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邪神の牲  作者: あすか
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第16話 力なき者

 リリちゃんの死。

 ……目の前の光景が信じられなかった。


「殺してやる……貴様ら全員殺してやる!!」


 僕は力の限りに叫んだ。


「ははっ。笑わせてくれる。誰が誰を殺すって」


 父は笑いながら僕を蹴る。

 先程までのダメージが残っている僕は、それだけで意識が飛びそうになる。

 だけど今は死んでいられない。


「なぜ……なぜリリちゃんを殺した!!」


 あの子は……あの子は忌み子じゃない。

 もう二度と目を覚まさないんだ!!


「てめぇを逃したからだと言っただろう。もしてめぇが見つからなかったら、あの母娘のせいでこの町はこの町は滅んでいたかもしれねぇんだぞ」


 すでに国に僕のことを報告しているのに、使者が来たときには逃げられていた。

 そんな事になっていれば、この町が忌み子を逃した責任を取らなくてはならない。

 町が滅ぶまではないだろうが、増税など不利益になることになっていただろう。


 でも……だからって、何でこんなに非道いことができる?


「貴様ら……本当に人間か?」


 俺がそう言うと、父は一瞬ポカンとして……大笑いした。


「まさか……まさか忌み子の……人間じゃねぇてめぇにそんなこと言われるとはな」


 忌み子は人間じゃない……か。


「貴様らみたいな外道と同類になるくらいなら……僕は人間じゃなくたっていい」


 僕の言葉が癪に障ったのか父は笑うのを止める。


「俺もてめぇみたいな化物と同類になんてされたかねぇ。……そろそろ一回死んどくか」


 そう言って父はさっきまで僕を殴っていた男にトドメを刺すように命じる。


「この男はあの女の旦那でな。てめぇのせいで妻と娘を失ったってわけだ」


 リリちゃんの……父親?


「お前は何をしているんだ!! 僕を憎むのは分かるが……お前の嫁はまだ……まだ生きているんだぞ!! なぜ助けに行かない!!」


 僕のことなら後でいくらでも殺して構わない。

 でも今はそんなことより、早く助けるべきだろ!!

 リリちゃんは手遅れでも、嫁はまだ生きているんだぞ。


「う、うるさい!! 貴様が妻と娘を誑かさなかったらこんなことにはならなかったんだ!!」


 だが男は動こうとしない。

 妻の方を見ようとすらしない。


 そもそも……理由はともかく、妻と娘に非道いことをしているのは父なんだぞ。


 こんなに怒るくらい妻と娘が大事なら、たとえ、助けられなくても……無駄だと分かっていても、父を……奴らと戦うべきだ。

 その棍棒があれば……油断している父ならば、少なくとも今この場で殺すこともできるんだぞ。


 それなのに、なぜこの男は無傷で父に従っているんだ?


「大事な妻と娘のためなら、たとえ自分を犠牲にしても……死んでも助けるべきだろうが!!」


 リリちゃん達は見つかったらこうなることが分かっていて……それでも危険を承知で僕を助けてくれたんだぞ。

 それをしないのは……自分だけは助かりたいから。

 自己犠牲も出来ないただのクズ。

 リリちゃん達とは大違い。


「お前はリリちゃんの父親失格だ」


「黙れ黙れ黙れ!! 全部貴様が悪いんだ貴様のせいだ死ねえええええ!!」


 怒りに任せて振り下ろした男の棍棒が僕の頭を直撃し……僕は絶命した。



 ****


 あれから数日が経過した。


 僕は檻の時同様、牢屋で手足を縛られ、猿ぐつわをされていた。

 どうやら父は僕にリリちゃん母娘を見せ、反応を見るために僕を縛らずにいたらしい。

 生き返った時にはすでに拘束されていた。


 リリちゃんの父親はあれ以来見ていない。

 僕を一度殺して満足したのか……ここに来ると、妻の姿を見ることになるからか。

 それとも、あの後父に反逆し……返り討ちにあったのか。

 それは分からない。

 でも、少なくとも父も……男どもも無事で、未だにリリちゃんの母親を弄んでいる。


 僕はそれを見たくなくて……聞きたくなくて……牢の奥に引っ込んで聞こえないふりをしている。


 僕のことを救ってくれた大事な人。

 だけど、結局僕はその人を救ってあげることが出来ない。

 それどころか、目を逸らしている。


 ――大事な人なら死んでも助けろ。


 何が死んでも助けろだ。

 自分で出来もしないことを言って……僕もあの男と何も変わらないじゃないか。


 ――僕は無力だ。


 結局、力ない者が何を言っても無駄ってことだ。


 僕はもう逃げることも……助けることも諦め、ただただ無気力に生きていた。

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