺をせずに罪を受け入れ、償いながら生きる未来を選択しています」


 あの暴露で就職や進学ができなくなって……店が潰れたり、イジメられるようになったのに……それを受け入れ償いながら生きる?


「あなたも復讐するのであれば、それを最後まで見届けねばならなかった。そして、その影響で被害に遭った人がいれば、それを受け入れ、償わなければならなかった」


「でも、僕が死なないと復讐が完成しなかったんだ」


 あいつらが最大限苦しむように……そう思ったから……。


「いいえ。あなたが本当に自殺をした理由……それは、復讐を重くするためではありません。その復讐が果たされた場合の後が怖かったから逃げ出しただけ」


 僕の復讐で、加害者だったクラスメイトに自殺者が出たら?

 そうしたら今度は僕が世間から責められる。

 イジメられる対象が日本中……いや、世界中に広がったかも。


 それに暴露した後のクラスメイトが僕に仕返しをするかもしれない。

 そもそも、家族まで陥れて、僕はどう暮らしていけばよかったのか。


 それが僕が本当に復讐できたかどうか確認せずに自殺した本当の理由。

 ただ、逃げ出したかっただけ。


「復讐せずに自殺すれば、二つの罪は犯さずに済んだものを……あなたは、ただ復讐がしたいという自分の欲求を満たしたかっただけ。あなたをイジメていた加害者と何も変わらない。本当に最低で下劣な行為です」


「違う……違うんだ……」


 自分でも何が違うか分からない。

 でも、そう言わずにはいれなかった。


「まぁあなたが認めようと認めまいと罪は罪。来世でしっかりと償って頂きます」


 来世で……そうか。

 罪を償うのは今の僕じゃなく、来世の僕か。

 魂は同じかもしれないが、今の記憶を持っていない僕……。

 そう思うと僕は少しだけ安心した。


 だが、それを目の前の天使は見逃さなかった。


「今……少し安心しましたね? どうせ来世では記憶がなくなるから自分じゃないとでも考えていますか?」


「い、いや。そんなことは……」


「ふふっ心配いりませんよ。今回はあなたの罪は今のあなた自身で償ってもらうのですから」

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