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邪神の牲  作者: あすか
19/93

第17話 生き物を辞めた日

 あれ以来、僕は一度も殺されることはなかった。

 それどころか、牢の扉を開くことさえなかった。


 父達は僕を殺すことに飽きたのか……それとも、僕が少しでも逃げる可能性を減らすためか。


 どのみち牢に入ってこなくても……すぐそばに人の気配があるのは分かる。

 それに、拘束された身じゃ逃げることもできないし。


 仮に逃げられる方法があったとして……誰かに助けられたとして、僕は逃げるだろうか?


 ――多分逃げない。

 母や……リリちゃん母娘のように、もう僕のせいで誰かが傷つくのは嫌だ。


 父達が僕を放置するだけなら……僕はもうずっとこのままでいい。

 何も考えず、横たわって眠っているだけで……。


 ただ……ひとつだけ辛いのは、殺されないことで、お腹が空くこと。

 今まではお腹が空く前に殺されるから、餓死がどれほど辛いか分からなかったが、飢餓というのは……水分すら取れないのは、これ程辛いものなのか。

 食べられないだけで、お腹が空かないことは、どれだけ楽だったことか。

 自殺もできないこの状況で、初めて理解することができた。


 そして……もはや何日過ぎたのかすら分からない。

 三回の餓死を繰り返した後。

 ついに、国からの使者がやって来た。



「――この子供が例の忌み子か?」


 使者が尋ねる。

 国からの使者って話だったから、偉そうな人かと思ったら……兵士が数人だけだった。


「はっはい。コイツがどんなことをしても死なない忌み子でさぁ」


 父が兵士に返事をする。

 へこへこして……いつもの横柄さは全く見当たらない。


「本当にどんなことをしても死なないのか?」


「気になるようでしたら、試してみては如何でしょうか?」


「ほう? 試すか」


 兵士はそう言うと持っていた剣を、僕の腹に突き刺す。

 あまりに躊躇なく……無表情で刺したため一瞬何が起こったのか分からなかった。


 理解が追い付いたのは、腹が焼けるような痛みを発したからだ。


「んんんんんん~~~~!?」


 久しぶりに刺されたせいか、槍の時よりも酷い痛みを感じる。


「おい。普通に死にかけているぞ」


「コイツは死ぬまでは普通の人間と一緒なんでさぁ。この傷ならもうすぐ死ぬと思うんで、少し待ってくだせぇ」


 兵士は僕から剣を引き抜く。

 腹から大量の血が吹き出る。

 自分の中で急速に血が無くなっていくのが分かる。

 血が流れすぎたせいか、体が急速に冷えていく。


 そのまま僕は気を失い……!?


「んぐ!?」


 痛みで目を覚ます。

 僕の腹には……また剣が刺さっていた。


 この兵士……僕が死んで目を覚ます前に、また殺そうとした!?

 おそらく傷がなくなったから、また刺したんだろうが……意識が戻る前に痛みで意識が戻るのは初めてだったので……生き返ったんじゃなく、死なずに痛みが継続している気分になる。


「ふむ。どうやら嘘ではないようだな」


 そう言って兵士が僕に何度も剣を突き刺す。


「んんっ!? ん、んんん!!?」


 刺される度に血が吹き出て……僕は時間を置かずに何度も殺される。


「ふむ。生き返っても、流れた血はそのまま。しかし、体内では血も再生しているのか。腕を斬り落としたらどうなるか」

「隊長。忌み子の確認は取れましたし、これ以上は彼奴等の仕事では?」


 僕を刺していた兵士を別の兵士が止める。


「……仕方ない。よし、この忌み子を連れて行け」

「はっ」


 隊長の言葉で残った兵士が僕を抱えて移動する。


「あ、あの……その前に、忌み子を見つけた場合の……」


 兵士が僕を連れ去ろうとしたので、父が慌てて引き止める。


「……分かっている。では所有者の貴様には金貨百枚。この村は二年間の税を免除とする」


「ありがてえ!!」

「おおっありがとうございます」


 父と町長が歓喜の声をあげる。

 そして金貨の入った袋を父が受け取ると、中身を確認し……もう僕には一切目もくれなかった。


「さて、貴様には我々の役に立ってもらおうか」


 僕は逃げることが出来ずに兵士達に連行された。


 この日から、僕は人間でも忌み子ですらない。

 生き物とすら扱われず、ただの実験体(モルモット)となった。

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